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異種族趣味の管理者【アドミニストレータ】  作者: てんとん
1章 導入:メンテナンス
4/33

4話 降臨→和解+解説

「ええ……。普通の登場したと思うんだけどなぁ」


 いきなり空気読めない子宣言されたせいか、赤髪の女の高度が気持ち下がっている。気分で上下するのかよ。

 女は純白のワンピースを着ていて、服の裾がふわふわと揺れている。赤と白のコントラストが映えて、何とはなしに赤い薔薇のような印象を受けた。女は俺らと3mくらい離れて浮きながら、その相貌に笑顔を張り付けている。


「あー、ごめんね、いきなり。ワタシの名前はミカと言うんだ」

「はあ。それで、なんで俺らのこと知ってるんですか?」

「うん? ああ、見ていたからね。上から」


 上から?どういう意味だ?それに、話していると心臓を掴まれているような威圧感を感じる。


「……タクム、こいつヤバいのです。魔力量が馬鹿げてるです」


 ナタリーが真っ青な顔で俺の服の裾を掴んでくる。魔力量。ゲームで言うMPか。

 俺の認識だと、MP多くても使える魔法が弱かったら意味のないイメージだが。


「ああ、警戒しないでほしいな? ワタシは君たちに危害を加えるつもりはないんだ」


「……そう言われてもですね? 俺はともかく、ナタリーのこと知ってて、それにその容貌だ。明らかに異質ですよ?」


「……不思議なものだね? ナタリーちゃんも魔法使いだろう。ワタシの時は警戒するのかい?」


「状況が違うでしょう? ナタリーは何も知らないまま落ちてきたのに対して、あなたは何か知っている風だ。少なくともあなたは情報を知れる場所にいて、ナタリーと俺を見ていた。なんというか、敵にしか見えないですよ?」


「うーん、敵ねぇ。えらく曖昧な物言いだ。君ら種族の敵なのは間違っちゃいないけど、タクムくんとナタリーちゃんの敵ではないよ?」


 彼女はずっと笑顔を張り付けてて、感情がうかがえやしない。話しづらい上に、不気味だ。


「まあいいや、それでさっきの話の続きだけどね? 条件を一つ飲んでくれたら、ナタリーちゃんは元に戻すし、タクムくんの家も直そう」


 人差し指を立てて、彼女は首を傾ける。


「どうかな?」


 傾いた頭から上がった口角にかかる赤髪が、滴り落ちる血に見えた。



「うーん」


 首を傾けたまま、彼女は思案気な顔をする。


「ワタシが怖いのかな?」


 深紅の相貌が笑顔を張り付けて俺を視る。気づくと、目と鼻の先に彼女がいた。


「震えてるみたいだけど?」


 無自覚のうちに震えていた俺の手に、ミカの手が触れた。


「危害は加えないと言ってるじゃないか。」

「だから、ナタリーちゃん?」


 後ろを見ると、ナタリーが光っていた。いや、違う。ナタリーの伸ばした手から幾何的な文様が広がり、それが光を放つ。魔法陣か。



「タクムに、触るなです。」



 ナタリーには似つかわない冷たい声で言い放ち、ミカをめ付ける。



「……本当に面白いなぁ。魔法使いが人間を守るのかい?」


「種族がどうとかじゃないのです。タクムは一緒にいると言ってくれた。だからが守るのです!」



 それを聞くと、ミカは目を見開いた。掴んでいた俺の手を放し、距離にして二、三歩後ろに浮遊して下がる。



「多くの命を奪い、同族でさえも殺しあう、愚かな種族達」


「上から見てた感じはそうだったんだけど……やっぱり君らは違うのかな? 突然変異種?」


「利害の一致もないだろうに、自分の身を顧みず守ろうとしてる」



「なんというか、やっぱり、あれだ」



 ミカはその場で右手を突き出し、



「いいね!」



 サムズアップした!



 ミカが俺から距離を取り、暫く会話を交わすと、ナタリーの興奮が収まったので俺らは再び話し始める。……公園のベンチで座ってジュースを飲みながら。

 さっきの公園のくだりも見られていたらしく、ミカもジュースを飲んでみたいとのことだったので、俺の金で買う羽目になった。あの歯の浮くような台詞を聞かれていたのはくそ恥ずい!

 ジュースは彼女の舌には合った様だ。炭酸系のものだったのだが、


「シュワシュワしてて面白いね!」


 とのことだ。炭酸が苦手な人は実のところ多いので、彼女の口に合ってよかった。


 俺の隣を見るとナタリーがちょこんと座っている。守ってくれようとするのは嬉しいが……。う~ん、ミカと俺に挟まれていると、子供連れの親子みたいだ。

 そんなことを思っていると、缶ジュースをちびりちびりと飲んでいたミカが話しかけてきた。


「タクムくん、んぐ。君、んっ、ノートpc持ってるだろう?」


 急に何の話だ?てかジュース置け!飲みながら喋るな!


「え?ええまぁ」


「そのノートpcをワタシに譲ってくれないか? 実は条件というのは……そのことなんだけどね」


 くそ、シリアスとコミカルの切り替わり地点がわからんぞ……。


「えっと、よくわからないです。もう少し詳しくお願いできないですか?」


「うん、えっとね。ワタシ、実は神様なんだよね」



 ……あ?なんつった?



「でね? ワタシの仕事はなんというか、世界の管理なんだよ。ほかにも空間とか時間とかを管理してるやつもいるんだけど」


 こちらの驚きに満ちたリアクションも何のその。ミカはマイペースに話を進める。


「ワタシちょっとドジって、世界の管理権限の一部がこの地球上のものに移っちゃってね。移った先が君のノートpcってわけ」


 混乱した頭を必死で動かし、何とか情報を整理する。

 ミカ=神様で、世界の管理が仕事。仕事でミスを犯してその処理に来てるってところか。あー、社畜としては共感できる……か?魔法使いのナタリーが落ちてきて、俺もかなり突飛な出来事に対する耐性がついてきたみたいだ。その証拠に「私は神様です」なんてカルト教団の教祖じみた言葉もすんなりと受け入れてしまっている。


「……いろいろ言いたいことはありますが、ひとまずは納得しときます。ですがノートpcを渡したら、こちらの利になることをしてくれる理由が分かりかねます。勝手に奪えばいいじゃないですか。人間が嫌いなんでしょう?」


 ミカは相変わらずの笑顔で話し出す。ずっと笑ってると表情筋がそれで固まってしまいそうだ。


「あー、うんまあ。嫌いだね。でもさっき言った通り、君たちのことは気に入ってる。それも含めてもうちょい話すね?」


 ミカは笑顔を張り付けて、おちゃらけた声のトーンで話し出す。


「ワタシは人間が嫌いだ。だから天変地異とか起こして減らしてやろうと考えてね」


 彼女は人差し指を左右に振り、目を閉じて思案する素振りをする。


「だけど減らないのなんのって。すごいね君たち。しまいには天変地異を予測って、神の気まぐれさえも捉えるなんてね。感服したよ」


 両手をぱちぱちと打ち付け、稚拙な拍手の真似事。


「――だから”天敵”がいるかなって考えたんだ。科学と魔法って、相容れないものだと思うんだよね。そういった理由でワタシは送り込んだんだよ。”魔法使い”をね」


 ミカの声のトーンが、少しだけ落ちる。

 声に溶ける感情は、怒りか、悲しみか。


「魔法使いは実験投入だった。まあ自分たちで大量虐殺を行うような種族達だ。当然殺しあうだろうとか思ってたんだけど……」


 正面を見据えていたミカが、不意に空を仰いだ。

 眩しそうにその深紅の双眸を細め、手で日差しを遮る。


「開けてびっくりだよ。なんで君ら助け合ってるの? ってね。世界で一人の変異種に、住処を破壊された人間が手を差し伸べるかね、普通? 笑っちゃったよ、ワタシは。想像してた結果と正反対すぎて」


 空を見上げたまま、憑き物が落ちたかの様な、優しい喋り方で彼女は言葉を続ける。


「……ここまで回収に来た理由は、君らに申し訳なかったなと思ったからだよ。君らみたいなやつが人間や魔法使いの中にいるんだね。ワタシはこれまで種族全体を見てしかいなかったから知らなかったんだ」


 ここまで思い出すように空を見上げて喋っていたミカは、ベンチから浮き上がって、俺とナタリーを正面に見据えた。



「きちんと謝罪しよう。神の名に懸けて」



 ミカはまず俺のほうに向けて、頭を下げた。次いでナタリーのほうを向いてその小さな手をとり、手の甲を己の額につけた。魔法使い式の謝罪だろうか。


「幸いといっていいのかわからないけど、まだナタリーちゃんを転移させてから一日だ。ただ、向こうの世界への転移はナタリーちゃんへの権限がいるんだ。それもpcに移っちゃってると思うんだけど、心当たりがないかい?」


 むっちゃある。ナタリー.exeだ、間違いない。と、ここまでだんまりを決め込んでいたナタリーが口を開く。


「……ナタリーは正直言って、世界の権限とか管理とか言われてもピンと来ないです。異世界転移なんて魔法の域を逸脱してるですし。だから、それをミカが引き起こしたと言われても信じられなかったと思うです」


「でも、こっちの世界を見てナタリーもだいぶ学んだです。魔法なしで様々なものが当たり前みたいに動いてるです。魔法だけがすべてじゃないのですね」


「それに、」


 ナタリーはちらとこちらを見て、


「面白い人とも会えたです」


 ふわりと笑った。


「だから、ミカは謝らなくていいです。むしろ、ありがとうです。いい経験になったです。まあ、帰れると分かったから言えることですけど」


 ナタリーがいいなら俺も特に言うことはないか。家も直るらしいし。


「とりあえず、ホテルにノートpc置いてるんで、取りに行きますか」


 俺らは荷物を取りにホテルに向かった。



「あの、ミカさん? 浮くのやめてもらっていいですかね?」

「え、どうしてだい?」

「いや、人は浮かないからですよ」


 早朝だからよかったものの、流石にホテル内で浮いていたら不味いだろう。人目を引くことこの上ないだろうから。


「ああ、そうかそうか。わかったよ」


 ミカが地上に降り立つ。そこで気づいた。

 こいつ、裸足である。


「いや、まってください。ちょっとだけ足元浮かせることってできます?」

「ん? うん。できるよ」


 ミカの身長が5cmくらい上がった。俺は175cmで、ミカの頭が俺の鼻あたりに来てるから160cmってところか。ナタリーは俺の胸あたりに頭が来ている。150ちょいかな?


「裸足だと汚れるんで、人に見えない程度に浮いててください」

「了解だよ!」


 ミカは右手をぴんと張り、ずびしと敬礼した。こいつほんとは人間好きじゃないのか?最初の印象はどこへやら、俺は半ばミカに対する警戒を解いていた。



 ホテルの218号室に戻ってきた。


「あ、これがベットかぁ!」


 ミカはふわふわとベットの上まで浮遊して、ぼふんとダイブした。


「ふかふか~いいね~!」


 ベットの上でごろごろ……ごろごろ……。うわ、ワンピースの裾がめくれあがってんぞ!?とっても眼福です、はい。


「タクム・・・どこ見てるのですか?」


 隣を見ると、ナタリーが俺を睨んでいた。


「いや別に、どこも見てないけど!?」

「うそです。今ミカのこといやらしい目で見てたです」


 じとーっという視線を俺に送ってくるナタリー。いや、仕方ないだろう?俺だって男なんだから。


「ナタリーと二人きりの時はそんな目しなかったくせに……。」

「うん?」

「何でもないのですよ! タクムは魔女に焼かれてしまえばいいのです!」

「ええ…?」


「やはり仲がいいねぇ、君ら」


 ミカが寝ころんだ体勢で顔だけこちらに向けて言う。先ほどまでの感情が読めない笑顔ではなく、これはそう、ニヤニヤだ。無表情な笑顔でなく、最初から感情の伺える表情で接してくれていたら警戒することも無かったかもしれないのにな。


「そうですかね?」「そんなことはないのです!」


「ほら、仲がいいじゃないか」


 同時に喋ってしまったことを指摘されたナタリーが顔面ゆでだこになる。あれだ、小中学生の仲良しってからかわれて照れるやーつだ。つくづくナタリーはナタリーちゃんである。


「ベットとナタリーちゃんを楽しむのはこれぐらいにして、タクムくん、pcは?」

「あ、はい、ここに」


 机の上に置いてあるノートpcを開けて起動する。ログインしてミカに渡した。


「うーん……ナタリー.exe! これだよ! これがないとオブジェクト移動ができないんだ~」


 どうやら俺の予想は当たっていたようだ。


「……あれ? なんでナタリーちゃんのソースコードがあるの?」


 ミカは初めて笑顔を消して困惑顔を見せる。


「タクムくん、このナタリーってソフトがpcに現れるまでの経緯を教えてくれるかな?」


 俺はミカに、『アナザ・ワールド』のアップデートをしようと"魔法使い.zip"を解凍したこと、するとナタリーが空から降ってきたこと、昨夜pcを開けて、『アナザ・ワールド』を起動したらナタリーという名前のソフトがあったことを話した。


「……どうやら『アナザ・ワールド』というゲームにも世界の権限が渡ってるみたいだね。」

「ちょっとやってみていい? このゲーム。」


「いいですよ」


 ゲームの説明に五分、遊ぶこと一時間。ついでにナタリーも遊んだ。ミカは、ほうとため息を一つついて、


「……これは、ナタリーちゃんがいた世界だよ」


と、言い放った。



「お前のいた世界だって。気づけよ」

「不覚なのです……」


 魔女服に着替えたナタリーがしょんぼりしている。



 ミカの話をまとめると、『アナザ・ワールド』はナタリーの元居た世界で、そのゲームシステムは、ミカが世界の管理に使用していたシステムに酷似している。ここから、ミカは一つの結論を出した。


「世界丸ごと一つの操作権が、このpcに移っていると考えていいだろうね」


「ワタシが使ってた世界を管理するプログラムには、キャラを作ってその世界に降り立てるという機能があった」


「『アナザ・ワールド』にもその機能があるようだね。かく言うワタシも、キャラを作って地上に降り立っているんだ」


 つまりミカの本体というか操作している奴は別のどこかにいると。


「あの、ナタリーのソースコードがあるのに何か問題があるみたいに言ってましたけど、それはどうなんですか?」


「んっとね、タクムくんの体の構造が他人によって勝手に変えられたらどう思うかな?」


「気持ち悪いというか、耐え難いですね」


「うん、だろうね。それに世界の管理プログラムに人類や魔法使いのソースコードがあったんなら、ワタシはとっくに滅ぼしてると思わないかい?」



 ソースコードというのはプログラムがどう動くかを書いたもの。要するに設計図だ。たとえば人間でいうと臓器なんかや骨格のことになるのか。人間は心臓なんかをちょちょいっといじれば簡単に死んでしまうだろう。よって、ソースコードをいじられたら死んでしまうということだ。

 確かに。わざわざ天変地異なんて起こさないだろう。つまりはソースコードなんてものがあるのは異常ということか。


「いくらワタシたち()であっても、生物のすべてを知ってるわけじゃない」

「だから、それ(・・)は言うなれば世界の理を外れている。予測不可能なバグとでも言えるかな」


 と、話していると。


「うん? アップデートだって?」


 ミカがpcの画面を見て声を上げる。俺も画面をのぞき込んだ。

 『アナザ・ワールド』がアップデート告知をしてきていた。

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