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異種族趣味の管理者【アドミニストレータ】  作者: てんとん
1章 導入:メンテナンス
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1話 魔法使い.zip→解凍

 ――ここは神界での一場面。


 神様は飽きていた。世界の管理がめんどくさい……。


 植物をいじって遊んでいる間に、ふと一つの世界を見ると、人間という種族がこんなにも繁栄している。数が多い種族やつらは他を阻害しがちだ。

 減らそうか。指先でモニターを操作。地震やら竜巻やら起こすけど、しぶといなぁ。

 だんだん天変地異の内容を考えるのがめんどくさくなってきた……。あ~……。


 人間という種族は、個としてはやわっちい癖に集団でとんでもない力を発揮する。寒さを服を使ってやり過ごし、植物を自力で育て、飢えをしのぐ。そして火を扱い、夜の闇さえ払う。

 まるで(ワタシたち)の様だと、"世界"担当の一柱は思う。同じく"時間"と"空間"担当の(やつ)らはかなり仕事に追われているようだ。


 うつぶせに寝っ転がりながら別の世界を見る。


 おっ、なんだコイツ、魔法使いだって!!


 新たな世界で、新たな種が誕生していた。


 ええ……。人間そっくりじゃん。こっちで増えられても困るなぁ。ワタシは植物が好きなのに。こいつらすぐ燃やすから……。それに同種で殺し合いをしすぎだろうよ。


 あ、魔法使いこっちにもって来たら争ってくれるんじゃないかな!?


 名案とばかりに魔法使いの一人を、一つの世界、地球にドラック&ドロップした。しちゃったのである。


***


 高度10000メートルより上くらいのところで、突然次元が裂けた。



 ――意気揚々と箒に乗っておつかいに出たはずなのに、なぜ!!


「ああああああああああああああああ!! 死ぬ死ぬしんじゃぅぅぅうう!!」


「お父さんお母さんごめんなさい……。ナタリーはここで死んじゃうみたいなのです……」


 ――急転直下に!


「あぁぁぁ……ははあはっはああははああああ!!!!」


 ——法定飛行速度をぶっちぎって!!


「あばばばばばばぁぁあああああ!!」


 ——落ちているのかぁ!!分からないのですぅううう!?


 銀髪のショートカットと魔女服をはためかせて、少女は彗星すいせいとなった。光の尾を引いて、落ちて行く。意識を失いながら。



「ふんふふん~♪」


 青木(あおき) たくむは上機嫌だった。なぜなら、今をもって彼のハマっているゲーム、『アナザ・ワールド』の大規模メンテナンスが終わったからだ。


「お、魔法使いか!! やたら植物系のやつが多かったからな!! やっとまともなのが導入されたか」


 『アナザ・ワールド』はシミュレーションゲーム。名の通り、異世界をシミュレートする。神視点で動物やら植物やらを育てていくことが出来るゲームである。もちろんキャラを作り、一人称視点で世界を探検することも可能だ。リリースされたばかりであるので、バグが多く、メンテも多い。

 長い時間を経て、今やっとこさメンテナンスが終了したところである。今回、魔法使いという種が追加された。彼はまだ見ぬ新種に心躍らせながら、アップデートの操作を行っていく。


「ダウンロード終わりぃ!! さて、解凍してパッチを当てないと……」


 巧は"魔法使い.zip"を解凍ソフトにかけた。

 解凍完了に近づくにつれて、巧の耳が高音域の異音を拾い始める。

 何か回転する金属同士が上げる、擦過音の様な。


「ん? 何の音だ?」


 ゲームができる喜びに顔を綻ばせつつ、彼はイヤホンを外した。


 ——おかしい、音が近づいてくる。


 巧は立ち上がって、締め切っていたカーテンを開けて外を見た。


 ——光が轟音ごうおんを伴って落ちてきてますやん。


 胸に手を置き、深呼吸。

 二度目の目を焼く光に、現実であることを再確認。


 ——やばいやばい、なんか知らんがやばい!!


 彼は部屋のドアを開け放ち、階段を駆け下りて、玄関のドアに手をかける。


 ——瞬間、致死的な輝きがぱあっと広がった。轟音と白い輝きに熱烈な抱擁ほうようを受けながら俺は思う。


 ——あ、死んだな——



「死因が隕石ってなんだそりゃぁぁぁぁあああ!!」


 銀髪魔法使いという隕石が家を直撃して数分後。

 巧は瓦礫の上で、何もなかったかのように、けろっと起き上がった。あまりに理不尽に奪われた己の命と、最後にゲームが出来なかったというくだらない悔恨が、彼の魂を呼び戻したのかもしれない。


「ひぃっ!?」


 件の魔法使い、ナタリーがタクムの眼前で驚いた様子で声を上げた。

 空に投げ出されて気絶し、目を覚ましたら自分が家を吹き飛ばしている。そんな事実と、全く知らない世界に来た不安とで頭がぐちゃぐちゃだったところに、倒れている男を見つけていた。

 目を閉じ、瞑想でもして早くこの幻から解き放たれなければ。そんな現実逃避をしようとしていた折、突如として怒声が響き渡ったというわけだ。


「せめて『アナザ・ワールド』やってから死にたかった……」


 巧は落胆の表情を浮かべて言う。


「あ、あの……?」


 ナタリーは巧が何を言っているのかわからないのか困惑している。


「うん?」

「えっと……」


「……」

「……」


 片や異世界転移させられた挙句上空からダイビングを慣行した女。片やzipファイルを開いたら家が消し飛んだ男。奇妙な空気が流れていた。

 この巡り会わせは一体何なのか、誰にも分らなかった。神界でほくそ笑んでいる(やつ)以外は。


 男女交互に説明を終え、状況の擦り合わせ。

 徐々に状況が鮮明になってきては、二人で首を傾げ、もう一度、二度、何度も確認しあう。


「つまり、俺の家は消えてなくなったと…...?」

「つまり、ここは異世界なのですか…...?」


 理解したくないけど、理解した二人。

 ……数瞬の後、



「うわぁぁあああ!! 俺の家ぇぇええ!! こんな瓦礫になってしまってぇ…...。うわあああああ!!!」

「わぁああああん!! ナタリーを返してほしいのです!! ここどこです!? どうやって帰れるのですか!? わぁああああん!!」


 大決壊である。


「うわぁああああ……」

「わぁああああん……」


 二人は泣き止む程度には落ち着き、


「待て、俺はお前、えっとナタリー? に家を壊されたんだよな? 何とかしてくれるんだよな!? 家財保険入ってないんだぞ!?」

「なんですかそれ!? ナタリーだって被害者なのです!! お家はお気の毒でした、ご愁傷さまなのです!!」


 稚拙な言い争いを始めた。


「なんだとこら!! 家直せよ!!」

「お家がある分いーじゃないですか!! 私は帰れないのですよ!?」


「いいかナタリー、これは家ではない、瓦礫だ。家の残滓だ……。瓦礫には、住めないんだよ??」

「分かってますよそんくらい!!」


「お前もうやけくそだろう!? いちいちキレんな!!」

「分かったのです。ナタリーはもう大人なのですから、もう泣きません。それでタクシーさん??」


「誰が料金さえ払えばどこにでも連れてってくれる人間運送屋じゃ!? 沖縄のタクシー乗ったけど方言での無線外国語みたいでしたよこの野郎!!」

「はい??」

「すまん、だが俺はタクムだ」


「タクム、ナタリーはお家に帰りたいのです」

「急に呼び捨てかよ」


「タタミさん、ナタリーはお家に帰りたいのです」

「分かった、呼び捨てでいい。俺が悪かった。素敵なイグサの匂いは今はいらない」


「タクムはお家を直したい、ナタリーはお家に帰りたい。なんだか私たち、似てますね?? うふっ」

「なんだ急に……? 気持ち悪いな」


「そういうことで、私を助けてほしいので……今気持ち悪いって言ったのです?」



 これが、銀髪魔法少女ナタリーと24歳会社員 青木巧の出会いである。


 眩い光と轟音で外野が行動しないはずもなく。

 町内住人の通報を受けて、消防と救急は迅速に動いていた。この国の美点は時間にタイトなところにあると言われる所以である。けたたましいサイレンを響かせて、その命を救わんと現場に急行。敬うべき日本の美徳だ。


 タクムとナタリーはサイレン音に会話を止めた。ナタリーの住んでいた村では魔物の襲来を音で知らせる。幸か不幸か、サイレン音はその音に酷似していた。


「ひぃ!!」


 ナタリーが落ちていた箒を素早く取り上げ、またがり、


「おい!! 何やって……」


 勢いよく飛び去っていった。


「おいぃ……」


 巧がそんな呟きを漏らすと同時に、警察と救急車が家の前に到着した。


***


「へぇ、争わないんだ」


 神様は夢中だった。今まで見向きもしていなかったが、世界はなかなか捨てたもんじゃないなぁ。

 魔法使いを落としたのは大正解だったね。世界の一つ、地球の、日本の、とある県の、とある二人に見入って、笑みを浮かべる。

 神にとっての、初めての映画鑑賞の始まりだった。




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