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星喰う花

子供のころ書いた詩のイメージがふくらんで、こんな話になりました。

どんな詩かというと、後書きをご一読ください。

 初めてその花が小さなつぼみを開いたとき、花は銀河の渦からこぼれた塵のような星くずを食べていた。

 花は小さく、茎はか細く、強い風でも吹けばひとたまりもなく折れて散ってしまいそうなほどだった。

 花を見て、人も獣も、精霊も、神でさえ、その可憐な姿をいとおしみ、その存在を自分の力の及ぶ限り守ってやろうとしないものはなかった。

 花は大切にされ、いつくしまれてすくすく成長していった。


 少し大きく丈夫になった花は、流星を食すようになった。

 太陽をめぐる惑星の住人たちは、天からの災いを未然に防いでくれる花をたいそうありがたがった。

 神の恵み、と呼ばれて、花はなおいっそう大切にされるようになった。


 そのうち花は、彗星をその輝く帯ごと食えるほどに成長した。

 人も獣も精霊も神たちも、わずかに戸惑いを覚えながら、手のひらでわずかな風にそよいでいたころの花を思い出して、頼もしく成長したものだ、とその存在を温かく見守ってやった。


 やがて花は、小惑星を次々と飲み込むようになった。

 そのころには、花の食欲は加速度的に大きくなり、もはや誰もそれを止めることはできなくなっていた。

 小さかった頃、緻密な芸術のごとき繊細だった花びらの点描模様は、その一つ一つが暗黒星雲ほどの大きさがあり、花びら一つが銀河一つ分に匹敵するほどに成長していた。

 もはや花は可憐でも美しくもなく、毒々しくグロテスクで、見るものすべてに脅威を感じさせずにおかなかった。


 けれども花は、周囲がなぜ自分を見て恐怖の表情を見せるようになったのか、理解できなかった。

 花の心は、初めてのつぼみを開いたころと少しも変わっていなかったのだった。

 花は人々が嘆き、恐れおののいているのを見て、心から同情した。そして、何とか彼らの役に立ちたいと思った。

 かつて花は、その存在で人々を慰め、涙や怒りを優しい微笑みに変えることができた。

 だから、大きくなった今の自分なら、彼らのどんな悲しみも憂いも、きっとなくしてしまえるに違いない。

 宇宙のすべての人や獣や精霊や神々を、ただただ幸福にしてあげられるに違いない。

 そう信じて、花は自分を可愛がってくれたものたちのために、以前にも増して大きく成長していった。

 いつ自分たちを飲み込んでしまうか、人々が恐怖に打ちひしがれていることなど、花には思いもよらないことだった。

 彼らを星ごと飲み込んで、跡形もなく消してしまっても、花はなお、彼らのために咲き続けることに喜びを感じていた。


 花は、惑星を喰い、恒星を喰い、いくつもの銀河を丸ごと飲み込んだ。

 そしてとうとう、宇宙のすべてを喰い尽くしてしまうと、あたりは暗黒に包まれた。


 ふと気づくと、自分を可愛がってくれるものが誰ひとりいなくなっていて、花はひどく驚いた。

 みんなみんな、どこへ行ってしまったんだろう。あんなにかわいがってもらったのに。みんなみんな、大好きなのに。

 孤独に打ちひしがれた花は、悲嘆にくれ、ひたすら泣いて、少しずつしおれて小さくなった。

 花がすっかり枯れてしまうと、その抜け殻から星くずのようにきらめく一つの種が零れ落ちた。


 永遠にも思える時が過ぎ、ある日種が芽を吹いた。

 それは生まれたての小さな銀河の渦だった。

 銀河は少しずつ渦の手を広げ、大きく成長していった。

 やがて銀河は多くの星々を産み、星々がさらに新しい銀河を産み、新しい宇宙が死の闇を光で切り裂いていった。


 ある日、銀河のどこかで、小さい花がつぼみを開いた。

 花は、永い眠りから覚めたように花びらを震わすと、銀河の渦からこぼれた塵のような星くずをゆっくりと食べ始めた。


星の花

天の川のほとりに花が咲いた

その花は銀色と金色の

きりのようなこなをまいた

そのこながたえると

花は

チルル ルルル

チルル ルルル

となきわめいた

なみだが天の川に流れた

天の川は花をあやした

まだなきつづけている

天の川は手をのばし

ぎろぎろ光っている星を

あめだまにして花にやった

やっと花はなきやみ

おいしそうにあめをしゃぶった

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