8.眷属
「……眷属、ですか?」
「ああ」
僕はマリーシャの言葉に頷く。一応は提案してみたけど、こっちの方法は出来れば拒否してほしい。この方法をしてしまうと、2人はもう二度と人間には戻れなくなるから。
どちらを選んでも良くはないけど、出来れば奴隷の方を選んでほしい。僕はそう思いながら2人の言葉を待ったけど
「それなら私は眷属になる」
「わ、私も少し不安だけど、眷属になります」
2人とも眷属の方を選んでしまった。
「本当に眷属で良いのかい? この姿になった僕が言うのはあれだけど、眷属になったら二度と人間には戻れないんだよ?」
「それでも、エル兄上の助けになるのなら、私は構わない」
「私もこれ以上エルお兄ちゃんの足手まといにはなりたくないです。それに私も助けられるだけじゃなくて、エルお兄ちゃんやルーちゃんを助けたいですから」
2人はそう言って微笑む。2人の目も決意に満ちていた。こうなったら僕がいくら言っても変わらないだろう。まったく。
「わかったよ。それじゃあ、今から眷属化をするけど、その前にヴァンパイアの特性を話しておくよ」
それから、2人には眷属として得られるメリットとデメリットを話しておく。
メリットはまずは五感が発達する事。僕がなったみたいに目が良くなり夜目が効く。耳や鼻が良くなるなどの事だ。
それから身体能力や魔力なども上がる事。僕が馬と同じぐらいの速さで走る事が出来るのもこのおかげ。
後、眷属だけの能力だけど、主の僕の居場所が感覚的でわかるようになるみたい。これは僕の本能が教えてくれるんだけど。万が一はぐれた場合などは便利だね。
次にデメリットは、慣れるまでは鋭くなった五感がきつい事だね。僕はこのせいで何日か動けなかったし、匂いがキツすぎて食べ物を食べる事が出来なくなった。
次に、昼間太陽に当たると、本領を発揮しづらくなる。眷属も太陽に当たっても耐えれるのは耐えれるが、僕より耐性は弱いみたい。あまり当たり過ぎると、体調を壊してしまう。昼間はマントが必須になる。
そして、血を飲まないといけなくなる事。食事でも体力や魔力は回復するけど、体が血を欲するのだ。飲まないと、禁断症状が出て、人を襲うようになる。
ただ、これに関してはあまり心配していない。理由は彼女たちは主人の血を飲む事が出来るからだ。つまり、僕の血を飲む事が出来る。逆は出来ないけどね。昔見た魔族の本でも、褒美代わりに血を上げる事があるなんて事も書いてあったな。
他にもあるかもしれないけど、概ねはこれぐらいかな。
流れとしては、まずはルイーザかな。まだ目が覚めたばかりで疲れ切っているマリーシャより、まだルイーザの方が体力が残っているから。
一気に2人とやってしまうと、逃げられなくなるし、僕の血も足りなくなるから、まずはルイーザから。それならルイーザを感覚などに慣れさせる事をして落ち着いたら、マリーシャを眷属化する事を説明する。2人はその事に了承してくれる。
「眷属化っていうのはどうやるのだ?」
「うん。僕もヴァンパイアの本能で知っているだけだけど」
僕は地面に契約の為の魔法陣を描く。これも本能が形や模様、大きさを教えてくれる。だから迷う事なく書く事が出来た。
この魔法陣の中に立って、僕とルイーザは向き合う。マリーシャは魔法陣の外で待機だ。多分疲労でルイーザが倒れるだろうから、直ぐに寝られるよう準備をしてくれる。
それじゃあ、ルイーザ、始めるよ」
「あ、ああ」
僕は緊張するルイーザの手を取って、手のひらを上に向ける。そして5本の指先に、僕は自分の手の爪を刺す」
「痛っ!」
手を離すと、ルイーザの指先から血が垂れてくるけど、そのまま逆の手を取り、同じように刺す。物凄く美味しそうな匂いだ。だけど、今は我慢。次に僕は自分の指先をルイーザと同じように刺す。
そして、僕の指先とルイーザの指先を合わせる。これと同時に僕は魔法陣に魔力を流す。すると、魔法陣は僕の魔力が流れるのと同時に赤く光り出す。
ドクンっ!
と、僕の血がルイーザに流れるのがわかる。ルイーザには僕の血が流れる度に激痛が走っているはずだ。本来は異物であるはずの僕の血だからね。その上、その血に体を合わせようと、体が反応している。
「ぐうっ! ううぅぅぅぅぅっ!」
「ルーちゃん!」
「入るな、マリーシャ!」
僕は魔法陣の中に入って来ようとしたマリーシャを止める。ここで魔法陣に入ってくれば、今回は失敗してしまう。
僕の怒鳴り声にビクッとして立ち止まったマリーシャは、心配そうにルイーザを見守る。もう少しだ。頑張れ、ルイーザ。
「ぐうぅっ! あっ、ああぁぁぁああああ!」
ルイーザが叫ぶと同時に、赤く輝く魔法陣。魔法陣に込めた僕の魔力がルイーザに流れていくのがわかる。これは成功したな。
時間的にはほんの3分ほど。だけど、そのたった3分ほどの行動で、ルイーザは変わってしまった。先程より少しとんがった耳。赤い目に、伸びた牙。爪も伸びて鋭い凶器のようになっている。
だけど、これは眷属化に成功した証だ。僕の魔力を半分近く注ぎ込んだから、かなり強力な眷属になっているはず。
「え、える……あ……にう……え」
「よく頑張ってね、ルイーザ」
僕は優しくルイーザの頭を撫でると、ルイーザは嬉しそうに微笑みながら気を失ってしまった。それから僕も疲れてしまったので、休ませてもらった。休むと言っても、警戒するために座っているだけだけどね。
次の日から、ルイーザはものすごく辛そうだった。見え過ぎる目に、痛くなるほど聞こえる音。遠くの匂いまでわかる鼻。そのせいで、ルイーザは食べ物を食べる事が出来ず、口に入れても吐いてしまう。
歩く事もままならずに、辛そうだったので、僕が背負って歩いて進む日々が続いた。追っ手が気になったけど、王都周辺で探しているのか、まだ来ない。
そしてルイーザを眷属化して5日目でルイーザは、ようやくヴァンパイアの感覚にも慣れたみたいだ。その日の夜には、続くようにマリーシャも眷属化して、今度は辛そうなマリーシャを背負って進む事さらに5日ほど。
マリーシャも、感覚がだいぶマシになった頃にようやく僕たちは砦にたどり着く事が出来た。ただ、問題が起きたのが……兵士が戻ってきていた事だ。