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〈クリスマス〉シリーズ

お星様どろぼう

作者: 赤羽 翼

語り手が小さい子なので平仮名が多いですがご容赦ください。また、平仮名ではわかりにくい部分には漢字のルビが振られていますが、気にしないでください。



 クリスマスイブの朝。わたし、旦ヶ原(たんがわら)麻美あさみは小学校のクリスマスパーティーにさんかしていた。まず学年ごとに別れて、クリスマスツリーのそうしょくひんを作り、先生たちがよういしてくれたツリーにそれをかざる。その後、お昼ご飯を食べて、生徒たちがもちよったプレゼントのこうかんをする。きっとこのプレゼントこうかんのタイミングで先生ふんするサンタさんがとうじょうするんだと思う。ほかの子たちはみんな、サンタさんがじつざいすると思っているからだ。だけどわたしは、サンタさんがかくかていの親だということを去年、とあるけいいで知ったから、先の先まで読むことができる。


 それなのにクリスマスパーティーにさんかしているのは、冬休みでクラスメイトたちとなかなか会えないからだ。友だちと何かをいっしょに行うのはとても楽しい。しかし、さんかしていない子もたくさんいるし、学年ごとに別れるから、知らない子もとうぜんいる。でもこれをきかいに友だちになればいいだけだから、それはかんけいない。


 いま、わたしたちは紙で作ったそうしょくひんを手に、二年生のクリスマスツリーにあつまっていた。わたしのクラスのたんにんの松崎まつざき先生がおもそうな箱をグラウンドの土の上においた。中になさまざまなそうしょくひんが入っているようだ。にぶく光っている赤い玉やキラキラビラビラした紙(?)、てっぺんにつける星も見える。


 松崎先生が手を叩いて注目をあつめた。


「他の学年に負けない凄いツリーを作るぞ!」


 おー! とみんながこぶしをつき上げた。やる気まんまんなようだ。

 みんなさっそく手作りのしょうしょくひんやせいき(正規)のそうしょくひんをツリーにつけていく。ほかの学年も同じようにしている。ただ、じょうきゅうせいになればなるほど士気が低いように思えた。とうぜんかもしれない。


 わたしは友だちの洋子ようこちゃんとツリーにかざりつけながら、考えていた。六つもツリーがいるのかな? というか、どうして冬休みでだれもこないこのじきにツリーを立てるんだろう?


 それに――。わたしはツリーを見上げる。このツリーは大人よりも背が高くてとても立派だけど、二年生のツリーが立っている場所がわるいように思った。よりにもよって、ツリーより大きなちょくほうたいのそうこの真下だから、ツリーの高さがかすんでしまっている。すごく残念だ。


「麻美ちゃん」


 洋子ちゃんが肩をつっついてきた。


「どうしたの?」

「麻美ちゃんはサンタさんに何もらうの?」

「え?」


 なやむしつもんだ。わたしは小説が好きだから、小説をたのむつもりだ。しかし、おとうさんおかあさん相手だから、あまり高いもの……つまり単行本はたのめない。


「えっと、文庫本かな」

「へぇ。麻美ちゃんってほんとに本が好きなんだね」

「うん。洋子ちゃんは?」

「わたしはポケモンだよ」


 そういえば洋子ちゃんは大のポケモン好きだった。


「王冠のおかげで厳選がすごく楽になるんだあ。性格とめざパ厳選だけでいいんだもん。まあ性格はかわらずのいしをつかえばいいだけなんだけど」


 あいかわらずのはいじん(廃人)ぶりだ。

 かざりつけはつつがなくしゅうりょうした。後は星をツリーのてっぺんにのせるだけだ。しかし……。


「ううむ」


 ツリーを見上げて、ついうなってしまった。わたしたち小学二年生が作ったそうしょくひんがあまりにもカオスなふんいきを生み出している。男子がかいたと思われる下手くそな絵。だれが折ったか折り紙のツルもあるし。なぜか短冊まである。ぼーっとながめていると、後ろから先生が声をかけてきた。


「旦ヶ原、星を持ってきてくれ」

「あ、はい」


 先生はそうこの裏からもってきた大きなきゃたつをツリーの横においた。

 先生がもってきた箱の中を見てみる。星がなかった。だれかが取っていったな、と思って辺りを見ると、こがらな少女が目に入った。同じクラスの南條なんじょう衣吹いぶきちゃんだ。彼女は星を抱いてうれしそうなひょうじょうをうかべていたのだ。その隣に彼女のふたごの兄で、彼女より頭一つ大きい鴉巧あだくのすがたもある。この二人はいつもいっしょにいて、はなれるときはどちらかがトイレにいくときくらいだ。彼らの家は学校のすぐ近くにあり、わたしも遊びにいったことがある。


 ちなみにわたしは鴉巧くんのことを一目おている。男子たちの中では一番かしこいのだ。今年の夏休みの工作では、まだ理科を習ってないにもかかわらず、でんじしゃくを利用した魚つりゲームを作ってきていた。しかも親の手をかりなかったと聞いて、わたしはとてもかんしんした。


「ねぇ、その星、もうツリーにかざるんだけど、かえしてもらっていいかな?」


 わたしがもうしわけなさそうに言うと、衣吹ちゃんは悲しそうな顔になった。


「もらっちゃ、だめかな?」

「だめじゃない? だってたぶん学校のびひんだもん」

「びひん?」

「学校の物ってことだよ」

「そうなんだ……」

「星が好きなの?」


 たずねると、衣吹ちゃんはうん、と力強くうなずいた。しかし彼女は物事の分別はちゃんとついているようで、星をすぐにかえしてくれた。星はツリーの先たんにさすためか、下部がバネになっていた。しかもその星自体はプラスチックなのに、バネの部分だけ鉄せいなので、下と上でおもさがちがってすこし気もちわるい。

 先生のところへいく。


「もってきました」

「そうか。よしっ。じゃあ、旦ヶ原がその星をかざってくれ」


 えええ! と男子たちがはんかんの声を上げた。


「どうして旦ヶ原なんだよぉ!」


 クラスのガキ大将、馬場ばば和樹かずきがふへいの言葉をはっした。ちなみにわたしは、彼のことを心の中でバカとよんでいる。名前をたんしゅくしたのだ。あと、じっさいにバカだから。彼は何のいみもない行動をよくするのだ。グラウンドに大きな絵をかいたり、かいだんを何だん上からとべるかとか、雨どいを伝ってそうこの屋根にのったり。


 わざとらしくじだんだをふむバカに、先生はため息をもらした。


「旦ヶ原がクラスで一番真面目だからだよ。脚立の高いところまで登るんだ。もしふざけて落ちたら危険だろう? その点、旦ヶ原なら絶対にそういうことはしない」

 

 たしかにわたしはそんなことしない。しかしバカならやりかねない。

 ほかの男子たちはだまったが、バカはしゅうちしんをどこかにわすれてきたのか、わーわーとわめきちらす。


「そんなことしねーよー! オレがやるオレがやるオーレーがーやーるー!」


 先生はめんどくさそうに頭をかいた。本当に面倒くさい。わたしは仕方なくため息をはいた。


「先生。わたし、代わってあげますよ」

「え、いいのか?」


 わたしはうなずいた。バカはわめくのをぴたりとやめ、きたいのまなざしでわたしを見ていた。わたしはこくりと頷き、彼――の後ろにいた子に星をかかげた。


「衣吹ちゃん、星、かざってみる?」


 衣吹ちゃんはうれしそうにうなずき、バカはぼうぜんとしたひょうじょうになった。いい気味だ。



 ◇◆◇



 その後、わたしたちは体育館でお昼ご飯を食べた。体育館にレストランのバイキングで見かけるようなこうけいが広がっており、とてもしんせんだった。そしてプレゼントこうかんでは、わたしはピンクのかわいらしいマフラーをゲットした。くじで決めたからだれのプレゼントかはわからなかった。わたしのプレゼントはなんとバカにわたった(プレゼントの主にはだれの手にわたったのかわかるのだ)。バカはきたいに目をかがやかせ、包みを開けた。それを見てあぜんとしたようだ。わたしがもってきたプレゼントはエラリー・クイーンの『Yの悲劇』という小説だった。とっても好きな作品だから、本当はプレゼントにしたくなった。けどこのすばらしい小説を多くの人に知ってもらいたくてえらんだのだ。バカよ、その作品をよんで物事をりんりてきに考える力をつけるのだ。


 こうしてクリスマスパーティーはぶじにしょうりょう(サンタは現れなかった)、するはずだった。生徒たちがきたくするためにぞろぞろとグラウンドに出ていく。そんな中、洋子ちゃんがわたしたちのツリーを指さして叫んだ。


「星がなくなってる!」


 その言葉につられて、わたしはツリーの方を向いた。たしかに、ツリーのてっぺんから、衣吹ちゃんがのせたはずの星がなくなっていた。二年生たちと松崎先生がツリーの前に集まる。


「ほんとだ。どういうことだ?」


 先生が首をひねった。わたしも同じ気もちだった。ほかの学年のツリーの星はぶじなのに。


「だれかがぬすんだんだぜ、きっと!」


 バカが大きな声で言った。わたしはひややかな目を彼に向けた。


「馬場くんじゃないんだから、そんなことしないわよ」

「なっ!? オレもそんなことしねえよ! それに星をぬすみそうなやつならいるじゃねえか!」


 バカは衣吹ちゃんを指さした。


「あいつ、さいしょっからずうっとあの星をもってたじゃん。ほかのかざりをつけるときも、はだみはなちゃず……はなさずってかんじだったし」


 なれない言葉をつかうから……。

 しかしバカの言葉で、考えのあさい生徒たちが衣吹ちゃんに疑いのしせんを向け始めた。衣吹ちゃんが泣きそうな顔になる。

 わたしはむっとして、そして先生は彼らをいさめるため、口を開きかけた。だがわたしたちより先に、彼女の兄が言った。


「それは無理だよ。このツリーは大人よりも大きいんだ。その頂上にあるものを、子どものぼくたちがぬすめるはずないよ」


 おお。わたしが言おうとしたことを、彼は言った。さすがわたしが一目おく男だ。しかしバカはまだ食いついてくる。


「きゃたつをつかえばいいじゃねえか」


 今度はわたしの番だ。


「あのきゃたつ、子ども(わたしたち)じゃもてないよ。大きくておもそうだったし」

「で、でも、二人とか三人なら――」

「星が消えたのはとうぜん、ツリーのてっぺんにかざってからでしょ? それから、さっき洋子ちゃんが気づくまでのあいだに星が消えた。そのかんに、お昼ご飯とプレゼントこうかんがあったけど、わたしがきおくしているかぎり、二人以上の人が同時にいなくなることはなかった。そうですよね、先生?」


 先生はずっと生徒の出入りをチェックしていたのだ。先生はややこんわく気味にうなずいた。 


「あ、ああ。旦ヶ原の言う通りだが……旦ヶ原と鴉巧、凄いな」


 ほめられてうれしくなったわたしは、もう少しすいりをしてみる。


「子どもにははんこうはふかのうだから、はんにんは大人ということになります。しかし大人がツリーの星をほしがるとは思えないので、それも違います。ということは、これはめいきゅう入りなのです」

「めーきゅーいり?」


 バカがわたしの言葉をふくしょうした。


「事件かいけつがこんなんだったり、ふかのうだったりするじょうきょうのことよ」

「だめじゃん」

「そうね……」


 すいりでもなんでもなかった。これはいったいどういうことなんだろう。だれがなんのために星なんてぬすんだんだろう。



 ◇◆◇



 はんにんだとなのり出る生徒はいなかった。きゃたつもうごかされたけいせきはなかったため、先生は星のことはしょうがない、とわりきってわたしたちをかえした。しかしわたしは気になっていた。はたしてだれがはんにんなのか。子どもにははんこうがふかのう。大人ならばどうきがふかかい。まさにミステリー小説に出てくるなん事件だ。しかしわたしに不安はなかった。これをかいけつできる人を知っていたからだ。


 わたしは家の近所にある小さなアパートをおとずれていた。この二階に、やさしくて美人でとっても物知りなおねえさんがすんでいるのだ。名前は袖村そでむら由那ゆなさん。おにいちゃんの高校のせんぱいだ。高校三年生でじゅけん生だけど、すいせんとやらにうかったのでめいわくにはならないはずだ。


 由那さんの部屋の前まできて、ふと思い当たった。いまは冬休みで、由那さんは一人ぐらしだ。去年のクリスマスにはいたけど、今年はいるかな。きせい(帰省)しているかもしれない。由那さんの実家はぎふけんだと言っていたけど、そこが日本のどこにあるのか知らないから、もしきせいしていたらとても会えない。


 ここにきて不安をかんじたけれど、なやんでもしょうがないのでインターホンをおしてみた。すぐに不安は消えた。


 とびらが開き、きれいな黒いかみと雪のように真っ白な肌をもった女の人が出てきた。由那さんだ。彼女はわたしを見ると、優しい微笑みをうかべた。


「こんにちは」


 わたしはぺこりと頭を下げた。


「こんにちは。麻美ちゃん、どうしたの?」

「えっと、事件がおきたんです」

「事件? もしかして、またサンタクロースが出たの?」

「ううん。星どろぼうが出たんです!」


 由那さんはきょとんとした顔になった。


「星泥棒? ちょっとメルヘンな響きだね。寒いから上がって」


 由那さんのお言葉にあまえて、わたしは部屋に上がり込んだ。中はだんぼうではなくストーブがついているだけだったけど、外見とくらべたらはるかにあたたかかった。


「普段は節電してるのよね」


 由那はそうつぶやくと、だんぼうをつけてくれた。


「ありがとうございます」

「こっちこそありがとね。私も寒かったから、麻美ちゃんのおかけで暖房を点ける言い訳ができたから」


 由那さんはいたずらっぽい笑みをうかべた。


「座ってて。飲み物用意するから」


 テーブルにすわってまっていると、由那さんがオレンジジュースをもってきてくれた。そして、


「はい、これ。クリスマスプレゼントね」


 由那さんが小説をさし出してきた。わたしのむねが高なった。


「わあ! ありがとうございます!」

「どういたしまして。その小説、すっごく面白いから、期待していいよ」

「はい!」


 由那さんはまたやさしい笑みをうかべ、わたしの向かいに座った。


「じゃあ、星泥棒さんのことを聞こうかな。その人はどんな星を盗んだの?」


 わたしはクリスマスツリーの星がぬすまれた一件をせつめいした。


「なるほどねぇ、クリスマスツリーの星ね。たしかに不可解だね」

「そうなんです。それでわからなくなっちゃったんです。……というか、それ以前に、どうしてクリスマスツリーてっぺんに星をかざるんですか?」


 このぎもんに由那さんはすぐに答えてくれた。


「クリスマスについては去年話したよね?」

「はい。イエス・キリストって人の誕生日なんですよね?」

「そうそう。あの星はベツレヘムの星に見立てられてるの。ベツレヘムの星っていうのは、キリストさんが生まれたことを東にいた賢者に知らせ、キリストさんのところに導いた星なのよ」

「へぇー。由那さん、くわしいですね」


 由那さんは少しだけ目をふせた。


「まあ、ね。私、両親がクリスチャンだから」

「クリス?」

「ああ、キリスト教徒ってこと。簡単に言えばキリストさんのことが好きなのね」

「由那さんもそうなんですか?」

「ううん。私は違う。……そういえば私、クリスマスプレゼントなんてもらったことなかったなあ」

「どうしてですか?」

「クリスマスはイエス様の誕生日であって、子どもにプレゼントを贈る日ではないとかなんとかって言ってた」


 由那さんはどこかさびしげなひょうじょうをうかべていた。何て言葉をかえせばいいのかわからなかったから、思ったことを言うことにした。


「クリスチャンって心がせまいんですか? わたしがキリストさんだったら、子どもがよろこぶことをしてあげなさい、って言うけど」


 それを聞いた由那さんは少しの間ぽかんとしていたけど、とたんに吹き出した。


「あっははははは。やっぱり麻美ちゃんって面白くて、とても良い子だね。そうよね。きっとキリストさんもそう言うよ」


 どうして笑われてるのかわからないけれど、由那さんが笑顔になってくれたから気にならなかった。

 由那さんは笑いすぎてめじりにうかんでいたなみだを指でぬぐい、


「それじゃあ、パーティーであったこと、最初から話してもらっていい? 星泥棒さんを見つけるために」



 ◇◆◇



 わたしはクリスマスパーティーであったことを、人物しょうかいを交えてていねいにせつめいした。そして最後につけくわえる。


「ツリーの星はどの学年の物も同じだそうです。それなのに二年生のだけぬすまれたってことは、はんにんは二年生のかんけいしてる人ってことになりませんか?」

「なるだろうね」

「それなのでねんのため、先生にお昼ご飯とプレゼントこうかんの時間に外に出た二年生を聞いておいたんです」


 外に出ていたのは、洋子ちゃん、バカ、衣吹ちゃん、鴉巧くん、それから貴善きよしカレンちゃんという女子生徒だけだった(名前は外出した順番だ)。彼ら彼女らはみんな、一人ずつ外に出ており、その時間がかぶることはなかった。ちなみに、貴善さんは、どうやらわたしがゲットしたマフラーのおくり主だったようで、うんめいてきなものをかんじた。


「どうですか?」


 由那さんは桃色のくちびるに人さし指を当て、しばらく考えた後、


「犯人がわかったよ」

「本当ですか?」

「うん。まあ、たぶんだけどね」


 由那さんの言う「たぶん」はだいたい当たる。


「まず、大人の犯行っていうのは考え難いよね。動機が理解不能だし、それにクリスマスツリーの星を盗むなんて可愛いことをするのは子どもくらいだと思う」

「わたしもそう思います。わたしはそんなことしませんけどね」

「まあ麻美ちゃんなら、そうだよね。しかし子どもの犯行だとしたら、脚立を一人じゃ運べない子どもたちにはそもそも盗めないし、脚立が動かされた形跡もなかったことからこれも違う。けど、さすがにカラスか何かが持っていったとは思えないから、犯人は大人か子どものどちらかしかいない。麻美ちゃんはどっちだと思う?」


 わたしはうでを組んで考えてみる。


「……大人だと思います。大人なら、きゃたつをつかう前のじょうたいにしっかりもどせると思うんです。そういうことに頭が回るのは大人しかいません。それに先生ならあやしまれることなく簡単に外に出られますから」

「ううん。意見が違っちゃったね」

「由那さんは子どもだと考えてるんですか?」

「うん。だって考えてみて。大人――ようするに先生が犯人だったなら、盗むタイミングがおかしいでしょ?」

「タイミング?」

「うん。パーティーの開催中じゃなくて、夜に盗めばいいだけだよね?」

「あっ、そっか」

「見つかる危険性もあるパーティー中より、人が少ない夜の方が安全でしょ? まあ、夜じゃなくても、学校から人が消えたらでもいんだけどね」


 ふむふむ。たしかにそうだ。先生がはんにんなら、人がいなくなってからはんこうにおよべばいいだけだ。しかし子どもはそういうわけにはいかない。冬は日が短いからすぐにくらくなる。くらい中、一人で小学二年生を外出させる親はいない。


「じゃあはんにんは、洋子ちゃん、バカ、南條兄妹、貴善さんのだれかなんですね」

「そういうことね。誰が犯人だと思う?」

「うーん……。バカか衣吹ちゃんだと思います。バカは理由も何もなくへんなことしますし、衣吹ちゃんは星をほしがってました。どうきがあるのは――バカにはないけど――この二人くらいです。だけど、どちらがはんにんにしても、ぬすむ方法がわかりません。何かトリックを使ったんですよね?」


 由那さんがうなずいた。


「うん。私の考えでは、犯人は面白いトリックを使ってるね」

「そのトリックは……はんにんは、だれなんですか?」

「犯人は――」


 由那さんはいっぱくおいて、その名を口にした。


「犯人は鴉巧君だね」

「え!?」


 わたしが一目おいていたあの男が、はんにん!?


「あ、鴉巧くんは、どうやって星をぬすんだんですか?」


 由那さんは両手でぼうじょう(棒状)の何かをもって、ふり上げるジェスチャーをした。


「鴉巧君は星を釣り上げたのよ。倉庫の屋根から電磁石の付いた竿を使ってね」

「つり!?」


 そうだ。今年の夏休みの工作。彼はでんじしゃくを利用したつりゲームを自作していた。それをつかったのか。


「鴉巧君の家は学校からすぐ近くなのよね? 家から竿を持ってくることは簡単だったはず」

「それは、たしかにそうです」

「倉庫は雨どいを使えば屋根に上れるみたいだし、ツリーは倉庫の真下にあるから、狙いを定めることも容易よね」

「で、でも、星はプラスチックですよ? じしゃくはくっつきませんよね?」

「星はプラスチックでも、ツリーに差す部分――バネは鉄製だったんでしょ? そこに電磁石をくっつけて釣り上げれば、星を盗むことができる。その星と釣り竿は校庭のどこか、たぶん倉庫の上に隠したんだと思う。さすがに家にもう一往復するとは思えないから」

「なるほど……」


 しかしすぐにぎもんがわいた。


「でも、その竿があればだれにでもできますよね?」

「犯行自体はそうだね。誰にでもできた。けど、その犯行に至る前に、あるを知っていないとそれはできないの」

「よびちきし? じしゃくが鉄や別の極にしかくっつかないのはみんな知ってますよ?」

「それは、そうだろうね。でも、私が言う知識は盗まれた星の知識のこと」

「どういうことですか?」

()()()()()()()()()()、もしくは()()は彼らだけだよね?」

「……?」


 よくわからない。由那さんがせつめいしてくれる。


「馬場君の話によれば、星は衣吹ちゃんが飾り付けが始まってからずっと持ってたんだよね? それなら、他の子たちはその星に触れる機会がないし、バネの素材にも気づけない。麻美ちゃんも手にして初めて気づいたみたいだしね」

「なるほど。だけど衣吹ちゃんとずっといっしょにいたはずの鴉巧くんなら、星にふれるきかいがあって、バネが鉄だって気づくかのうせいがあるんですね?」

「うん。そういうこと」


 由那さんはほほえんでうなずいた。しかし、


「でもそれなら、衣吹ちゃんにもはんこうはかのうなんじゃ……?」

「衣吹ちゃんは小柄なんだよね? そんな女の子が雨どいを上って大人よりも背が高いツリーよりも更に高い倉庫に上れるとは思えないから」

「ああ、たしかにそうですね」


 それですべてのなぞが……いや、まだあった。


「どうして鴉巧くんはそんなことしたんですか?」


 わたしが一目おくあの男が、いみもなくそんなことをするとは思えない。

 由那さんはやさしい笑顔をうかべた。


「麻美ちゃん。今日はどんな日?」

「え? クリスマスイブです」

「そうだよね。じゃあ、衣吹ちゃんがほしいものって何かな?」

「それは……」


 そういうことか。わたしにもしぜんと笑みがうかんできた。


「兄バカ、ってやつですね」


 由那さんは苦笑した。


「せめて妹思いって言ってあげてね」




 もうすぐ年が明ける。

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