1話 『お前、オンラインゲームすんのか?』
高校二年生になって早二か月。
二か月も経てば、クラスでグループが確定されていく時期である。
クラスの中心に立ち、多大な発言力を持つグループ。
学生の本分「勉強」に真面目に取り組む優等生グループ。
同じ部活、趣味を持つ主な目的を「高校生活を楽しもうぜぇ~!!」なグループ。
そして、 どこにも属さないぼっち。
それが正に俺!! 大江 優太である!!
暇だからナレーションごっこをしてみたが虚しいだけだな。
俺の高貴な趣味のうちの一つである「ナレーションごっこ」 授業中暇なときはこれに限るのだが、流石に友人の一人でも欲しいが。
いかんせん、俺はクラス替えの恒例行事「自己紹介」の時に大失敗してしまった。
「ゲームが好きです。どんなジャンルでもプレイします。ゲームが好きな方気軽に話しかけてください」
俺の中だと当りさわりない挨拶だったが、世知辛い今の世の中ゲーマーは「キモオタ」分類されるらしい。
辛い…… 生きにくい……
大体ゲームをしたことがない人間がいるのか? それは否だろう!!
と愚痴ったところで今の状況は変わらない。
とりあえずクラン戦の為、フォーメーションと作戦でも考えるか。
うちのクランはFOX HUNTINGが苦手だし、あそこの攻めの立ち回りでも考えるか。
そう考えルーズリーフに簡易図を作成。
グレポジと定番SRポジを再確認。
どうしても1設置場前階段からの攻めが脆すぎる。
西マンからの置きスナも赤マンと2窓、2前からの置きスナに駆逐されるのが落ちだろう。
万事休す。
やはりAIM勝負か。 なんて考えていると横で「がたっ」と授業中ではあまり聞かない音がする。
音が鳴ったほうに顔を向けると驚愕の表情をしている隣の女生徒「中村 瑞樹」が俺を見下ろしていた。
そう、見下ろしていたのである。
理解不能である。
今は授業中である。
この女はなんで授業中に起立しているんだ? 問題でも当てられたのだろうか?
そう思い、黒板の方を向けば驚愕の表情をしているのは彼女だけではないようだ。
「どうした中村? 気分でも悪いのか?」
「いや、大丈夫っす」
いつも通りながらホントに男っぽい喋り方だな……
口調もあって怖い雰囲気を醸しているが、綺麗な顔立ちである。
髪型は艷のあるセミロングで、少しつり上がった大きな瞳、そしてその瞳の存在感をアピールする長い睫毛。
スッとした鼻筋にちょうどいい大きさの色の良い唇、形が整った眉。
これらのパーツは黄金比のような配置で、誰が見ても口を揃えて「美人」と称するだろう。
入学当時は数多の男たちが彼女を自分だけの物にしようと「色々な意味で」切磋琢磨していた。
正直、遠巻きで見る分には最高に愉快だった。
だが、彼女はそのサバサバした性格と豪快?な口調で告白してきた男子生徒を返り討ち。
勿論、言い方に幾分棘があるため逆上した男子生徒もいた。
しかし
しかしだ!!
彼女は襲い掛かる男子生徒をいとも簡単に殴り倒した。
その頃から彼女は「ヤンキー」なんていう時代遅れなあだ名をつけられ、今では皆から一線引かれた状況に陥っている。
つまり、俺と同類ということだ。
同情なんてしないがな。 こいつ、というか女苦手だし……
とりあえずそんなことはどうでもいいんだ。
俺を含め今、クラス中が思っているだろうことを俺が代弁してナレーションしたい。
「なんでお前は授業中に立っているんだ?」
ちょっと下ネタ臭いが、素直な疑問だ。
クラス中が「また何か問題でも起こすのか?」なんて考えているだろうな。
そして、これだけは俺が思っていることだが「なんでこいつは俺を見ていた?」
理解が追いつかない。
ポルナレ○もビックリであろう。 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!『おれは奴が椅子に座ってると思ったら、いつの間にか立っていた』何言ってるのk(ry
なんて思考しているうちに彼女は席に着いたが、今度は俺を睨み付けてきた。
それこそ「お前のせいで注目されちまったじゃねぇか」と言わんばかりに。
さわらぬ神には祟りなし。俺の座右の銘だ。
「さてと」とつぶやき、立ち回りを再構成しなおそう。
ペンを動かそうとした時、「トントン」と肩を突かれた気がした。
勿論、気がしただけだったので華麗にスルー。
そう、さわらぬ神には祟りなs……
ドゴッ!!
「いっつっ!!!」
授業中に大声を出してまた評価を下げまいと強烈な痛みを耐え、声を押し殺した私を称賛してほしい。
とりあえず右側から肩を殴られた。
俺はショルダーブロックを無意識にした覚えはない。
つまりは、故意的に殴られた。
中村 瑞穂からだ。
それ以外いるわけない。そんな凶暴なゴリr
ゴツッ!!
次は強烈なのが来たぞ!! 俺の思考が読まれたっ!?
流石に痛すぎて涙目になりながら錆びついたロボットのように横を向く。
中村 瑞樹が俺を凄い形相で睨み付けながら机の方を指さしている。
指が向いた方向を目で追うと、そこには一枚のルーズリーフがあった。
ルーズリーフをよく見てみると……
『お前、オンラインゲームすんのか?』
そう書かれていた。
意図が解らずまた横を見ると、中村は俺が今まで授業中に考えていた努力の結晶尚且つ、企業秘密の俺の作戦が書かれたルーズリーフを取り上げた。
そしてまた筆談をしていたルーズリーフに文字を書きだす。
『これ、AVAの「FOX HUNTING」のマップだろ』
正直、驚きを隠せなかった。
まず、FPSというジャンルをプレイする女性人口の少なさ。
そして、有名になりつつあるも未だに世間に浸透していないPCのオンラインFPSプレーヤーが、こんな身近にいるという事実にだ。
おぉ神よ、なぜもっと絡みやすい人間と接点を与えてくれなかったのですか……
とりあえず返信?するか。
『そうだけど』
『お前もFPSするのか!?』
『まぁするけど』
そう伝えると彼女の表情が明るくなった。
そして
『じゃあ、今日VC繋いで一緒にやろうぜ!! AVA!!』
は?
こうして俺の平和だがつまらないボッチ学園生活が、大波乱と少しの楽しみを孕んだ学園生活に様変わりしようとしていた……
いや、大波乱しか無いような……
FOX HUNTING:日本で最大規模の登録者数の代表的FPS「Alliance of Valiant Arms(通称AVA)」に登場するマップ。「西マン」「赤マン」「2窓」等はそのマップにある定番ポジションの名称。
グレポジ:そのポジションからグレネードを投げると、高確率でグレネードで相手を殺せるポジション。
定番SRポジ:定番でスナイパーライフルがいるポジション。
AIM:英単語的な意味では「狙いをつける」FPSでは相手を狙う能力のことを指す。
立ち回り:そのマップにおける戦術的で効果的な行動パターン。
VC:VoiceChatの略。VoiceChatとは「通話ソフト」全般を指す。
結構実名が多いな…… 色々不具合出ましたらゲーム名を実在のものから架空のものに変えたいと思います。
でも、実名ゲームのほうが構成としても楽ですし、リアリティがあるのも事実ですよね……
難しい……
ご観覧ありがとうございます。 よろしければ次回もお付き合いください。