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プロローグ

打ち直しました。以上。

ぐにぐにと太く柔らかい指で体が作られていくのが分かった。

視界がまだぼやけ、モノクロに見える。きっとまだ馴染んでいないのだ。水分を含んだ体はズシリと重く、尻尾はくるりと渦を巻いて空を向いているようだ。カリカリと塊を削り、皮膜を再現していく。できる限り薄く作られたその翼は空を掴み、飛び回るのに適していた。その翼の素晴らしさに見とれていると背中に冷たい感触がして両翼が付けられた。しかし、その感触は一瞬で離れていく。

「あぁ…」

片方の翼がコンと軽い音を立てて落ちた。それとともに作り手の口からため息のような息を吐き出す。作り手は翼を拾い上げると小さな箱で支えを作り落ちないように固定した。彼は作品に背を向けて何かまたパーツを作り出す。

モノクロにしか見えなかった世界にぼんやりと色彩がついてくる。

自分には腕がなかった。両足から作り出したのだろうか、足だけはしっかりと地面についている。

額が疼いて仕方がないが頭を掻こうにも腕がないのではしょうがない。

もどかしい気持ちにうずうずしながら腕の完成を待っていると最初に右腕が着けられた。そしてその数分後に左腕も着けられた。水分を含んだ腕は重かった。

やっと頭を掻くことができると腕を持ち上げようとしたらボトッと落ちて潰れた。作り手が慌てて拾い上げると丸みを帯びているはずの腕の片面が平らに潰れている。これはもう腕とは呼ばない。

「はぁ…」

今度こそ溜息だろう。もう一度背中を向けると軽く直してもう一度取り付けた。今度こそ取れないようにしっかりと境目を紙粘土で埋めて。

作り手は腕を弄り回していたがしばらくすると満足したのか今度は絵の具を取り出した。チューブからカラフルな色を次々と出していく。赤、黄色、白、青、黒、そして緑。

緑、青、黄色を混ぜ、足から順に塗っていく。よく見ると腹に溝が掘られており、蛇腹のようになっていた。ひんやりした感触が体中を撫で回すので身を捩ってその感覚から逃げようとした。だが、体が動かなかった。まだ一つ一つが馴染んでないのだろう。必死にその感覚に耐えていると白と黒を混ぜ、瞳に塗りつけられた。その瞬間、今まで以上に世界が鮮やかに輝いた。

目を見開くとピントが合った眼鏡をかけたみたいに部屋の隅々がしっかりと見えた。そして蛇腹に白と黄色を混ぜた色を塗りたくる。腕と翼だけまだ白い。

まだ乾いてないのだから当然といえば当然なのだがなんというか非常に不恰好というかなんというか。

「乾くまで暇だからこれでも読んでいるといいよ」

そういって作り手は置物を大きな画面の前に置くと真っ暗な画面に自分の姿が映った。ゆったりとした曲線を描いた大きな翼に鱗に覆われた体、間違いなく竜だった。雄々しいといい難いがとにかく竜だった。瞳はおっとりとしていそうな目、やさしい目。少なくとも竜には似つかわしくないと思いもしたがそれもまた個性と置物は納得した。パッと何の前触れもなく画面に白い光が溢れると竜の姿は消えてしまったが代わりに意味のある文字が浮かび上がった。

置物は目を見開いてその文字の羅列に引き付けられた。

「君のために打ったんだ、気に入ってくれると嬉しいなぁ」

そんな作り手の言葉は竜には届かなかった。文字の羅列が置物の頭の中に流れ込み面白いという感情が芽生えた。



その後、竜は完全に色を塗られ、しっかりと乾燥した後に、ニスを塗られ光沢の出た鱗をうっとりと眺めていた。

数日見とれて、見とれることに飽きたころ作り手を観察していると四角い箱に毎晩座ることが分かった。凹凸の激しい厚みのある板の上を作り手の指が踊るように舞う。するとまた四角い箱に灯った明りに文字の羅列が浮かび上がる。板を叩く音がやたらとうるさかったがそれ以上に作り手の作り出す物語の続きが気になってしょうがなかった。そしてふと思った。自分でも小説を書いてみようじゃないかと!


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