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11/24 話を分割しました
カミラとユリアナはその後の全ての講義を終えたあと、学校長室まで行くことにした。
学校長室は校舎の北側、つまり先日避難した講堂とは真反対に位置する。校舎の一番奥まったところにあるので、普通の生徒はあまり学校長室とは縁がない。つまり、学校長ともあまり縁がないのである。
「あー、学校長ってどんな顔だっけ」
「お忘れですかカミラさん!」
誰にともなく、つまりちょっとした独り言にもカッコつけて返事をする、それがユリアナクオリティ。
びしっ! という効果音がつきそうな感じでユリアナがカミラを指差し、ポニーテールをふぁさ…と掻き上げる。ぶっちゃけ、ウザい。しかし、これを声に出さないのもまた、円滑な人間関係においては重要なのだ。
「ユリアナがウザい」
カミラはそんなことに頓着しないが。
「まーまーそう仰らず。ね、思い出したいでしょ? そうでしょ? そうに決まってるでしょ?」
それにめげないのもまた、ユリアナがユリアナたる所以である。
ニヤニヤ笑いながらユリアナがカミラに抱きつく。パーソナルスペースとか一切合切関係なしだ。体重がかかっているので非常に重い。あとユリアナの癖毛がうなじにちくちく刺さる。カミラの不機嫌度メーターは確実に上昇中だ。
「じゃーん、これなーんだ」
鬱陶しそうにカミラがユリアナを振り払うと、彼女はヒョイとカミラから離れる。相変わらず、カミラの沸点ギリギリを見極めるのが上手い。中途半端な怒りはユリアナの頬をつねることで解消させてもらおう。
頬をつねられたまま、ユリアナがひらひらと紙を振る。もう頬をつねるのは二人の間では一種のコミュニケーションだ。気にした様子もなくにこやかに、ユリアナはその紙を手渡した。今までベストのポケットに入れていたのだろうか、折り目がついて若干よれている。
カミラは半眼でそれを受け取ると、その用紙を読み上げる。
「『進級にあたっての注意事項』?」
いろいろ説明が書いてある。箇条書きで、要点が纏められているが、生憎と読む気はゼロである。そもそも、活字をみると、グランフェルト教授よりも効き目のある睡眠欲が襲ってくるのだ。
「その、裏」
ユリアナの頬から手を離し、ぺらりと裏側をめくって見ると、異様に目がつり上がった壮年の男性が描かれていた。第一印象は猛禽類。その猛禽類の横に、『学校長』とご丁寧に記されている。カミラの字だ。
「カミラの作品だよーん。思い出したでしょ〜……カミラさんごめんなさいすみません申し訳ございませんでした」
カミラの黒いオーラに気づいたのか、ユリアナが謝り倒す。よし、ほっぺたムニムニの刑で許してやろう。
カミラはユリアナの頬をぶすぶすと刺しながら歩き出す。
「そういえばこんな顔だったっけ」
「物忘れ? 更年期?」
「ユリアナちゃんちょっと黙ってようか」
「はい。お口にチャックしています」
懲りずに茶々を入れるユリアナはなんというか、本当にめげない。ある意味健気で良い心がけだ。昨日の『ユートピア』来襲から少しばかり元気がなかったので、きっと良いことなのだろう、多分。
どうでもいい話をしながら歩くうちに、ようやく校長室まで辿り着いた。ユリアナと並んで歩くと人の倍は時間がかかる。
まだ律儀に『お口にチャック』しているユリアナに目配せし、ドアをノックする。低い声で了承の旨を告げられたのを確認し、カミラたちは中へと入っていった。