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勇少女戦記  作者: 服部鳩子
第一章 嵐の前の静けさに気づけ
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2

西エリア首都区第一高等学校を上空から見てみると、大きな3つの棟が縦に並んでいるのが分かる。

一番大きな、真ん中の棟は校舎で、4階建て。数々の講義がここで行われる。

両翼の建物は男子寮と女子寮である。快適な学園生活の謳い文句の通り、それぞれには入浴施設や食堂が完備されている。


さて、その女子寮の食堂は割と品揃えが良い。様々な地方から集まってくる生徒たちが食生活で困らぬよう、食堂のオバちゃんは朝から晩まで働き通しである。そのくせ給料は安いのよねー、あのクソ学校長、もうちょい給料くれたってバチ当たんないわよ、けちんぼ! とはそのオバちゃん談である。皆総じて口が軽い。学校長を捕まえてクソ呼ばわりとは。


「おっはよーございまーす!」

「はい、おはよう。今日も元気だねえ、ユリアナ」


ユリアナは元気良くオバちゃんに声をかけると、朝食を注文した。ロールパンに、シチューと山盛りのサラダ、牛乳とデザートのヨーグルトと、見本のように健康的な朝ご飯である。


対してカミラはというと朝は低血圧のせいで食が細い。目の前のトレイにはフライドチキンが2本だけ。それを見たユリアナは「ちゃんと食べなさい!」と野菜スープを注文して持ってきた。ふん、無駄なことを。

ちなみに毎朝のことである。カミラがフライドチキン以外に手を付けたことはないが。


「ム〜リ〜。食べられなーい」


カミラは机にうつ伏せて、スプーンで野菜スープをつつく。フライドチキンは、すでにカミラのお腹の中だ。わずかな肉片を残してトレイに鎮座された元フライドチキン様、その本体は、カミラの午前中のエネルギー源となることだろう。


「ダ〜メ〜。食べなさーい」


ユリアナはデザートのヨーグルトに取り掛かっている。当然他の皿は全て空。フライドチキン二本のカミラと同じ速さで完食である。早食いこそ健康に悪いのではないか、とカミラは口を尖らせた。


朝早い時間帯なので、食堂はガラガラだ。これもいつものことである。これがあと30分もすると席は全部埋まってしまうが、まだ10人程しか見当たらない。それをいいことに、ユリアナは毎朝、新聞を持ち込んで食事をしながら読む。行儀が悪いとカミラが言っても、癖だからとユリアナは開き直っていた。


「あ、昨日の『ユートピア』載ってる」


地方紙なので扱いは小さいが、写真付きだった。首謀者がお偉方の息子で、しかも国営の研究室で働いていたらしい。


『ユートピア』と繋がりがある者は、国立の施設で働くことはできない。『ユートピア』の扱いは既にテロ組織かなにかのようになっている。民営ならまだしも、国営だと家族が『ユートピア』関係者だっただけでクビになったりした例もあり、今やちょっとした社会問題になっている。


「懲役刑だって。学校施設に不法侵入だったしねぇ、まあ妥当かなー」


ふーん、と曖昧に頷きながら、カミラはスープを掬った。くったりと煮込まれたトマトがぼちゃっと音を立てて零れ、カミラは眉をしかめる。トマトは嫌いなのに。


カミラに食べる気がないとみると、ユリアナはスープを貰ってくれた。これもいつものことである。


「まあね。食べるつもりなかったしね!」

「そこ、威張るとこじゃないでしょ」

「威張ってないよ、ただ事実を述べただけ」

「くはー、カッコイー。はーどぼいるどー」

「すごい棒読み」

「感情こめて棒読みました」


その時だった。


けたたましい低音のサイレン。神経を逆なでされるような嫌な音色が、少女の耳を劈く。


「火事?!」

「ちょっと、何よ、これ!」

「静かに、放送が入る!」


人は少ないといっても、やはり非常事態にざわついた。朝早くから何が起こった? カミラもユリアナも、緊張した面持ちで食堂を見回す。


サイレンそのものは数秒で収まった。食堂もまだ混乱しているが、だいぶ落ち着きを取り戻している。


緊張状態の食堂に、スピーカーの機械音がやけに響いた。いつもは話し声で満ちている食堂が、今は耳鳴りするほどの静寂で満ちている。


『連絡をします。先ほどのサイレンは誤作動です。繰り返します。先ほどのサイレンは誤作動です。講義には変更はありませんので、

落ち着いて対処をしてください』


「なんだ、よかったなぁ、もう」

ユリアナはホッとして椅子に座り込んだ。カミラも頷く。食堂はいつものようにざわめき始める。話し声。調理の音。


いつもの日常が、そこにあった。

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