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新生活は色々大変です

伸ばした手の先が見えなくなるような闇のなか、誰かが私を手招く。

見えないのにわかる。

行きたくないと叫ぶ思考とは裏腹に足は勝手に手招きの方向に進む。

近づくにつれ薄い水の膜に包まれたようにぼやける思考。

足は黒に包まれた人物のそばで止まった。相手が手を伸ばせば、たやすく届く距離。

そんな距離を嘲笑うかのように影はこちらに手を差し伸べる。

途中で止まる腕、こちらに向けられた手のひら。

それに答えるように私の腕も動き出す。

(嫌だ、怖い!触りたくない!夢なら早く覚めて!)

思い通りに動かない身体に歯噛みしながら、念じる。

互いの手と手が触れ合うか否かの瞬間、私の願いが届いたのか辺りが白くはじけた。

待望の目覚めである。

光の中、引き上げられる私の耳に陰からの舌打ちが聞こえた。


布団から飛び起きる。全身が嫌な感じの汗に濡れていた。

原因は言わずもがな、あの悪夢のせいである。

悪夢を見始めたのは、この小屋に住み始めてから三日目の事だった。

それから毎晩、見続けている。

いつも同じ場面、いつも同じ終わり方。

夢を見始めてから今夜で一週間。

いくら悪夢といっても、毎日の事である。

いい加減慣れてもいいはずだが、まだ慣れていない。

(ゆっくり寝たい…せっかく、この環境に慣れてきて安眠出来ると思った矢先にこれとか)

思わず、ため息が漏れる。

この一週間、合計睡眠時間が二桁行くか行かないかである。

その上、昼間は慣れない肉体労働だ。このままいけば確実に肉体・精神どちらか

――あるいは両方が――駄目になる。

その片鱗はすでに見え始めていた。

注意力は散漫になり、境界で獣に襲われることが増えた。

些細なことでイライラするようになった。

それに何より目の下の隈とお肌の荒れである。

(この年齢になると下降が激しく、上昇は緩くなるから一旦荒れると回復が大変なのに!)

寝室の隣に備え付けられた洗面所の鏡の前でまた、ため息が漏れる。

「いい加減なんとかしなきゃな~」

なんとなくなくだが理由は分かっているのだ。

「やっぱあれかな~?」

連日の悪夢、その原因だろうと思われることを思い返す。


ココでの生活にも肉体労働にも少し慣れ、精神的な余裕ができ始めたころのことだ。

掃除の途中、物置の床に見慣れない扉を発見した。

一見、床下収納庫の扉に見えるが、何か嫌な感じがする。

予感とか直観の域を出ないが、九死に一生を何度も経たことで強化された直観は馬鹿には出来ない。

「君子危うきに近寄らず、だよね。…私『君子』じゃないけど」

一つの間違いが命の危険につながる世界なのだ。危ない場所に近寄らないという判断は正しい。

そう結論付け、わずかな迷いの後、物置を後にする。


それが一か月ほど前の出来事。

そこから続く連日の悪夢だ。本当に勘弁してほしい。

まだ明けきらぬ夜闇のなか、用意した朝食をほおばる。

こうなったら再び眠る事は出来ない。

眠りに入ろうとすると瞼の裏に、あの影がちらつき、引き戻されるのだ。

最初の頃はそれでも抵抗し、何度も眠ろうと努力したが無駄な努力だった。

そうこうしているうちに布団に入ってから悪夢を見て、目覚める。

その一連のサイクルにかかる時間が、だんだん短くなっていることに気付く。

最初の五日間は布団に入ってから夜が明けるまでの、丸々一晩。

そこから一週間は、空が白み始めるかどうかの頃まで。

そこからどんどん坂を滑り落ちるように眠っている時間が短くなっていく。

現在は二・三時間眠れればいい方になっている。

もちろん時計がないのでこの時間は退官時間になるわけだが

強制的に目覚めさせられてから、夜が明けるのを待つ時間は長くなっていってるので

睡眠時間が短くなっているのは間違いない。

「うぅ、眠い。もう、ムリぽ」

何とか朝食を食べ終え、ダイニングテーブルに突っ伏す。

正直、もう限界だった。

(眠い。寝たい。ゆっくり、誰にも邪魔されず!)

思考が回る。それもこれも睡眠が足りてないせいだ。

上半身を起こし、物置小屋を恨めし気に睨む。

(こんなとこで睨んだって、何も変わらない。それは解ってる。

……でも、行く勇気がないんだよ~!)

「誰か~私に勇気を分けてくれ~」

龍玉という題名の某有名少年漫画の主人公の有名な台詞をもじって呟く。

そのまましばらくテーブルと仲良くする。

「このままじゃ、いけないのはわかってるんだよ~。わかってはいるんだけど…」

怖いのだ。

扉の先に居るであろう悪夢の発信者に会うのが。

だから、こんな所でウダウダ悩んでいるのだ。答えが解っている問題を。

「しょうがない。やるか!」

解決方法らしきものは解っているのだ。

発信者の思惑に乗るのは業腹だが、無い頭を振り抜いても

これしか回答が出なかったのだからしょうがない。

「いつまでも先延ばしにしていい問題でもないしね」

これ以上、睡眠時間が無くなれば発信者に殴り込みに行きかねない。

どうせ乗り込むならば、少しでも冷静さを残しておいた方が何かあった時に便利だ。

腹を決め、物置部屋へ足を向ける。

そんな私の行動に静かに笑みを浮かべた存在がいた。


皆様お待たせしました。やっと魔王が出てきました!

やったね!これで題名詐欺から解放されたよ!

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