3.住む場所を見つけましょう②
倒れ伏し顔を地面につけたからこそだろう。ただ死を待つだけだった私の鼓膜を柔らかな水の流れが震わせる。
(あれ、水の流れる音が……幻聴かな?どうせ最後なんだから、聴覚だけじゃなくて味覚も何とかしてくれればいいのに。神様って本当に意地悪だなぁ)
聞こえてくる水音に無意識に耳を澄ます。
(あぁ、水だ。思いっきり飲みたいなぁ。なんか、気のせいかもしれないけど
水の匂いまでしてきたかも―――んっ、匂い!?)
次の瞬間、今までの動きが嘘のように勢いよく飛び起きる。
(もしかしてだけど、もしかすると、あるかも!最後に一口だけでも!)
水が飲みたい!水!水!水!
心残りともいえぬ、生物として根本に根差す欲求が囃し立てるに任せて走り出した。
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数分後、渾身の力で川までは走り抜いた私は水面に顔を突っ込み獣のように一心不乱に念願の水を味わう。むしろ浴びる勢いで飲んでいく。おかげで首元まで濡れているのを感じるが、そんなことは気にしてられない。そんな暇があったら水を飲む!
「ぷはっ、生き返ったぁ!」
取り敢えず直近の死亡フラグをへし折れた。勢いよく顔を上げ、口元に付いていた水滴を男らしく拭い取りながら安堵する。とすれば人間とは安易なもので次の欲求へ対象が移る。
「…おなか減った」
さらなる欲を満たさんがため、私のお腹が自己主張を開始する。
「水辺だし何か食べられる木の実とか生えてないかな?」
水辺だし何か果物的な物が生えていないかと、おぼろげな月明かりに照らされる川辺を見渡す。すると、視界の端に暗闇でも目立つ色を見つけた。
「なんだろ?」
近づいて確かめてみると木苺のような赤い実が低木の茂みにたくさん実っていた。
「食べられるのかな、これ?ん~~なんか怖いな」
毒を警戒しつつ手に取って眺めたあと匂いを嗅ぐが、果物の特有の甘い匂いが、さらに空腹を刺激しただけだ。こみ上げる涎を飲み込みつつ目を凝らして茂みの周囲を観察すと、この赤い実を野生動物が食べたあとを見つける。この森に生息する野生の動物がこの赤い実を食べているのならば、これの安全性は確かなものだろう。この実の毒に対する耐性を身に付けたうえ食べてるとかだったら、何かしら起こるかもしれないけど……まぁ、いっか。
そう結論付け、いくつかの実を摘む。
「いっただきま~す!」
命の恵みに感謝しつつ、洗った木の実を口に運ぶ。
「あっま~~い!」
久しぶりの食べ物を口にいれ唾液腺が急に開いたせいか、口の中に痛みが走る。が
そんなの気にしてはいられない。あっという間に十個食べ終え、ごちそうさまと手を合わせた。
「あぁ、食べた。本当はもう少し食べたいけど、毒とかあったら嫌だしね。―――まぁ、煮沸もせず生水飲んだ人間の心配することじゃないけど」
今更ながらに心配になってきた。生水と木の実が収まってしまったお腹を見下ろす。今の所、何の変化も見られない。
「まっ、いまさらだけどね~~」
不安を拭うように出した明るい声が虚しく空気を震わせた。
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拙い作品ですが、どうぞこれからもよろしくお願いします。