1.始まりは森の中
序盤の序盤、魔王と会うのはまだまだ先です。
R15と残酷表現は保険です。誤字・脱字を発見された際はご報告ください。
人の手が入っていないのか、鬱蒼と茂る木々とその間から微かに漏れる日の光。
目が覚めたら森の中だった。―――うん、良くわからない。
客観的に見ても主観的に見ても理解できない、いや、したくない状況である。自宅の自室の布団の中で眠りについたはずが目が覚めてみれば知らない場所。目が覚めて時もわからなかった。正直、今もまだわかっていない。しかし、まぁ、こんな状況でもパニックを起こしたり、悲鳴を上げなかった数分前の自分を褒めてあげたい。単純に自分の身に降り掛かった出来事が、脳みその処理速度を上回っているだけかもしれないが・・・。半ば、現実逃避のように思考だけがよく回っていた。しかし、このまま現実逃避させてくれるほど、この世界は私に甘くはなかった。
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遠くはない場所から風に乗って獣の鳴き声が現実逃避していた私の耳に届いた。その声に私は体を竦ませる。確認のため声の聞こえてきた方向に耳を澄ませた。
・・・気のせいかもしれないが、声の主がだんだんこちらに近づいて来ている気がする。近づいてくる気配と共に嫌な考えが自分の中からどんどん湧いてきてしまう。
―――肉食?草食?
―――もし肉食だったらどうする?
―――お腹をすかせて獲物を探してる肉食だったら?
こちとら様々な技術と引き換えに牙を売り払った現代人である。着の身着のままの状態で、野生の肉食獣と出会って生き残れる自信はない。かといって現在地は右も左もわからない森の中。不用意に動き回れば迷子街道一直線だ。そもそもここがどこで、何でこんな所にいるのかがわからない以上、無駄に移動しないほうがいい。
迷う私を他所にゆっくりと、だがしかし確実にこちら近づいてくる獣の気配。迫りくる恐怖は感覚を鋭敏にする。まだ獣とは距離があるにもかかわらず、草を踏みしめる音、浅い息遣い、獣特有の生臭い息の匂いまで身近に感じられる。
どうしよう、ドウシヨウ!
こわい、怖い、コワイ!
動かなければいけない。逃げなければいけない。でも凍りついたように体が動かないのだ。目覚めた時以上の混乱と恐怖が私の体を支配していた。
その時、近づいてくる声とは別の所―――私の後ろ、近づいてくる存在よりも、もっと近い場所から、かすかな物音が聞こえた気がした。こわばった体で確認のため、恐る恐るそちらを振り向く。
目に入ってきたのは先程聞こえた物音などなかったかのように静かに佇む草と木々だけ。
でも、確かに感じる。
こちらを見つめる視線を。
ソレを自覚した瞬間、体を駆け巡ったのは明確な恐怖だった。自分の人生が強制終了させられるかもしれない凄まじい程の恐怖。
本能が恐怖と混乱を打ち破り、金縛りになっていた体が動き出す。
悩んでいたのも忘れて私は駆け出した。一刻も早く命の危機から遠ざかるために。
ご覧下さってありがとうございます。
つたない作品ですがよろしくお願いします。
5/18 細かい部分を変更。
少しでも気に入っていただけたら感想、評価等よろしくお願いします。
10/14 またまた修正