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運命は変えるもの  作者: ひろぽんすけ
旅立つ者
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抵抗

「…人間がハーフエルフを庇うとはな。世間からは隔離された里と言うわけか…中々、興味深い」


男は突き刺した剣を首から抜き取る。

血で染まった剣をマントで拭き、鞘に納めた。



…あれは?…俺か!?



俺の体はフード男の斜め上空から見下ろす形で浮いていた…体は半透明になっている。

おいおい…どうなっているんだ?



もどかしく男達を見つめていると、枯れ木をへし折った音が森の中に響く…セラを拘束していた男が呻き声をあげてうずくまった。

男の腕は逆方向に折れ曲がっていた。


セラ

「……許さないっ!」


涙を浮かべながら、うずくまった男の顔をセラは蹴りあげた…イヤな音を立てながら、男の首は胴を離れて、茂みの中へと飛んでいく。


セラは獣のように男達に襲いかかり…1人また1人と薙ぎ倒していった。

男達は皮鎧を装備していたが、セラの拳は鎧ごと叩き潰す程の威力があった。

ある者は腕を引き千切られ…また、ある者は手刀で鎧ごと胸を貫かれ絶命する。


フード姿の男達の人数は、瞬く間に少なくなっていった。


…俺が死んだ事による怒りで、モニカが言っていたハイエルフとしての力が解放されたのか?


…俺は凄惨な光景を目にしていた。

戦意を喪失し逃げ回る男達を、セラは一方的に虐殺している…あのセラが…


「…その力…人間のそれではないな。亜人間でもなさそうだ…お前は一体?」


残ったフード男達は、我先にと逃げ回っていたが…俺を殺した男は、再び鞘から剣を抜くとセラに向き合った。


セラ

「…お前がっ!お前がぁーーっ!」


返り血で服が真っ赤に染まったセラは、俺を殺した男に向かって叫び、人間とは思えない速度で飛びかかった。


男は剣を正面に構え、飛びかかるセラを迎え撃とうとしたが、まるで朽ち果てた枝のように、男の剣はセラによって、へし折られてしまった。


「…クロム鋼の剣を容易く折るとは」


剣が折れる瞬間、男は身をよじり皮一枚で攻撃を避けていた。

セラは制御出来ない自身の速度を抑える事が出来ずに、森の大木にぶつかる。

太さが俺の身長ぐらいある大木は、セラの体当たりを受けて、根元から倒れてしまった。


…なんつー力だ。


深呼吸した男は、素手でセラを迎え撃とうと構えた。


…何を考えているんだ?あの力に対して素手でやりあおってのか?


セラは男を睨みつけると、先程のように襲いかかる。

男は飛びかかるセラと交差する瞬間に掌底を放つ…

男の掌はセラの顎を捕らえて撃ち抜いた。


セラ

「……くっ?」


膝から崩れ落ちると、セラは仰向けになって倒れた。


「脳を揺さぶれて立てる物はいない…そして、これで完全に貴様は動けなくなる」


男は倒れたセラに近づきながら何かを唱え始める。


「…我の呼びかけに答えよ…闇の者達よ…かの者を闇の鎖につながん」


掌から赤い文字が現れ、槍のような形になる。



何だ…あれは…?



「ブラックスクリーム!」


槍の形になった文字は仰向けに倒れていたセラの胸に突き刺さった…赤い光が鎖の形に変化しセラの身体を縛りあげる。


セラ

「…何?…身体が…動かない!」


赤い鎖が張り付いたセラは動けなくなった。


「どんなに足掻こうとしても無駄だ…捕縛の呪文を使った。…ん?…これは!?」


男は動けないセラの顔を見て、笑いながら話した。


「たしかにパウエル石では反応しないはずだ。こいつはハイエルフだ!ハッハッハ!」


「ハイエルフ?…あのハイエルフですか?」


逃げ回っていたフードの男達も、完全に動けなくなったセラを見て、落ち着ついた。


「こいつの目を見てみろ…先程は茶色だった瞳が、今は青くなっている。ハイエルフの特徴の一つだ。もっとも完全に覚醒してはいないようだがな…でなければ捕縛の呪文など効かん」


…まずい!


セラがハイエルフだとバレたうえに動けなくなった。そして俺は生き返っていない…これでは…


「ハイエルフなら尚更使いたくなかったが…本隊をこれ以上待たせるわけにはいかん。薬を使うとしよう」


仰向けになったセラの二の腕に何かを注射する。


セラ

「な…に…すんのよ………あ……」


「分量を誤ると中毒になってしまうが…心配しなくていい。直に何もかもどうでもよくなってくる…さぁ、君の里の場所を教えて貰おうか」


セラ

「誰が…言う…ものです…か」


眠たそうな目をしたセラは、必死に薬の効果に抵抗しているようであった…男は、さらに薬をセラに打ち込んでいく。

男はセラの顔を撫でながら身体中を愛撫し始めた。



…この野郎!ふざけた事やってんじゃねぇ!



俺は半透明のまま男に殴りかかった……だが、俺の拳は男の体を、すり抜けてしまった。


セラは顔が真っ赤になり呼吸が荒くなっている 。


「どうだね?君の里を教えてくれるだけで、もっと気持ち良い薬をあげよう…教えてくれるかな?」


セラには、もはや抵抗出来るだけの意識は無かった…男の問いに頷くと里への行き先を教え始めてしまった。


…親父達が!まずいぞ!



フードの男達が馬に乗り、俺の視界から居なくなってしまったのと同時に、俺の意識は死んでしまった俺の体に吸い込まれていった。

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