終わりの始まり
いくら俺でも…行商人と偽る怪しい奴等を村に案内するほど能天気ではない。
違う道を案内する俺に、セラは首をかしげながら近寄ってきた。
俺はセラに小声で話す。
エイト
「…こいつらは行商人じゃない…予定では明後日、来るはずなんだ…こんな奴等を村に入れたら親父達が危ねぇ」
驚いた顔をしたセラだったが事態は把握したようだ…俺の顔を見て頷く。
身分を偽る事をするんだ…ろくな奴等ではないだろう。
まぁ、盗賊といったところか…俺が案内するフリをしてセラを村に帰したいが…そう上手くいくだろうか?
「君…ちょっといいかな?」
フード軍団の先頭の男は、しびれをきらして違う道を案内していた俺に質問してきた。
…流石にバレたか?
エイト
「あの小道を右に曲がった所が村の入り口です。僕らは川で仕事があるので……これで失礼します」
セラの腕をつかんで来た道を戻ろうとした時、先頭の男に掴まれた。
「それはおかしい。あの道はさっき我々が通った道だ…君は何故ウソをつくのかね?」
男は馬にまたがりながら腰に差した剣を抜く
まずった……コッチから来たのか。
質問に黙っていると、男は俺の右肩を剣でつき刺してきた…俺は痛みに耐えかね、傷口を抑え込みながらしゃがみこむ。
セラ
「エイト!?…アンタ!何すんのよ!」
「仕方がないだろう?我々に対して嘘をつくからそうなる。だが、泣き叫けぶ事をしないのは好感が持てるよ…私は見苦しいのは嫌いでね」
激痛に襲われ額からは汗が滲んできた…服の右肩は傷口からの血で真っ赤に染まっている。
ゆっくりと馬から降りた男は、俺を庇おうとするセラを蹴り飛ばした。
エイト
「セラ!…くっ!うおぉぉー!!」
蹴り飛ばされたセラを見て、俺は肩の痛みを忘れて殴りかかっていく…
俺の拳をいなしながら、男は舞うように俺の左足を斬ってきた。
無様に転がる俺に対して、男は剣についた血をマントで拭いながら話してくる。
「気持ちは分かるが、蛮勇と言わざるを得ないな…剣を持った相手に丸腰で殴りかかってはいけないな」
セラ
「エイト!しっかりして!」
セラは倒れた俺を支えてくれた。
そして斬りつけた男をキッと睨む。
「村の場所を教えてくれたら、これ以上、痛めつけるのを止めてあげよう…悪くない取引だと思うが?」
剣を眺めながら男は余裕を持って話した。
エイト
「……本当は左の道だ」
男は左の小道を見る…いまだ!俺は太ももの痛みを忘れて男に向かって走り、胴を抱え込んだ。
エイト
「いまだー!セラーー!逃げろーー!」
ありったけの声を出して叫び、渾身の力を込めて男を押さえ込もうとしたが…男は俺の体当たりから踏みとどまると、髪を掴んで気を失いそうな膝蹴りを、腹にたたき込んできた。
胃液が逆流しそうな感覚に俺は膝をついて崩れ落ちる…
崩れ落ちた横目で見たのは、男に叫びながら立ち向かうセラの姿だった。
鋭く踏み込んで右上段回し蹴りを男の顎に向かって放つ…「組手」でセラが好んで使う技だ。
男は回し蹴りを潜り込んで避けると、剣の柄でセラの脇腹を強打する。
苦しそうな顔をして屈むセラの頸椎を、男は手刀で打ち倒した。
「…なかなか鋭い蹴りだ。基本は出来ているようだが…まだまだ子供の技だな」
エイト
「セラ…ばかやろう……なんで逃げなかったんだ…」
セラ
「アナタを…置いて逃げたりするわけないじゃない…私達は家族でしょ…?」
うつ伏せに倒れながらセラは俺に話す。
馬鹿野郎…お前がやられたら何も意味ないじゃないか…俺は、お前が無事なら…
「こちらも取引先から催促されていてね…里を襲ってハーフエルフを捕らえれば賞金が貰えるのだよ」
ハーフエルフ?一体何をいっているんだ。
「……こいつと女は人間ですぜ。パウエル石が反応してません。本当にハーフエルフの里なんでしょうかね?」
男の後方にいたフードの男が問いかける。
コイツら…賞金稼ぎだったのか。
…俺達の村がハーフエルフの里だって?
「奴が死ぬ寸前で喋ったのは、この場所だった。君達も彼を誇りに思っていい…私の記憶では拷問にあれだけ耐えた者はいない…なかなか骨が折れたよ」
エイト
「……てめぇら何か勘違いしてねぇか?俺達の村には人間しかいねぇよ!…ぐぁっ!」
男は膝をついて叫ぶ俺の顔面を蹴り飛ばし、剣で右肩を再度えぐってきた。
エイト
「ぐあぁーーー!!ちきしょー!!」
肩口から血が吹き出し、気が狂いそうな痛みを耐えている俺に、男は優しく話しかける。
「ハーフエルフは人間と見た目が変わらん…エルフと人間の子供は……たいがいダークエルフになる。ごく稀だが、ハーフエルフとして生を受けるものもいる。だからヤツらは希少価値が高いのだよ」
そう言うと俺の右手を足で押さえつけ、剣で掌を突き刺した。
俺の叫び声が森に響く…
セラ
「もうやめてーー!お願いよー!」
セラの叫びも虚しく、男は掌を刺した剣をひねり、傷口を広げ始めた。
凄まじい痛みに、俺は悲痛な叫び声をあげる。
激しい出血と痛みに目の前がボヤけてきた…
エイト
「セ…セラを…離せ。喋る…奴は…1人で足りる…だろう?」
男は困った顔をする。
「あの女は人間だが高く売れる…そこいらの女より上等だ。私が「調教」した後で、娼婦として売りに出してあげよう…何も心配しなくていい」
エイト
「ぐっ!……ち…くしょう!クソッタレ…野郎!くたばりやが…れ!」
男の顔に向かって血が混じった唾を飛ばす…男は鋭い目付きで見下ろしながら、俺の掌から剣を抜いて構えた。
「なかなか骨のある子供だ…殺すには惜しい。だが、我々も時間がない。続きは彼女から聞くとしようか」
剣が俺の喉元に突き刺さった。
血が噴水のように飛び出して目の前に飛び散る。
セラの叫び声がする…俺は自分が死んでいくのを実感していた。
目の前が暗くなり…俺の意識は無くなった。