フード軍団
どうにか、村の皆に見つからずにココまでこれたな。
村の南側には「ネイル川」と呼ばれる、大きな川が流れている。
何でも、森の外にある街まで続いているらしい…
ネイルというのはトール教の3大神である豊穣を司る・海神ネイルの名だ。
村の作物は、この川から水路を引いて育てているため、豊穣の神と言われている「ネイル」の名が使われているのだろう。
そんな有難い川も、俺にとっては絶好の昼寝ポイントでしかない。
お気に入りのいつもの場所に、ゴロンと寝そべり目を閉じる。
うーん…最高だ!
こうして俺が自分の時間を満喫しているす間にも、セラは、額に汗をかきながら畑仕事に精を出しているのだろうか……
何も罪悪感は無い…俺の仕事は「俺なり」に完了した。仕事明けにダラダラして何が悪いのか?
自分勝手な理由で納得すると、俺はセラの事を考えながら眠りについた。
俺とセラは血がつながっていない…その話は親父から聞いた。
俺達の育ての親であるアレックス神父は、戦災孤児になってしまった幼い俺達を引き取ったとの事だ。
俺はその事に対して特別な感情を抱いてはいない。
本当の両親の事も聞かなかったし、別に興味もない。
ここまで俺達を育ててくれたアレックス神父を、本当の親と思っている…その気持ちはセラも一緒だろう。
その話を聞いてから、俺はセラの事を異性として意識し始めた。
…向こうはどう思っているのだろうか。
…アイツも俺の事を意識してたりとか?
ニヤニヤしながら目を開けると、寝そべっていた俺の横に人が立っているのが見えた。
エイト
「ぐはっ!」
体がコの字になるほどの痛みに俺は悶絶する…
それは寝ていた俺に幼なじみが放った肘鉄だった。
セラ
「アンタって奴は!いいかげんな仕事をしてサボるなんて、許されると思ってんの!?」
エイト
「ま…待て…誤解だ!俺は、たしかに役場の壁を修理したんだ!」
適当にならした役場の土壁が崩れたのだろうか?
セラ
「ほー…じゃあ何故、修理した壁がボロボロと剥がれ落ちるのかしら?…ちゃんと修理したのなら、落ちないハズよねぇ~?」
エイト
「いや…それは…アレだ!泥土の質が良くなかったんだよ……はは」
笑いながらバキバキと指を鳴らしながら迫ってくる
…これは完全にキレてる状態だ。
こ…殺される!
エイト
「ま…まて…落ち着けセラ!……ギャーー!」
胸ぐらを捕まれ哀願する俺を黙殺し、セラは拳による連撃を放ってきた。
悶絶する俺を見下ろしながら、作業に戻る事を条件にセラは許してくれた。
…非道い…身体中がアザだらけだ。
セラ
「…次は無いと思いなさいよ!」
ガミガミと俺に怒鳴るセラをなだめながら、村に帰ろうとした時、俺達の前に馬にまたがった団体が現れた。
人数は10人程、全員フードを深くかぶり、顔は見えない…怪しい奴等だ。
「……そこの君達…君らはモウン村の者かね?」
団体を指揮してそうな感じの男が俺達に話かけてきた。
エイト
「…そうですが。アナタ達は?」
先頭の男は両手を広げ、安堵した声で話してくる。
「あぁ……よかった。我々は行商人でね。街から荷を運んできたのだが…慣れないもので道に迷ってしまったのだよ。村までの案内をしてくれると助かるのだが」
たしかに荷馬車が後方にある。
俺達の村は、深い森に囲まれていて村の関係者以外には見つけにくいかもしれない…だが、1つの疑問がよぎった。
エイト
「いつも来て下さる行商人さんとは違いますね…あの人はどうしたんですか?」
男は暫く沈黙する。
「あぁ…私が彼から、この村の取引を引き継いで来たのだよ。どうやら体調を崩したみたいでね」
引き継ぎ?……だが何か引っかかるな。
とりあえず道案内を承諾し、セラと先頭にたってフード軍団を案内する。
……後方にいた男達は、俺達を見ながらヒソヒソと何か話しをしている 。
やはり何かおかしい
……そういえば、役場の予定表では行商人は明後日来るんじゃなかったっけ?
早まったのか?…いや…試してみるか
エイト
「今日は予定通りの取引でいらしたんですよね?」
「…あぁ…そのつもりだが」
やっぱりコイツら…行商人じゃない。