トール教徒
………「ごはぁ!」
奇妙な叫びと共にベットから俺は転げ落ちた。
身体中がベットリと嫌な汗に濡れている。
やはり夢だったようだな……
しかし、妙にリアルな夢だったな。
夢なんてのは起きた時には忘れているものだ。
何故か鮮明に覚えているのも不思議と言えなくもないが…
俺はベッドに備えてあった布で汗を拭い、気分を変えようと窓を開けた。
…うーん!朝日が眩しい…今日はいい天気だ。
気持ちいい風が窓から流れ込んでくる。
絶好の昼寝日和と言うやつだな。
ここは俺の住んでいる「モウン」という人間族の村。
噂で聞く、亜人間達などの交流は無い、いたって平和で平凡な村だ。
村の四方は深い森に囲まれていて、北側には高い山があり、少し南に行くと大きな川がある。
村の人口は30人程度だが…それぞれの民家が個人の畑
を所有するほど敷地は広い。
そして俺が住んでいるのは村の北側にある教会の二階。
窓を開けて村全体を見渡せるのが気持ちいい。
…と頭の中で村の案内をしていると、ノックもなくガチャリと部屋の扉を開ける音がする。
「あれぇ?どうしたの?…めずらしいじゃん。アタシが起こす前に起きてるなんてさ」
……最低限の礼儀をわきまえずにズカズカと部屋に入ってきたコイツは、「セラ」と言う。
部屋は隣同士で、腐れ縁の幼なじみだ。
毎度のことだが、自分の部屋感覚で俺の部屋に入ってくるのは勘弁していただきたい。
俺にも見られたくない姿と言うものもある。
特に、朝起きて無意識に元気になってしまう困った息子が下半身にあるのだから…
セラ
「まったく…起きてるなら早く食堂に降りてきなさいよね。アンタの寝坊のおかけで御飯が冷めちゃったらどうすんのよ!」
「うるっせぇな…わーったよ。今から降りるって親父に言っとけって。あと…部屋の扉くらいノックしろって、いつも言ってるだろ!」
むくれた顔をしたセラは、言いたい事を吐き捨てると部屋の扉を乱暴に閉めて階段を降りていった。
俺も顔を洗うと一階へと降りていく。
食堂にはセラと親父のアレックス神父が席に座って俺を待っていた。
セラ
「なにグズグズしてんのよ!早く席につきなさいよね…まったくノロマなんだから~」
……もういい加減黙ってくれ。
俺はワザとだるそうに席に座ると、手を合わせて祈りの態勢になる。
アレックス
「大地神トールよ。か弱き我らに大地の恵みを与えてくださり感謝いたします。今日も偉大な神である、あなた様の為に我らは奉仕いたします」
セラと俺も親父の後に続き、大地神トールを讃える言葉を捧げた。
あーあ……正直なんとかならんもんかね。
この儀式…毎度毎度ウザったくてしょうがない。
トール教徒である俺だが、好きでなった訳ではない。
セラは熱心に祈ってるが…俺は毎度の事ながら口パクで誤魔化していた。
そんなこんなで…祈りも朝食も終わると今日の予定を親父から聞かされる。
アレックス
「さて、今日の奉仕だが…エイト。おまえは依頼があった役場の外壁修理をしなさい。セラはマグスおばさんの畑仕事の手伝いだ」
……トール教は他人の仕事を(無償)で手伝い、奉仕する事で神の代理として皆に祝福をするという考えを持っている。
俺は、まったくもって理解出来ないが
セラは素直に頷くと俺の方をチラリと見る。
明らかに嫌そうな顔をした俺に気付いたようだ。
セラ
「アンタ…まさかとは思うけどサボったりしないでしょうね?」
エイト
「は…はは。何言ってんだよ。んなこと考えるわけないじゃないか。なぁ?親父」
上ずった声で答えた俺に二人の視線が刺さる。
あからさまに顔に出してしまった事を、俺は激しく後悔した。