街
…野宿した場所から、ひたすら歩いた俺の目の前に広大な草原の景色が広がる。
やっとの事で森を抜けたようだ。
目を凝らして見ると遠くの方に建物らしき物が見えた…あれが行商人が言っていた街なのだろうか?
とはいえ、徒歩で歩くには気の遠くなりそうな距離だ…溜め息をついて歩きだそうとする俺の視界に、荷を積んだ馬車が偶然通りかかった。
向こうも俺に気づいたのだろうか、馬車に乗っている者が俺に向かって手を振っている。
…これはチャンスだ!
俺は迷わず馬車の方に走っていった。
「なんだ?小僧じゃないか…あんな所で何やってたんだ?あそこの森は気味悪がって誰も近づかねぇのに」
麦わら帽子を被った小太りの中年親父は、俺を見るやいなや首を傾げながら言ってきた。
…ここはそれらしい事を言っておくか
エイト
「いや~助かった!俺はこうみえても冒険者でね。依頼を受けて、この森を調べに来ていたんだ。見たところ街に向かうつもりらしいけど…もし迷惑じゃなかったら荷台に乗っけてもらえると助かるんだが…駄目かな?」
「へぇ~オマエみたいな小僧が冒険者たぁビックリだわ。まあ、悪そうな奴に見えねえし…乗ってきな」
…我ながら見事な嘘だ。誰から依頼を受けたなんて質問されたらアウトだったけど。
俺は馬車の荷台に飛び乗った。
荷台には果実やら酒等が敷き詰められている。
「まぁ…無駄骨だったろ?あの森は地元の人間じゃあ、まず近寄らない魔の森って言われているからな。入っても森の入口に戻される不思議な森だよ」
親父さんは口に煙草をくわえて、笑いながら話してきた。
…入り口に戻される?何の事だろうか
「何でもエルフ達が結界を張ってるんじゃないかと噂されてるのに行くなんて、オマエさんも命知らずだねぇ~。命知らずだから冒険者をやってるってか?」
…結界…そうか!村のハーフエルフが余所者を入れない為に結界を森にかけていたんだな。
とすると…いつもくる馴染みの行商人は、どうやって
村に来ていたのだろう。
興味がない親父さんの他愛も無い話を聞いていたら、いつの間にか街の城壁にたどり着いた。
城壁は見上げるほど高く、見張り台も所々に設置してあり、街の兵士と思われる武装した人間が辺りを見回している。
「隣街からの取引だ。これが書状…はいよ」
街の入り口にいた兵士に親父さんは書状を渡した。
兵士は俺をチラリと見たが俺が会釈をすると書状に目を通し始めた。
「確かにギルドの刻印が刻まれてある…許可します」
街の入口の兵士が見張り台に合図をすると、分厚い門が重く開いた。
「最近は物騒なんで冒険者だと兵士にアレコレ聞かれて街に入るのも一苦労なんだぜ?まあ、俺に感謝しろよ」
おいおい…オッサンよ。
得意げに自慢しているが、見ず知らずの俺を街に入れているのは他ならぬ自分だと言う事を忘れてないか?
何かとやかましいオッサンとは適当に相づちをして別れた。
…しっかし街とは、こんなに賑やかなものなのか
中央通りと思われる幅広な道には幾つもの店が並び、店の中の人間が大声で街行く人を客引きをしている。この賑やかな道は緩い上り坂になっていて、道の頂上付近には立派な屋敷が立っていた。
…中央通りには人の往来が激しい。
中には羽を生やした人間?みたいなのもいるし、獣みたいな人間もいる。
あれが亜人間と言われる奴等だろうか…?
少し街を探索してみようかと思った俺の耳に、怒号が聞こえてきた。
「この野郎!使用人の分際で、俺の持ち物を地面に落とすたぁーどういう事だ!えぇ?」
いかにも面が悪党の禿頭がダークエルフと思わしき少女を蹴っ飛ばしている。
「も…申し訳ありません!つい…」
土下座をして謝っている少女の後頭部を踏みつけてハゲは怒鳴り散らした。
「ついウッカリで俺の大事な鎧に傷がついたらどうすんだ糞アマが!奴隷の分際で主人の物に傷をつけるとどうなるか分かってんだろうなぁ!?」
ハゲはそう言い捨てると、少女の頭を足で押さえつけながら唾を吐き捨てた。
…俺の中で怒りがわいてきた。
いくらなんでもやり過ぎだ…そう思った時には俺は見物していた群衆を掻き分けてハゲの前に踊り出ていた。
エイト
「おい!ハゲ!そこまでにしとけよ」
ハゲは少女を蹴るのを止めて、踊り出た俺に振り向いた。見物客も俺の周りからいなくなる。
…俺とハゲの舞台は整ったようだ