旅立ち
「…聖騎士と同じ不死の力を持っているのかと思ったが…死んでいるな」
あのダークエルフは死んだ俺の体を調べていた。
俺は半透明な体の状態で、上空からその様子を見ていた。
「ハーフエルフ達を牢にいれて城に向かうぞ!セラ…お前は私と一緒に来るんだ」
セラは頷くとダークエルフが乗った馬に乗る。
ダークエルフの部下達は村人達を荷馬車の牢に次々と乗せていく
「魅了の呪文の効果が消えるまでに封印の儀式を施させねばならん。さあ…急ぐぞ」
ダークエルフ達は馬に鞭をいれ、村から出て行った。
後に残されたのは俺の死体と瓦礫と化した役場の残骸だった。
俺は前回と同じく半透明の体を自分の死体と重ねて生き返った…ただ、前と違うのは俺の右手にはモニカから貰った「耳飾り」が握りしめられていた事だ。
…誰もいない村を眺めながら、俺はふと呟く
エイト
「村が…こんなに広く感じた事は無かったな」
…俺は、幼なじみも育ての親も全てを失ってしまった。そんな孤独感が村を広く感じさせたのだろうか?
そして俺は「やるべき事」を思い出し、教会へと歩き出した。
…教会についた俺は親父の遺体を外に運び出し、裏庭にある墓地へ葬った。
簡易的ではあるが、トール教のシンボルであるエンブレムを作り、親父の墓に立てた。
エイト
「親父…すまねぇ…今の俺じゃあ、セラを助ける事が出来なかったよ…でも、必ず助け出してみせるからな。安心して見ててくれ」
旅立つ為の荷造りをする俺の目の前に、親父が作ってくれた俺の机や、いつもセラと談笑していたリビングが目に映る。
耐えようのない悲しみに自然と涙が出てくる…俺は涙を拭くと急いで必要な物を革袋に入れて、逃げるように村を後にした。
息を切らしながらネイル川まで走ってきた俺は、川の下流に目をやった。
行商人の話しによると、ネイル川の下流の方角に街があるらしい…だが、どれくらいの距離があるのかは分からない。
… 途中で野宿する事になるかもしれない。
日も暮れかかっていたが、俺はひたすら川沿いを歩く事にした。
…どれくらい歩いたのだろうか?
すっかり夜になり、あたりは何も見えなくなった。
これ以上は進めそうに無かったので、道端に落ちている枯れ木を拾い、野宿する事に決めた。
自宅から持ち出したエクリル石を使い集めた枯れ木を燃やす。
パチパチと枯れ木が燃えるのを俺はジっとしゃがみながら見ていた。
あたりは枯れ木が燃える音と夜虫が鳴く音しか聞こえない…俺は揺らめく炎をみながら思い出していた。
エイト
「…何でこんな事になっちまったんだ」
ちょっと前までは、親父やセラと村で平凡な生活をしていた。
たしかに退屈を感じてはいたが、幸せな生活だった。
厳格だけど優しかった親父…口うるさいけど俺の事を、いつも気にかけていたセラ。
そして気のいい村の人達…
……セラ……親父。
俺が逃げるように村を出たのは、長居すればするほど幸せだった記憶が次々と浮かんできそうだったからだ。
枯れ木が燃えつきて辺りが闇になったが…俺は燃え尽きた枯れ木の煙をじっと見ていた。
「…ひとりか」
俺はフードを深く頭に被ると剣を抱いて横になった。