世界の続き
モニカ
「さてと…何か飲む?天界の水なんかどうかしら?」
モニカは空間からグラスを出して俺に渡してきた。
…こいつの甲冑と同じ位の豪華な装飾のグラスだ。
グラスの中には輝く液体が入っている。
どれどれ……お?これは旨い!
甘いような苦いような不思議な味だが、喉を通るとスカッとする感覚に俺は驚いた。
飲んだ事の無い飲み物だ…これが天界の水
モニカ
「どう?美味しいでしょ?懐かしいわね…マルクともこうして一緒に飲んだものだわ…彼は、いつも飲み終わった後に私を口説いてきたけど…フフ」
英雄が聞いて呆れる…やはり色ボケ騎士のようだな。
…そういえば気になる事があった。
マルクは聖剣スルトを持っていたと聞いたが、その剣はモニカが与えたものなのか?
モニカ
「いいえ違うわ。あの剣は私とは違う悪魔が授けたの…私が下界の人間に干渉出来るのは、生き返らせる事だけなのよ」
俺も貰おうと思っていたけど、駄目なわけね…
モニカ
「あの剣はエルフ達を倒した聖剣とされてるけど、実際は魔剣なの…持ち主の生命力を削って力を発揮するものだから。マルクも剣の使いすぎで、何回か命を落としてるわ…実際、ハイエルフと人間が戦おうとすれば、それぐらいしないと戦いにならないし」
…やっぱいらないわ。
自分の命を削ってまで使おうとは思わないからな。
モニカ
「話がそれたわね。えーと…崇拝する神が違ってたらだっけ?君が信仰しているのは大地神トールを創造神とするトール教でしょ?」
そうだ…まぁ、好きでなったわけじゃないけどな。
大地神トールを主神とする宗教だ。
他には…豊穣を司る・海神ネイルと死を司る天空神・ホルスだっけな。
モニカ
「…君の言う三大神は実際に私達、悪魔と天界で戦っていた神よ。人間達も君と同じく、最初は三大神を崇めていたわ。けど…彼らは勝手に自分達の都合のいい神を作って信仰し始めたの。それはユリ教と言われてるわ」
…都合のいい神を作っただって?
なんだってそんな事をするんだ。
モニカ
「…答えは簡単よ。権力者にとって都合のいい宗教を作れば国を統治するのが楽になるからね。トール教のように他人に無償で奉仕するなんて事は、人間の国に不要だったんでしょ」
む…そこだけは分かるような気がする。
しかし…よく三大神が黙っていたな。
モニカ
「大魔大戦の直前に作られた宗教だからじゃない?戦争が始まってからは、天界もそれどころではなかったし」
フン…お前達が人間に吹き込んだんだろう?
モニカ
「なかなか鋭いわね…わかっちゃった?人間達に新しい宗教を作らせたのは私達よ。簡単だったわ…神の使いと思わせれば、彼らは信じてしまうんですもの」
モニカが腕を上げると漆黒の甲冑が白銀の甲冑に変わり、髪は黒髪から金髪へ、瞳も金色から青色に変わっていった。
成る程ね…その姿なら悪魔とは思わないか
モニカ
「人間達は中身ではなく、見た目で判断するでしょう?私達みたいに魂で判断出来ないものだから…あとは簡単だったわ。私達の都合がいいように作った宗教を吹き込むだけだから」
…1つ聞きたい。
ダークエルフ達に魔硝石の使い方を教えたのはオマエ達、悪魔の仕業なのか?
モニカ
「…さあ?少なくとも私では無いわ。ダークエルフ達が自分達で気づいたのかもね」
……嘘だな。少なくともダークエルフ達が魔硝石の使い方を人間達に教えなければ大魔大戦は起こらなかったろう。
人間達がエルフと交配し、ハーフエルフを産み出させたのも悪魔達の導きだろう。
…全ては大魔大戦を引き起こさせる為だけに
モニカ
「フフ…正解よ。君はマルクとは違うようね。神の管理不足もあるけど、私達が下界を混沌に導いたわ」
俺は下界を混沌に導いた奴に助けられたのか…
だが、セラを助けだすには、お前の力無しでは出来ない…俺を使って何かを企んでいるとしてもだ。
モニカ
「…君を選定して良かったと心から思うわ。互いに利害が一致してるもの同士、仲良くやっていきたいものね」
悪魔の力を借りて、捕らわれのハイエルフを助け出す…か。英雄伝にはなりそうもない話だな。
モニカ
「そうかしら…後生に伝わる物語は大抵美化されているものよ。事が終われば君は英雄になっているかもね」
最後に1つ…人間達に敗北したエルフ達はどうなったんだ?
モニカ
「君達の大陸の北側…深い森と高い山脈に囲まれたスー地方にいるわ。いまだ人間達とは敵対関係を続けてるようね。種を増やそうとエルフ同士の交配が義務付けられているわ。個体数が充分増えた時に…あとはわかるわね?」
…戦争か。
それまでにはセラを助けださないとな。
よし!…まずは里から近い街に行く。
何をするにしても情報を集めなくてはな。
モニカ
「ちょっと待って…この耳飾りをあげる。これは私と交信ができる魔具よ。寝る前に付けて寝れば、私の空間につながるわ」
……?
お前が干渉するのは生き返る力だけじゃないのか?
モニカ
「君はマルクより(私の役)に立ってくれそうだからよ。何か相談したいなら使いなさい。暇つぶしに使っちゃいやよ?」
…わかった。じゃあ生き返らせてくれるか。
モニカは腕から黒い霧を出して俺を包み込んだ。
…親父との約束は必ず守ってみせる。