死のじゃんけん
目の前には黒い扉がある。
向こう側には俺とじゃんけんをする相手がいる。お互い、『じゃんけんぽん』という掛け声で扉が上に開かれ、持っている武器で勝敗が決まる。
グーが鉄球、チョキが巨大ハサミ、パーが毒が染み込んだ布きれ。
負ければ鉄球で殴り殺されるか、巨大ハサミで刺し殺されるか、毒が染み込んだ布きれを被され毒殺される。
あいこなら二人とも死ぬ……。
相手も人間。俺も人間。
これほど何を出すか迷うじゃんけんは他にないだろう……。
じゃんけんというゲームは心理戦。
普通に考えれば布きれを顔に被せるのがまだ気が楽だろう……。
ではパーか?
いや、相手も同じ事を考えているなら俺はチョキか?
刺し殺したくない。 血は見たくない。 でも死にたくない……。
相手がパーを出すとは限らない。
俺がパーを出すと読んで相手がチョキなら、俺はグーか?
殴り殺したくない。
でも死にたくない……。
こんな恐怖感と緊張感が混ざり合ったじゃんけんは嫌だ。
究極の三択だ。
何を出せばいいのか分からなくなった。
よしっ、パーだっ!
これでいこう。余計な事は考えるな。
俺は目を閉じて震える手で布きれを持った。
「じゃんけんぽん」
扉が開く音がした。
俺はまだ目を開けていない。
「ん? 妙に静かだ……勝ったのか?」
目の前には黒い扉がある。
向こう側には、私とじゃんけんをする相手がいる。お互い、『じゃんけんぽん』という掛け声で扉が上に開かれ、持っている武器で勝敗が決まる。
グーが鉄球、チョキが巨大ハサミ、パーが毒を染み込ませた布切れ。
負ければ鉄球で殴り殺されるか、巨大ハサミで刺し殺されるか、毒が染み込んだ布切れを被され、毒殺される。
あいこなら二人とも死ぬ……。
普通に考えれば、これほど何を出すか迷うじゃんけんは他にないだろう。布切れを顔に被せる方が、まだいいだろう……と相手は思っているはずだ。
死にたくない、血はみたくないと悩みながら、恐怖感と緊張感が混ざり合った心境で、何を出すのか考え込んでいるのだろう……。
人間は独りになると、とても弱い生き物になっていく。
集団になると、人間は人間ではなくなっていく。
結局は自分の事しか考えていないのだ。
こういう状況なら、尚更だ。
自分の中で恐怖というものを勝手に作りだして怯えている。目の前には存在しないものを見て動こうともせず、もがき苦しんでいる。
実際、恐怖というのは存在しないのに……。
人間という生き物は本当に哀れだな。私が負ける、というより死ぬことはない。
私は何も持たずに扉の前に立った。
「じゃんけんぽん」
黒い扉が上に開いた。
相手は、やはり布切れを持って恐怖で目を閉じている。
哀れだな……。
私は静かに、そっと巨大ハサミを手に取った。
相手は人間……私は人間ではない……。
グサッ
完
普段、楽に何かを決める時によく使うじゃんけん。
こんな状況なら、あなたは何を出しますか?
私なら、『じゃんけんぽん』をずっと言わないでしょう。