第5話「海底都市」終わりなの。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第5話「海底都市」終わりなの。のお話です。
この回では、トラとラディアが、海底都市の発電所の復旧に強力します。
第5話「海底都市」終わりなの。
「じゃあ、ここに、君の鍵を差し込んでくれ。」
「判ったわ。」
ラディアは、ノアが示す差込口に、鍵を挿入し右に回しました。
すると、差込口の上部のランプが、緑色に点灯しました。
その上部には、電力供給状態を示す、パネルがありました。
向こうの発電所とこのコントロールベースのリンク状態も表示されています。
しばらくすると、そのリンクが確立された事を表示しました。
その後、バッテリーからの供給が終わった事も、確認出来ました。
「フゥー。やれやれ、やっと終わったな。ラディア、ご苦労様でした。」
「どういたしまして。それより、主電源の方は、どうなっているの?」
「これから、調べるところだよ。電源が供給されたので、やっと調べられる。」
そう言ってノアはパネルに、こちらの発電所の状態をパネルに表示しました。
現在の配線状況が、確認出来ました。
「ああ、駄目だ。モニターの一部が壊れてしまっている。」
パネルで確認すると、配線部分の一部が、表示されていませんでした。
「どうするの。」
「遠隔操作での補修は無理だな。直接、作業艇で修理に行かせよう。」
ノアは、発電管理室のマイクで、部下にその指示を与えました。
「これで、何とかなるだろう。」
「ねぇ、私もデス・クイーンで出動するわ。
作業艇は大きいし、武器は一切持っていないのよね。
もし、ガロンに狙われたら、大変よ。」
「昼間だから、そんなに危険は無いとは思うが...。
しかし、つい先日も、昼間に多くのガロンを目撃したと報告を受けている。
じゃあ、念のために行ってくれるか。」
「判ったわ。」
ラディアは、発電管理室を出て行こうとしました。
「待って。」ガーネの右肩に座っていたトラが言いました。
「あたしも、一緒に行くわ。お願い。連れてって。」
「危険な事になるかもしれないのよ。それでもいいの?」
「あなた1人だと無茶しかねないから、心配なの。」
ほんのつかの間、ラディアは、トラを見つめていました。
「じゃあ、行きましょう。」ラディアは微笑んで、うなずきました。
「なら、俺も行こうか?」ノアも言いました。
「駄目よ。あなたは、ここで、作業員に指示をしなければならないでしょ。
彼らを守るのは、私たちに任せて。」
ノアは、何か言おうとしましたが、結局ラディアの言うとおりにしました。
トラは、ガーネの右肩から降りました。そしてガーネの方に振り向きました。
「いいですよ。あなたが行きたいと思うなら、行ってください。」
ガーネはトラにそう言いました。トラとガーネは互いにうなずき合いました。
ラディアとトラは、デス・クイーンに向いました。
「彼女は、いつの間に君の猫とあんなに仲良くなったんだろうな。」
「あのラディアさんって人。性格がトラと似ているのかもしれません。
ノア。あなたはあの人とは、単に部族の長同士の間柄じゃ、無いんでしょ。」
「彼女は、俺の幼なじみなんだよ。
小さい頃、居住空間内では2つの部族が、一緒に暮らしていた時期があったんだ。
よく一緒に、遊んだものさ。まぁ、それはさておき。」
ノアは、ガーネの方に向き直った。
「ところで、君はどうする?」
「それなんですけどね...。」
ガーネは、苦笑して、話を続けました。
「部族ガルバの長ノア。あなたに、お願いがあるんです。」
デス・クイーンは、発進しました。
「ねぇ、ラディア。」「何。トラちゃん。」
「さっきのノアって言う人。ラディアとはどんな関係なの?」
ブッ、ラディアは飲んでいた、ジュースをを思わず吐いてしまいました。
「ど、どうしてそんな事を聞くの?」
「だって、ラディアの様子が、ただの部族の長同士には思えなかったの。」
ラディアは顔を赤らめました。
「あ、あの人はね。私の幼なじみなのよ。ただそれだけよ。」
「えっ、でも確か、ラディアとノアじゃ、住んでいる所が違うんでしょ。」
「私の小さい頃は、デルダもガルバも、一緒に住んでいた時があったの。
でも、海底都市での暮らしが安定するにつれて、小競り合いも多くなって来たわ。
前にも話したとおり、もともと仲がいい部族どうしでは無いのよ。
だから大事をとって、居住区を別々にしたってわけ。
それでも、役所で許可さえ下りれば、今でも違う居住区に住む事が出来るのよ。
コントロールベースのように、厳しくは無いわ。」
「フゥーン。それでノアを知っていたわけなのね。
それで、あの人の小さい頃って、どんなだったの?」
この質問をしたトラは、そのあとすごく後悔しました。
「えっ、ノアの小さい頃?実はあの人、ああ見えてもね...。」
ラディアの長い長い話が、始まったのでした。
「作業艇。現場に到着しました。」
発電管理室で、ノアは、その報告を受けました。
「発電所のモニター接続部分を分離して、作業艇のモニターに接続してくれ。
そして、その情報をこちらのパネルに表示出来るようにするんだ。」
「判りました。」
しばらくすると、作業終了の知らせが入りました。
ノアはパネルに、現在の発電所の情報を映し出しました。
その結果、配線の一部が、破損している事が判りました。
「これでは、直接作業員の手で、交換するしかないな。」
ノアは、その指示を作業艇に伝えました。
その後、デス・クイーンにも連絡を入れました。
ラディアは、顔を赤くして力説していた昔話を止めて、その連絡をとりました。
「あっ、ノア。今昔話をしているの。
ほらあなたが小さい頃、ジャングルジムから転げ落ちて...」
「そんな事は、どうでもいいから。」
ノアは、我を忘れそうになる自分を抑えて、話を続けました。
「今、作業艇から発電所の補修のため、作業員が向かった。
君の海中艇で、彼らを警護して欲しいんだ。」
「判ったわ。絶対ガロンに手出しをさせないから、安心して。」
デス・クイーンは、作業艇の前面に出て、警護にあたりました。
その後ろでは、作業員が作業艇から離れて、発電所に向かっていました。
ガロンが現れました。全部で10匹ほどの群れをなしていました。
「ついに現れたわね。ガロン。」ラディアはそう言いました。
「でも、ちょっとタイミングがよすぎね。」トラはそう批評しました。
「前にも言ったと思うけど、ガロンは私たちの仲間をたくさん食べたの。
多分、それで味をしめたんでしょうね。人間の匂いにはすごく敏感なのよ。」
ガロンたちが、迫ってきました。
「あいつら、何とかして、移動中の人間を食べようとしているわ。
先に先制攻撃をかけるわ。ドリルミサイル準備!」
ガロンたちが、デス・クイーンにまとまって迫って来ました。
「今だわ。ドリルミサイル発射!」
デス・クイーンから、ドリルミサイルが発射されました。
前面上部にある、2基の発射口から、同時に発射されました。
割と小さいミサイルで、1基の発射口から数発発射されました。
発射されたドリルミサイルは、拡散してガロンに向かって行きました。
1匹のガロンに数発のドリルミサイルが、ドリルで体内に入り込みました。
そして、爆発しました。「ボム!」
あっという間に、ガロン9匹が、海の藻屑と消えました。
しかし最後の1匹が、ドリルミサイルをかいくぐって、向かってきました。
「ラディア。どうするの?」
「大丈夫よ。この船自身の武器で、あいつを仕留めてやるわ。
ドリル開放!」
デス・クイーンの前面から、ドリルが現れました。
「ドリル回転!」
ドリルが、高速回転を開始しました。
そのままデス・クイーンは、ガロンにドリルを直撃しました。
ガロンは、ズタズタに引き裂かれ、海底に没しました。
「やったわ。」ラディアは狂気しました。
「すごいじゃない。」圧倒的な勝利に、トラもはしゃいでいました。
「あれが、ドリルミサイルですか。小さい割にはすごい威力ですね。」
ガーネはノアにそう言いました。
「あれが、戦闘部族と言われるデルダが造った、対ガロン用の切り札だよ。
個体は小さいが、上部にはドリルを装備し、下部には、起爆装置を内蔵している。
ドリルの力で、ガロンの頑丈な皮膚に穴を開けて、体内に入り込むんだ。
そして、中に入った瞬間、起爆装置が働いて、爆発すると言うわけだ。
実際には、ドリルの力も爆発力もそれほど大きくはないんだ。
それでもガロンには、十分すぎる力を持ったミサイルなんだよ。
おまけに、ミサイルの小型化も容易でね、量産も可能なんだ。
確かに、戦闘部族の名は伊達じゃないと思うね。いい物を作るよ。」
「でも、前面攻撃だけでは、死角が出来やすいんじゃありませんか。」
「デス・クイーンを見てごらん。前面、左右側面、後部面に発射口があるだろう。
それぞれ2基ずつで、合計8基の発射口があるんだ。
1回の発射で、1つの発射口から最大10発まで発射が可能なんだ。
同時発射すれば、最大80発が発射出来るわけだ。
しかも、発射されたドリルミサイルは、拡散して相手を迎え撃つんだ。
死角も、かなり少なくなると見ていいと思う。」
「でも1人では、扱いきれないでしょう?」
「最大で4人は乗れる事になっている。でも、実は1人で、十分なんだよ。
デス・クイーンには対ガロン用の索敵システムが組み込まれているんだ。
ある一定の範囲にガロンが侵入すれば、自動的に発射されるようになっている。
ラディアはね。自分で戦いたいから、あえて前面はフリーにしているんだよ。」
「デス・クイーンは、もう1つ武器を出しましたね。
向かって来たガロンに前面からドリルを回転させて、体当たりしてました。
ガロンは、バラバラになってしまいましたが、あれは相当な力なんでしょう?」
「あれも、作業艇で使用する掘削用のドリルに比べれば、はるかに弱いよ。
でも、対ガロン用としては見ての通り、十分すぎる力なわけさ。
それにデス・クイーンは、船としては小型だよね。
搭載しているエンジンは高性能なんだが、小型だからそれほど出力は出ない。
エネルギー量も大したことは無いんだ。
だから、こうした装備に仕上がっているのさ。
もちろん対ガロン用としては、申し分の無い海中艇である事は間違いない。
それに小回りが利くからね。ラディアはすごく気に入っているんだよ。」
数時間後、発電所の修理が完了したとの報告が、作業艇からありました。
「どれどれ。」ノアは、パネルに現在状況を表示してみました。
確かに、正常に稼働していました。
「やっと、終わったようだな。」ノアは、作業艇に指示を伝えました。
「ご苦労様。みんなに、作業艇に引き上げるように指示を出してくれ。」
「判りました。」
その後、デス・クイーンにも連絡を入れました。
船内は相変わらず、昔話で盛り上がっていました。
ラディアは、ノアからの連絡をとりました。
「ねぇねぇ、ノア。
あなたが布団に地図を書いちゃった時に、二人でなんとか隠し通したわよね。
あれって、あなたが何歳...」
「やかましいわ。」
ノアは、ゼイゼイと息を切らしました。
それでも、何とか気分を落ち着けたあと、話を続けました。
「さっき、発電所の補修作業が終了したんだ。発電所は稼働を開始したよ。
今、その発電所から作業艇に、作業員が戻ろうとしているんだ。
また君の海中艇で、彼らを警護して欲しい。」
「あら、もう終わったのね。判ったわ。私に任せて。」
デス・クイーンは、再び作業艇の前面に出て、警護にあたりました。
その後ろでは、作業員が発電所から離れて、作業艇に戻ろうとしていました。
ガロンがまた現れました。先ほどより大きな群れをなしていました。
今度は、20匹近い数で、こちらに接近してきました。
ノアは、そのうちの1匹に注目しました。
「まずいな。クロスが現れた。」
「クロスって、何ですか?」
「ガロンたちのリーダーだ。右の頬に、十字型の傷があるだろう。
だから、クロスと呼ばれているんだ。
とにかく頭が切れるんだ。仲間に集団行動を取らせる事も出来る。
あの、ラディアにしても、こいつには舐められている。
さっきのようなわけにはいかないぞ。」
ノアは、ラディアにもその事を伝えた。
「任せてよ。今度こそ、やっつけてやるわ。」
ラディアは、興奮していました。
「危険な事をしては駄目だ。
作業員に近づけないようにしてくれれば、それでいいんだ。」
ノアは、ラディアにそう忠告をしました。
ガロンたちが、迫ってきました。
ノアの忠告を無視して、ラディアは戦いに入りました。
「先に先制攻撃をかけるわ。ドリルミサイル準備!」
ガロンたちが、デス・クイーンにまとまって迫って来ました。
「今だわ。ドリルミサイル発射!」
デス・クイーンから、ドリルミサイルが発射されました。
前面上部にある、2基の発射口から、同時に発射されました。
しかし、次の瞬間、全てのガロンが、四方に散らばりました。
ドリルミサイルが命中して、絶命したものもいましたが、大半は無傷でした。
デス・クイーンは、ガロンの群れの中に、突進しました。
そして今度は、全部の発射口から、ドリルミサイルを発射しました。
群れの中を巧みに航行しながら、発射し続けました。
さすがに、広範囲に大量のドリルミサイルを発射した効果は、ありました。
次々と、ガロンが沈んで行きました。
最後に残ったのは、クロスだけでした。
クロスは、デス・クイーンに突進してきました。
ラディアは、ドリルを回転させて、クロスに直撃しようとしました。
ですが、何度やってもその度にかわされてしまいました。
「この船がいくら、小回りが利くといっても、クロスほどではないものね。」
ラディアは、ドリルミサイルも攻撃に加えました。
ですが、クロスは岩礁などの障害物を盾にして、かわしていました。
それでも、ついにラディアは、クロスを追いつめました。
ラディアは全速力で、クロスにドリルを直撃させようと、突進しました。
ですが、それはクロスの罠でした。
デス・クイーンがクロスに直撃する寸前、クロスは身を翻しました。
そして、真上へと逃げていきました。
その結果、デス・クイーンは目の前に現れた岩礁に、激突してしまいました。
デス・クイーンのドリルは、岩礁にがっちりと、くい込んでしまいました。
しかし、この争いの間に、全ての作業員は作業艇に戻る事が出来ました。
そして、作業艇は、海底都市ガルディへ戻って行ったのです。
デス・クイーンは、当初の目的を達成しました。
「あとは、デス・クイーンを回収するだけだな。」ノアは、そう思いました。
その時、ラディアから連絡が入りました。
「ねぇ、ノア。どうしてもドリルが岩礁から外れないの。
逆回転をしても駄目だったわ。どうしたらいい?」
「仕方がないさ。デス・クイーンのドリルは、対ガロン用なんだからな。
岩礁では、もう動けないんだよ。
こうなったら、ドリルは破棄してしまうんだ。
ガロンが追いかけてきたら、残ったドリルミサイルでけん制すればいいさ。」
「そうね。それしかないようね。」ラディアも納得しました。
ラディアは、デス・クイーンからドリルを外しました。
おかげで、デス・クイーンは岩礁から逃れる事が、出来ました。
その時、遠くから、クロスが近づいて来るのが見えました。
ラディアは、ドリルミサイルを発射しようとしました。
しかし、幾らトリガーを引いても、発射させる事は、出来ませんでした。
どうやら岩礁との衝突の際に、発射装置が故障してしまったようです。
ラディアは、発射操作に気を取られ、油断をしてしまいました。
そこを、クロスが猛襲をかけてきました。「バーン。」
デス・クイーンはクロスに体当たりされ、横転を繰り返しました。
ラディアは必死になって、何とか踏ん張り、体制を元に戻しました。
ですが、デス・クイーンはボロボロの状態になっていました。
再び、クロスが迫って来ました。今度直撃を受けたらおしまいです。
ノアは、その状況を固唾を飲んで、見守っていました。
「どうしたらいい。ガーネ」
ノアは、ガーネの方を振り向きました。
「ガーネ?」
もう、その部屋には、ガーネの姿はありませんでした。
クロスが、目の前に迫って来ました。
ラディアもトラも観念しました。でもクロスから目をそらす事はしませんでした。
そんな最中、不思議な事が起こりました。
今にもぶつからんばかりに迫っていたクロスが、いきなり方向転換をしたのです。
ラディアとトラは、とりあえず、ホッとしました。
それと同時に、何があったのかと、クロスの進む方向に目をやりました。
「!」
そこには、潜水服を着た人が1人いるだけでした。
ラディアは、拡声器を使って呼びかけました。
「ガロンが来るわ。早く、逃げて。」
その声に気がついたのか、その人はデス・クイーンの方に振り向きました。
そして、迫りくるクロスの方も見ました。
ですが、その人は、そこから動く事はありませんでした。
「一体、あの人は...」「ガーネだわ。」
「えっ。」「あたしには、はっきり判るの。あれはガーネだわ。」
「ごめんなさい。」ガーネはそう言いました。
「あなたたちは、昔から、ここを縄張りとして生きてきたんですよね。
そのあなたたちの縄張りを、私たちは土足で踏み荒らしました。
そして、自分たちの住みかとしました。
あなたたちからすれば、私たちは侵略者以外の何者でもありません。
あなたたちが制裁として、私たちの仲間を食べたのも無理からぬ事だと思います。
でもね。私たちは生きたかったのです。
この星の寿命は、もうじき終わるのかもしれません。
例え、そうだったとしても最後の最後まで生き延びたかったのです。
私は、そんな人たちを救いたいのです。生きようとする命を助けたいのです。
でも、私には、あなたほどの強さはありません。誰よりも弱い人間なのです。
だから、卑怯な手を使います。卑怯な手を使ってあなたと戦います。」
ガーネは、手に握りしめている物の安全ピンを抜きました。
そして、両手で握りしめ、迫りくるクロスの前へ差しだしました。
「その代りに、私はあなたの最後を見届けてあげます。
自分の命をかけて、あなたの最後を見届けてあげます。
それが、あなたに対する私の敬意の証しです。」
ガーネは、両手を開きました。
安全ピンを抜いた手榴弾は、ガーネの手を離れました。
海流の勢いに乗って、迫りくるクロスの口の中へ吸い込まれていきました。
クロスがガーネに噛みつこうとした瞬間、「ボム!」と音が聞こえました。
クロスは、棒立ちになり、狂ったようにのたまわっていました。
クロスは、最後の力を振り絞って、その頭でガーネを押しつぶそうとしました。
でも、それはかないませんでした。
クロスは、ガーネの目の前で、崩れるように深い海の底に沈んで行きました。
ガーネの目からは、一筋の涙が頬を伝って流れていました。
「さよなら。ガロン。」
ラディアとトラは、その光景をじっと見守っていました。
クロスが沈んで行った後、ガーネの背後から、女の人が幻のように現れました。
亜麻色の長い髪をした美しい女性でした。
その人は泳ぐようにして、ラディアたちの方に向かって行きました。
そして、すぐに消えてしまいました。
ラディアとトラは顔を見合わせました。
「一体、あれは何だったのかしら。」
居住空間に戻って来ました。
ガーネとトラは、その街の一角に、迷宮のドアを見つけました。
お別れの時が、来たのです。
ノアは別れの握手をしながら、ガーネに言いました。
「ガーネ。ラディアの命を助けてくれて有難う。」
「いえ、お二人こそ、私とトラを助けて頂き、本当に有難うございました。
また、今日まで、面倒を見て頂いた事を、心から感謝しております。
お二人とも、いつまでもお元気でいて下さい。」
ガーネも別れの挨拶をしました。
ラディアはトラを抱き上げて言いました。
「トラちゃん。もう会えないのね。どこに行っても、体だけは大切にね。」
ラディアは涙ぐんでいました。
「有難う。ラディアもお元気で。」
トラも悲しそうでした。
ラディアは、トラをガーネに手渡しました。
ガーネとトラは、再び二人にお礼を言った後、お辞儀をしました。
そして、迷宮のドアの中へと消えて行きました。
「行ってしまったな。」ノアは、寂しそうでした。
「ええ。」ラディアも同じ思いでした。
二人は、それぞれの屋敷に戻ろうと、歩き出しました。
ラディアは、疑問に思っていた事をノアに聞きました。
「ねぇ、ノア。あの時、何故ガーネさんは一人で海中にいたの?」
「ガーネはね。君たちが、デス・クイーンに向かった後に、俺に言ったんだよ。
「ガロンを倒せる武器を私に下さい。」とね。
理由を聞くと、彼はこう言ったんだ。
「私は、トラに、必ず守ると言いました。
でも今回、私はトラを助けてあげる事が出来ませんでした。
トラを助けてくれたのは、ラディアさんでした。
だから、今度は助けてあげたいのです。
私の命をかけて、ラディアさんとトラを救ってあげたいのです。」
俺はいつの間にか、彼を火薬庫に案内していたんだ。
彼は、そこにある武器の中から、手榴弾を選んだ。
そして、君たちに危険が及ぶと察した時、海中に潜って行ったんだ。」
「そうだったの。そのおかげで助かったのね。
トラが、あの人を好きな理由が、なんとなく判ったような気がするわ。」
「そうだな。」
しばらくして、突然、ノアは立ち止まりました。
「そうだ。ガーネに確認しなければならない事があったんだ。
今回の事故で、すっかり忘れていたよ。」
「今頃言っても、もうあの人たちは、戻っては来ないわよ。
それで、何を聞きそびれたの?」
「彼がここに来た時、俺が彼を街へ案内しようと思ったんだよ。
だけど、急な用事が出来てしまってね。
代わりにエスコートしてくれる人を頼んだ事があったんだよ。」
「フムフム。それでどうしたの?」
「彼の話によると、アムっていう女の人が来て案内したらしいんだよ。
本当に楽しい1日だったって、喜んでいたよ。」
「よかったじゃない。それがどうしたの?」
「ガーネが、言ったんだよ。
夕方に迎えに来て、また海中艇でディナーを楽しんだってね。」
「えっ、そんな筈はないわ。数年前なら、出来たかもしれないけれどね。
今はあなたも知っている通り、夕方以降の海中艇の乗り入れは禁止しているわ。」
「そうなんだよ。だからおかしいと思ってさ。
エスコートする人を紹介してくれた人に電話したんだよ。そうしたら。」
「そうしたら、どうだったの?」
「俺が、一旦は頼んだけれども、後でキャンセルしたってと言うんだよ。
だから、誰もこちらには、寄こしていないと言うんだ。」
「何なのよ。それ。」
「だから、判らないんだよ。
もちろん、俺はキャンセルなんてした覚えが無いんだ。
それに、もう1つ、判らない事がある。
実際に海中艇は、その時刻に動いていたんだよ。記録にあったそうだ。
だから何故、海中艇をその時間に動かしたのか、管理者に聞いてみたんだ。
そうしたら、俺自身が、許可を与えたからなんだそうだ。
もちろん、俺は、そんな事を許可した覚えなんて無いんだ。」
「そんな。じゃあ、そのアムって言う人の事は何か判ったの?」
「何も判らない。アムの事を知っているのは、ガーネだけなんだ。
後は、誰も知らない。」
「本当に、一体何があったのかしら。」
「ただ1つ、奇妙な事が判ったんだよ。」
「それは、何なの?」
「今から、数年前、夜に海中艇が、ガロンに襲われたんだ。
海中艇では、ディナーが催されていたらしいんだ。
その船にいたのは、男の人とその人をエスコートする女性だったそうだ。
両方とも、ガロンの餌食になってしまったらしい。」
「それ、知っているわ。
その事件がきっかけで、夜間の海中艇の乗り入れは禁止になったんでしょ。
で、それがどうしたの?」
「その時、被害に会った女性の名前が、アムだったんだよ。
亜麻色の長い髪をした美しい女性だったそうだ。」
「亜麻色の長い髪をした美しい女性...。」
ラディアは、さきほど海底で見た幻の女性の姿を思い浮かべていました。
「まさかね。」ラディアは自分がふと頭に浮かんだ事を否定しました。
「ねぇ、ノア。」ラディアはノアに言いました。
「なんだい。ラディア。」
「もう、この件を考えるのは、止めにしない?
ガーネたちは、帰ってしまったんだし、もう確認する事は出来ないわ。
それに、あなただって、何も覚えていないんでしょ。
それじゃあ、いくら考えても、答えは出る筈が無いわ。」
ノアは考え込んでいましたが、結局、ラディアの意見に賛成しました。
「そう、そうだね。君の言う通りだ。」
「ねぇ、もう夜になってしまったし、このまま屋敷に帰るのもつまらないわ。
たまには、一緒に食事をしない?おいしい焼肉屋が最近、出来たの。
連れて行ってあげるから、そこに食べに行かない?」
「そうだな。たまにはいいかもしれない。じゃあ、行くか。」
「ええ、そうしましょう。」
二人は、もうこの件で、話をするのは止めにしました。
他の話題に切り替え、楽しくお喋りしながら、街の方へ歩いて行きました。
ガーネとトラは、迷宮へ戻って来ました。
「今回は、お互いにいろいろ大変でしたね。
トラ。一匹っきりにしてしまって、ごめんなさい。」
「いいのよ。向こうで会う事が出来たし、こちらにも一緒に戻れたしね。
ラディアと知り合えたのも、よかったわ。
ガーネはどうだったの?
ガロンとの対決は、大変だったわね。」
「まぁ、あれもそうだったけど、他にも大変な事がありましたよ。」
「それは何なの?」
「マンホールの中を、街からコントロールベースまで、梯子で降りたんですよ。
しかも、非常灯のみの中でですよ。あれは、辛かった。」
「へぇ、そんな事もあったのね。それで、いい事は何も無かったの?」
「実は街の案内を、ノアの口利きで女性にエスコートしてもらったんです。
あれは今でも、よかったと思いますね。」
「フゥーン。そうなの。」つまらなさそうに、トラは言いました。
「ええ、亜麻色の長い髪をした美しい女性でした。」
トラは、その言葉を聞いて、さきほど海中で見た女の人を思いだしていました。
あのクロスを沈めたのは本当にガーネなのか、それとも...
トラは、考えるのを止めました。
今、自分に大切な事は、ガーネがそばにいてくれる事でした。
そして今、自分の目の前にいるのは、間違いなくいつものガーネでした。
だったら、もう何も考える必要はない。トラはそう思いました。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。トラ。」
「ええ、行きましょう。ガーネ。」
ガーネとトラは、再び、果てしなく続いている迷宮の道を歩き始めました。
第5話「海底都市」終わりなの。(終)
今回のお話は、第5話「海底都市」の最終話です。
前回後書きで述べた通り、本編は最初の8行で、終わっています。
後は、エピソードと言っていいと思います。
まぁ、暇があれば、エピソード部分ものぞいて見てくださいね。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




