第5話「海底都市」最初かな。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第5話「海底都市」最初かな。のお話です。
この回では、ガーネとトラは海底都市のある世界へ行きます。
ガーネは、その街並みを見学します。
第5話「海底都市」最初かな。
「ふーん。」
ガーネとトラは、あるものを見つめ、首をかしげていました。
それは、自分たちが歩いている道の、上空に浮かんでいました。
「あれは、迷宮のドアですよね。」「そうみたいね。」
ドアは、ガーネたちが歩いている、道の方を向いていました。
ガーネたちは、ドアの真下まで来ました。
その瞬間、自動ドアのように、ドアが開きました。
「あれは、何ですかね。」
「なんか、水が波打っているように、見えるわね。」
どれどれ、ガーネは、その水に触ってみようと、手を伸ばしました。
そして、その水に手が触れた途端、ガーネはその中に引きずり込まれました。
「ウワァー。」
ガーネの右肩に座っていたトラも、一緒に引きずり込まれてしまいました。
そこは、海中でした。
「ブクブクブク。」
ガーネの体は、海中でもがきながら、上へ上へと上昇していきました。
「プワァーッ。」ガーネは、海面に顔を出す事が出来ました。
「ゲホッ、ゲホッ。」口や鼻に入った海水で、むせていました。
少し、落ち着くとガーネは、自分の周囲を見回しました。
そこには、海面が広がるだけで、他には何もありませんでした。
ガーネは、一緒にいたトラの事を思い出しました。
「トラーッ!トラーッ!」ガーネは、大声でトラの名前を呼びました。
ですが、何の応答も返ってきませんでした。
周辺や、海中も探しました。
ですが、トラの姿は、どこにもありませんでした。
「生きていてくださいね。トラ。そしてまた会いましょう。」
ガーネは心の底から、そう願いました。
今のガーネには、気落ちしている暇はありませんでした。
何とか助かる方法は無いものかと、泳ぎ出しました。
どんなに泳いでも、陸地が見えませんでした。
ガーネは、ばててしまいました。
仰向けになって、浮かぶ事にしました。
良い天気でした。照りつける太陽がまぶしいです。
しばらく休憩を取った後、またガーネは泳ぎだしました。
ガーネの体力は、どんどん消耗していきました。
ガーネは、気が付きませんでした。
自分の背後に、大きな波が近づいていたのです。
「ザブーン。」
ガーネは、まともに波を受けてしまいました。
そして、そのまま海中に、沈んで行きました。
おぼろげな意識の中で、「ああ、私は、もう駄目です。」と思いました。
恐怖は、ありませんでした。不思議な安堵感さえ、感じていました。
ガーネは、気を失いました。
ガーネは、目を覚ました。
しばらくして、半身を起こしてみました。
ガーネは、自分の周りを見回しました。
そこは、病院のようでした。その白い部屋には、ベッドが1つありました。
そのベッドの上で、ガーネは寝ていたのでした。
「ここは、どこなんでしょう。」ガーネは、そう思いました。
そこへ、医者と看護婦と思われる人が、入ってきました。
「こんにちは。お加減は如何でしょうか?」
「あなたは、どなたでしょうか。」
「これは、すみません。紹介がまだでしたね。
私は、この海底都市の病院に勤務している医者です。
どうです。体の具合は?」
「えっ、ええと少し頭がボーっとしています。
でも他には、別にどこも悪くは無いようです。」
「それは、よかった。では、念のため、少し調べさせて頂けますか。」
「はい。お願いします。」
その後、ガーネは幾つか検査を受けました。
その結果、異常無しと認められました。
検査が終わると、ガーネは、その医者に尋ねました。
「一体、ここはどこなんでしょう。私はどうしたんでしょうか?」
「それについては...」
「それについては、俺が話すとしようか。」
そう言って入って来たのは、ガーネより年上だと思われる男性でした。
「あなたは?」
「俺の名はノア。この海底都市ガルディの北ブロックの長だ。」
「海底都市?ここは海底にあるんですか。」
「そうだ。
君は、海中に沈んでいくところを、俺の部下に救助されたのさ。
呼吸が停止していたそうだ。
もう少し、救助が遅ければ死んでいたらしい。」
「そうでしたか。」ガーネは、特に喜ぶでもなくそう言いました。
ちょっとの間、窓を眺めていました。
ふと気が付いたように微笑んで、ノアに話しかけました。
「命を助けて頂いて有難うございました。おかげで助かりました。」
ガーネは、ノアにお礼をいいました。
「ところで、聞きたいことがあるんだ。」
「はい?」
「まぁ、ここで話をするのも、なんだから別の場所に移動しよう。
もう、大丈夫なんだよね?」
ノアは、医者に確認しました。医者はうなずきました。
ノアは、ガーネに言いました。
「では、行こうか。」
ガーネは、うなずきました。
そこにいた医者と看護婦にお礼を言った後、病室を出て行きました。
病院を出ると、そこには青空が広がっていました。
そして、綺麗な街並みがありました。
「ノアさん。ここは海底都市の中ですよね。
それなのに、まるで外に出ているようじゃないですか。どうしてなんですか?」
それを聞くと、ノアはぎくっとして、急に立ち止まりました。
少し首をかしげていましたが、やがてこう話し出しました。
「この空は、ホログラフィーだよ。
街並みも、地上にあった時と同じように造られている。」
そう言いながら、ノアはこれまでとは違い、興味げにガーネを見つめました。
「やはり、君はここの人間では無いのだな。
もしそうなら、そんな質問をする筈が無いものな。」
そう言って、ノアは歩き出しました。
しばらく歩いていくと、やがて大きなお屋敷が見えてきました。
「ここは一体、誰のお屋敷なのでしょうか?」
「俺の家だよ。」
ノアは、事も無げにそう言いながら、歩いて行きました。
ガーネは病室で、ノアが北ブロックの長だと言ったことを思い出しました。
「ひょっとして、あなたがこのお屋敷のご主人なのですか?」
「まぁ、そう言う事だ。」
ノアは、玄関の呼び出しベルを鳴らしました。
「帰ったぞ。」ノアは叫びました。
やがて、お屋敷の中から、何人か人が出てきました。
その人たちは、通路の左右に並びました。
その中で執事と思われる人が、お辞儀をしてノアに声をかけました。
「お帰りなさいませ。御主人様。
ですが前にも言いました通り、お出かけの際は、お供をお連れください。
皆が心配しています。」
執事がそう言うと、ノアは頭をかいて言いました。
「そうか。それはすまなかったな。今後気をつけるとしよう。
ああ、それからこの人は俺の客だ。部屋を用意しておいてくれ。
くれぐれも粗相のないようにな。」
「判りました。」執事は、お辞儀をしながらそう言いました。
「では、えーと、名前は、なんだったけな?」
「あっ、申し訳ありません。私はガーネと言います。」
「そうか。ガーネか。ではガーネ。私の書斎に案内する。一緒に来てくれ。」
ノアはガーネを連れて、ノアの書斎に向いました。
書斎に入ると、ノアは椅子の1つを机の近くに置きました。
そして、ガーネに、そこに座るように促しました。
ノアは、机の窓際の椅子に腰を下ろしました。
「さて、いろいろと聞きたいことがあるのだが。」
「はい。何でしょうか。」
「君は、一体どこからきたのかな。」
「ええ、迷宮からです。」
「迷宮?」
「私は、迷宮の旅人なんです。」
この後、ガーネは自分の事や迷宮についてを、ノアに話始めました。
話が終わると、ノアは腕を組み、何かを考えていました。
しばらくして立ち上がると、本棚から一冊の本を取り出しました。
「ここにあるのは、歴代の王の記録、つまり日記帳だ。
実は今、俺が持っているこの日記帳にも、迷宮の旅人の事が書かれている。」
「えっ、その日記帳にもですか。」
「かなり、昔の話だがな。
君のように迷宮から来た人間が、やはり海中をさまよっていたらしいのだ。
彼女は2日ほど、城にいたらしいのが、いつの間にか消えてしまったそうだ。」
「彼女って言うと女の人って事ですよね。そうか、女の人もいるんですね。」
「君がいた迷宮には、女の人はいないのか?」
「というか、私が迷宮で会った事があるのは、私より年配の男の人と猫ですよ。
それ以外には、誰にも会った事がありません。
」
「そういうものなのか。では、つまらないだろう。」
「ええ。でも私には、いつも猫が一緒にいました。
だから、さみしくはありませんでした。」
「その相方の猫は、どうしたんだ。」
「この世界に来た時に、はぐれてしまい、行方不明になってしまいました。」
「そうか、それは心配だろうな。私の方でも、出来るだけ探してみてあげよう。」
「有難うございます。」
「君も、いずれは消えてしまうのだろう。
それまでは、ここにいるがいい。私が許可をしよう。」
「どうも、有難うございます。ではしばらくの間、ご厄介になります。」
ガーネは、ノアにお礼を言いました。
「確か、君は、まだお昼はまだ食べていなかったな。
どうだ、何か用意してもらうか?」
「いえ、まだ体が、少しおかしいようです。
夕方まで寝かせてもらえれば、有難いです。」
「判った。では執事にそう伝えておこう。」
その後、現れた執事に案内され、用意してもらった自分の部屋に行きました。
「迷宮のドアが現れるまでは、この城の住人となるわけですね。」
ガーネは、自分がこれからどうなるのか、全く判りませんでした。
それと同時に、トラの事も気になっていました。
「また会えますよね。トラ。」
ガーネは、ベッドに入り、眠る事にしました。
いつしか、深い眠りに入って行きました。
夜になりました。
ガーネは、既に起きていました。
体調は、だいぶ良くなっているようでした。
ガーネは、お風呂に入った後、ノアと食事を楽しみました。
部屋に戻ろうとした時、ノアは言いました。
「明日、俺がこの都市を案内するつもりだったんだけどな。
だが、急に用事が入ってしまってね。
申し訳ないが、俺の代わりにエスコートをしてくれる人を君に付けるよ。
その人と、街の観光を楽しんでほしいな。」
「有難うございます。お心づかい感謝します。」
ガーネは、そう言って部屋に戻りました。
「あっ。」ガーネは何か頭がふらふらするような感覚を覚えました。
ガーネは、思わずベッドに倒れてしまいました。
「いけません。海で溺れかかった時の後遺症が、まだあるみたいですね。」
ガーネは、明日の事も考え、そのまま眠る事にしました。
翌朝になり、気持ちのいい朝を迎えました。
ガーネは早くから起きていました。
多少まだ頭がふらふらしています。
ですが、昨日ほどでは無かったので、心配しませんでした。
ノアと食事をした後、今日1日エスコートしてくれる人を待っていました。
「トン、トン。」部屋をノックする音が聞こえました。
開けると、そこには、ガーネと同じぐらいの年齢の女の人が立っていました。
「お早うございます。
今日1日、エスコートさせて頂きますアムと言います。よろしくお願いします。」
その人は、そう言いました。亜麻色の長い髪の美しい女性でした。
ガーネは、出かける事にしました。
ガーネたちは、海底都市ガルディの街並みを、歩いていました。
「信じられませんね。この青空が偽物だなんて。
もし、何も聞かされていなければ、全然気が付きませんよ。」
ガーネは感嘆して言いました。
「ガーネ様。有難うございます。
この居住空間にある一切のものが、我が部族ガルバが造ったものです。
お気に召して頂けてうれしく思います。」
「アムさん。私の事を呼ぶ時は、ガーネと呼んでください。
そうでないと、話しにくくなってしまいます。
ところで、この街ならではの珍しい物、というのはありませんか。」
「珍しいものですか。...要するに名物的な物という意味でしょうね。
うーん。特にはありませんね。強いて言えば、美術館とか博物館ぐらいですね。」
「へぇ、じゃあ、そこに行きましょう。最初に、美術館に行きましょうか。」
ガーネとアムは、美術館に行きました。
二人は、飾られている絵画や彫刻を、1つずつ見て回りました。
「ガーネ様は、いや、ガーネはこういうものに興味がおありなんですか?」
「これはあくまでも、私自信の見解なんだけどね。」
「はい?」
「芸術というのは、それを見た人が心を揺り動かされる物だと思うんですよ。
それが絵画や彫刻、または他のものであったとしても同じです。
だからこそ、これらは人に評価され、こうして後世に残っているんです。
だから、これらを見て、どこにそんな価値を見出したのか知りたいんです。
そしてそれが、ここの人たちの事をよく知る事にも、つながると思うんです。」
ガーネたちは美術館の見学を終えると、次は博物館に行きました。
「街の広さが原因なんだと思いますが、見たいものが近くにあるのは楽です。」
「まぁ、確かにそうですね。」アムは笑って答えました。
中に入ると、いろいろな展示物が飾られていました。
特に多かったのが、彼らが、海中艇と呼んでいる船の展示でした。
過去から現在まで、違う形状の船が、たくさん並べられていました。
居住空間の建築物のミニチュアなども、多く展示されていました。
人の衣服などの生活感に密着している物も、多くありました。
ただ、海底都市本体を支えるものに関する展示が、あまりありませんでした。
これだけの居住空間を造り、人の命を支えている機械群の展示。
科学にうといガーネでも、見てみたいと思っていました。
それだけに、展示が無かったのは、残念でした。
それを話すと、アムはニッコリ笑って、こう答えました。
「それなら、明日、長がコントロールベースを案内してくれると思います。」
「コントロールベースとは、何でしょうか?」
「まぁ、それは明日のお楽しみにしておいてください。」
アムに答えを、はぐらかされてしまいました。
博物館の最後に、とてつもなく大きい海洋生物が展示されていました。
「すごい大きい生き物ですね。これは何ですか?」
「これは、ガロンです。この魚のために、たくさんの人が死にました。」
「死んだのですか?」
「正確に言えば、食べられてしまったのです。」
アムはそれまでとは違う、つらい感情を現わした、口調になっていました。
これ以上は、この話は止めた方がいいみたいですね。ガーネはそう思いました。
その後、二人は、博物館をあとにしました。
アムは、気を取り直したように、明るい声でガーネに尋ねました。
「ガーネ。これから何か、ご希望はありますか。」
「そうですね。そろそろお茶でも、飲みませんか?」
「判りました。そうしましょう。」
「あそこに美味しいコーヒーを飲ませる店がありますよ。」
アムはガーネにそう言って、その喫茶店に連れて行きました。
テーブルに着いて、コーヒーの注文をしました。
「あと、何か食べたい物はありませんか?」アムは尋ねました。
「いえ、お昼には、まだ早いです。」手を振りながら、ガーネは答えました。
コーヒーが運ばれて、二人で飲む事にしました。
「こうしている所は、他の人から見ると、恋人同士に見られるんでしょうか。」
ガーネはアムに尋ねました。
アムは、むせた様に咳をしました。
「そ、そんな事は無いと思いますよ。」
「そうでしょうね。」ガーネはうなずきました。
「ところで、アムさんに、この海底都市について聞きたい事があるんです。」
「はい。何でしょう。」
「陸上の方が、ここの人たちにとっても、暮らしやすいと思います。
何故、ここの人たちは、海底都市に住んでいるのでしょうか?」
「それは、もうこの星に陸上が無いからです。」
「えっ、それは、つまり星全体が、海で覆われているという事でしょうか?」
「その通りです。星の寿命が、終わりに近づいていると言う人もいます。
何十年前からか判りませんが、地殻変動が多発するようになりました。
それに加えて、その強さも大きくなっていったのです。
その結果、地震や津波などで、陸が1つ1つ、海上から姿を消しました。
そして今では、全ての陸が消えてしまったのです。」
「そうだったのですか。
それで、海底都市が出来たのですね。
それにしても、あれだけ巨大なものをよく海の中で造りましたね。」
「えっ、あっ違います。海の中で造ったのではありません。
陸上で造った船を、あそこに設置したんです。」
「船?あの海底都市は、船だったんですか?」
「そうです。
海上に陸が全て無くなれば、私たちは生きる所が無くなってしまいます。
それは絶対に、回避しなければなりません。
そこで、たくさんの人や動物が、生きていられる空間を造ろうとしました。
その結果、考案されたのが海上や海中、そして海底に移動出来る大型の船でした。
それが、この海底都市ガルディなのです。」
「えっ、あの海底都市は、移動も出来るのですか。」
「はい。と言っても移動に使ったのは、最初だけのようです。
あそこは、これまでの地殻変動データから、それが発生しにくいらしいのです。
他のどの場所よりも安全だと言う事で、選ばれた場所なのです。
あそこに海底都市を設置してからは、これまで何のトラブルもありません。
ただ1つの欠点をのぞけば、申し分の無い場所です。」
「その、アムの言う、ただ1つの欠点とは何でしょうか?」
「あの海底都市の付近は、ガロンが多く棲息している場所だったのです。
実は、今の海底都市は、2つの船で構成されています。
1つは、私たちの部族ガルバが、支配する海中大型船。
もう1つは、部族デルダが、支配する海中大型船。
この2つが連結して、海底都市ガルディとなっているのです。
ですが、この星には、もっと多くの部族がいました。
これらの部族の中には、陸と運命を共にしたところもありました。
それでも、まだ多くの部族が私たちと同じく、海中大型船を造船していました。
ですがそれらの全てが、初期不良や操縦の失敗などで、海の藻屑となりました。
その船から放り出された人たちは、みんな、ガロンの餌食となりました。」
「それは...。悲しい過去の話しをさせてしまいましたね。許して下さい。」
「あっ、いえ、ええと祖母から伝えられた話を、お話しただけです。
別に、気にしていません。」
「そうですか。
それにしても、よくあんな立派な海底都市が出来ましたね。
私には科学の事は、よく判りません。
それでも、部族ガルバの科学技術の高さには、敬意を表しますね。」
「ガーネ。そう言ってくれると、同じ部族としては嬉しいです。」
コーヒーを飲み見終わって、喫茶店を出て行きました。
その後、アムはガーネを海中艇に乗せてくれました。
海中艇は、海底都市の周りや、その海上をゆっくりと航行しました。
ガーネは、海底都市の大きさに、感心するばかりでした。
海中艇を降りた後も、街中を回りながら、二人でお喋りをしていました。
お昼も、子綺麗なレストランで、昼食をとりました。
楽しい食事が終わった後、アムはガーネに言いました。
「では、今はこれくらいにして、お屋敷に戻ってお休み下さい。
夕方頃、またお迎えに上がります。」
「えっ、夕方にですか。何か面白い事でもあるんでしょうか?」
「まぁ、楽しみに待っていてください。」
アムはそう言って、ガーネをお屋敷まで送り届けました。
夕方になりました。辺りが急に暗くなりました。
アムが約束通り、迎えに来てくれました。
ガーネは、お屋敷の人に出かける旨を伝えた後、アムと二人で出かけました。
着いた先は、午前中に乗った海中艇の前でした。
「また、乗るんですか?」ガーネは尋ねました。
「ええ、いいものを見せてあげられると思います。」
海中艇は、二人を乗せて、海に潜りました。
海の中には、闇がどこまでも、広がっていました。
ライトで照らしている部分ぐらいが、明るさを持っているだけでした。
「もうじき、始まります。」アムはそう言いました。
ライトが消されました。
2~3分ぐらい経った後でしょうか。ガーネはその意味を知りました。
海底都市が、一斉に灯りを灯したのです。
幾つもの灯りが、海底都市を覆っていました。
海水を通して見ているせいでしょうか。
1つ1つの灯りが、幻想的な輝きをもたらしていました。
これらが闇の中で、夢幻とも言える神秘的な模様を浮かびあがらせていました。
ある光は強く点灯し、ある光は点滅を続けていました。
まるで、この模様自体が意思を持って動いているようでもありました。
ガーネの乗っている海中艇に、夕食が並べられていました。
アムは同じテーブルに、淡い光を放つランプを置きました。
そして、海中艇内部の灯りを消したのです。
テーブルの周りは、ランプの灯りの色に染まりました。
やや暗いながらも、夕食を食べるのには、何の支障もありませんでした。
お互いの顔も、ランプの明かりの色に、染まっていました。
ガーネは、外の景色を眺めました。
海底都市は、更に輝きを増したように、思えました。
二人は、お互いを見つめ合いました。
どちらからともなく、うなずき合った後、テーブルの席に着きました。
ガーネはアムと二人で、この幻想的な映像を楽しみながら、食事をしました。
時が流れるのを忘れてしまうほど、神秘的な世界がそこにはありました。
海中艇を降りると、アムはガーネに言いました。
「今日1日、私とお付き合い下さり、有難うございました。
いつか、また会える日を楽しみにしております。」
そう言って、アムはガーネに手を差し出しました。
「とんでもありません。こちらこそ、いろいろ楽しませて頂きました。
本当に有難うございました。」
ガーネは、アムに握手しました。
「それでは、失礼します。」
そう言って、アムはガーネの前から立ち去って行きました。
「いい1日でした。」ガーネは、心の底からそう思いました。
いつしか、頭のふらふらは、解消していました。
ガーネは、ノアの屋敷に戻りました。
歯を磨いて、お風呂に入った後、ベッドに横たわりました。
ガーネは、夢も見る事も無く、穏やかに眠りに着きました。
翌朝、ガーネが起きると電話が鳴りました。
ガーネは欠伸をしながら、受話器をとりました。
「今日、なんとか暇が出来たんでな。後で迎えに行くぞ。」
電話の主は、ノアでした。
「判りました。お待ちしております。」
ガーネは、電話を切って、受話器を置きました。
また電話が鳴りました。今度は、朝食の用意が出来たとの知らせでした。
洗面所で、顔を洗いました。
そして、食堂に向かいました。
朝食は1人でした。執事さんに聞くと、ノアは朝から出かけたとの事でした。
ガーネは歯を磨いた後、いつもの服に着替えて、ノアが戻るのを待ちました。
15分ぐらい経った頃でしょうか。ノアが戻って来ました。
ガーネは、玄関でノアに会いました。
「あまりにお忙しいのであれば、無理に案内して下さ...」
と言いかけるガーネを、ノアは制止しました。
「いや、今日1日は大丈夫だ。準備が出来ているなら行こうか。」
「大丈夫です。いつでも行けますよ。」
二人は、街中へ歩いて行きました。
歩く道すがら、ノアはガーネに尋ねました。
「昨日は、どこに行っていたんだい。」
「街中をぐるぐると。美術館や博物館にも行きました。
午後からは、海中艇で散歩もしました。」
「そうか。それはよかったな。」
「その後夕方に迎えに来て、また海中艇でディナーを楽しみました。
本当に楽しい1日でしたよ。有難うございました。
あと、今日はコントロールベースに連れて行ってくれるとか。
どうか、よろしくお願いします。」
ガーネがそう言うと、ノアは何やら難しい顔で、考え事をしていました。
「ええと、君をエスコートしたのは...」
「はい。アムと言う名前の女性でした。」
「そうか。ちょっとそこで待っててくれ。」
ノアは、ガーネから離れて、自分の携帯電話で電話をかけていました。
しばらくして、ノアは戻って来ました。
「何かあったのですか?」ガーネは尋ねました。
「いや、ちょっと用事を思い出してな。確認の電話をしただけだよ。
さぁ今日はさっき、君が言った通りにコントロールベースに連れていくよ。
迷子にならないように、俺に着いて来てくれ。」
ノアは、ガーネの肩を叩いて、笑いながら言いました。
「はい。しっかりお伴しますよ。」ガーネも笑いながら答えました。
街の中央に来ました。そこには市役所がありました。
ノアは、その中を通って行きました。ガーネもそれに続きました。
窓口の奥にまで行きました。そこには細い通路があり、左右に部屋がありました。
その中に、危機管理室という札が貼ってある部屋がありました。
ノアとガーネは、その部屋に入りました。
部屋の真ん中あたりに、机が1つありました。机の上にはパソコンがありました。
その他には、奥に長いテーブルが、2つほど置かれているだけでした。
ノアはガーネに「俺のすぐ隣にいてくれないか。」と頼みました。
ガーネはうなずくと、ノアのすぐ傍らに立ちました。
ノアは、机の上のキーボードで、何かを入力していました。
「よし、入力完了。」ノアはそう言って、最後に1つキーを押しました。
ブザーが少しの間、鳴っていました。
すると、ノアとガーネが立っている足元が、台となって下へ沈み始めました。
「ワァ。」ガーネはよろけそうになりましたが、必死で踏ん張りました。
その様子をノアはにやにや笑いながら、見ていました。
自分たちを乗せた四角い台は、どんどん下に降りて行きました。
やがて、目的地に着いたのでしょう。下降は止まりました。
目の前にはドアがありました。しばらくすると、またブザーが聞こえました。
それが鳴りやむと、ドアが開きました。
ドアの外に出ました。目の前の通路はずっと奥まで、つながっていました。
そしてその左右には、部屋へと続くドアが幾つかありました。
「ようこそ、ここが海底都市ガルディのコントロールベースだ。
この中で、居住空間を始めとする都市の機能の全てを支えているのさ。」
ノアは、そう説明しました。
コントロールベースは、この階を含め、5階分あるという事でした。
ノアはガーネに、その中の1部を見せてくれました。
発電管理室や空調室、そしてコンピューター制御室がありました。
他にも機関室や工場などさまざまな部屋がその中にはありました。
見学を終わり、居住空間に戻って来た時は、お昼を回っていました。
ノアとガーネは、レストランで昼食をとりました。
食後のコーヒーを飲みながら、ノアはガーネに尋ねました。
「コントロールベースを見学した感想は、どんなものかな?」
「大変、大きく立派な設備でしたね。」
「フム。それから何かあるかな。」
「もともと、科学にはうといんで、その程度しか判りませんでした。
でも午前中は、有意義に過ごせたと思っていますよ。」
「そうか。それはよかった。あと、午後からの予定だがな。」
「はい。」
「海中艇で、海を散策するのは、どうだろうか。
昨日は、海底都市を中心に回っていただけなんだろう?
この海には、さまざまな生物がいるんだ。
それを観るのも、悪くないと思うがどうだろうか?」
「いいですね。そうしましょう。」
「では、海中艇発進の準備をしていてもらうか。」
ノアはそう言って、携帯電話を取り出しました。
その時その携帯電話に、電話がかかってきました。
「ちょっと、失礼。」
ノアはそう言って、ガーネより少し離れたところで、電話に出ました。
ノアは電話の相手から、何か報告を受けているようでした。
「フムフム。何。やっぱりそうなのか。」ノアは興奮しているようでした。
受話器を置くと、ノアはフゥーッとため息をつきました。
そして、こちらに走って来ました。
ノアはガーネの向かい側の席に座りました。ノアは興奮しているようでした。
「ガーネ、君が昨日...」
ノアが、言いかけた途端、とてつもなく激しい揺れが発生しました。
しばらくして、揺れがおさまりました。
しかし、その時には、街は既に真っ暗になってしまいました。
1分ほど経ってからでしょうか。電気が回復しました。
「電源が回復したようですよ。よかったですね。」
「これは、非常用電源だよ。バッテリーで動いているんだ。
すぐに対策を講じないと、数時間で止まってしまう。」
ノアは、そう言って走り出しました。ガーネも、その後を追いました。
走りながら、ガーネはノアに尋ねました。
「何故、さっきのエレベーターを使わないんですか。」
「バッテリー駆動の状態では、最低限のものしか動かないんだよ。
あのエレベーターは使えない。」
ノアは、街の外れまで行きました。
そして、足元にあるマンホールのふたを鍵を使って開けました。
「ここは?」
「この穴はコントロールベースまで、つながっているんだ。
ここから降りていくぞ。」
「ここから降りて行くって、どのくらいかかるんですか?」
「大した事は無い。気を失うぐらいまでには着く。」
「大した事あるじゃないですか。私は降りれないかもしれないです。
ここで待っていてはいけませんか?
どうせ、電気関係の事なんて、判りませんしね。」
「体力が無いのか?」「ええ、虚弱体質です。」
「そうか。では運動になるぞ。ついてこい。」
マンホールには梯子が装備されていました。
二人は、それをつたって下に降りて行きました。
来るんじゃなかった。ガーネはすごく後悔しました。
下からノアの声が聞こえました。「早くついてこい。」
マンホールの中なので、やたら響いていました。
「やれやれ。」ガーネも仕方が無くついて行きました。
格闘の末、コントロールベースまでなんとかたどり着きました。
ガーネは手の感覚が、おかしくなっていました。
ガーネは泣きたくなりました。
ノアは近くのハッチを開けて、中に入りました。
そこには、先ほど見たコントロールベースがありました。
ノアは、発電管理室に行きました。
その中の計器は作動していました。
その値を1つずつ調べた後、ガーネに言いました。
「まずいな。発電所との接続が切れている。
外にある発電所に何かトラブルがあったとしか、思えないな。」
「じゃあ、どうするんですか?」
「南部ブロックにある発電所を動かすしかない。
ここよりは出力は弱いが、節電状態にすれば安定した電力供給が期待出来る。」
「ここから行けるんですか?」
「駄目だな。もともと南部ブロックは、部族デルダの海中大型船の部分だ。
ここと接続してはいるが、隔壁があってね。直接入る事は今は出来ないんだ。」
その時、ノアの携帯電話が鳴りました。
ノアは、電話の表示板を見て喜びました。
「しめた。ラディアからだ。」
ノアは、そう言って携帯電話を耳にあてました。
「もしもし、こちらノアだ。」
「ノア。あなた今どこにいるの?」
「コントロールベース南部ブロックの発電管理室だ。」
「ああ、もうそこにいるのね。で、状況を報告してくれない?」
「判った。
さっき計器を調べてみたんだが、どうやら発電所自体のトラブルらしい。
今、バッテリーでなんとか電力供給しているが、それも僅かな間だ。
部族ガルバの長として、部族デルダの長ラディアに要請する。
ただちに、北ブロックの発電所を作動して欲しい。」
「判りました。部族デルダの長として、その申請を受理します。
今、屋敷にいるから地下道を通れば10分でコントロールベースに着くわ。
こちらの発電所を作動させるまで、そこで待機してて頂戴。」
「よし、判った。じゃあ頼むよ。」
「それじゃあ、後で会いましょうね。」そこで電話は切れました。
「フゥ。」ノアは安堵のため息を漏らしました。
それから、ガーネの方に振り向きました。
「部族デルダの長ラディアが動いてくれた。
まもなく発電出来そうだ。それまで我々はここで待機だ。」
ノアは、話を続けました。
「向こうの発電所が作動すれば、このランプが点灯する。
そうしたら、こちらで向こうとのリンク作業を行うんだ。
リンクが確立すれば、この海底都市に安定した電力が供給される。
だが、それにはラディアがここに来なくてはいけないんだ。」
「でも、確か直接入れないとか、言っていましたよね。」
「コントロールベースに、安定した電力が供給されないと隔壁は開かないんだ。
それにこちらとの往来は、制限があってね。
2つの部族の長の許可が無いと、出来ないのさ。
俺の持っているこの鍵とラディアの持っている鍵。
この2つを同時に使う事によって初めて、隔壁は開くんだ。」
「ラディアさんがここに来なければいけない理由は?」
「向こうの発電所とのリンクを確立するのにも、向こうの鍵が必要なんだよ。
こちらの発電所を向こうが使用出来るようにした時も、そうだったんだ。
俺がこの鍵を向こうに持っていって、リンクを確立させたのさ。
「そうですか。
ではラディアさんが来るまでは、ここでひと休みというわけですね。」
「そうだ。」
ガーネはそれを聞いてほっとしました。
こうして、2人は、ラディアが来るのをただひたすら、待っていました。
第5話「海底都市」最初かな。(終)
今回のお話は、海底都市のある世界のお話です。
ですが、この世界に入った途端、ガーネはトラを見失ってしまいます。
さて、この先はどうなるかというと、まぁ、言わぬが花でしょうね。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




