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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第4話「空を飛ぶガーネ」
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第4話「空を飛ぶガーネ。」最後ですね。

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第4話「空を飛ぶガーネ。」最後ですね。のお話です。

この回では、人命救助や、スカイダーの換装などの話が中心です。

いよいよ、この世界ともお別れの時が来ました。


第4話「空を飛ぶガーネ。」最後ですね。


カーマイン博士の家に近付くにつれ、あたりは騒がしくなって来ました。

サイレンと鐘の音が、響き渡っていました。

ガーネとトラが、博士の家が見える所まで来ると、その原因が判りました。

博士の何軒か先の、アパートらしき建物が、大火事になったいたのです。


その建物から出る、業火の炎にガーネとトラは立ちすくんでしまいました。

「この火事は、すごいですね。もう建物のほとんどが、炎に包まれています。」

「誰もいないといいわね。」

ガーネの周りは、黒山の人だかりになっていました。

ガーネは、その中に、カーマイン博士の姿を見つけました。

「カーマイン博士!!」ガーネは、博士に声をかけました。

博士は、ガーネに気づいたらしく、右手をあげました。

ガーネとトラは、博士に駆け寄りました。

「すごい業火ですね。」ガーネは言いました。

「そうじゃな。しかし、それよりも大変なのはあれじゃよ。」

カーマイン博士の指さす方を、ガーネたちは見ました。

大火事になっているアパートの屋上に、人の姿がありました。

「あれは、人ですね。しかも小さい女の子です。」

「そうなのじゃ。」

「救助は、どうなっているのでしょうか?」

「あれを見てみぃ。

さっきから、あそこの消防の梯子車が、あの子を助けようとしているんじゃ。

じゃがのう。この業火で近寄る事も出来ないのじゃ。」

「ヘリコプターの応援を呼ぶしかないんじゃありませんか?」

「もう、連絡はしておるらしいがの。

ただ、数時間前、別の場所でも、災害が発生したとの事でな。

そちらの方に、ヘリは全機出払っているらしいのじゃ。

そんなわけで、こちらには都合がつかないらしい。」

「そんな。」ガーネもトラも唖然としました。

「何か方法はないんですか?」ガーネは博士に尋ねました。

博士は、目をつぶり、黙ってしまいました。

「スカイダーを使えばいいじゃないの。」

トラが、ガーネや博士にそう言いました。

二人は、トラの方を振り向きました。

「あの子は、今屋上にいるのよ。屋上は、まだ火の気が感じられないわ。

スカイダーなら、あの高さまで飛べるから、助けられると思うの。

救助袋を使えば、短時間であの子を屋上から搬送出来るじゃない。」

「それは、そうじゃが...。」

「それにスカイダーは、もともとこういう時のために開発したんじゃないの?

今こそ、その力をみんなに見せるべきだと思うわ。」

「トラ。そうかもしれませんね。」ガーネは言いました。

「カーマイン博士。今あの子を助けられるのは、スカイダーしかありません。

昼間、使用したスカイダーは今、博士の自宅の研究所にあるんですよね。

もし、許可をもらえるなら、救助するのに必要なものを取って来ます。

もちろん、スカイダーは私が操縦します。

カーマイン博士。どうかスカイダーを使用する許可をお願いします。」

「ガーネ君。」カーマイン博士は言いました。

「君やトラ君の考えはよく判るし、わしも出来ればそうしたいのじゃ。

じゃがのう。今のスカイダーは、何の安全装置も施されていないのじゃ。

実験では、トラブルが起きないよう、その使用には十分配慮したつもりじゃ。

じゃが、今回は違う。

まかり間違えば、お主もそしてあの子も、死ぬかもしれん。

許可を出すわけには、いかんのじゃ。」

「博士...。」ガーネは絶句しました。トラも涙を浮かべていました。


その時、屋上の方から爆発音が聞こえました。

ガーネたちは、屋上を見ました。

すると、屋上に置いてあった何らかの機材が、引火したようでした。

その炎と煙は、まさに女の子に襲いかかろうとしていました。

それを見ていたカーマイン博士は、思わず、拳を握りしめました。

そして、ガーネの方に向き直りました。

「ガーネ君。スカイダーを使用する事を許可しよう。

本当に行ってくれるのじゃな?」

ガーネはうなずきました。

「事は急ぐ。ついて来るのじゃ。」

カーマイン博士やガーネ、そしてトラは、急いで博士の自宅に行きました。

ガーネは、救助服に着替え、スカイダーとヘルメットを装着しました。

博士の自宅を出たガーネたちは、業火の炎に包まれたアパートに向かいました。

そして、そのアパートに前に立ちました。

ガーネは、カーマイン博士とトラの方を向きました。

カーマイン博士とトラは、ガーネにうなずきました。

それを見た、ガーネもうなずきました。

ガーネは、両手にあるハンドルを、レバーごと握りました。

スカイダーの噴射口から、白い煙が勢いよく流れました。

それと同時に、ガーネは、上へ上へと上昇して行きました。

あっという間に、ガーネは屋上に到着しました。

屋上も、一部がもう炎に包まれていました。

ガーネは、涙ぐんで動けないでいる、女の子のそばに近づきました。

女の子は、ガーネに気が付くと、急いで駆け寄って来ました。

ガーネは、腰をおろして女の子を抱きました。そして声をかけました。

「もう、大丈夫ですよ。必ず助けますからね。」

ガーネは、女の子を救助袋に入れた後、マジックテープで固定しました。

バルブを開くと、救助袋が膨らみ、救助服にしっかりと固定する事が出来ました。

これで、飛行しても女の子が落ちる事はありません。

ガーネは、女の子の安全を確認した後、急いで屋上を飛び立ちました。

女の子の体重が加わったせいで、バランスが取りづらくなっていました。

それでも、ガーネはなんとか安定したバランスを取る事に成功しました。

そして、カーマイン博士やトラの元に、降りる事が出来たのでした。

救助袋から、女の子を出しました。

そこへ、消防署の人たちや、女の子の両親が駆けつけてきました。

女の子は、母親の胸に抱かれて、泣きじゃくっていました。

両親も、涙を浮かべていました。

その後、女の子は、両親と一緒に病院に運ばれて行きました。

救急車に乗り込む前に、女の子の両親は、ガーネの方を振り向きました。

そして、頭を下げて、お礼の言葉を言いました。

「有難うございました。」

救急車は、走り去って行きました。

カーマイン博士は涙を浮かべながら、ガーネに握手をしました。

「わしからも言わせてもらいたい。本当によくやったのう。」

トラも、ガーネに抱きつきました。そして言いました。

「有難う。ガーネ。」

「どういたしまして トラ。

でも、救助している間は、夢中だから何にも感じませんでしたね。

こうやって終わって見て、あらためて恐怖を感じました。

精神面が強い人でないと、人を救助するのは、難しいですね。

それを今回、思い知らされましたよ。」

ガーネはそう答えました。

「さぁ、お二方、わしの家に行こう。」カーマイン博士は、そう言いました。

そして彼らは、その場を立ち去りました。


それから2時間後、大がかりな消火活動で、アパートの火は消し止められました。


ガーネとトラは、カーマイン博士の家に着きました。

トラは、あの火事の現場から、ここにたどり着くまでに、眠ってしまいました。

ガーネは、眠ったトラを、右ポケットの中に入れました。

ガーネはカーマイン博士に頼んで、ソファにトラを寝かせました。

そして軽いタオルを、トラの上にかけてやりました。

博士とガーネは、例の研究所と称する部屋に向いました。

テーブルに座り、博士は、その上に載せてあった箱を開封しました。

「見てごらん、これが新型のエンジンじゃ。」

カーマイン博士は、誇らしげにガーネに、そのエンジンを見せました。

「へぇ、これがそうですか。

科学的なことは全然判りませんが、割と小さいものなんですね。」

「人が背負う、スカイダーに取り付けるエンジンなのでな。

小さく、そして軽い必要があるのじゃよ。」

「1つ質問があるのですが、いいでしょうか。」

「構わん。言ってみなさい。」

「博士は今日、このエンジンを受け取るために、出かけたんですよね。」

「そうじゃ。」

「エンジンは、博士がここで製作しているものだとてっきり、思っていました。」

「確かに、エンジンの設計図は、わしが作ったものじゃ。

そして、試作品のひな型も、ここで作っておる。

じゃが、実際にスカイダーに載せる試作品は別じゃ。

わしの教え子が経営している、機械工場で造ってもらっておる。

スカイダーに使われる部品の入手は、個人では難しいし、高額になってしまう。

組み立てにも、専用の機械を所有している工場の方が利点が多い。

エンジンの安定性はもちろん、組み立て時間も短縮出来る。

個人で造るよりは、はるかに格安で早く、しかも良いものが造れるのじゃ。」

「なるほどね。そういうわけでしたか。」ガーネは納得しました。

「今度作成した、エンジンの性能は素晴らしいぞ。

今まで、弱点とされてきた高出力の安定にだな。」

「ちょ、ちょっと、待ってください。

何回も言うようですが、科学的な説明は判らないし、必要ありません。

要するに、今までより、いいエンジンが出来たという事ですね。

それだけ判れば十分です。」

カーマイン博士は、ガーネの言葉に、明らかに不満そうでした。

博士は、いつかの時のように、何やら、ぶつぶつ言っていました。

ですが、ガーネは聞かない事にしました。

しばらくして、博士は、やっと気を取り直しました。

そして、咳払いをした後、ガーネにこう言いました。

「まぁ、今日来てもらったのは、エンジンの説明のためではないからの。

実は、今日中にこのエンジンを、スカイダーに換装したいのじゃ。

それでな。出来れば君にも手伝って欲しいと思っての。連絡をしたのじゃ。

日当は多めに払うが、どうじゃろうか?」

博士は、ガーネに尋ねました。

ガーネは、フゥーとため息をつきました。

「どうせ、そんな事だろうと思っていましたよ。

いいですよ。ここに来てから、博士にはお世話になっていますからね。

それに私も早く、エンジンの性能を知りたいです。」

ガーネは承諾しました。

博士は、その言葉を聴いたせいでしょうか。

先ほどからの不満げな様子が、いつの間にか消えていました。

むしろ、嬉しげにさえ思えるほどでした。

「そうかそうか。それは助かるのう。では早速始めるとしようかの。」

博士は研究室のカーテンで仕切っている一画に、ガーネを連れて行きました。

そのカーテンをくぐって、博士とガーネは中に入りました。

「これは、何なのですか。」ガーネは尋ねました。

「これはの。スカイダーのエンジンを、換装するための装置じゃ。

作業としては、次の順序で行なわれる。

1.スカイダーの個体を開け、エンジンを収納しているカートリッジを取り出す。

2.カートリッジごと固定装置にセットする。

3.換装監視ボックスを被せる。

4.カートリッジからエンジンを外す。

5.エンジンに取り付けてあるオプションを全て外す。

6.外したオプションや、エンジンは、収納ラックに収納する。

これで、エンジンの取り外しは完了する。

上の作業のうち、遠隔操作するのは、4と5じゃ。

エンジンのオプションには、精密で、小さい部品を使っているでの。

直接手で作業しようものなら、接続部分が壊れてしまう可能性が高いのじゃよ。

さて、次に新しいエンジンを、取り付ける作業を行なうがの。

作業としては、次の順序で行なわれる。

1.新しいエンジンを固定装置にセットする。

2.エンジンにオプションを取り付ける。

3.エンジンをカートリッジにセットする。

4.スカイダーにカートリッジをセットし、個体を閉じる。

上の作業のうち、遠隔操作するのは、2と3じゃ。

遠隔操作はもちろん、慎重を要する作業なので、わしがやる事にする。

おおまかではあるが、これが作業の内容じゃ。

理解してもらったかな。」

「はぁ。」

ガーネは心の中で、来るんじゃなかったと後悔しました。

「で、私に何をせよと。」

「1つは、取り外したオプションやエンジンを収納ラックに収納する事。

もう1つは、オプションをこの装置に、あらかじめ用意して置くことじゃ。

これらの作業は、この装置が指示してくれるので、その通りにやればよい。

どうじゃ。簡単じゃろ。」

「まぁ、それだけなら出来ると思います。」

不安ながらも、ガーネはやる事にしました。


エンジンの換装の作業が始まりました。

ガーネは、自分の作業が、実に面倒なものである事が判りました。

エンジンから外す、または取り付けるオプションの数が半端じゃなかったのです。

しかも、作業は1つづつ行なわれました。

完全にエンジンの換装が終わったのは、始めてから6時間後でした。

ガーネもカーマイン博士もくたくたでした。

ガーネは、博士に毛布を貸してもらって、トラの眠っている部屋に行きました。

そして、トラの向かい側のソファで、毛布をかぶって寝てしまいました。


ガーネは、目を覚ましました。

何かが、自分の頬をペタペタと叩いている事に、気が付いたからでした。

ガーネの目の前には、トラの姿がありました。叩いてたのは、トラの前足でした。

「お早う。」元気にトラは言いました。

「お早うございます。」寝ぼけ眼で、ガーネも朝の挨拶をしました。

しばらくぼーっとしていましたが、やがて少しづつ意識がはっきりしてきました。

「カーマイン博士は、まだ寝ているのですか。」ガーネはトラに尋ねました。

「博士なら、朝早く出かけたわ。

街のお偉いさんから、電話で、呼び出しがあったって言ってたの。

あたしたちが買って来た、夜食分を食べていったわ。

あっ、それからガーネにも伝言があるの。」

「伝言?何でしょうか?」

「昨日はどうも有難うって、言っていたの。

あと、今日は実験が遅れるかもしれない、とも言っていたわ。

だから、港にある喫茶店で待機するようにって。

助手の人たちにも、メールを送ったそうよ。」

「そうですか。

でも、今からバスで港に行っても、着くのが早すぎますよね。

私とトラの夜食分は、残っているんですか?」

「ええ、あたしは、ガーネと一緒に食べようと思って待っていたの。

おかげで、お腹がペコペコだわ。」

「それはすみませんでした。では、早速、食事にしましょう。」

ガーネは自分が使っていた毛布を片付けました。その後、食事の用意をしました。

トラには、猫用ミルクと猫缶を、お皿に出しました。

自分には、コーヒーを少し温めて、冷たくなったサンドイッチを用意しました。

「頂きます。」ガーネとトラは声を合わせて言いました。


食べ終わると、食器やごみなどを片付けました。

戸締りを確認した後、博士の家を出て行きました。

バスの停留所に着いてから、5分ほどでバスがやって来ました。

空いている座席に座って、港まで乗って行きました。


港に着くと、近くにある喫茶店に入りました。

そのテーブルの1つに、カーマイン博士の助手の人たちがいました。

「お早うございます。」「お早うございます。」

朝の挨拶を交わしました。

ガーネとトラも席に着きました。

そして、ウエイトレスさんに、コーヒーとミネラルウォーターを注文しました。

「昨日は、大変だったでしょう。」助手の1人が言いました。

「えっ。」

「新しいエンジンの換装をしたんでしょう?」

「あっ、はい、そうです。」

「どのくらい時間がかかりましたか?」

「ええと、確か6時間ぐらいだったと思います。」

「6時間ですか。早く終わってよかったですね。」

「と、言うと。」

「初めの頃は、数日かかっていたんですよ。」

「そんなにですか。でも何故そんなにかかっていたんですか?」

「実験用エンジンは、実験が目的なんです。

ですから、容易に変更出来る部分が多い方が、実験をしやすいんです。

それは、ソフトウエアでも、ハードウエアでも同じです。

そのため最初の頃は、最低限の機能以外、全てオプションだったんです。

その結果、オプションの管理に、時間と手間がかかり過ぎてしまいました。

そこで、実験と同時に、どのオプションを残すかを選別する事にしたんです。

そして、次の試作品を注文する時に、それを反映させるようにしました。

今まで使っていたエンジンと比較して、どうでしたか?

今回の新しいエンジンの方が、オプションの数が少なかったんじゃないですか?」

「確かにそうですね。ざっと、半分ぐらいにはなっていましたよ。」

「半分ですか。オプションの数が、換装作業全体の時間に比例するんですよ。

それなら、次回は間違いなく、3時間ぐらいで終わる筈です。

3時間ですか。それなら負担がぐっと減りますね。

よかった。よかった。」

「そうですね。」ガーネも同意しました。

コーヒーとおミネラルウォーターが運ばれてきました。

お水の入ったコップにストローを差して、トラの前に置きました。

トラは、ストローからお水を飲みました。

「トラさんでしたっけ。器用な猫ですね。」助手の人は言いました。

「確かに。私もそう思いますよ。」ガーネも同意しました。


いつもの実験予定時間を30分過ぎた所で、博士が喫茶店に入って来ました。

「お帰りなさい。」テーブルに居た博士の関係者全てが、同時に言いました。

「ああ。みんな集まっておるの。」

博士は、そう言った後、ガーネのそばに近寄り握手をしました。

「有難う。君のおかげで、街から補助金が出そうじゃよ。」

博士は、そう言いました。

「と、言いますと。」きょとんとした顔で、ガーネは尋ねました。

「昨夜、君が救った女の子は、市長の知り合いの娘さんだったんじゃよ。

その知り合いというのは、この街に多額の寄付をしてくれている人での。

市長に、このスカイダーの研究に対し、支援の要請をしてくれたのじゃ。

正式に決まるには、議会の承認が必要になる。

じゃが、昨夜の救出劇はたくさんの人が見てくれていての。

その人たちも、議員に働きかけてくれるのだそうじゃ。

恐らくは、満場一致で可決されるだろうと言ってくれた。」

「そうでしたか。カーマイン博士。おめでとうございます。」

テーブルにいた博士の関係者全てが、お祝いの言葉を口にしました。

「有難う。長い間、実験を重ねてきた甲斐があったというものだ。」

カーマイン博士は、涙ぐんでいました。

ハンカチで涙をぬぐった後、周りにいるみんなに言いました。

「さて、実験を始めようかの。

既に、実験の予定の開始時間をとうに過ぎてしまっておる。

急いで、準備にかかって欲しい。

今日は昨夜、新型エンジンに換装した、スカイダーのお披露目じゃ。

いつも以上に、気を引き締めて作業をしてくれ。」

「はい。判りました。」

ガーネとトラは飛行の準備を、助手たちは救助艇の準備を始めました。

準備が整うと、全員が救助艇に乗り込みました。

救助艇は 走り出しました。


いつもの実験場に到着しました。

「では、始めるとするか。

新型のエンジンの初めての実験じゃ。間違いの無いよう、しっかり頼むぞ。」

博士の合図とともに、ガーネは両手にあるハンドルを、レバーごと握りました。

スカイダーの噴射口から、白い煙が勢いよく流れました。

それと同時に、ガーネは、上へ上へと上昇して行きました。

「いよいよ、目標の飛行高度じゃな。」

博士は、手元にあるパソコンで常時、現在の高度を確認していました。

そして、ついに高度を示す表示が、目標と定めた数値に達した事を確認しました。

博士は、双眼鏡でガーネを確認しました。

ガーネが安定した状態で、大空を飛び続けている事を確認しました。

「やったぞ。初めて目標値をクリアしたんじゃ。」

カーマイン博士は大声で叫びました。

「博士。ついにやりましたね。おめでとうございます。」

助手たちも、お祝いの言葉を述べました。

博士は、マイクのスイッチを入れて、ガーネにもその事を伝えました。

「おめでとうございます。」

スピーカーから、ガーネのお祝いの声が聞こえてきました。

「ガーネ君。これからが正念場じゃぞ。

君が、無重力を利用することなく、無事に着地出来れば実験は成功じゃ。

さぁ、戻って来なさい。」

ガーネは、ハンドルのレバーの「握る・離す」を繰り返しました。

いつものようにその間隔を早めたり、遅めたりしながら降りていくつもりでした。

ですが、今までと違う強い重力に、下降速度を僅かしか落とす事が出来ません。

ものすごい勢いで、海面に向かって下降していました。

救助艇で、カーマイン博士は双眼鏡をのぞいて、その様子を見ていました。

「駄目だ。重力が強すぎて、安全な下降が出来ないんじゃ。」

博士は、海面に発生している無重力状態に、助けを求めました。

ですが、無重力状態を確認している助手から、思いもかけない言葉を聞きました。

「博士。無重力状態が確認出来ません。」

カーマイン博士は慌てて、助手の元へ駆け寄りました。

そして、無重力状態を確認するのに使用しているパソコンの表示を確認しました。

そこには、海面に何らかの強い磁場が、発生している事を物語っていました。

その磁場が、無重力状態の確認を妨害していました。

「何故だ。こんな時に何故なんだ。」カーマイン博士は、叫びました。


ガーネは、一生懸命、下降の制御を試みていました。

ふと、トラの方を見ると、何やらガーネに叫んでいるようでした。

ですが、その声は届きません。

トラは右の前足を、下の方に向けました。

ガーネは、その足の先、つまり眼下に広がる海面に目をやりました。

「!」

そこには、あの迷宮のドアが、上空を向いた状態で現れていました。

ガーネはつぶやきました。「そうですか。もうお別れなんですね。」

ガーネは、マイクに向かって、話始めました。


カーマイン博士は、マイクからガーネの声を聞きました。

「いろいろと有難うございました。これでお別れです。

カーマイン博士。いつまでも、長生きしてくださいね。」

これが、博士が聞いたガーネの、最後の言葉となりました。

この声の後、マイクのスイッチが切られる音がしました。

「ガーネ君。トラ君。」

博士は、双眼鏡で、ガーネの姿を追い続けました。

ガーネは、スカイダーの解除ボタンを押して、スカイダーと分離しました。

そして、真っ逆さまに下降していきました。

海面に激突する。カーマイン博士はそう思いました。

しかし、ガーネの姿は、海面に到達する前に幻のように消えてしましました。

博士は、自分が今見た事が信じられませんでした。

救助艇に乗り込み、ガーネを最後に確認した場所まで、走らせました。


救助艇は、その場所に到着しました。

スカイダーと救助服、そしてヘルメットが無重力状態で浮いていました。

博士は、無重力状態が消えてはいなかった事を確認しました。

博士は、これらを拾い上げました。

救助服に付いている、救助袋も調べてみました。

そこに、トラの姿はありませんでした。

博士は、助手に尋ねました。

「君は、わしにあの二人は、実験より高いところから落ちてきたと言ってたの。」

その助手は、うなずきました。

「一体、彼らは、何者だったんじゃろう。」

カーマイン博士は、ガーネたちが消えたその海面を、じっと見つめていました。

いつまでも。いつまでも。


「トラ、行きますよ。」

ガーネは、迷宮のドアめがけて落ちていきました。

ですが、その中に入った途端、ふわりと体が浮きました。

そして、普通に立った状態で、その暗黒の闇の中をゆっくりと降りていきました。

次第に、ガーネの周りに、多くの道と階段が現れ始めました。

ガーネはその中の1つの道に、降り立ちました。

トラが、ガーネの右ポケットから飛び出して来ました。

そして、ガーネの右肩に、ちょこんと座りました。

ガーネはトラに尋ねました。

「今回の旅はどうでした?」

「今回は、3日間だったでしょ。随分長く滞在していたのね。

今までで、1番長い旅だったわ。

あたしとしては、想い出に残った事が2つあるの。

1つは、スカイダーで大空を飛んだ事。

もう1つは、食堂のおばちゃんに、美味しい混ぜごはんを食べさせてもらった事。

この2つが、一番印象に残ったの。

そう言えば、おばちゃんにお別れを言えなかったな。

ううん、誰にも言えなかったわ。それが心残りね。

ガーネは、どうだったの?」

「私も、スカイダーで、大空を飛んだ事ですね。あれは、貴重な体験でした。

後は、特に無かったような気がします。」

「でも、ガーネは女の子を助けたじゃない。」

「ああ、あれね。でもあれは成り行きで、そうなっただけですよ。

自分としては、それほど心に残る出来事ではありませんでしたね。

もっとも、カーマイン博士にとっては、意味のある事だったと思うんですよ。

自分が望んでいた本来の形で、スカイダーが使われたんですからね。

喜んでいたと思いますよ。」

「きっと、そうだと思うわ。

あっ、それはそうとガーネは昨夜、カーマイン博士の手伝いをしていたのよね。」

「そうですよ。」

「日当はもらえたの?」

「あっ、そうでした。すっかり忘れていましたよ。」

「じゃあ、ただ働きだったっていうわけね。ご苦労様でした。」

トラは、気の毒そうにガーネを見ました。

「確かにそうですね。でもね、トラ。」

ガーネは、優しい瞳でトラを見つめて、こう言いました。

「私たちは、それ以上に、価値のあるものを手に入れましたよ。」

「それは、何?」

「想い出。それだけは今も、私たちの胸の中に残っています。」

「ガーネ。」


ガーネとトラは、再び、果てしなく続いている迷宮の道を歩き始めました。


第4話「空を飛ぶガーネ。」最後ですね。(終)


今回のお話は、人間単独飛行の実験を行なっている世界の最終話となります。

この第4話「空を飛ぶガーネ。」は3回に分けて、投稿しました。

もし、その全てを読んで下さる方が、1人でもいたなら嬉しいです。

書いた甲斐があったと思います。

これからも、トラ・オブ・ラビリンスは続きます。

これまでより、投稿に時間はかかると思いますが、期待しないで待ってて下さい。

では、またお会いしましょう。


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