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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第10話「ブリザード」
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第10話「ブリザード」⑤-1

第10話「ブリザード」⑤-1


 レイラとパードは採掘現場の入り口付近に立って、外の様子を伺っています。時折、何匹かの「雪狼」の咆哮が聞こえ、ガーネたちは緊張感が増すばかりです。

「生きてここから出られますかね」

 さっきまでの、温泉場でのくつろぎ感も一挙に無くなり、ガーネは不安そうに尋ねます。

「だいぶ集まっているみたいだな。正直のところ、こんな早い時間に集まるなんて思わなかったんだが」

「多分、餌が思うように獲れないのね。だからワタシたちを狙っているんだわ」

「と言っても、このままここに居るって訳にもいかないし」

「いっその事、今夜はここで過ごした方がいいんじゃないでしょうか? 明日の朝になってから、ここを出た方がまだ安全でしょう」

 ガーネの意見にパードはちらっと、レイラのほうを振り向きます。ですが、レイラは首を振りました。

「駄目よ。忘れたの。この匂いは短時間なら吸っても問題無いけど、明け方までなんかいたら、それこそ取り返しのつかない事になってしまうわ。ここにいる全員が中毒死って事も十分に考えられるのよ」

 レイラの言葉にパードも頷きます。

「と言う訳だ、ガーネ。オレもここに留まって、何とかレイラと混浴を楽しみたいが、そうもいかんらしい」

 パードはマシンガンを何時でも撃つ事の出来るように持ち直し、レイラもそれに見習います。

「じゃあ、行くぞ!」

 パードのこの声を合図に、ガーネを囲むようにして、全員が採掘現場から飛び出します。ガーネたちの掛けているゴーグルを通して、「雪狼」の群れが迫っているのを確認出来ました。

「雪狼」が射程距離範囲に入るや否や、レイラたちのマシンガンが一斉に火を噴きます!

 ダダダダダ! ダダダダダ! 

 自動連射しながら、レイラたちは森の中を抜けて行きます。「雪狼」はその凄まじい砲火に雪の地面を血で染めながら、一匹一匹と倒れていきました。それでも、何匹かはその攻撃をかいくぐり、レイラたちの周囲に散らばって行きます。やがてレイラたちは「雪狼」に包囲された形となり、次第にその範囲を狭められていったのです。

 パードは背後から襲おうとした「雪狼」を撃退しながらぼやいています。

「ちぇっ、一体、何匹いやがるんだ。撃っても撃っても、襲ってきやがる」

「手を休めないで! 無駄愚痴叩いている暇があったら、もっと早く走りなさい。これじゃあ、殺られるのは時間の問題だわ」

「そうは言ってもな。前方を見てみろよ。あんなに層が厚くなって。あれじゃあ、突破なんてとてもじゃないが無理だ」

「判ったわ。あいつらはアタシに任せて。必ず突破口を開いて見せる」レイラは「雪狼」の群れの中へ走り出します。

「おい。お前一人で、何をやろうってんだ。危ないから早く戻って来い!」パードが慌てて叫んだ声にも耳を貸さず、レイラは群れの中へ。そして。

 バガーン! 凄まじい爆発音と共に、あたり一面に閃光が走ります。

「い、一体、何を」目の前に起こった出来事に驚いて、思わずマシンガンを落としたパードの耳にレイラの叫び声が聞こえます。

「さぁ、早く! こっちへ来るのよ!」

「おっ、おお。わ、判った」しばし呆然としていたパードはその声で我に返り、レイラの後を追い掛けます。

 やがてパードはレイラを見つけ、急いで駆け寄ります。その周囲は、範囲は狭いものの、全てが薙ぎ払われた様に、草木はもちろん、積雪さえありません。と言ってもブリザードの中、すぐに地面には雪が積もり始めましたが。

「大丈夫よ。もう一匹もいないわ」「おい、さっきの爆発は一体何なんだ」

「軍用に開発された特殊爆弾よ。範囲は限定的でも、ご覧の通り、威力は絶大なの」

「そ、そんな物をどうして、お前が!」

「えっ! ……ああ、ガイル所長から貰ったのよ。こんな事態を予測して、念の為にってね」

「だが、どうしてそんな物をお前が扱えるんだ? 軍隊時代だって、オレたち何かには絶対に手にする事が出来無い代物の筈だ」パードは勢い込んで尋ねます。

「さぁね。人によるんじゃないの」レイラはそう言って、パードの追求をあっさりとかわしました。

「どうやら、今の爆発に驚いて逃げたみたいね。「雪狼」の姿は影も形も無くなったわ」

 レイラは話を切り替え、パードの後ろの方に視線を向けます。

「えっ! ああ、その様だな」パードは慌てて後ろを振り向き、「雪狼」の姿は消えている事を確認します。パードも爆発のせいで、今まで後方にいた「雪狼」の存在を忘れていたのです。


 二人は周りに「雪狼」の姿が無くなったので、ほっと一息つきます。ですが、その油断からレイラたちは自分たちのすぐ近くにある「危険」を見逃していました。自分たちの背後に生えている木々の間の、降り積もった雪の中には、獣特有の眼光が輝いていたのです。

「あれっ! ねぇ、パード。ガーネたちは?」

「えっ! しまった。つい、うっかりしていた。あいつら、まさか」

「急いで引き返さないと」

 レイラとパードが戻ろうとしたその時。

「グォー!」咆哮を上げ、レイラたちの背後から、雪の中に蹲っていた何頭かの「雪狼」が、飛び掛かって来たのです。

「こ、こいつら!」「し、しまった!」

 パードは自分がマシンガンを落としている事に気が付き、慌てます。レイラも安全装置を付けた状態でリュックサックに入れてしまっているので、対処出来ません。

 目の前に来た「雪狼」に思わず目を閉じてしまったパードに対し、レイラはそれでもカッと眼を光らせ「雪狼」をらみつけていました。

 後、僅かでパードたちがその牙の餌食になろうとした、その時。

 ダダダダダ! ダダダダダ! 

 マシンガンの銃声が聞こえた途端、レイラたちに襲い掛かろうとした「雪狼」はことごとく、射殺されたのです。

 レイラは弾丸が発射された方を振り向きます。積雪のその中には、マシンガンの銃口が覗いていたのです。

「ふぅーっ」一人の人間が積雪の中、身体に纏わり付いている雪を払いながら、立ち上がってきました。

「おっ、ガーネ!」「なんだ。ガーネだったのね」

 二人は安堵しながら、ガーネの元にやって来ます。

「レイラさん。借りは返しましたよ」「ええ、確かに」

「パードさん。じゃあ、これをお返します」「うん? ああ、そうか。オレのか」

 ガーネは手に持っていたマシンガンをパードに返しました。

「お二人さん。ここは「雪狼」の巣ですよ。この森を抜けるまでは安心出来ません。さぁ、急いでここから出て行きましょう」

 ガーネはレイラやパードと共に、森の中を無事に抜けて行ったのでした。


 森を出ると、駐車場が見え、そこには研究所の車が雪に埋もれた状態で待機しています。

パードが運転席近くの窓の雪を払い、トントンと叩くと、後部ドアが開きました。

「やれやれ、やっと帰ってきたか」ガイル所長が運転席から声を掛けると、「はい、目的のものはちゃんと採取出来ましたよ」とパードは鉱物が入った袋を見せます。

 そのパードを先頭に、レイラやガーネも次々と車の中へ入り、後部座席に座っていきます。

 ガイル所長は満足そうな様子で、車のドアを閉めます。

「こちらもだ。いい研究成果を手に入れる事が出来たよ」ガイル所長はそう言って、一路、研究所へと車を走らせました。

「ガイル所長が言っていた「研究成果」って何の事でしょうか?」

 ガイルは一緒に座っている二人に質問しますが、二人共、先程までとは打って変わったように口を噤んでしまい、何も説明して貰えませんでした。


 車の排気音だけが聞こえる、そんな沈黙している状態で、ガーネの右ポケットがモグモグと動き出します。

「あれっ、トラ。もう起きたんですか。向こうへ着いたら起こそうと思ったのに」

 ガーネがそう声を掛けるも、トラは不機嫌そうです。

「ト、トラ。ど、どうしたんですか?」

「ちょっとガーネ。あたしの身体を触ってみてよ」明らかに怒っている様です。

 ガーネが言われた通り、恐る恐るトラの身体を触ると、しっとりと濡れた感覚がガーネの指に伝わってきます。

「トラ。ひょっとしたら」

「ひょっとしなくても、びしょ濡れよ。ガーネ、何か知らないけれど、内ポケットに雪がたっぷり入ってて、それがこの車内の暖かさで解けてしまっているの」

「それはそれは。多分、私が雪の中に身を隠していた時に入ってしまったんですね。申し訳ありません」

 トラは謝るガーネへ、更に批難の言葉を続けます。

「それだけじゃないわよ。眠りに入ったかなと思った途端、ガンガンと響く音や、耳をつんざくような音をがなりたてられて、落ち着いて眠る事何か出来なかったわ。一体、どうしてくれるのよ!」

 トラが激しい剣幕で怒るのにも拘わらず、すべてが事実なので、何一つ言い返すことが出来ません。ガーネはうなだれるように「トラ、済みません済みません」を連発するだけでした。

 パードとレイラはそんなトラを羨ましそうに見つめます。

「本当にあんた、いい身分だな」「本当に」

 そんな二人にトラはカッと眼を見開いて怒りを露わにします。

「何言ってんのよ! 猫にとって食事と睡眠は生きていく上で何よりも重要なお仕事なのよ。あなた方、そんな事も判らないの!」

「どうもすみません」「ごめんなさい」

 トラに一喝され、二人は思わずしゅんとします。二人とも、まさか猫に怒られるなんて、思ってもみなかったのです。

 そんな中、会話に加わる事も無く、ガイル所長は必死の思いでハンドルを握り締めています。所長はデーター分析の為に運転席に居たのですが、実は、車の運転自体はそんなに得意では無かったのです。そこで帰りも運転はパードに任せるつもりだったのですが、何故か顔をぼこぼこにして、疲れ切った様子で戻ってきた彼に対し、それを言い出す事が出来ません。

 ガイル所長は、自分が運転が未熟だから代わってくれ、とも言えず、止む無くハンドルを握る事にしたのでした。

 そんな状況下でも天の采配か、車は事故を起こす事も無く無事に研究所に辿り着き、その駐車場に停める事が出来ました。

「やれやれ。やっとたどり着いたか」ガイル所長は心の底から安堵します。

 四人と一匹は暖かな車の中から、まだ暖房が入っていない寒い研究所の中へと入って行きました。

 パードとレイラはすぐに暖房を入れ、研究所内を暖めます。

「温度を高くし過ぎないようにね。プルートが活性化したらまずいわ」

「判ってるって」

 やがて、研究所内にあるスタッフルームでも暖がとれるようになり、レイラは温かなコーヒーを作ってそれを配りました。

 トラも車を出る際に、ガーネの内ポケットの中に避難していましたが、今は外に這い出しています。レイラから少し温めのお湯をカップに注いで貰って、それをペロペロと舐めています。

「ふぅー。やっと、人心地がついたな」とパードは安心したように言います。

 全員の身体が暖まった頃、ガーネはガイル所長の方を振り向きました。

「ところで、所長。これから私たちはどこに居れば」

「うん? ああ、そうか。もうカプセルの中に戻る必要は無いんだな」

 ガイル所長はそう言って、その部屋の壁に掛けてあった鍵の一組を、ガーネの方に放り投げます。

「ほら、受け取れ」

 ガーネは慌てて鍵を受け止め、その鍵を眺めます。

「ええと、これは」

「オレたちスタッフが寝泊まりする部屋の鍵だ。場所を案内するよ」

 パードはコーヒーを飲み終わると、ガーネたちを連れてその部屋を出て行きます。その階の一番奥に来たところで、パードはガーネに振り向きました。「ここだよ。ガーネ」

「失礼します」誰に言うとも無くそう呟きながら、ガーネは部屋の中に入って行きます。

そこには机と椅子、鏡台やベッド、そしてロッカーが一組あるだけでした。

「カプセルの部屋に比べると、随分狭しいところですね。大して綺麗でも無いし」

「本当ね。出掛けるまでに居た部屋とは雲泥の差だわ」トラも酷評です。

「仕方が無いだろう。あそこは細菌が外に漏れる事が無い様に造られた最新の隔離施設だ。オレたちが寝泊りするところ何て、こんなもん何だよ」

「そうだったんですか」ガーネとトラはため息をついて、がっかりしました。これなら、あのままの方がよかったかも。そんな風にも思えてきたのです。


第10話「ブリザード」⑤-1(終)


 今回のお話はトラ・オブ・ラビリンス第10話「ブリザード」⑤-1となります。

 第10話「ブリザード」後半が始まりました。


 あけましておめでとうございます。

 一ヶ月遅れですが、今年初の投稿という事で挨拶をしました。

 では、また会えることを祈って。


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