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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第10話「ブリザード」
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第10話「ブリザード」②-2

第10話「ブリザード」②-2


 その説明を終わった後、しばらくは無言の状態でしたが、やがて声が聞こえました。

「不思議だ。そんな事は信じられない。君は本当に我々にそれを信じろと言うのか?」

「信じてくれなどとは言いませんよ。私自身、他の人からこの説明を聞いたら、やはり変に思うでしょうからね。でも、この話は真実です。だからこれ以上の説明は出来ないのです」

「我々にはどうしても真実を話しているとは思えない。一体何を隠しているんだ。何故、そんな根も葉も無い作り話を、我々に聞かせる必要があるのだ」

「もし、この話が作り話ならば、もっと、もっともらしい話をこさえる事は幾らでも出来るでしょう。でも、あなた方は私たちを助けて頂いた恩人でもあります。だから真実をそのまま、お話しました。後それをどう受け止めるかはあなた方次第です。もうこれ以上、私が付け加える事は何もありません」ガーネは相手の出方を待つ事にしました。


 その後応答が途絶えましたが、しばらくすると、その部屋の中にさっきの三人組が現れました。ガーネは先程と同様、カプセル越しではありますが、面と向かって対話する事が出来るようになったのす。

 ガイル所長がマイクに出ました。

「実は君が今、装着しているその腕輪は、体温、血圧、脈拍などを含め、あらゆる身体状態を確認出来る装置なんだ。その結果は絶えず、データとしてこちらへ送られ、モニタリングする事が出来るようになっている。それは嘘発見器などにも応用出来るのだ。しかしながら、君が今喋った時のモニターグラフを見てみると、真実を話しているとの表示がなされている。

とても信じられないが、結果はこの通りだ。とりあえず君を信じる事にしよう」

「そうですか。信じて貰えてなによりです」

「さてと、それでは話を進めよう。まずは君たちの方からだ。我々に対して何か質問があるんじゃないかな。遠慮なく話して見たまえ」

「では、お伺いします。何故、私たちはこんな場所に監禁されているのですか? いつ出して貰えるのでしょうか?」

「よろしい。では、お話しよう。我々は広範囲で生命反応を捕らえる事が出来る装置を所有している。これまでこの近くでは何も反応が無かったのに、急に二つの反応が現れたのだ。一つは山小屋、もう一つはこの研究所近くでだ。

そこで探索したところ、山小屋にはそこにいる猫が眠っていた。また研究所近くには雪に埋もれて倒れていた君がいたのだ。だから双方とも回収し、ここに保護したと言う訳だ。特に君は肺炎を起こしかけていたのでね。急いでその部屋で治療を行っていたという訳だ」

「そうでしたか。それは有難うございます。でもそれなら、治療の必要があるのは私だけではありませんか? 何故、トラもここにいるのですか? 後何故、私たちはこんな腕輪や首輪を装着されなければならないのでしょうか?」

「うむ。それなんだが。実はここ数日の間に、この場所からある病原菌がこちらの不注意で外部に漏れてしまったのだ。その為、この区域は今、立ち入り禁止状態になっている。そこへ君たちがどうやってかは知らないが侵入して来た。だから慌てて回収し、この場所に隔離したという訳だ。君たちが装着している腕輪や首輪が何なのかは既に説明した筈だ。君たちが今それを装着しているのは他でもない、その病原菌に感染しているかどうかをチェックする為に必要だからだ」

 ガイル所長を含め、その三人は、自分たちの右腕をガーネの方に向けます。そこにはガーネと同じような腕輪が装着されていました。

「そうだったんですか。いや、やっと判りました。この場所にいなければならない理由も理解出来ましたよ。ところで、その感染の有無とやらはいつ判るのですか? また感染していたとして、ワクチンは既に完成しているのでしょうか?」

「感染は十二時間以上経たないと、その有無は判らない。また、そのワクチンを開発するのが目的で、我々はこうして今、研究しているのだ」

「ここで開発って、一体ここは何なのですか?」

「そうか、まだ言っていなかったな。ここは微生物研究所。細菌などの生物を分析、そのワクチンを開発する為に設けられた施設なんだ」

「そうだったんですか」

「では、詳細は今話した通りだ。君はその猫を説得して、ここに、後数時間留まっていてくれ。感染していない事が確認出来れば、すぐにここから出られる。後はどこでも好きなところに帰るがいい」

「もし、感染していたとしたら」

「我々がワクチンを完成するのを祈るしかない事になる。それが出来ない時は、君たちに待っているのは死だけだ」

「そんなに恐ろしい病原菌なんですか」

「そうだ。ほっておけば全人類を皆殺しにしかねない恐るべき病原菌だ。

 この病原菌に対し、我々は「プルート」と名付けた。

 我々のここでの目的はただ一つ、「プルート」に対抗するワクチンを造り出し、全人類をその脅威から救う事だ」ガイル所長は拳を握り締めながら、そう語ったのです。


 ガイル所長はその後引き続き、ガーネの質問を待っていたのですが、他に質問があるような様子では無さそうなので、自分から確認してみる事にしたのです。

「君の質問に関しては今話した通りだが、何か他に尋ねたい事はあるかね」

「いえ、とりあえず今は何も」

「それはよかった。では次はこちらから質問したいが構わないかな」

「えっ、あ、はい、どうぞどうぞ」

 ガイル所長は手元に、リュックサックと防寒服を置きました。

「君の傍らに寝ている猫が山小屋にいた時、その近くに、このリュックサックが置いてあった。また君がここに来た時、着ていたこの服。そのどちらもが、実は、この研究所にいた我々の仲間の物だったんだよ。一体、どうやって手に入れたんだね?」

「あなた方の? という事はアレンはあなたの助手だったんですか?」

「何! 何故、君はアレンの事を知っているんだ!」

 「アレン」の名前を聞いた途端、ガイル所長の顔から今までのような、温和な表情が消え、幾らか気色ばんだものとなっていました。

 その後ろにいる助手たちも明らかに、動揺しているようです。特に、パードと呼ばれている助手の顔には、他の者以上に表情の変化が色濃く出ているのを、ガーネは見逃しませんでした。

「簡単な事です。そのリュックサックに付いているネームプレートに、その名が刻まれていましたから」

「何? ネームプレートだと?」ガイル所長は、リュックサックにぶら下がっているネームプレートを見つけ、その名前を確認します。

「そうか、そうだったか」

 ガーネは、そう呟いているガイル所長やレイラが、ついさっきまでとは打って変わって、安心したような表情を浮かべている事に気が付きました。ただ、その中でパードだけが何か、がっかりしたような、そんな感じを受けたのです。

「私とトラがあの非難小屋の地下室を探ったところ、それがあったのですよ。中に地図や非常食、そしてその防寒服があったので助かりました」

「あの非難小屋の地下室に…… なるほど、あそこにあったのか」

 ガイル所長は合点がいったように頷きます。

「で、アレン自身には会ったのかね。また他に見つけたものは?」

「何も無かったわよ」トラが起き出しました。

「あっ、トラ、起きたんですか。お早うございます」

「ちょっと眠ったんだけどね。何かうるさくて起きちゃったのよ」

「それは済みません。お互いにいろいろと聞きたいことがあったもので」

「まぁ、いいわ。それでそのリュックサックの事でしょう。緊急避難用の物ばかりだったわ。非常食なんかがあったから、あたしたちにはとても有り難かったけどね。後は特に気を引くようなものは何も入っていなかったわよ。それにアレンって人もいなかったわ」

「本当かね、ガーネ君」「ええ、トラの言う通りです」

「あら、あたしの言う事、信用しないつもり? ぷんぷん」

「トラさん、ここはちょっと穏便に。状況が状況ですし」「判ったわよ」

「ガイル所長。そのアレンって言う人の事なんですが。何か、お心当たりはありますか」

「うん? ああ、アレンはワタシの助手で、ここに勤務していた。だが、数ヶ月前から不意に姿を消していたので心配していたんだ。車が一台無くなっている事から、どこかへ出掛けたと思うんだが、君も知っている通り、ここはほとんど一日中、ブリザードが吹き荒れている。どこに行ったのか、皆目見当も付かない。また、こんな状況では探し出そうにも、ままならかったんだ」

「で、その後、捜索はどうなっているのでしょうか?」

「時折、研究の合間を見ては捜索しているのだが、何せ、このブリザードだからな。捜索範囲は狭められてしまっているんだ」

「外部へ救助の要請は?」

「あるいは麓まで既に降りているのかも知れん。怪我の為、病院に入院しているが、何等かの理由で連絡が取れないって事もある。もうしばらく経って、何の連絡も無いようであれば、要請するつもりだ」

「でも、既に数ヶ月も経っているんですよね。リュックサックも見つかったし、ひょっとすると、事故を起こして、車ごと雪の中で埋もれている可能性があります。手遅れかも知れませんが、直ちに要請すべきじゃないでしょうか?」

「そうだな、考えておこう。だが、アレンに関してはこちらもいろいろとやっている。外部者である君が、わざわざ心配する必要は無い」

 ガイル所長はそう言ってアレンに関するガーネの質問を打ち切らせます。

 その後、ガイル所長は何やら考え込んでいましたが、問題無いと思ったのか、それで質問は終わりました。


 それでは、またしばらくしたら会おう、と、ガイル所長と助手のレイラは部屋の外に出て行きました。後に残った助手のパードは、ガイル所長がさっきまで座っていた椅子に腰掛け、装置の点検にかかっています。

「あのぉー、すみません」ガーネはマイク越しにパードに話し掛けます。

「うん? 何だ?」

「忙しいところ済みません。もし暇が出来ましたら、少しお伺いしたい事があるんですが」

「ああ、そうなんだ。オレでいいなら、後しばらくしたら伺うよ」

 それから少しの間、パードは装置にかかりっきりでしたが、まもなく点検も終わったのか、ガーネに声を掛けます。

「ガーネ、いいよ。何でもどうぞ」

「この研究所の事なんですが、何でこんなところにあるのですか。不便でしょうに。もっとも、そのおかげで私たちは助かったんですけれどね」

「ああ、確かに不便だな」パードは笑いながら、話を続けます。

「でも細菌の中には、寒さの中ではその増殖活動を抑えるものが結構あるんだよ。だから万が一の事も考えて、ここに建てられているという訳さ。特に今回のケースでは、ここで作業するのが一番無難という事で選ばれたらしい」

「その今回のケースについてなんですが…… そのプルートっていうのは、どこで発生したのですか?」

「発生自体はここからだいぶ離れた熱帯の方だよ。だが……」

「だが、何です?」

「いや、それ以上はちょっと説明出来ないんだ。君たちは外部者だし、それに身分も不詳とくるからね」

「判りました。無理強いするつもりはありません。でももう1つ、気になることがあるんですが」

「ふーん、で、それは何だい?」

「先程、アレンの話をした時、あなたは他の誰よりも、驚愕の表情を露わにしていました。ひょっとしたら、アレンさんって言う人とあなたとは何か特別な関係でもあるんですか?」

 ガーネのその問いに、パードは一瞬、ギョッとした顔つきになりましたが、しばらくすると、また落ち着いた様子に戻りました。

「別に…… それはガーネの気のせいだよ」

「そうですか。多分、私の勘違いだったんでしょう。いや、済みませんでした」

 ガーネの言葉を受けて、パードは席を立ちます。

「じゃあ、オレはこれで自分の席に戻るから。何かあればマイクで知らせてくれればいい。多分、いつでも誰か一人はいる筈だから」

「判りました。では、そうしましょう。いろいろな質問に応えて頂いて、有難うございました」

 パードはガーネの言葉に軽く会釈をして、その部屋を出て行きました。


 ガイル所長たちがいなくなった後、ガーネはトラにガイル所長たちとの話の内容を、最初から話しました。

 トラはいちいち頷きながら聞いていましたが、最後のアレンの話になったところで、首をかしげます。

「ねぇ、ガーネ。何か……」

 トラが何かを言おうとした時、ガーネは口元に人差し指を立てました。

「トラ、ちょっと洗面所に行きましょう」

「えっ、でも、歯はさっき磨いたばかりよ」

「まぁ、いいじゃないですか」

 ガーネはトラを洗面所に連れて行きます。そのドアを閉めた後、トラの近くに接近して小さい声で話を始めました。

「トラ、これくらいの声で聞こえます?」

「うん、聞こえるけど。一体どうしたの? ガーネ」

「多分なんですが、あの部屋は盗聴されていますね。ここもそうかも知れませんが。カメラも付いているし、プライバシーは守られそうもありません」

「微生物研究所だって言うし、細菌も扱っているって言うから、ひょっとしたら、外部には機密にしておかなければならない事もあるのかもね。だから、それくらいの設備はあってもおかしくはないんじゃない。でも、それがどうしたの? 何かあの人たちに知られたくない事でもあるの?」

「はい。さっき、パードって言う人が何か言い淀んでいたのをトラも見ていましたね。あれをどう思います?」

「うーん。細菌の説明に関してなら、部外者に話せないって言うのは判るわね。それに専門的な話なら、あたしたちが聞いても手に負えないし」

「それはそうですね」ガーネは苦笑いをしました。

「でも、アレンの事を尋ねた時には、パードの様子はおかしかったような気がするわ」

「ええ、明らかに動揺していました。あれは確かに自分以外の者に対して、知られたく無いみたいな感じでしたね。そう言えばアレンに関しては、他の者も何だか妙な反応をしていましたよ」

「調べてみたいわね。でもここじゃあ、何も出来ないわ。 お手上げよ」

「そうですね。やるとしても、検査結果が出て、感染が無い事を確認してからでいいでしょう。じゃあ、それまでは」

「それまでは?」「一眠りしましょう。起きているだけ無駄です」

「ガーネ」「何です? トラ」

「何だか、あなたもだんだんあたしに似てきたみたい。猫になる日も近いのかもね」

「じゃあ、私が猫になったら、一緒にねずみでも捕まえましょうか?」

「何言っているのよ。あたしがねずみが怖いって知っているくせに。本当に意地悪ね」

「ハハハハハ。済みません、トラ。でも、冗談は抜きにして一眠りしませんか?」

「そうね、それがいいわね」

 ガーネとトラは洗面所を出てベッドに転がると、しばらくの間、ぼーっとしていましたが、やがて、うつらうつらし始め、深い眠りへと落ちたのです。


 それから更に時間が過ぎました。別室では、ガーネとトラの様子を観察している、レイラとパードの姿があります。

 ガーネの腕輪とトラの首輪には、微量ながらも特殊な電流と放射線を、装着者の体内に流す機能が装備されており、これらは遠隔操作によってコントロールされています。

 二人はこの機能を利用して、絶えずガーネたちの様子を確認していたのです。

 パードのモニターには、ガーネたちの身体状況をグラフ化しているものが表示されています。

「どうだ、その後は?」ガイル所長はパードに声を掛けます。「別に何もありません。この表示を見ても判る通り、どちらも熟睡状態になっています」

「それで、あれはどうなっているのか?」

 今度はレイラの見ているモニターに近づき、尋ねます。

 レイラのモニターには、体内の一部をスキャンされた映像が表示されています。

「正常ですね。何のトラブルも無いようです」

「そうか。では今から数時間後、次の段階に移るとしよう。二人共、これからがこの研究の正念場だ。しっかりと頼むぞ」

「はい、判りました」二人は同時に答えました。


 レイラの見ているモニターには何かが、ゆっくりと蠢いていました。


第10話「ブリザード」②-2(終)


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