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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第10話「ブリザード」
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第10話「ブリザード」②-1

第10話「ブリザード」②-1


 ガーネは目を覚ましました。

 寝ぼけ眼で天井を見ながら、しばらくの間ぼんやりとしていましたが、それでも時間が経つにつれて次第に意識がはっきりしてきます。

「あーっ、あっと」ガーネは両腕を上げて、欠伸をしました。

 その後、ガーネは右手のくるぶし辺りに、何か金属製の腕輪が装着されているのに気が付きます。

 「これは何なのでしょう。それにここは一体?」

 ガーネは周囲を見回して、自分が病院の一室みたいな場所にいる事が判りました。しかも、その部屋の大部分を占めている巨大な透明カプセルの中に閉じ込められ、その中に置かれてあるベッドの上に横たわっていたのです。

 ガーネは起き上がり、ベッドを椅子代わりに腰掛けます。そのベッドの隣にはもう1つベッドが用意されていました。

「誰かいるのでしょうか?」そう思って、ガーネは隣のベッドを覗き込みます。

スースースー スースースー 眠りこけている一匹の猫がいました。その猫の首にも金属製の首輪が装着されています。

 ガーネは幸せそうに眠っている、手のひらタイプの小さな猫に見覚えがあります。

「トラさん、トラさん」ガーネはトラを起こそうと、声を掛けます。

「ううん、もっと食べないと」何か夢をみているみたいです。何か起こすのも悪いと思い、そのままにしておきました。


 ガーネはそのカプセル内部にあるドアの一つへ歩いて行き、ノブを回してドアを開けようとしますが、びくともしません。

「誰かいますか? ここから出してください!」

 ガーネはドアを叩きながら、声を上げます。すると、その声を聞きつけたのか、カプセル内に別な声が響き渡りました。

「どうやら、目が覚めたようだね。今、そちらに行くので、待っていてくれるか?」

 人がいるようですね。ガーネは安心しました。

 声が知らせたように、その後まもなくその部屋に三人程、白衣に身を包んだ、医者のような感じを思わせる人たちが入って来ました。

 その中でリーダーであろうと思われる人物が、カプセルの外側からマイクを使用して、その中にいるガーネに話し掛け始めました。

「ワタシの名はガイル。この研究所の所長だ。後の二人はワタシの助手で、レイラとパードだ」「アタシがレイラ。よろしくね」「オレがパードだ。仲良くやろう」

 三人の挨拶を受けて、ガーネも名乗ろうとしたところ、音がうるさかったのか、隣のベッドからトラがのそのそと這い出してきます。


 トラは隣のベッドにいる人の姿を見つけた途端、思いっ切り飛び付いてきました。

「ガーネ、ガーネ。一体何をしていたのよ! いつまで経っても戻ってこないし、ブリザードは相変わらず吹き荒れているから、あたし、とても不安だったのよ。ストーブの火も消えかかったから、毛布に包まって寝る事しか出来なかったわ」

「それでいいんですよ。それが正解です。でも、いたずらに不安を募らせた事は悪かったと思います。その点は謝らなくちゃいけませんね。どうかこの通り。ごめんなさい」

 ガーネはトラに丁重に手を合わせ、謝ります。

「まぁ、いいわ。お互い無事にこうして会えたんだしね。でも、ガーネ。その腕に付いているぴかぴか光っている物は何なの? こんな場所でどうやって手に入れたの?」トラはキラリと光る腕輪を見つめています。

「いや、実はトラにも同じような物が首に付いているんですよ。気が付きませんでしたか?」

「えっ!」トラは自分の首筋に前足を当て、何かが付いている事を確認します。

「いや、何よ。これ」トラは転げまわりながら、首輪を何とか取ろうと悪戦苦闘しますが、取る事が出来ません。

「ねぇ、ガーネ。早くこれを取ってよ。あたし、こう言うの、大っ嫌いなの」

「まぁ、待ってください。それが一体何なのか、あの人たちに聞かないと」

「あの人たちって?」トラはその時、初めて自分が異様な場所にいる事に気が付きます。

「何よこの変なとこ。それにあそこにいる変な人たちは何なの?」

「それをこれから聞こうとしたところ、あなたが起きてきたんですよ」


 ガーネがトラとそんな話をしていると、カプセルの外側から声が聞こえてきます。

「そちらで猫と内輪もめをするのも結構だが、こちらとの対話も早くしてもらいたいな」

 ガイル所長は蚊帳の外に置かれているのに、我慢がならなくなったようです。ガーネに対話の続きを要求しました。

「どうも済みません。では、改めて自己紹介させて頂きます。私の名前はガーネ、この猫の名前はトラと言います。どちらも迷宮の旅人で、この度、この世界に入ってきました。どうぞ、お見知りおきを」ガーネはそう挨拶をした後、頭を下げました。

「あら、あたしは旅猫よ。人じゃないわ」トラが訂正します。

「ああ、そうでしたね。どうも済みません。ごめんなさい」

「いいのよ、判れば。うるさい事は言いたくないし」

「それはそれは。どうも有難うございます」

 再び、ガイル所長から声が聞こえてきます。

「済まないが先程も言ったように、内輪での話し合いはしばらく遠慮してくれないか? 話が全然進まないのでね」

「ほら、御覧なさい。トラのせいで怒られちゃったじゃないですか。人との出会いは最初が肝心だって言うのに、悪い印象を持たせてしまいましたよ。一体どうしてくれるんです」

「あら、あたしのせいにするのね。まぁ、あたしは寛大な猫だからどうでもいい事だけれど。でも何、このガイルって人。何か威張りくさっていない。あたしたちを上から目線で見ているみたいね。このカプセルから出たら引っ掻いてやろうかしら」

「それはいい考えですね。私もそれに賛成です」

 ブチッ! 何故かいきなり、外との通信が途絶えます。

「あのぉ、もしもし、もしもし」

 ガーネの呼ぶ声も空しく、ガイル所長はマイクをオフにして、その部屋からいなくなります。助手の二人も慌てて、その後を追うようにいなくなりました。

「何かあったんでしょうかね」「さぁ、ひょっとしたら食事じゃないかしら」

「食事ですか。迷宮から来た後、非常食しか食べていませんからね。何か美味しい物が出るといいのですが」

「そうね。期待しましょうよ」

 ガーネたちは食事を持ってくるのを楽しみに待っています。ですが、幾ら待っても食事が現れる気配がありません。

「一体どうしたのかしら。こんなに待っているって言うのに」

「忘れたんじゃないでしょうか。マイクで呼んでみましょう」

 ガーネはマイクに向かって喋り出します。

「もしもし。まだ食事を貰っていないんですが。早くお願いします」

 相手から連絡が入ります。

「ガーネだな。こちらはパード。食事って言われてもねぇ…… 先程済ませたばかりで、まだまだ先の話になると思うんだが。ああ、ガイル所長。ガーネたちが、食事が欲しいって」

 ブチッ! 外との通信がまた途絶えます。

「あれ、また切れましたね。壊れやすくて困ったものです」

「新しい建物だと思ったけど、見かけ倒しね」

 ガーネとトラは、ため息をつきます。


「じゃあ、食事が来るまでどうしますか?」

「寝ているか、このカプセルを壊して外に出るかね。大体何であたしたち、ここにいるの?」

「知りません。そう言えばここの事や、何故私たちがここにいるか、何も聞いていませんでしたね。それを聞く前に、向こうにあるマイクの音が聞こえなくなったんですよ」

「そうだったわね。このまま眠りに着くのもいいけど、出来れば暴れたいな。このカプセルを壊してみましょうよ」「了解です」

 カプセルの中であるものと言ったら、ベッドと医療器具を置いてある机ぐらいです。ベッド台の上に乗っかっているものを全てどけた後、その台に手をかけました。

「うーん」

 唸り声を上げながら、ベッドを持ち上げようとしたのですが、持ち上がりません。

「駄目です。全然動きませんよ。他にはこの机だけですね」

 机の上にある医療器具らしき物をどけた後、その机を持ち上げました。

「行きますよぉ!」ガーネは力一杯、その机をカプセルにぶつけます。

 しかし、カプセルが壊れる事はありませんでした。また弾力がある素材で出来ているらしく、物音もごく僅かです。

「駄目ですね。これじゃあ、自分の肉体をぶつけてみても変わらないでしょう」

「困ったものね。本当にどうしたらいいか…… そうだ、この変な首輪や腕輪を使ったら」

「それはいい考えですね。早速、やってみましょう」

 ガンガン! ガーネはその腕輪をカプセルに打ち続けました。すると。

「待て。止めろ。すぐに止めるんだ」再びガイル所長の声が聞こえてきます。

「どうやら、また直ったようですね。やれやれです」「本当ね。努力は無駄では無かったわ」

 ガーネとトラは自分たちの叡智を褒め称えます。

「判った。話し合いを再開しょうじゃないか」とガイル所長。

「あれっ、少しは物判りが良くなったような言い方じゃない。ほっとしたわ」

「ええ、やった事は正解でした」

 ガーネとトラは早速、お願いをする事にします。

「何で私たちがここにいるのかは知りませんが、早くここから出して下さい。後、お腹が空いていますので食事の用意もお願いしますね。

 じゃあ、まず最初にここのドアを開けて下さい。」

 ガーネたちが、これでやっと出られると思ったのも束の間、ガイル所長はその願いを拒否します。

「駄目だ。君たちをここから出すわけには行かない」

「だって。じゃあ、ガーネ」「判りました」

 ガンガン! ガーネは腕輪壊しを始めます。さすがに、これにはガイル所長も困ったようです。

「判った判った。出来るだけ、言う通りにしよう。だが、このカプセルから出るのは少し待ってくれないか? 理由はちゃんと話すから」

「ですって。トラ、どうします?」

「うーん。そうね、とりあえず理由ぐらいは聞いてあげてもいいわね」

「では、決まりです。でも、それより先に食事をしたいんですが」

「もちろんよ。お腹ぺこぺこだもの」

 ガーネはマイクに向かって、食事を要請します。

「判った。すぐに君たちの食事をその中に差し入れよう」


 しばらくすると、ビーッと音が鳴り、カプセル内部にあるランプが二つ点灯します。そのランプの下には各々シャッターが取り付けられており、下の方には取っ手らしきものが付いています。ガーネがその取っ手を手に持って、上に引き上げてみると、中にはトレイに入ったお食事が用意されていました。もう一つのシャッターを開けてみると、その中にもトレイが置かれてあり、猫が食べ易いようなお皿二つに、飲み物と食べ物が入っていたのです。

「トラ、お食事ですよ」「わーい」ガーネとトラは久しぶりの食事に大喜びです。ですが、早速食べてみようと顔を近づけた途端、ガーネとトラは自分たちの期待が脆くも崩れ去った事を理解したのです。

「ええっ!」「何だ。これなの!」ガーネとトラは心の底からがっかりしました。出された食べ物は、あの非常食を砕いて柔らかくしたような物です。飲み物もただのお湯に塩が少し入っただけのものである事を知りました。

「何でこんなものしかないのよ! ぷんぷん!」トラが怒ります。

「残念だが、ここで用意出来る食事はそれだけだ。我々も毎日朝と夕方にそれを食べている。調味料を加えて味を少し変えてはいるがな。それでも栄養バランスがいい。安心して食べれる食事だ」

「だそうですよ、トラ。ここではそれしか食べられないみたいですね。と言っても何も食べないよりはましだと思います。頂きましょうよ。絶対に食べられない味って訳でも無いじゃないですか」

 ガーネはそう言ってスプーンで食事を始めます。トラもそれを見て抗議するのを諦めたのか、大人しく食べ物を口に入れ始めます。

「まぁ、安心出来る味と言えば味ですね」「でも、毎回これを食べるのは苦痛だわ」

ガーネとトラは愚痴をこぼしながらも、お皿の食べ物を全て食べ尽くします。その後、その食器はシャッターの中に戻しました。

 ガーネはベッドから離れて、カプセル内にあるドアへと向かいます。、そのドアは先程開けられなかった、入り口に通じるドアとは別のドアです。今度はノブが回り、ドアが開きました。

「なるほど。こちらには水周りの設備があるんですね。おトイレと洗面所と、後シャワー室もあります。洗面所には…… おお、歯磨きセットが。これはいい。トラ、では早速、歯磨きを」

「ガーネ。歯磨きセットを見たぐらいで、何でそんなに大喜びを」「だってだって」

 久しぶり旧友に会えたかのような感動に、打ち震えながら、涙ぐんでいるガーネ。

「これが日常と言うものですよ。さぁ、早く早く」ガーネはトラに手招きをします。

「やれやれ」トラはガーネと洗面所に行き、歯磨きをして貰いました。


 おトイレも済み、とりあえず一休みしようとベッドに転がった時、声が聞こえて来ます。

「では、いいかね。話し合いを再開したいのだが」

「ああ、その件がまだ残っていましたね。いいでしょう。こちらも伺いたい事がありますし。では、先にお話を伺いましょう。トラも異存ありませんね」

「うるさくしなければいいわ…… スースースー」

「あれ、眠ってしまったようですね。仕方がありません。私だけでもお話を伺いましょう。では、先にどうぞ」ガーネはガイル所長に話を促しました。

「君が先程言った自己紹介について、少し質問があるのだが」

「どうぞどうぞ。何でも聞いて下さい」

「迷宮から来たなどと言っていたが、それはどこの国の事かね」

「いいえ、国ではありません。そういう世界があるのです」

 ガーネは迷宮がこの世界とは違う空間にある事、そこは道や階段のみが存在する空間である事などを説明します。また自分たちがどうやって迷宮に来たか、あるいは自分たちが何者であるかを判らない事なども話したのです。


第10話「ブリザード」②-1(終)


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