第3話「トラ、登場。」
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第3話「トラ、登場。」のお話です。
この回では、砂塵が吹き荒れ、竜巻が発生する世界に行きます。
そこで、ガーネは、相方となる猫のトラと出会います。
第3話「トラ、登場。」
ガーネは、迷宮の道を、ひたすら歩いていました。
周りを見回しても、あるのは、多くの道と階段。それだけでした。
それ以外は、暗闇だけが広がっていました。
ガーネは、道の左右を見回しました。まだドアは現れていません。
ため息を1つ、ついた後、また歩き出しました。
どれくらい時間が経ったでしょうか。
目の前の道が、らせん階段へとつながっていました。
「今度は、らせん階段ですか。」
ガーネは、階段を上がって行きました。
文字通り、らせん状の階段をぐるりぐるりと、上へ上って行きました。
ガーネは立ち止まりました。
このらせん階段は、段と段との間に、空間があります。
今、ガーネの目の前には、その間の空間が、自分の身長以上にあったのです。
「これじゃあ、ジャンプしても、手が届くかどうか判りませんね。」
とはいっても、今来た道を引き返す気には、なりませんでした。
前の分岐点は、ここからかなり遠くでした。
そこから、ここまでの間、ドアを1つも見かけませんでした。
何も無いところを、永遠と時間をかけて戻るのは、嫌だったのです。
「仕方がありません。」
上に伸びている、らせん階段なので、助走をつけて飛ぶ事は、出来ません。
ガーネは、今いる段から、思い切って、ジャンプしました。
「とおっ。」
何とか、右手が、上の段に手をかける事が、出来ました。
ですが、体は、宙ぶらりんの状態になってしまいました。
ガーネは、下を見下ろしました。
暗黒の闇が、口を開けているだけでした。
左手もなんとか、上の段に届かせようと、もがき続けました。
しかし、時間ばかりが、過ぎていきました。
そのうち、右手も、自分の体を、支え切れなくなってしましました。
そして、ついに。
「ウワァーッ。」ガーネは奈落の底に、落ちていきました。
ガーネは、目を覚ましました。
ガーネは、自分が路上で倒れているのに、気が付きました。
「私は、らせん階段から落ちた筈だ。何故、ここにいるのでしょう。」
ガーネは、起き上がりました。
念のため、確認してみましたが、どこも痛いところはありませんでした。
真上を見ました。そこにも、幾つもの道があるだけでした。
「本当に、不思議な所ですね。」
ガーネは進もうとしました。そしてふと、右の方を見ました。
「ドアがあります!!」暗黒の闇が広がるその空間に、ドアが現れていました。
話には、聞いていましたが、実際にそのドアを見るのは、初めてでした。
ガーネは、生唾をのみこみました。
「行きましょう。」
ガーネは、ドアを開きました。
ドアの向こうには、明るい世界がありました。
中に入ると、ドアは、ひとりでに閉まってしまいました。
「これが、別世界というわけですか。」
ガーネは、入って来たドアの方を振り向きました。
「!。」もう、そこにはドアは、影も形もありませんでした。
「とにかく、進むしかありませんね。」
ガーネは、そう思い、目の前の未知なる世界へと、歩み出したのでした。
ヒュー。薄茶色の砂塵が、吹き荒れていました。
ドアから出て、数歩しか歩いていません。
でも、目をかばいながら歩かないと、砂塵に目がやられてしまいそうでした。
「何なのです。この世界は。」ガーネは、ぼやきながら歩きました。
しばらくすると、街が見えてきました。
「助かりました。」
街に到着した、ガーネは唖然としてしましました。
その街は、荒れ果てていました。
街の名前を示す看板は、外れかかっており、その字も読む事は出来ませんでした。
街に入る門をくぐりました。
人っ子1人、見かける事が出来ません。
街並みを歩いて行きました。
全ての建物がゴーストタウンのように、灯りは無く、人の気配がありません。
しばらく歩いて行くと、目の前に教会が現れました。
砂塵は、ひどくなる一方でした。とても目を開けてはいられません。
教会に駆け寄り、ドアをノックしてみました。
しかし、何の応答もありません。
ガーネは、ドアを開こうとしましたが、かなり重いドアです。
ドアのノブを回した後、両手で押してみました。
ガチャ。重々しい音をたてて、ドアは開かれました。
「こんにちわ。」ガーネは大きい声で、叫んでみました。
ですが、誰も、出てきませんでした。
「入りますよ。」そう言って、ガーネは中に入りました。
ドアは、その重みですぐに、閉じてしまいました。
ガーネは、目に何か入ったみたいだったので、目をしばたたかせていました。
何とか、ごみは取れたみたいです。あらためて、教会の中を見回しました。
そこは、礼拝堂でした。
その中にある長椅子の一つに、腰をかけました。
「やれやれ、ひどい砂嵐でした。
それにしても、この街の人は、一体どうしたんでしょうか。」
ガーネは、休憩を少しとった後、中を探検してみました。
礼拝堂の奥には、ドアがあり、それを開けてみました。
狭い通路がありました。その両端に、部屋があります。
執務室や応接室、台所やお風呂場、洗面所やおトイレなどがありました。
「なるほどね。礼拝堂以外は、普通の家とそれほど変わらないんですね。」
どの部屋にも、人影はありませんでした。
「誰もいないようですね。ではしばらくここに、居させてもらいましょう。」
表では、まだ砂塵が渦巻いていました。
とても、外に行く状況ではありません。
その教会に逗留する事にしました。
ガーネは、礼拝堂に戻ろうとしましたが、お腹が空いている事に気が付きました。
迷宮では、絶対感じなかった感覚でした。
「ドアの中では、普通に戻るというわけですね。」
ガーネは納得しました。
台所に行ってみました。肉や魚の缶詰めが、幾つか見つかりました。
冷蔵庫も開けました。しかし、電気は流れていないようでした。
中には、お茶とお水らしきものが、入っている缶がありました。
「安心しました。
缶詰めとはいえ、どれも食べられそうなものばかりです。
では、食事にするとしますか。」
ガーネは、大喜びでした。
缶切りやコップ、そしてお皿やフォークも見つかりました。
それらを抱えて、礼拝堂に戻って来ました。
お皿に、缶詰めの開けて、その中身を出しました。
コップには、お茶を注ぎました。
飲んでみると、苦い味がしました。でも、飲めない事はありませんでした。
フォークで、魚を刺して食べてみました。腐ってはいないようでした。
さらに、食べようとした時、「ゴトゴトッ。」物音が聞こえました。
「何でしょう。」ガーネは辺りを見回しました。誰もいません。
長椅子の下をのぞいてみました。
すると、何かが、速いスピードで、走り去っているのが見えました。
ガーネは、それを追いかけて礼拝堂中を駆け回りました。
でも、捕まえる事が出来ませんでした。
がっかりするやら、疲れるやらで、ガーネは、元の場所に戻って来ました。
すると、そこには小さい猫がいました。夢中で、お皿の魚を食べていました。
「あなたは誰です。」ガーネは、思わず言葉を叫んでいました。
すると、思いがけない事が起こりました。
その猫は、食べるのを止めて、ガーネの方を振り向きました。
そして、人の言葉を喋ったのです。
「あたしの名前は、トラ。あなたこそ誰なの?」
「この世界の猫は、喋るのですね。」ガーネは、驚きました。
「何を言っているの。この世界で、生き物なんて、見た事が無いわ。」
トラは、不機嫌そうに言いました。
「それは、すみませんでした。
ここに来て、まだ間もないものですから、ついそう思ってしまいました。」
ガーネは、トラと名乗っているその猫に、まさかと思いながら聞いてみました。
「私の名はガーネと言います。迷宮から来た人間です。
ひょっとしたら、あなたも迷宮から来たのではありませんか。」
それを聞いた、猫は驚いたようでした。
「あなたの言う、迷宮というのは、道と階段しかない世界の事かしら。」
「そうです。」
「それなら、確かにあたしはそこから来たの。まさか、あなたも?」
ガーネはうなずきました。
「もっと、話をしたいけど、その前に、これを食べてからでもいいかしら。」
「もちろんです。ゆっくり食べてください。」
その猫は、お皿の魚を食べ終えると、ガーネのそばに来ました。
そして、その傍らに座りました。
「あらためて、名前を名乗るわ。あたしの名前はトラって言うの。」
「私は、ガーネ。よろしく。」
そう言って、ガーネは頭を下げました。
「まだ、お腹が空いているの?」ガーネはトラに言いました。
「ええ、少し。」控え目な口調で、トラは言いました。
「それなら、食べ物を持ってきてあげます。ここで待ってて下さい。」
ガーネは、そう言って、台所の方に向かいました。
やがて、ガーネが戻って来ました。
ガーネは、数枚のお皿と食べ物を持って来ました。
お皿に、缶詰の中身を出しました。
冷蔵庫にあった、飲み物も持ってきていました。
試しに飲んでみると、ミネラルウォーターのようでした。
別のお皿には、この水も注ぎました。
そして、これらのお皿を、トラに差し出しました。
「どうぞ、食べてください。
ミルクは無いみたいでした。水で我慢してください。」
ガーネはトラに言いました。
「あ、有難う。」トラは、少し意外そうでした。
最初は、出されていた食事を、遠慮がちに食べていました。
でも、すぐにガツガツと食べ始めました。
「では、私も食べましょうか。」
ガーネは、トラと食事を楽しみました。
「缶詰だったけど、結構美味しかったわ。」
トラはガーネに対する警戒心を解いたようでした。
ガーネは、言いました。
「ここには、どれくらいいるのですか?」
「あなたがここに来る、数時間ぐらい前だと思うわ。
あたし、あなたがここに入って来たところを、見ていたもの。
その頃は、こんなに砂塵は激しく無かったの。
この街のあちらこちらを、走り回っていたわ。」
「私がここに来たときは、もう、砂塵が吹き荒れていて、大変でした。
ここにたどり着くまでに、街の中を通りましたが、ひと気もありませんでした。」
「それだけじゃ、無いわ。」トラは言いました。
「街のあちらこちらで、家が破壊されていたの。」
「破壊ですか?」
「ええ、それも全壊。木っ端微塵よ。
でも、不思議なの。
この街の人家は、同じくらいの間隔毎に、建てられていたわ。
それなのに、被害に遭っているのは、限られているの。
全壊した家の両隣の家は、無傷で残っていたりしていたわ。
まるで、何か大きなものが、その通り道にある家を、次々と壊していった。
そんな感じだったわ。」
「そうなんですか。他には何か、気が付いた事はありましたか。」
「壊されていた家の跡は、それほど砂が溜まっていなかったの。
それに引き換え、両隣の家は、砂塵に埋もれていたわ。
あたしが気が付いたのは、そのくらいね。」
トラの話が終わると、ガーネは、考え込んでいました。
礼拝堂は静かでした。外の風が激しいせいでしょうか。
窓ガラスに、砂塵がぶつかる音が、やたらと響いていました。
「もしかしたら。」ガーネは立ち上がりました。
ガーネは、礼拝堂の真ん中に、長椅子で四角に囲みました。
その上に、長椅子を上向けに並べました。
「何なの。これ。」トラは尋ねました。
「簡易シェルターですよ。」
「簡易シェルターって?」
「災害があった時、一時的に身を守る場所ですよ。
さて、他の部屋ももう一度、見てみましょうか。」
ガーネは、そう言って、礼拝堂の奥のドアに向かいました。
「待って。私も行くわ。」トラも、ガーネの後を追いました。
ガーネは、各部屋の床を調べていました。
最後に、台所に入りました。
テーブルをどけると、床に四角い仕切りがありました。
取っ手の様なものがあり、引き出して開けて見ました。
そこには、真っ暗な空間がありました。
ガーネは、灯りを探す事にしました。
台所には無かったので、他の部屋を探しました。
執務室に、ローソクランプがありました。
近くにあった、マッチに火をつけ、ローソクに灯りをともしました。
それを持って、先ほどの場所に戻りました。
暗い空間に、その灯りを入れました。
その中が、灯り色に染まり、ほんのりと明るくなりました。
「ここは、なんなの?」トラが尋ねました。
「地下室みたいですね。」ガーネはそう言いました。
「この仕切りは、地下室へ続くハッチだったんですね。」
そして、取り付けられてある階段を、降りていきました。
ガーネも付いていきました。
そこには、棚が幾つもありました。
缶詰や、飲料用の瓶がありました。
その他にも、ロープや大工用品などがいろいろとありました。
辺りを一通り、見回した後、ガーネは言いました。
「狭いですが、一時的に避難するのであれば、これで十分でしょう。」
「避難って、どういう事なの?」
「勘違いって事もありますけれどね。」
ガーネはそう言いながら、その地下室を出て行きました。
ガーネとトラは、礼拝堂に戻りました。
ガーネは、長いすに腰掛けました。
トラも、その隣に座りました。そして考え込んでいるガーネに尋ねました。
「ねぇ、どういう事なの?」
「えっ、ああ御免なさいね。
ちょっと、考え事をしていました。
実は、さっきトラさんが言っていた事を、考えていたんです。」
「私の事は、トラって言っていいわよ。で、どうしたの?」
「有難うございます。トラ。
まだ、仮定の話でしかないんですけどね。」
ガーネはそう前置きして、話を続けました。
「この街の家を壊したものって、多分、竜巻じゃないかと思うんですよ。」
「竜巻?あの、突如として起こる突風の事?」
「よくご存知ですね。そうです。
竜巻は、その進路上にあるものを、強力な力で破壊していきます。
その反面、それより少しでも外れた場所では、無傷な事が多いのですよ。
あなたはさっき、「全壊した家には、砂がそれほど溜まっていなかった。」
そう言いましたね。それは竜巻が砂を巻き上げていったからだと思うんです。」
「確かにそうね。竜巻と考えた方が、自然かもしれないわ。」
トラもガーネの意見に賛成しました。
「それで、この街から人がいなくなったのね。
砂塵が吹き荒れたり、竜巻が起こる街では、安心して住めないもの。」
「恐らく、この街が出来た当時は、こんなにひどくは無かったんだと思います。
原因は判りませんが、上空の気流の流れに変化が生じたのでしょうね。
それで、どこからか砂塵が運ばれてきて、そして。」
「そして、強い風が吹いたり、竜巻が発生するようになった。
そう言いたいのね。」
「そうです。しかもこの竜巻は、砂塵をまとっているので、より強力です。
ぶつかった時の破壊力は、相当なものになる筈です。」
「だから、こんな簡易シェルターを作ったり、地下室を確認したりしたのね。」
トラは、納得したようでした。
「電気が切れているのが、心配です。
あの地下室にはまだ、幾つかローソクランプがありましたね。
火事になっては困りますが、通路と台所にはとりあえず、置いておきましょう。」
「でも、そんなに危険なら、今のうちに地下室にこもったらどうかしら。」
「さっき、地下室に行きましたが、換気がよくありません。
こもるにしても、それほど長くは居ない方がいいでしょう。
やむを得ない場合の、最後の切り札にしておきましょう。
それに、私たちがここにいる間は、竜巻は発生しないかもしれません。
発生したとしても、この教会を直撃するとは、限りませんしね。」
ガーネのこの意見に、トラもうなずきました。
ガーネとトラは、自分たちの話を、し始めました。
「どうやって、迷宮に来たの?」トラは、尋ねました。
「判りません。気が付いたら、あそこにいました。
自分に関する記憶で覚えているのは、名前だけなんです。
後は、覚えていません。
トラ、あなたはどうですか。名前以外で、何か覚えていますか。」
ガーネも、トラに尋ねました。
「あたしも同じね。記憶が無いわ。
ここが、自分の世界かもって、入ったんだけど、やっぱり違ったみたいね。」
「でも、どうやって、入ったんですか。ドアは開けられないでしょう?」
「あたしも、最初は、とまどったの。
何も方法が思いつかなかったから、ドアに体当たりしたのよ。
そしたら、中に入る事が出来たわ。」
「えっ、それで入る事が出来るんですか?」
「現に、ここに居るのが、何よりの証拠よ。」
「それもそうですね。そうか、ドアを開けなくてもいいんですね。
あの迷宮には、判らない事が多すぎます。
少しずつ、経験しながら、理解していくしかなさそうですね。
もっとも、知らなくても、自分の世界に戻れるなら、それでいいですけどね。」
「あたしも、同感だわ。」ガーネの意見に、トラも同意しました。
「さてと、これからどうするつもり?」トラは尋ねました。
「あんなに砂塵が吹き荒れていては、外に出るのは無理でしょうね。
まだ、日も明るいので、執務室に、行ってこようかと思っています。
本がたくさんあったので、あの机で読もうかと思っています。」
「本ね。あたしは読めないな。
でも、ここで1猫で居るのもつまらないし、ついて行ってあげるわ。」
「では、一緒に行きましょうか。」ガーネはトラにそう言いました。
ガーネとトラは、礼拝堂を出ました。そして執務室に入りました。
ガーネは、本棚にある本を、一冊一冊、調べていました。
しばらくすると、一冊の本を、机の上に置きました。
「これでも、読んでみますか。」とガーネは思いました。
「何を読む事にしたの?」トラは、尋ねました。
「日記帳です。」ガーネは嬉しそうでした。
「何か、面白い事が書いてあるかもしれません。
しばらく、ここで、これを読んでみようと思います。トラは、どうしますか?」
「あたしの事は、別に気にしなくていいわよ。
おとなしくしてるから、ここに一緒にいていい?」
「もちろん、いいですよ。」
ガーネは、日記帳を読み始めました。
トラは、最初、近くの棚に座り込んで、その様子をじっと見ていました。
そのうちに、うつらうつらし始め、いつの間にか、寝込んでしまいました。
トラが、目を覚ましたのは、ガーネが日記帳を閉じる音が聞こえた時でした。
トラは、足を思いっきり伸ばしました。
首を振った後、大きく口を開けて、欠伸をしました。
「どう、面白かった?」多少、寝ぼけ眼でトラは尋ねました。
「ええ、ここでの生活の事などが、書かれていて興味深かったです。
あと、あの砂塵と竜巻の事も、書いてありましたよ。
朝方から、午前中くらいは、砂塵が吹き荒れる事は無いようですね。
竜巻は、1年に、多ければ2回ほど、発生する事もあるそうです。
ここに、街を建設した当時は、砂塵が吹き荒れる事も、竜巻も無かったそうです。
こんな風になったのは、それから10年ぐらい経ってからのようです。
結局、安定した生活を送るのは、難しくなったと判断したらしいです。
それで、この街から、全ての人が撤退したと、書いてありました。
自然の脅威で、人がいなくなったと言うのは、悲しい事ですね。」
ガーネは、日記帳を本棚に戻しました。そして、トラに声をかけました。
「では、礼拝堂に帰りましょうか。」
トラは、その言葉にうなずきました。
ガーネとトラは、執務室を出て、礼拝堂に戻りました。
やがて、夜になりました。
風は、少し、収まっているようでした。
礼拝堂や通路、そして台所にローソクランプを置き、灯りを灯しました。
「移動用にも、用意しておきましょう。」
これらの灯りは、それほど明るいものでは、ありませんでした。
しかし、ガーネやトラの、不安を取り除く効果は、十分にありました。
夜も更け、ガーネもトラもいつしか横になり、寝入っていました。
突然、大きな物音が聞こえ、ガーネとトラは、目を覚ましました。
教会の窓ガラスが全て割れていました。
教会自体も、みしみしと、きしみを立てていました。
咄嗟に、ガーネはトラを両手で抱え、簡易シェルターから抜け出しました。
ガーネは、トラを自分の着ている服の右ポケットに入れました。
ぐらぐら揺れる教会の中を、ガーネは懸命に走りました。
台所に着いたガーネが、テーブルを蹴ると、地下室へのハッチが現れました。
そのハッチを開けて、ローソクランプを携え、地下室の中に入りました。
中に入ったガーネは、すぐにハッチを閉めました。
そして、ハッチに取り付けられている鍵で、開かないように固定しました。
ガーネは、ホッとしました。
「ねぇ、どうしたのよ。」右ポケットから、トラが飛び出して来ました。
「竜巻です。竜巻が襲って来たんですよ。」ガーネは説明しました。
地下室のハッチは閉められていましたが、激しい物音が響いてきました。
地下室自体も、振動を感じていました。
「大丈夫なの?」トラは心配そうに尋ねました。
「こちらへ来て下さい。」トラに手招きをしました。
トラがガーネの前に立つと、ガーネはトラを抱えて、言いました。
「竜巻は、そんなに長くいるものでは、ありません。
とりあえず、振動とこの物音が静まるまでは、おとなしくしていましょう。」
ガーネは、トラに言いました。
「そうね。」
トラは、震えながらも、うなずきました。
しばらくして、ものすごく激しい震動と物音が、地下室を襲いました。
その後、次第に弱まって行きました。
「竜巻が、去ったのかもしれません。」ガーネはそう言いました。
様子を見るため、少しの間だけ、待機しているつもりでした。
ですが、寝ている間に起こされたためか、いつの間にか眠ってしまいました。
ガーネは目を覚ましました。トラはその横で、眠っていました。
「トラ、起きてください。」ガーネは、トラに声をかけました。
トラも、起きてきました。
「お早う。」そう言った後、すぐに気が付いたのか、ガーネに尋ねました。
「あれから、どうなったの?」
「私も、今、目が覚めたところです。外に出て見ましょう。」
トラは、ガーネの右肩に飛び乗り、ちょこんと座りました。
ガーネはトラに、にっこり微笑むと、地下室の階段を上り、ハッチを開けました。
「ああ、まぶしい。」もう、朝を迎えていました。
ガーネは、周りを見回しました。教会は、廃墟と化していました。
「私たちは、なんとか助かったようですね。」ガーネはトラに言いました。
「ガーネ。あなたのおかげだわ。有難う。」トラはガーネにお礼をいいました。
ガーネとトラは、外に出ました。
教会の他にも、何件か、建物が壊されていました。
「随分、見晴らしがよくなっていますね。」
「そう言えば、砂塵もまだ吹き荒れていないわ。」
「朝は、おとなしいのでしょう。まただんだんと、荒れてきますよ。」
ガーネとトラは、街の中を歩き出しました。
「人が居なくなった理由を、身に沁みて、理解しましたよ。」
「本当にね。」
街の外れまで、歩いたガーネは、そこにあるものを見つけました。
「トラ、ご覧、迷宮のドアだよ。」
「本当だわ。」
ガーネたちは、そのドアへと向かいました。
ドアを開ける前に、もう一度、振り返ってみました。
「ここは、私の、最初に入った世界でしたが、大変でした。」
「あたしも、同じよ。」
なんとなく、感慨深い思いが、湧き上がるのを感じました。
そして、あらためて、ドアの方に向き直り、ドアを開きました。
中に入ると、ドアはひとりでに閉じて、そして、消えてしまいました。
ガーネとトラの周りには、道と階段が、どこまでも広がっていました。
「迷宮へ、戻って来ましたね。」
ガーネがトラに言いました。
トラも、うなずきました。
第3話「トラ、登場。」(終)
今回のお話は、ガーネと、その相方になる、猫のトラとの出会いが中心です。
「トラ・オブ・ラビリンス」のトラは、この猫を指しています。
トラもまた、この物語の主役なのです。
この話以後、ガーネとトラの、別世界への旅が、続いていく事になります。




