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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第8話「正と邪の女神」
29/46

第8話「正と邪の女神。」8つめですね。

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第8話「正と邪の女神。」8つめですね。のお話です。

この回では、女神の間での戦いです。


第8話「正と邪の女神」8つめですね。


 私たちは、その魔物を隠し部屋からのぞいていました。

その魔物はガーネの魂を奪った後、邪神ルーディアの像の方に歩いて行きます。

そしてガーネの時と同様、その石像を突き抜けたのです。

私たちが再びその姿を見た時には、その口にガーネの魂はありませんでした。

それからまもなく、その石像に異変が起こりました。

生きている者の姿へと、変わっていったのです。

女人のその身に鎧をまとい、腰には剣を差しています。

そして、その顔はあの石像の通り、ルーディアの顔そのものでした。

「フフフフフ、ハハハハハ、アハハハハハ。

やった、ついにやったぞ。わらわはついに封印から解き放たれたのじゃ!!」

それは、邪神ルーディアが復活した瞬間でした。


 私たちの隠し部屋のすぐ横に、あの邪神の石像があったわけです。

つまり邪神は今、私たちの目と鼻の先にいるのです。

私たちは恐ろしくて、身動き1つする事が出来ません。

邪神は懐かしい物を見るかのように、辺りを見回していました。

「どうやら、かなりの時の流れがあったようじゃな。

さて、どこから手を付けたものかのう」

邪神がそうつぶやいている時、あの魔物が邪神のすぐそばにやって来ました。

邪神はその頭を撫でながら、倒れているガーネの方を振り向きました。

「よくやったぞ、えんライオン。

お前と、あの鉄の仮面。

ともにわらわが封印される前、この世に残した力じゃ。

だいぶ時間がかかったようじゃが、まぁいい。

これからゆっくりと、この世界を支配してくれようぞ」

邪神はそう言った後、何故か急にあたりを見回しています。

「おかしい、人の気配がする」そうつぶやいたのです。

私たちはのぞくのを止め、大きい宝箱の後ろにしゃがんで隠れていました。

私たちは、じっと息をこらしています。

その私たちの耳に一歩ずつ、近づいて来る足音が聞こえます。

そして、その足音が消えました。

キキーン! 耳をつんざくような音とともに、私たちの視界が開けました。

宝箱がものの見事に、真っ二つに両断されたのです。

私たちは、驚いて立ち上がりました。

その私たちの目の前に、邪神ルーディアの姿があったのです。

「これはこれは。願っても無い御客人である事。まずは、表へ出られよ」

そう言って邪神は、私たちを隠し部屋の外に連れ出しました。

「さてと誠に申し訳ないが、ここは神か王族しか立つ事が許されぬ場所でな。

そなたたちは、その下座へ降りてくれぬか?」

否応もありません。私たちは、出入り口があった場所の近くまで移動しました。

邪神はそんな私たちを見ながら、傍らにいる魔物を撫でています。

そして魔物が何かささやくのを、聞いているようでした。

邪神はそれを聞き終わると、おもむろに私を指さしました。

「これ、そこな女。そなたの名前は何と言うのじゃ」

「わ、私ですか。ええと、私の名前はレミアと言います」

不意に言葉をかけられ、私は少しうろたえながら答えました。

「レミアか。良い名じゃ。

さてと、他でも無いのじゃが、この魔物はな。

名前をえんライオンと言ってな。わらわの力の一部で造った魔物じゃ。

その炎ライオンがな、そなたの持っているその弓矢に怯えておるのじゃ。

じゃからの、それを床に放り投げてくれぬか?なるだけ遠くへの」

邪神からそう言われ、私は途方に暮れてしまいました。

この弓矢の力がどの程度のものなのかは、判りません。

ですが、今の私たちには、この弓矢こそ魔族に対抗できる唯一の武器なのです。

安易に手放すわけにはいきません。

でも断って、この邪神の機嫌を損ねたら、その結末は悲惨の一言でしょう。

私はどちらにすべきか、決断に迷っていました。

邪神は私のその煮え切らない態度に、豪を煮やしたようです。

「レミアよ。お前たちは誰の許しを得て、この神殿に来ておるのじゃ。

神もしくは王族に、その許しを得ておるのか。得てはおるまい。

お前たち、本来ならばこの場で命を絶たれても、文句は言えぬ筈じゃ。

それをこうしてわらわとの謁見まで、許されておる。

そんなわらわのささやかな願いさえも、聞き届けぬと言うのか。

レミアよ。お前は、わらわを怒らせるつもりか?」

言葉は丁寧でも、その内容は完全に脅しです。

でも邪神とは言え、相手は神。私たちが、敵う筈もありません。

私は無念の思いをかみしめながら、弓矢を放り投げました。

私のこの行為に、邪神はすこぶる満足をしたようです。

「そうじゃ。それでよいのじゃ。

さてもうお前たちは、ここに用は無かろう。さっさと帰るがよい」

と私たちに帰りを促した後、更に言葉を続けました。

「おお、そうじゃ。忘れておったわ」

邪神はそう言って、ガーネの方を振り向きました。

そして右腕を差し出し、手首を僅かに上にひねったのです。

するとガーネの身体が吹っ飛ばされ、私たちの元に転がってきました。

「ガーネ!」私たちは、その身体へと集まりました。

「中身は確かに頂いた。もう、その容器は必要ない。

お前たちで、持って行くがよかろう」

邪神はそう言って、自分の胸のあたりをまさぐっていました。

そこには、赤く妖しく光る玉があります。

そしてその中央に、青白い炎に包まれた白く輝く光の玉が。

紛れも無く、ガーネの魂が取り込まれていたのです。

「まだ完全には、わらわの魂と一体化しておらぬでな。

このように、輝いておるのじゃ。

じゃが、しばらく経てばこの光も消え、わらわの魂と一体を成す。

その暁には、わらわは己の力を完全に取り戻す事が出来よう。

フフフフフ、ハハハハハ、アハハハハハ」

邪神は、高笑いをしました。


 その邪神に、「ガーネを返せ」とトラちゃんが私から抜け出そうとしています。

しかし、私はしっかりと押さえて、決して手放しませんでした。

「トラちゃん。ガーネはね、私にあなたをよろしくって言ったの。

だから、ガーネが戻ってくるまでは、私があなたを守りたいの。

だから、今は我慢して。お願いよ」

私がそう言うと、トラちゃんは悲しみの目で私を見ました。

そして、私の目をじっと見ていたのです。

私の必死の願いは、無駄ではありませんでした。

「判った。悔しいけど我慢するわ」

トラちゃんはしばらくした後、そう言いました。


 邪神はひとしきり高笑いした後、私たちの方を再び振り向きました。

そして「もう帰るがよかろう」と言ったのです。

右手を前に差し出し、壁にその手をかざしました。

すると、今まで隠れていた出入り口が現れたのです。

私とおじいさんとで、ガーネの身体を担ぎました。

そして無念の思いを抱きながら、その部屋を立ち去ろうとしたのでした。

すると、その私たちの目の前に、炎ライオンが立ちはだかったのです。

炎ライオンは咆哮を上げ、私たちににじり寄って来ます。

私たちは抗議の目で、邪神をにらみつけました。

「いや、申し訳ない。わらわ自身は、そなたたちを帰そうと思っておったのじゃ。

じゃがの。その炎ライオンが、そなたたちをすこぶる気に入ってな。

是非、しょくしたいと申すのじゃよ。

良く考えて見れば、この子にはまだ何も食べさせておらぬ。

先ほど得た魂は、わらわが、もらってしまったのでな。

それにこれから、わらわのしもべとなる魔物たち。

この者たちにも、人間の魂や肉体は必要な栄養源となる。

やはり、このまま帰すわけにはいかぬのう」

私たちはその邪神の言葉の意味を察知して、出入り口へ走りだそうとしました。

ですが、その出入り口は、再び隠されてしまったのです。

炎ライオンが、私たちににじり寄ってきました。

私たちはガーネを担ぎながら、とにかく逃げようと部屋の隅へ歩き出します。

その私たちを、炎ライオンがゆっくりと追いかけて来るのです。

部屋の壁に行く手を遮られ、咆哮も真直に聞こえ、私はもう駄目だと思いました。

と、その時です。その咆哮の声色が急に変わりました。

攻撃の声から突然、もがきの声に変わったのです。

私は後ろを振り向きました。

そこには私たちに歩み寄れないでもがいている、炎ライオンの姿があったのです。

まるで、周りを何かの壁に囲まれたように、あがいていました。

「一体、何事じゃ!」邪神もその異常な光景を、理解出来ないようです。

私はガーネを降ろして、すぐに放り投げた弓矢を取りに行きました。

そして、弓矢を携え、戻って来たのです。

私は、もがく炎ライオンの近くで、弓矢をつがえました。

近距離です。幾ら私でも、外す事は考えられません。

「お願いです。どうか当たって下さい」

私は祈るような気持ちで、矢を射ました。

私の弓から放たれた矢は、炎ライオンへと真っすぐに飛んで行きます。

そして、その額にある赤い魔石に吸い込まれていったのです。

次の瞬間。

あの炎ライオンが一瞬で粉々となり、消滅したのです。

「やったぁ! やりましたよ、ガーネ。あなたの仇はとりました」

私は全身から力が抜け、へなへなと膝を床に付けました。

しかし、その後すぐに気が付きました。

「なんで邪神は、私を攻撃しないの?」

私は恐る恐る、邪神の方を振り向きます。

そこには炎ライオンと同様、動けずにもがいている邪神の姿があったのです。

「何物かは判らぬが、わらわの邪魔をする輩がこの部屋にはおるようじゃ。

誰じゃあ、姿を現わせ。誰じゃあ!!」

その時でした。正神アイリスの石像が輝き出したのです。

そしてその輝きが収まった頃、そこには石像では無く、人の姿がありました。

邪神ルーディアと似たような姿です。

女人のその身にに鎧をまとい、腰には剣を差していました。

しかし、その顔は石像の如く、アイリスそのものだったのです。

正神アイリスが、再びこの世に現れた瞬間でした。


 邪神ルーディアは、正神アイリスを見て驚愕しました。

「何故じゃ。何故、そなたがここに。

わらわとの戦いで生き延びたにせよ、こんなに人の命が続くわけはあるまい。

それに、その若さ。わらわと戦った頃と、何も変わっておらん。

一体、どういう事なのじゃ」

この邪神の問いに、正神アイリスは答えました。

「邪神ルーディアよ、お前は私の持つ神剣ラムダに刺され、封印されました。

その後、正神ラムダに命を捧げて、私もまた正神となったのです。

そして、石像の中で眠りに着き、来たるべきお前の復活に備えていたのです」

「なるほどな。そう言う事であったか。それにしても、御苦労な事じゃ。

悠久とも言える時の流れの中を、石像に身をやつしていたとはな。

しかもその理由が、わらわの復活を監視するためだけだったとは。

いや、正神ともあろうお方に、そこまで気を使って頂けるとはな。

むしろ、光栄に思うべきかもしれんて。

ハハハハハ、アハハハハハ」

邪神はそう言って、また高笑いをしました。

「もはや、逃れられません。覚悟を」

正神アイリスは邪神に近づき、神剣を繰り出しました。

しかし、邪神はその神剣をあっさりと、邪剣ザイドで跳ね返したのです。

「ふぅ、どうやらそなたが、わらわにかけたかけた神力の束縛。

それが、薄れつつあるようじゃ。

また、わらわもな。かつての力を取り戻しつつあるようじゃ」

邪神はそう言って、自らの魂のあたりを触っていました。

そこには邪神の魂に包まれている、白き光の玉がその輝きを弱めていたのです。

正神アイリスと、邪神ルーディア。

はるかなる時の流れを経て、今またここに対峙する事になったのです。


 戦いの火ぶたが、切って落とされました。

ともに神剣。正剣と邪剣が、激しい戦いの応酬を繰り広げました。

しかし、正神アイリスの方が、剣技に優れていたのでしょう。

徐々に、邪神ルーディアは、押されていったのです。

「ふん」邪神は、素早く剣を横に振りはらいました。

そして正神アイリスがひるんだすきに、後方へ飛んで間合いを確保します。

邪神は、左手のみで剣を持ち、右手を王女の前に差し出しました。

えん!」

邪神ルーディアより、業火の炎が、王女に注がれようとしました。

しかし。

「えぃ」

正神アイリスが、正剣を横に振り払いました。

たったその一振りで、炎はあっけなく消滅してしまったのです。

「なんと!」茫然と立ち尽くす邪神に対し、正神アイリスは答えました。

「私は、元は王女ですが、同時に剣士でもありました。

2度と同じ手は通用しません。1度犯した過ちは、2度と起こしません。

ましてや、今の私は正神。お前などには、決して負ける事は無いのです」

この言葉に、邪神はじっと正神アイリスを見つめていました。

そして、口を開いたのです。

「なるほどな。それは面白い物を見せてもらった。礼を言わせてもらおう。

じゃが、ついでじゃ。わらわからも、そなたに見せたいものがあるのじゃ。

今しばし、そこで待つがよかろう」

邪神はそう言って、幻のように消えて行きます。

「待て」

正神アイリスが、声をかけた時、その姿はとうに失せていました。

あたりを見回しても、どこにも邪神の姿は見当たらなかったのです。


 私たちは、正神アイリスの元へ歩み寄りました。

「有難うございます。おかげで助かりました」

私は頭を下げて、お礼を言いました。

「かたじけない、助けてもろうて。これこの通りじゃ」

おじいさんもそう言って、手を合わせて拝みました。

「有難う、アイリス様」トラちゃんも頭を下げていました。

「何故、あなたたちがこの地にいるのかは知りませんが、でも無事でよかった」

正神アイリスは、言葉を続けました。

「またあの邪神は、ここに来るでしょう。時間がありません。

あなた方に危険が及ばないうちに、早くここから出て言って下さい」

正神アイリスはそう言って、壁に手をかざしました。

すると、隠れていた出入り口が再び、姿を現したのです。

「有難うございます」「有難うのう」

私たちはそう言ってガーネを担いで、その部屋を出て行こうとしました。

「あっ、待って下さい。その人は置いていって欲しいのです」

正神アイリスは、そう答えました。

「どうしてよ」トラちゃんが抗議します。

「その人の被っている鉄の仮面には、強力な魔力がかけられています。

その人は魂を失っているようですが、その魔力はまだ衰えてはいません。

一緒にいては、あなた方に危険が及ぶとも限らないんです。

どうかここは、私の意見を受け入れて、その人をここに残して下さい」

正神アイリスはそう言って、私たちに頭を下げました。

今まで一緒に行動をともにしてきたガーネと別れるのは、本当に辛い事です。

でも、私たちにはガーネが被っている鉄の仮面を、どうする事も出来ません。

また、危険は出来る事なら避けたいです。

ガーネやトラちゃんには、大変申し訳ないと思っています。

ですが私たちは、ガーネを置いて撤退する事にしました。

「では、後の事はよろしくお願いします」

「あんたもな。くれぐれも気を付けてな」

私たちはそう言って、その部屋から出ようとしました。

その時、私の手からトラちゃんがするりと抜けたのです。

そして、ガーネの身体の上に、飛び乗りました

「レミアお姉ちゃん、おじいちゃん。さようなら。

あたしは、ここに残ります」トラちゃんは、私たちにそう言いました。

「トラちゃん、気持ちは良く判るわ。

でもね。今私たちがここにいても、もうどうにもならないの。

かえってアイリス様に、ご迷惑をおかけするだけだわ。

ねぇ、一緒に行きましょう」

私は、トラちゃんにそう言いました。

「有難う、レミアお姉ちゃん。でもあたしは、あなたたちとは違うの。

あたしはここにいるガーネと、ずっと一緒に旅をしてきたわ。

もちろん、これからもずっといたいと思っている。

でもね。

もしここでガーネが死ぬようなら、少なくとも私はその最後は見届けたいの。

命を賭けても見守りたいのよ。

少なくともあたしには、その権利があると思うわ。

だから行って、二人とも。

私が二人からもらった優しい想い出は、いつまでも大切にするから」

「トラちゃん」

私にはもう何も言えません。

その様子をじっと見ていた正神アイリスは、私に向かって口を開きました。

「確か、レミアさんというお名前でしたね。

お話は先ほどから、聞かせて頂きました。

もし、よろしければ全ての事が済むまで、この子猫を私が預からせて頂きます。

もちろん、私の力が及ぶ限り、この子猫には危害を加える事はありません。

それは、私がお約束しましょう。それで如何でしょうか?」

「はい、よろしくお願いします」私はただ頭を下げるのみでした。

正神アイリスは、トラちゃんの方を見ました。

「トラと言いましたね。あなたもそれで構いませんか?」

「はい、よろしくお願いします。アイリス様」

トラちゃんもその言葉にうなずいて、頭を下げました。

私がガーネから託された「トラをよろしく」の願いのバトン。

それは、私から正神アイリスへと引き継がれたのです。

私たちは、正神アイリスやトラちゃんに別れを告げました。

そして、その部屋を立ち去ろうと、出入り口に向かったのです。


 その時、私たちの耳に、足音がかすかに聞こえて来ました。

それは、私たちの目の前にある出入り口の方から聞こえてきます。

そして、だんだんその足音は大きくなってきました。

ここには私たち以外、人間はいない筈です。

では邪神でしょうか?

でも、邪神がわざわざ歩いて、出入り口から来る筈はありません。

私たちの間に、緊張感がみなぎりました。

そしてそれは、ついに、私たちの目の前に現れたのです。

「カミーラ!!」私たちが何か言うより早く、正神アイリスが叫びました。

カミーラと呼ばれたその剣士は、女神の間の中に入って来ました。

カミーラ。私は記憶を巡らせます。

確か、カミーラと言えば、王女アイリスの許嫁でした。

でも、邪神ルーディアに殺された筈です。

それなのに、何故。

私は、わけが判らなくなりました。

それはどうやら、正神アイリスも同じだったようです。

「カミーラ。どうして、あなたがここに」

正神アイリスは、王女の頃に戻ったようでした。

そして、カミーラに近付こうとしたのです。

その正神アイリスに向かって、カミーラは剣を引き抜き、構えました。

「あの剣は!」私は見覚えがあります。

それはあの邪神が持っていた、邪剣ザイドだったのです。

「!」正神アイリスは慌てて、剣を構えました。

そして気が付いたように、つぶやいたのです。

「カミーラ。

そうか。あなたの遺体は、ルーディアの魔力で人形にされてしまったのですね。

何てひどい事を」


 その言葉に、私も気が付きました。

私が読んでいた本の中に、魔女の事が書かれていたのです。

魔女は死者の身体に、偽りの魂を埋めて蘇生し、生前の姿の人形を造ると。

そして、その人形を、思い通りに操れると。

これが、その人形なのですね。

邪神ルーディアは神の力では無く、魔女としての力を使ったんでしょう。

私は、古代魔法の神秘に触れたような気がしました。


 私のそんな思いとは別に、事態は深刻化していました。

正神アイリスとその許嫁のカミーラの人形が、剣を構えて対峙していたのです。

「カミーラ。私がすぐあなたの身体を解放してあげます」

正神アイリスはそう言って、偽りの魂に剣を突きたてようとしました。

ですが、それをカミーラは、自分の持つ邪剣で、受け止めたのでした。

その時、正神アイリスの顔に変化が起きました。明らかに困惑の表情です。

「何故、何故なの。カミーラ。

どうして、人形である筈のその身体に、あなた自身の命が宿っているの?」

私はそれを聞いて、首をかしげました。

魔女としてルーディアが与えた偽りの魂は、命などではありません。

人形を造るための道具に過ぎない筈です。

私はまたしても、頭が混乱してしまいました。


 そんな私や正神アイリスの思いとは別に、カミーラは剣を繰り出して来ました。

そして、正神アイリスと互角以上に張り合っていたのです。

伝説によれば、アイリスとカミーラは同じ師により、剣を学んだそうです。

だから、剣技が同等以上であるのは、納得出来ない事もありません。

ですが、それはあくまでも、人間だった時の話です。

人形として操られているカミーラに、かつての剣技が使えるものなのでしょうか。

一方、正神アイリスは、明らかに動揺していました。

先ほどの邪神との戦いとは、雲泥の差です。

攻撃をする事が出来ず、守勢に立たされていました。

正神アイリスにとっても、理解不能な事態であったんでしょう。

あの時、ひょっとしてカミーラは死んでいなかったのかも。

そう思っているに違いありません。

そして、それが己の剣に迷いを生じさせたのです。

正神アイリスは、追い込まれていきます。

ただ攻撃を避けよう、守りに徹しようとする彼女へ、カミーラの剣が襲いました。

グサッ! カミーラの剣は、正神アイリスの右肩に、振り下ろされました。

正神アイリスは、その剣をまともに受け、剣を手放し、床に倒れたのです。

「ウウッ!」うめき声を上げながら、その痛みに身体をよじる正神アイリス。

そのアイリスに、どこからともなく高笑いが聞こえてきました。

「フフフフフ、ハハハハハ、アハハハハハ」

立ったままの姿勢でいるカミーラの傍らに、邪神ルーディアが現れたのです。


「どうやら、済んだようじゃな」

邪神はそう言って、カミーラから邪剣ザイドを取り上げました。

「どうじゃな。かつての許嫁に斬られた気分は?

さぞかし、心も身体も深く傷ついたであろうな。

フフフフフ、ハハハハハ、アハハハハハ」邪神はまた高笑いをします。

正神アイリスは、その痛む身体を押さえながら、邪神の方を向きました。

「一体、お前はカミーラに、何をしたのです」

この正神アイリスの問いに、邪神は笑いをこらえているようでした。

「フフフ。知りたいと言うのであらば、教えて進ぜよう。

そなたも覚えておろう。

わらわがそなたに斬られた後、王子であるカミーラに取り付いたのを。

あの時、既に魂は消えかかっており、使い物にはならなかった。

されど、命のかけらは、まだ幾分残っておったのでな。

それを吸い上げたというわけじゃ。髪の毛1本ほどのな。

じゃがの、そのままでは、命のかけらはすぐに消えてしまう。

神剣ならば、それが持つ力によって、命のかけらはいつまでも保存出来る。

現にお前の父の命のかけらは、今でもこの剣に保存されておるのじゃ。

じゃが、髪の毛ではそうはいかぬ。

それ故、わらわは、その髪の毛に「ときの呪」をかけたのじゃ。

時間の流れを止め、命のかけらが失せるのを防ぐようにの」

正神アイリスの顔は、はっとした表情を見せました。

その様子に満足したのか、邪神は話を続けます。

「先ほどのそなたとの戦いの後、わらわは、墓の間へと降りたのよ。

このわらわを倒すために、そなたとともに戦った、他国の王子カミーラ。

その英雄を、まさか粗末な扱いにはしておるまいと思っての。

案の定、カミーラは墓の間の棺の1つに、英雄として大切に入れられておったわ。

わらわはその棺のふたを開けた後、そのむくろを利用した。

偽りの魂で人形を造って、その体内に命のかけらを戻したというわけじゃ。

それにしてもな。

念のためにと思って、取っておいた命のかけらが、こんなに役に立つとはのう」

邪神はそう言って、正神アイリスの元に近付きます。

「どうじゃ、正神アイリスよ。

あのカミーラが、実は生きているだと錯覚したのでは無いか。

お前も、正神ザイドも同じじゃ。まんまとわらわにたぶらかされおったわ」

「正神ザイドも。それはどういう意味なのです?」

「フーム。まだ、判っておらなかったと見えるな。

まぁ、そなたとは、もう出会う事もあるまい。

ならば、最後に、これも教えて進ぜよう。

わらわがいかに、この命を捧げたとしてもじゃ。

所詮、一介の魔女に過ぎんわらわなど、正神ザイドが受け入れるものか。

神が受け入れるのは、せいぜい、王族止まりじゃ。

わらわたちなど、歯牙にもかけぬわ。

じゃから、わらわは、まず邪剣を手に入れる事にしたのじゃ。

謁見の間で正剣ザイドを使って、お前の父である王グライアをあやめた。

そしてその命のかけらを、正剣ザイドにたっぷり吸わせて、邪剣を造ったのじゃ。

わらわはその後、この女神の間にある正神ザイドの石像の前に立った。

そして、邪剣をわらわの心の臓に突き刺したのじゃ。

その結果、わらわの肉体に、お前の父の「命のかけら」が注入された。

そのため、正神ザイドは、わらわを王グライアと誤認したのじゃ。

先ほど、そなたがカミーラを生きていると錯覚したようにな。

そして、わらわに、その力を与えたというわけなのじゃ」

邪神は、正神アイリスのすぐ傍らに来ました。

そして、邪剣の刃の先を下に向けた状態で、そのつかを両手で持ったのです。

邪神は、正神アイリスの心の臓の上あたりに、狙いを定めました。

「正神アイリスよ。ここでそなたを刺しても、正神であるそなたが死ぬ事は無い。

封印されるだけじゃ。じゃが、わらわは絶対にそなたを復活させはしない。

そなたは死ぬ事も許されず、未来永劫、封印という牢獄に閉じ込められるのじゃ。

魔神大戦まじんたいせん以降、わらわたち魔族は、地の底に追放された。

魔界と名を付けたものの、その苛酷さは想像以上であった。

返還されたアルフレオの炎の力を使っても、それは変わらなかったのじゃ。

かつて、地上において最強の力を持っていた魔族。

それが神族や人族のせいで、弱体化し、消滅しつつある。

そなたは王族。人であり、かつ神の力を受け継いでおる。

そなたほど、わらわたち全ての魔族の恨みを受けるに、相応しい者は他におるまい。

絶対に許しはせぬ。

さてと。

わらわが、この剣でそなたを刺してから封印されるまで、しばしの間がある。

それが最後の、そなたのこの世の見納めとなろう。

わらわはそなたを刺した後、ここにいる者たちの魂を頂くつもりじゃ。

そのさまをその眼に焼き付けながら、封印されるがよかろう。

では、正神アイリスよ。今のうちに言っておこう。さらばじゃ」

邪神ルーディアはそう言って、邪剣を持つ手に、渾身の力を込めました。

そして思いっ切り、正神アイリスの心の臓に突き立てたのです。

「ウッ!」

正神アイリスは刺された直後、目を閉じ、その両腕はぐったりとしました。

その後、再び目を開きましたが、身体はもう幾らも動かないようです。

邪神は正神アイリスから、邪剣ザイドを引き抜きました。

「さてと、そなたももう用済みじゃ。元のむくろに戻るがよかろうて」

邪神はそう言って、人形のカミーラの首をねたのです。

人形は躯となり、細かい欠片となって、床に散らばってしまいました。


 邪神は邪剣ザイドを鞘に納めると、正神アイリスには、もう目もくれません。

そして、ガーネが倒れている所にいる、トラちゃんを一瞥しました。

ですが、全く意に介さない様子で、私たちに向かって歩いて来たのです。


第8話「正と邪の女神」8つめですね。(終)


今回のお話は、第8話「正と邪の女神。」の第8回です。

この回では、女神の間での戦いです。

やっと、サブタイトル通りの内容に戻って来ました。

さて、次回はいよいよ、今回のお話の最後となります。


みなさん、体調は如何でしょうか?

こちらは熱中症にもならず、何とか生きていますので、ご安心下さい。


なるだけ、1週間に1回ぐらいは、投稿したいのですがね。

今度はいつ頃になるのでしょうね。


気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。

では、また会える日を。See You Again.


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