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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第8話「正と邪の女神」
25/46

第8話「正と邪の女神。」4つめですね。

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第8話「正と邪の女神。」4つめですね。のお話です。

この回では、赤の間で、魔物ラドムアと戦います。


第8話「正と邪の女神。」4つめですね。


私は目を覚ましました。「じゅるり。」

いつの間にか、朝になっていたのです。

神殿の中にいるため、外ほどではありませんが、やはり明るいです。

私は、そのまばゆい明るさの中、欠伸をしました。

どうやら昨日、テーブルで本を読んでいる間に、寝てしまったようです。

気が付いてみると、本の上に顔を乗せたまま、眠っていました。

本をよく見ると、私の口元あたりを乗せた部分に、何故か染みがついています。

まぁ、古い本ですからね。最初から汚れていたんでしょう。

この本は返さなければならないので、汚したり無くしたりしたら1大事です。

私は本を閉じて、自分のバッグにしまいました。

このレイグル、本棚を装備してくれないものですかね。やれやれ。


鏡をのぞき込みました。髪は逆立っており、肌のつやも全く感じられません。

私はこのレイグルで寝泊まりするようになって、もうどのくらい経つんでしょう。

早く、金銀財宝を見つけて、元の生活に戻りたいものです。

鏡の冴えない自分に、「おはよう」の4文字を言いました。

いや、「お早う」だから3文字ですね。

その後、私は風呂場へ直行し、シャワーを浴びたのです。

その後、服を着替え、少々お色直しして、風呂場を出ました。

私はこれ以上、人が増えるなら、もう1個女子専用の風呂場が欲しいです。

でも、すぐに却下されるのでしょうね。耐えるしかありません。

早く、日常を取り戻さねば。私はいつも朝、そう心に誓うのです。

でも、いつも裏切られます。そしてため息をつくしかないのです。


私はネイルチェックも、細かくしてします。

私は特に、ネイルアートに興味があるわけではありません。

それでもネイルは、美しく仕上がっている方が気持ちがいいです。

ここに来た当時は、ワイン色に綺麗に仕上がっていました。

今は駄目です。どの指のネイルも毎日のように、すぐに剥げてしまいます。

急場をしのぐため、上塗りをしています。

ただ、上塗りは綺麗に塗らないと、色の濃淡が出てしまいます。

また滑らかに仕上がらず、でこぼこな部分も出来てしまうのです。

ネイルチェックで「オヨヨヨ。」と言って、泣き崩れる事もしばしばあります。


風呂場を出て通路に出ると、あのカップルがいました。

御存知、ガーネとトラちゃんズです。

トラちゃんは、今日もしっかりとガーネの肩に乗っています。

「お早う、トラちゃん。」

「お早う、レミアお姉ちゃん。」「お早うございます。レミアさん。」

私たちは、レイグルの中の内壁に掛けてある額の写真に、手を合わせました。

「今日は、お宝を見る事が出来ますように。」お祈りを捧げました。

毎日の恒例行事が終わり、テーブルへと歩いて行きました。

その道すがら、ガーネは尋ねました。

「一体、あのお写真はどなたなんですか?」

ガーネのその問いに、私は思わず、吹き出していました。

「ガーネ。あなた、そんな事も知らずに毎日お祈りしていたの。」

私は呆れてしまいました。

ですが私は親切な人間なので、丁寧に説明してあげたのです。

「私のおばあさん。」「おや、そうでしたか。いつ頃亡くなられたのですか?」

「失礼ね。また生きているわ。」

「それは、早とちりしてしまって、申し訳ありませんでした。」

「まぁ、いいけどね。おじいさんが飾ったのよ。

家へ帰ると、おばあさんは怒ってばっかりで、怖いらしいの。

かと言って、離れ離れも寂しい。

だから、こうやって写真を置いて一日一回、私たち家族は拝む事になったわけ。」

「このおばあちゃんの顔、レミアお姉ちゃんに似ているね。

お姉ちゃんも年をとったら、こんな風になるのかな。」

トラちゃんは、私の老後の事を考えながら、その写真を見つめていました。

「そう?」嬉しいやら悲しいやらで、朝から複雑な私がそこにはいました。


おじいさんは相変わらず、元気はつらつな顔で起きて来ました。

テーブルに集まった3人と1匹は、朝の挨拶をかわします。

そして、いつものビスケット朝食を食べました。

その後、ガーネととらちゃんが、これまたいつものように歯磨きをしました。

そしてそれが終わったところで、出発となったのです。


私たちは大広間の奥にある一番左側の、出入口の中を前進しています。

その通路は短く、幾らも経たない内に、別の広間に到着しました。

通路と広間の床が赤い色だったので、私たちは「赤の間」と名付けました。

そこには幾つかの石像が並んでいました。

私たちは赤の間の中に、レイグルを停めました。

そしてレイグルを降りて、これらを見学する事にしたのです。

「不思議なところですね。人間の石像もあれば、動物や魔物のものもある。」

ガーネは興味深そうに、眺めていました。

「遠い昔、この世界は神族と人族、そして魔族が、共存していたそうです。

それがいつしか、違う世界へと分かれていったらしいんです。

神族は天上界へ、魔族は地の底の魔界へ、人間は地上界へっていう具合に。

これらの像はきっと共存していた時代を、再現したものなんでしょうね。」

私は自分でも無意識に、この部屋の説明係りになっていました。

と言っても、こうやって人に説明するのはまんざら嫌いではありません。

将来は、古代遺跡のツアーコンダクターにでもなりましょうかね。

私たちは部屋の中にある、石像の1つ1つを見て回りました。

私たちが特に心を惹かれたのは、部屋の中央にある石像でした。

それは翼を持った、魔物の石像でした。

「蝙蝠のような翼を持っているのに、顔は人に近いですね。

手足は、ともに3本ですか。

それにしてもこの石像の大きさが実際の寸法なら、そんなに大きくありませんね。

生まれたばかりの赤ん坊と言った程度でしょうか?」

「待って下さい。この魔物は確か昨日から見ている本の中にありましたよ。

確か名前は「ラドムア」って言った筈です。」

私は昨日調べた事がすぐに役に立つ事が出来て、嬉しい思いです。

「そうですか。おや、これは何でしょうね。

何かを書いた紙切れが、貼ってあります。」

「どれどれ。」ガーネの言葉に、私もその紙切れとやらを見る事にしました。

確かにガーネが言ったように、古い紙切れが貼ってあります。

「えーと。見えにくくなっていますが、文字は読めない事も無いと思います。

レイグルに行って調べて見ましょう。」

私はそう言って、その紙切れを丁寧に剥がしました。

「レミアさん。こことここにもありますよ。」

その紙切れは、合計3枚貼ってあります。

私は、その3枚とも剥がした後、レイグルに戻る事を仲間に伝えました。

他の人たちは引き続き、見学をするようです。

「これは多分、神じゃな。」「これは人間ですね。」「これって魔女かしら。」

探検中ではありましたが、楽しんでいるようでした。

レイグルに戻った私は、資料が入っているカバンを開けます。

そしてその中から、古代言語について書かれてある本を見つけました。

私は急いでテーブルの椅子に座り、その言語と首っ引きで意味を調べ始めました。


数分後、私はそれが封印のための、護符である事が判りました。

私はその後、昨日から読んでいる本も拾い出し、調べを進めました。

「ええと、ラドムア、ラドムアっと。あっ、見つけた。」

私はその古文書に書かれてある絵柄が、あの石像と同じものだと確信しました。

そしてラドムアを封印する方法として、護符が使われる事も知りました。

「このままでは、ラドムアの封印が解けてしまうかも知れない。」

私はその事に気が付いて、慌てて護符を持ってレイグルを飛び出しました。

そして護符を元通りに貼ろうと、石像に向かったのです。

その時、石像には異変が起こっていました。

魔物の姿の白い石像が、本物の黒い魔物へと変化していったのです。

黒い蝙蝠のような翼、人のような顔。3本指の手足。まさに魔物の姿でした。

「グワァー。」ラドムアは鳴き声を上げました。

おじいさんたちも、その存在に気が付いたのでしょう。

私と一緒に慌ててレイグルの中に、逃げ込んだのでした。

その後、私たちは窓から、ラドムアを見ていました。

ラドムアは飛びながら、自分が乗っていた台座に向かって、翼を一振りしました。

すると、台座の上に載っている石板が吹き飛んでしまったのです。

その台座の中からは、数体のラドムアが出現しました。

群れになったラドムアは、最初のうちは、赤の間全体を飛行していました。

しかし次第に、このレイグルの周りに、集まり出したのです。

「グワァー。」1匹のラドムアが、鳴き声を上げました。

それを合図に、全てのラドムアが一斉に、このレイグルに攻撃をしかけたのです。

あるラドムアは体当たりで、あるラドムアは爪で引っ掻いて。

「どうやら、あいつらは肉体を使った攻撃しか、出来ないようじゃな。

じゃが、このまま何もしないでおれば、装甲が破壊されるかも知れん。

ここは、積極的に交戦した方が、いいのかもな。」

おじいさんは、そう判断しました。

「じゃあ、どうするんです。」ガーネは尋ねました。

「とりあえず、レーザーを使ってみようと思う。

翼が焼き切れれば、攻撃は不可能になるじゃろう。」

おじいさんはそう言って、レーザー砲を準備しました。

「よし、レーザー砲。放射!!」

おじいさんはそう言って、何匹かまとまっているところへ、放射しました。

しかし、次の瞬間意外な事が起こりました。

ラドムアが、こちらが放射したレーザーを跳ね返したのです。

跳ね返されたレーザーは、別なラドムアに命中しました。

ところがそのラドムアも、そのレーザーを跳ね返したのです。

こうして何回か跳ね返されたレーザーは、レイグルの窓を直撃しました。

貫通こそはしませんでしたが、窓に亀裂が入ってしましました。

「いかん。防御シャッターを降ろすのじゃ。」

私はおじいさんの声を聞いた後、急いでその通りにしました。

そしてとりあえずですが、ホッとしたのでした。

「まさか。レーザーを跳ね返すとはな。

はてさて、これからどうしたものか?」おじいさんは悩んでしまいました。


レーザー砲が逆にレイグルにダメージを与えた事で、みんな唖然としていました。

「とりあえず、いろいろ試してみようかの。」

おじいさんは、ロボットアームに火炎放射器を取り付け、放射しました。

しかしその炎も、レイグルへ跳ね返されてしまいました。

「ゾア博士。火力をぎりぎりまで、弱めたらどうなりますか?」

ガーネのこの発案が、実行されました。

その結果、跳ね返る事はありませんでした。

しかし、ラドムアにダメージを与える事は出来なかったのです。

「やはり、駄目じゃのう。」

「でも、判った事もあります。

ラドムアは、身体全体に赤い膜をまとって、攻撃を遮断している事。

その防御の際には、動く事が出来無い事。

この2つです。

とりあえず、こちらから攻撃をしている間は、動けないという事です。」

「ガーネ。確かにあなたの言う通りだと思うわ。

でも、それだけではあのラドムアを、どうする事も出来ないわ。」

「本当ね。どうしたらいいのかしら。」

トラちゃんもそう言って、首をかしげていました。

みんなが対策に悩んでいる間も、ラドムアの体当たりは続いていました。

「まずいの。このままではいずれ、装甲にダメージを喰らってしまうぞ。

それにしても、ここは少し暗いの。あやつらがカメラに見えにくい。

ライトでも、付けるとするかの。」

おじいさんはそう言って、レイグルのライトを全部点灯させました。

その時です。

あれほど執酷迫っていたラドムアが、一斉にレイグルから離れて行ったのでした。

「どういう事なのじゃ。」おじいさんが首をかしげていました。

「私が直接、様子を見てきましょう。」ガーネがそう言いました。

「大丈夫なの?」トラちゃんは、心配そうに尋ねました。

「念のため、水圧洗浄ガンを持っていくよ。

ラドムアが襲ってきても、多分足止めぐらいにはなるだろうと思う。」

ガーネはそう言って、水圧洗浄ガンを抱えて、外に出ようとしました。

「待って。それなら私も行くわ。援護してくれる人がいた方が心強いでしょう。」

私はそう言って、ガーネと同じ装備で、一緒に出て行きました。

「待って。あたしも行くわ。」

トラちゃんはそう言って、ガーネの肩に飛び乗りました。

「でも、危険だと思いますが。」

「大丈夫。空は飛べなくても、速さならあいつらには負けないわ。

お願い。一緒に行かせて。」

ガーネは、ちょっと考え込んでいるようでした。

ですが、大丈夫だろうと判断したのでしょう。一緒に行く事に同意しました。

「じゃあ、わしは残っておるからの。何かあったら、直ぐ連絡するんじゃぞ。」

おじいさんのその言葉を背に、私たちはレイグルの外に出て行きました。


レイグルから降りてみると、確かにその周りには何もいません。

ですが赤の間の奥に、ラドムアはこちらを見ながら飛び回っています。

私はガンを構えたままで、あたりを警戒しました。

ですがガーネは、ガンを下ろしたまま、赤の間の周りをぐるりと眺めていました。

しばらくした後、ガーネの独り言が、聞こえてきました。

「そうか。そうなのかもしれない。」ガーネは、そうつぶやいていたのです。

ガーネはトラちゃんを肩から下ろして、手の上に載せました。

「頼みがあります。しばらくの間、トラを頼みます。」

ガーネはそう言って、トラちゃんを私に手渡しました。

そして水圧洗浄ガンも、私に手渡したのです。

「ガーネ。どうするつもりなんです?」「ガーネ?」

私たちは、口々に尋ねました。

「ちょっと思い付いた事があるんですよ。

でも、少し危険かなって思ったので、念のため、トラを預けるだけです。

多分、心配無いと思いますけどね。」

ガーネはそう言いました。

その後、ガーネは腰を下ろし、両手を地面につきました。

まるで、徒競走のスタート地点に、立っているかのようです。

ガーネは少し腰を上げて、こう言いました。

「用意、スタート。」ガーネはその声とともに、駆け出して行ったのです。

私もトラちゃんも驚いて、声を発する事も忘れ、それを眺めていました。


赤の間の奥へ走り出したガーネを、ラドムアが一斉に襲いかかりました。

「ガーネ!」私は走り出そうとするトラちゃんを、懸命に押さえていました。

と、その時、ラドムアの動きに、異変が起こりました。

ガーネを追っかけていたラドムアが一斉に、離れ出したのです。

ガーネは、その1匹の翼をつかみました。

そして、右側の壁の方に、その身体を向けたのです。

壁にはところどころ隙間があり、そこから陽の光が漏れていました。

ガーネは、じたばたするラドムアを、その光にさらしたのです。

「グワァー。」ラドムアは、断末魔の叫び声を上げました。

そしてその身体は、みるみる間に白くなってしまったのです。

ガーネは、自分がつかんでいた、ラドムアの翼を離しました。

すると、ラドムアは石のように鈍い音を立てて、床に落ちたのでした。

「やった!」私は、トラちゃんと一緒に喜びました。

その後、残りのラドムアに追いかけられて、戻ってくるガーネを援護しました。

2つの水圧洗浄ガンを両腕で構え、放水したのです。

トラちゃんもガーネの肩に飛び乗り、鉤爪を振り回して威嚇していました。

そのためガーネは、ラドムアに捕まえられる事無く、戻って来れたのです。

「有難う、レミアさん。そしてトラ。」ガーネは私たちに、お礼を言いました。


私たちは、レイグルに戻りました。

「ガーネ、よくやったの。よく弱点を見つけてくれた。

これであのラドムアに、一泡吹かせてやれるわい。」

おじいさんはそう言って、レイグルを動かし始めました。

「とすると、これから私たちのやる事は。」

私がそう言うと、おじいさんはうなずいてこう言いました。

「当然、これじゃろうて。」

私たちは、全員歌い出しました。

「♪♪邪魔する奴らは、ぶっ潰せ。」「♪♪私らいつでも、力押し。」

レイグルは思いっきり、赤の間の右側の壁に突進したのです。

その結果、その壁は私たちの思惑通り、こなごなに破壊されました。

と、そこから強い陽の光が、赤の間全体に差し込んできたのです。

「グワァー。」「グワァー。」

多くのラドムアの断末魔が、聞こえてきました。

しばらく経った後、私たちは赤の間へと、戻って行きました。

レイグルを降りて、私たち全員、歩き出しました。

その床には、いたるところにラドムアが落ちていました。

その身体は、白く石のような状態に、なっていました。

私たちが初めてここに来て見た石像と、同じ状態だったのです。

私たちは、全部のラドムアが落ちている事を、確認しました。

その後、私たちは全員、横1列に並びました。

全員で股を開き、左手は腰に当てて、右手は前に出してVサインを掲げました。

そして口を揃えて大声で、力いっぱい叫びました。

「勝利!!」


さて、後片付けが残っています。

白く石になったラドムアを片付けようと、彼らの台座の中をのぞきこみました。

すると、陽の光に照らされて、中でキラリと光るものがありました。

「魔物の、お墓の中に入るのは嫌です。」

そう言って、駄々をこねるガーネを黙らせ、中に入らせました。

その後、台座から出てきたガーネが持っていたものは、小さい箱1つでした。

それをとりあえず傍らに置き、後片付けを再開しました。

白く石になったラドムアを、元の台座の中に、放り投げました。

その後、石板でふたをして、残った一匹のラドムアを、その上に載せました。

それが終わると、3枚の護符を水で濡らし、貼り直しました。

これで、封印は終了です。もう2度と現れる事は無いでしょう。

私は先ほど見つけた小箱を、小脇に抱えました。

そして私たちは、今や、我が家であるレイグルへと、戻って行ったのです。


レイグルに戻った私は、テーブルにその小箱を置きました。

全員が見守る中、私はその小箱を開けるため、止め金具を外そうとしました。

しかし鍵が必要らしく、外す事が出来ません。

「どうしたらよかろう。」

頭を抱えるおじいさんに、私は笑って答えました。

「大丈夫ですよ。こんなちゃちな鍵、いつでも開けられます。」

私はそう言って、私のお気に入りの私用カバンから、ある物を取り出しました。

それは、ちょっと太目の針金で、変な形にねじれた物です。

特に名前は付けていません。まぁ、「万能合鍵」とでも命名しておきましょう。

いや、それより「万能出会い鍵」の方がよかったりして。

私はそれを、小箱の鍵穴に差し込みました。

そして耳をあてながら、それを動かしました。

しばらくすると、「カチリ。」と音が聞こえました。

「ふん。ちょろいわ。」

私は心の中で、ほくそ笑みながら、止め金具を外しました。

「すごいすごい。」トラちゃんは興奮して、私を褒め称えました。

「いやぁ、大したもんじゃよ。」おじいさんも、絶賛です。

「本当にすごいですね。どこでそんな技術を、身に付けたのですか?」

ガーネも、賞賛しました。

「実は私、小さい頃から、鍵を無くしてしまう事が、度々あったんです。

それで鍵を無くしても、開けれるように、個人的に修行していたんです。」

私は、長年の修行の賜物である事を告げました。

その私の告白を聞いた全員が、また更なる拍手を私に送ったのでした。


私は小箱のふたに、手をかけました。

全員が、ごくりと喉を鳴らす中。ゆっくりとそのふたを開けました。

「おおっ!!」全員から、どよめきの声が聞こえました。

その中には、まばゆいばかりに、赤く光り輝く石があったのです。

「これは!」私はそれを手に取り、その神々しさに心を打たれました。

「わしには石の事はよく判らんが...。

多分、宝石と見て間違い無いんじゃなかろうか。」

おじいさんも、心なしか声を震わせながら、そう言いました。

「おめでとうございます。レミアさん、ゾア博士。」

「よかったわね。レミアお姉ちゃん。」

ガーネとトラちゃんが、私たちに祝福の言葉を捧げました。

私は、感動で胸が張り裂けんばかりでした。

ここに来て、どれくらいの時が経った事でしょう。

私は、いや私たちはやっと、念願だった宝石を手に入れたのです。

例え、それが1つであったとしても。

今までの苦労が無駄でなかったと、感じさせるには十分のあかしでした。


その後、私たちはテーブルに集まり、ミーティングを始める事にしました。

議題は、ズバリ、どこに行くかでした。

「赤の間は、あの小箱のあった台座以外も、探索したがの。

他には、特にこれと言った物も、無かったわい。

そこで、一旦、大広間に戻るわけじゃが。

次はどこに行こうかの。残りは後2つ。緑と青の出入り口じゃ。」とおじいさん。

「どちらでもいいですよ。レミアさん、選んで下さい。」とガーネ。

「レミアお姉ちゃん。お任せ。」とトラちゃん。

「あのね、ガーネとトラちゃん。今ミーティングをやっているのよ。

ミーティングって言うのはね。

話し合うから、そう言うの。丸投げでは駄目なのよ。」

私はそう言って、たしなめました。

「じゃあ、緑。」「じゃあ、青。」既にグダグダの状態でした。

「もう少し考えてから...。」「何を考えるんですか?」

「だからどこに行こうって...。」「考えたら判るんですか?」

「それは...。」

「アーア。レミアお姉ちゃん、私おネム。」トラちゃんが大きい欠伸をしました。

「アーア。レミアさん。私おネム。」とガーネ。

「アーア。レミアよ。わしおネ...。」「やめんかい。」

まぁ、無理もありませんね。どこがいいなんて、誰も知らないんですから。

これ以上、グダグダにならない前に、お開きにしましょう。

まだ、午前中だと言うのに、眠たがっている人間と猫がいますしね。

本当は私も眠いんですよ。夜中に本なんか読みふけっちゃたし。

「では、大広間に戻ったら考えると言う事で。これでお開きとします。」

「はーい。」全員でハモッた後、みんなその場でばててしまいました。

確かに、今回は精神的に疲れる戦いだったと思います。


「ちょっとの間、休みましょう。」

私は、軽い足取りで、自分のベッドに向かいました。

私のベッドは、2階にあります。

「♪♪ランランラン。」いつものはしご登りも、楽しくてたまりません。

あっという間に着きました。

ただこの時、ちょっとだけ違和感がありました。

ですが、この時の私はとにかく浮かれていたので、気にもしませんでした。

ここレイグルでは、誰にも個室と名の付く部屋などありません。

巨大な貯水槽や燃料タンク、そしてエンジン。これらが幅をとっていたのです。

それなので、かろうじて個室と呼べるのは、ベッドの上だけとなります。

この2階建てベッドの2組が、私たちの部屋というわけです。

プライバシーはカーテン1つきり。まぁ、それでも何とかやっています。

最初はおじいさんと二人きりで、そんなに気にもしませんでした。

おじいさんはベッドよりも、運転席などに座っている事の方が多かったし。

そうそう、あの運転席は、180度倒す事が出来るリクライニング方式です。

つまり、あそこで寝る事も可能。

さすがは、おじいさんです。やる事にそつがありません。

他はどうでも、自分の快適さだけは、しっかり確保しているのです。

それに引き換え、私が1人で落ち着いていられるのは、この場所だけです。

ですがそれも今は、ガーネやトラちゃんが一緒。

トラちゃんは、それほど気にしませんが、問題はガーネ。

寝姿などを見られて、私の魅力に気付いてしまったら、危険です。

それに私は素顔という、個人的プライバシーをさらけ出しています。

にもかかわらず、ガーネは相変わらず鉄の仮面で、素顔を隠しているのです。

これまでいろいろあったので、信頼関係は多少なりとも、生まれてはいます。

でも、何か油断出来ないものを、常に感じているのも確かなのです。

まぁ、それはともかく。


私はあの小箱を、このベッドに持ち込んでいました。

「♪♪ランランラン。」私はその小箱を開け、中の赤い秘石を取り出しました。

寝ながら右腕を伸ばして、赤い秘石が良く見える位置に合わせました。

赤い秘石。恐らく数千年前から、あそこにあったのでしょう。

少し、不透明でした。磨けば綺麗になるのかしらん。

思えば、不思議な出会いです。

200年に1度しか現れる事の無い神殿に、この秘石は眠っていました。

しかも、魔物ラドムアのお墓の中で。

本来であれば、私たちの出会いなど夢物語です。起きるわけがありません。


でも今、悠久の時を経て、私はこの秘石を手にしています。それは確かな事です。

この秘石は、どんな時の流れを過ごしたんでしょう。

多分、あそこに保管される前に、いろいろな所に行ったんじゃないでしょうか。

この輝きです。

神族、人間、そして魔族。

いろいろな者の手を伝わって、ここに来ているのでしょう。

この秘石が私の手元に来るまでに、歩んできた道のりや時の流れ。

そしてかかわりあった多くの者たち。

それらは、私には想像も出来ないほどの、広がりがあるに違いありません。

まだ箱庭で生きている私にとっては、それは宇宙のような広がりでしょう。

宇宙そらか。」私はまた、空想の世界に入っていきました。


私は今、ベッドで寝ているのではありません。

果てしなく大きい宇宙の中を、流れているのです。

私の周りには、月やたくさんの星がその光をまたたかせています。

まるで、その1つ1つが自分たちの命を主張しているかのように。

そんな中でも、ひっそりとした静寂さが保たれています。

本当の静寂。何も聞こえる物などありません。

そんな静寂の中。

その星たちの間から、1つ、また一つと私の方へ流れて来る星があります。

私は、それをつかもうと手を差し出します。

でもその星たちは私の開いた手やその指の間から、こぼれていってしまいます。

手のひらに載っても緩やかに動いて、またすり抜けてしまうのです。

つかめそうで、つかめない。ありそうで、あり得ない。

私は、そんな宇宙をただあてもなく、ひたすら流れて行くのです。

私の肉体は時が経てば、いずれ朽ちてしまう事でしょう。

すると私の魂はどこへ。

消滅してしまうのでしょうか、それとも。

ひょっとしたら、この広大な宇宙に輝く、1つの星になってさまようのかも。

だからつかめない。だからあり得ない。

私も、そんな星たちと一緒に、この宇宙をひたすら流れて行くのかもしれません。

私もまた、この宇宙で生まれた命の1つなのだから。


「あたしも宇宙に行きたい。」

「えっ!」私は驚いて、私のすぐ横から聞こえる、声の主を見ました。

トラちゃんでした。

「トラちゃん。ここは私のプライベートルームなのよ。

黙って入って来てはいけません。」

私はそう言って、たしなめました。

「でもこのベッド、あたしのなんだけど。」トラちゃんがそう訴えました。

「えっ!」私は再び驚いた後、向かい側にある2階建てのベッドを見ました。

確かに、いつもと違う光景です。

その上に、向かい側の2階にあるカバンは、紛れも無く私の物でした。

よく考えてみれば、私のベッドには、いろいろな物が置いてあります。

だから、こんなに広い筈が無かったんです。

私の方が断りも無く、トラちゃんの部屋に、ズカズカ上がっていたのでした。

「ごめんなさい。」私はトラちゃんに、謝りました。

「いやあ、判ればいいんですよ。」1階で声がしました。

私が下の階をのぞくと、そこにはガーネが寝転んでいました。

「やぁ、こんにちわ。」手を上げて愛想よく、私に挨拶をしました。

私は、恐る恐る聞きました。

「ええと、私はさっきから、何か喋っていましたか?」

「うん。レミアお姉ちゃんは声を出して、独り言をつぶやいていたわ。

その上、あたしがここに転がり込むのにも、気が付かないようだったの。」

「本当ですよ。私の方でも聞こえましたから。」

「で、私が何を話していたか、判っちゃったんですか?」

「もちろんです。」「当たり前じゃない。」

「で、どのあたりから、お聞きになっていたんでしょうか?」

「ええと、確か「箱庭」とか「宇宙か。」と言った単語が出てきたあたりから。」

私は、顔が火照ってきたのが判りました。

恥ずかしくてたまらなくなり、毛布で顔を隠しました。

そしてもう一度、小さい声でこう言いました。「ごめんなさい。」


第8話「正と邪の女神。」4つめですね。(終)


今回のお話は、第8話「正と邪の女神。」の第4回です。

今まで平気で、第8話「正と邪の女神。」の第4話なんて書いていましたね。

済みません。第4回が正解ですね。後で全部直そうかしらん。

でも、面倒なので、これからはという事で、ご了承下さい。


何か、戦いが中心の、お話になってしまったような気が...。

まぁ、魔物も強くなっていくんだし、仕方が無い事ですね。


今週は台風で、少し暑さは和らぎましたが、湿気は相変わらずです。

と言っても、今日は涼しかったです。

だから、早めに投稿する事にしました。


みなさん、体調は如何でしょうか?

これから、どんどん暑くなります。

お身体をお大切に。


なるだけ、1週間に1回ぐらいは、投稿したいのですがね。

今度はいつ頃になるのでしょうね。


気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。

では、また会える日を。See You Again.

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