第8話「正と邪の女神。」4つめですね。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第8話「正と邪の女神。」4つめですね。のお話です。
この回では、赤の間で、魔物ラドムアと戦います。
第8話「正と邪の女神。」4つめですね。
私は目を覚ましました。「じゅるり。」
いつの間にか、朝になっていたのです。
神殿の中にいるため、外ほどではありませんが、やはり明るいです。
私は、そのまばゆい明るさの中、欠伸をしました。
どうやら昨日、テーブルで本を読んでいる間に、寝てしまったようです。
気が付いてみると、本の上に顔を乗せたまま、眠っていました。
本をよく見ると、私の口元あたりを乗せた部分に、何故か染みがついています。
まぁ、古い本ですからね。最初から汚れていたんでしょう。
この本は返さなければならないので、汚したり無くしたりしたら1大事です。
私は本を閉じて、自分のバッグにしまいました。
このレイグル、本棚を装備してくれないものですかね。やれやれ。
鏡をのぞき込みました。髪は逆立っており、肌のつやも全く感じられません。
私はこのレイグルで寝泊まりするようになって、もうどのくらい経つんでしょう。
早く、金銀財宝を見つけて、元の生活に戻りたいものです。
鏡の冴えない自分に、「おはよう」の4文字を言いました。
いや、「お早う」だから3文字ですね。
その後、私は風呂場へ直行し、シャワーを浴びたのです。
その後、服を着替え、少々お色直しして、風呂場を出ました。
私はこれ以上、人が増えるなら、もう1個女子専用の風呂場が欲しいです。
でも、すぐに却下されるのでしょうね。耐えるしかありません。
早く、日常を取り戻さねば。私はいつも朝、そう心に誓うのです。
でも、いつも裏切られます。そしてため息をつくしかないのです。
私はネイルチェックも、細かくしてします。
私は特に、ネイルアートに興味があるわけではありません。
それでもネイルは、美しく仕上がっている方が気持ちがいいです。
ここに来た当時は、ワイン色に綺麗に仕上がっていました。
今は駄目です。どの指のネイルも毎日のように、すぐに剥げてしまいます。
急場をしのぐため、上塗りをしています。
ただ、上塗りは綺麗に塗らないと、色の濃淡が出てしまいます。
また滑らかに仕上がらず、でこぼこな部分も出来てしまうのです。
ネイルチェックで「オヨヨヨ。」と言って、泣き崩れる事もしばしばあります。
風呂場を出て通路に出ると、あのカップルがいました。
御存知、ガーネとトラちゃんズです。
トラちゃんは、今日もしっかりとガーネの肩に乗っています。
「お早う、トラちゃん。」
「お早う、レミアお姉ちゃん。」「お早うございます。レミアさん。」
私たちは、レイグルの中の内壁に掛けてある額の写真に、手を合わせました。
「今日は、お宝を見る事が出来ますように。」お祈りを捧げました。
毎日の恒例行事が終わり、テーブルへと歩いて行きました。
その道すがら、ガーネは尋ねました。
「一体、あのお写真はどなたなんですか?」
ガーネのその問いに、私は思わず、吹き出していました。
「ガーネ。あなた、そんな事も知らずに毎日お祈りしていたの。」
私は呆れてしまいました。
ですが私は親切な人間なので、丁寧に説明してあげたのです。
「私のおばあさん。」「おや、そうでしたか。いつ頃亡くなられたのですか?」
「失礼ね。また生きているわ。」
「それは、早とちりしてしまって、申し訳ありませんでした。」
「まぁ、いいけどね。おじいさんが飾ったのよ。
家へ帰ると、おばあさんは怒ってばっかりで、怖いらしいの。
かと言って、離れ離れも寂しい。
だから、こうやって写真を置いて一日一回、私たち家族は拝む事になったわけ。」
「このおばあちゃんの顔、レミアお姉ちゃんに似ているね。
お姉ちゃんも年をとったら、こんな風になるのかな。」
トラちゃんは、私の老後の事を考えながら、その写真を見つめていました。
「そう?」嬉しいやら悲しいやらで、朝から複雑な私がそこにはいました。
おじいさんは相変わらず、元気はつらつな顔で起きて来ました。
テーブルに集まった3人と1匹は、朝の挨拶をかわします。
そして、いつものビスケット朝食を食べました。
その後、ガーネととらちゃんが、これまたいつものように歯磨きをしました。
そしてそれが終わったところで、出発となったのです。
私たちは大広間の奥にある一番左側の、出入口の中を前進しています。
その通路は短く、幾らも経たない内に、別の広間に到着しました。
通路と広間の床が赤い色だったので、私たちは「赤の間」と名付けました。
そこには幾つかの石像が並んでいました。
私たちは赤の間の中に、レイグルを停めました。
そしてレイグルを降りて、これらを見学する事にしたのです。
「不思議なところですね。人間の石像もあれば、動物や魔物のものもある。」
ガーネは興味深そうに、眺めていました。
「遠い昔、この世界は神族と人族、そして魔族が、共存していたそうです。
それがいつしか、違う世界へと分かれていったらしいんです。
神族は天上界へ、魔族は地の底の魔界へ、人間は地上界へっていう具合に。
これらの像はきっと共存していた時代を、再現したものなんでしょうね。」
私は自分でも無意識に、この部屋の説明係りになっていました。
と言っても、こうやって人に説明するのはまんざら嫌いではありません。
将来は、古代遺跡のツアーコンダクターにでもなりましょうかね。
私たちは部屋の中にある、石像の1つ1つを見て回りました。
私たちが特に心を惹かれたのは、部屋の中央にある石像でした。
それは翼を持った、魔物の石像でした。
「蝙蝠のような翼を持っているのに、顔は人に近いですね。
手足は、ともに3本ですか。
それにしてもこの石像の大きさが実際の寸法なら、そんなに大きくありませんね。
生まれたばかりの赤ん坊と言った程度でしょうか?」
「待って下さい。この魔物は確か昨日から見ている本の中にありましたよ。
確か名前は「ラドムア」って言った筈です。」
私は昨日調べた事がすぐに役に立つ事が出来て、嬉しい思いです。
「そうですか。おや、これは何でしょうね。
何かを書いた紙切れが、貼ってあります。」
「どれどれ。」ガーネの言葉に、私もその紙切れとやらを見る事にしました。
確かにガーネが言ったように、古い紙切れが貼ってあります。
「えーと。見えにくくなっていますが、文字は読めない事も無いと思います。
レイグルに行って調べて見ましょう。」
私はそう言って、その紙切れを丁寧に剥がしました。
「レミアさん。こことここにもありますよ。」
その紙切れは、合計3枚貼ってあります。
私は、その3枚とも剥がした後、レイグルに戻る事を仲間に伝えました。
他の人たちは引き続き、見学をするようです。
「これは多分、神じゃな。」「これは人間ですね。」「これって魔女かしら。」
探検中ではありましたが、楽しんでいるようでした。
レイグルに戻った私は、資料が入っているカバンを開けます。
そしてその中から、古代言語について書かれてある本を見つけました。
私は急いでテーブルの椅子に座り、その言語と首っ引きで意味を調べ始めました。
数分後、私はそれが封印のための、護符である事が判りました。
私はその後、昨日から読んでいる本も拾い出し、調べを進めました。
「ええと、ラドムア、ラドムアっと。あっ、見つけた。」
私はその古文書に書かれてある絵柄が、あの石像と同じものだと確信しました。
そしてラドムアを封印する方法として、護符が使われる事も知りました。
「このままでは、ラドムアの封印が解けてしまうかも知れない。」
私はその事に気が付いて、慌てて護符を持ってレイグルを飛び出しました。
そして護符を元通りに貼ろうと、石像に向かったのです。
その時、石像には異変が起こっていました。
魔物の姿の白い石像が、本物の黒い魔物へと変化していったのです。
黒い蝙蝠のような翼、人のような顔。3本指の手足。まさに魔物の姿でした。
「グワァー。」ラドムアは鳴き声を上げました。
おじいさんたちも、その存在に気が付いたのでしょう。
私と一緒に慌ててレイグルの中に、逃げ込んだのでした。
その後、私たちは窓から、ラドムアを見ていました。
ラドムアは飛びながら、自分が乗っていた台座に向かって、翼を一振りしました。
すると、台座の上に載っている石板が吹き飛んでしまったのです。
その台座の中からは、数体のラドムアが出現しました。
群れになったラドムアは、最初のうちは、赤の間全体を飛行していました。
しかし次第に、このレイグルの周りに、集まり出したのです。
「グワァー。」1匹のラドムアが、鳴き声を上げました。
それを合図に、全てのラドムアが一斉に、このレイグルに攻撃をしかけたのです。
あるラドムアは体当たりで、あるラドムアは爪で引っ掻いて。
「どうやら、あいつらは肉体を使った攻撃しか、出来ないようじゃな。
じゃが、このまま何もしないでおれば、装甲が破壊されるかも知れん。
ここは、積極的に交戦した方が、いいのかもな。」
おじいさんは、そう判断しました。
「じゃあ、どうするんです。」ガーネは尋ねました。
「とりあえず、レーザーを使ってみようと思う。
翼が焼き切れれば、攻撃は不可能になるじゃろう。」
おじいさんはそう言って、レーザー砲を準備しました。
「よし、レーザー砲。放射!!」
おじいさんはそう言って、何匹かまとまっているところへ、放射しました。
しかし、次の瞬間意外な事が起こりました。
ラドムアが、こちらが放射したレーザーを跳ね返したのです。
跳ね返されたレーザーは、別なラドムアに命中しました。
ところがそのラドムアも、そのレーザーを跳ね返したのです。
こうして何回か跳ね返されたレーザーは、レイグルの窓を直撃しました。
貫通こそはしませんでしたが、窓に亀裂が入ってしましました。
「いかん。防御シャッターを降ろすのじゃ。」
私はおじいさんの声を聞いた後、急いでその通りにしました。
そしてとりあえずですが、ホッとしたのでした。
「まさか。レーザーを跳ね返すとはな。
はてさて、これからどうしたものか?」おじいさんは悩んでしまいました。
レーザー砲が逆にレイグルにダメージを与えた事で、みんな唖然としていました。
「とりあえず、いろいろ試してみようかの。」
おじいさんは、ロボットアームに火炎放射器を取り付け、放射しました。
しかしその炎も、レイグルへ跳ね返されてしまいました。
「ゾア博士。火力をぎりぎりまで、弱めたらどうなりますか?」
ガーネのこの発案が、実行されました。
その結果、跳ね返る事はありませんでした。
しかし、ラドムアにダメージを与える事は出来なかったのです。
「やはり、駄目じゃのう。」
「でも、判った事もあります。
ラドムアは、身体全体に赤い膜をまとって、攻撃を遮断している事。
その防御の際には、動く事が出来無い事。
この2つです。
とりあえず、こちらから攻撃をしている間は、動けないという事です。」
「ガーネ。確かにあなたの言う通りだと思うわ。
でも、それだけではあのラドムアを、どうする事も出来ないわ。」
「本当ね。どうしたらいいのかしら。」
トラちゃんもそう言って、首をかしげていました。
みんなが対策に悩んでいる間も、ラドムアの体当たりは続いていました。
「まずいの。このままではいずれ、装甲にダメージを喰らってしまうぞ。
それにしても、ここは少し暗いの。あやつらがカメラに見えにくい。
ライトでも、付けるとするかの。」
おじいさんはそう言って、レイグルのライトを全部点灯させました。
その時です。
あれほど執酷迫っていたラドムアが、一斉にレイグルから離れて行ったのでした。
「どういう事なのじゃ。」おじいさんが首をかしげていました。
「私が直接、様子を見てきましょう。」ガーネがそう言いました。
「大丈夫なの?」トラちゃんは、心配そうに尋ねました。
「念のため、水圧洗浄ガンを持っていくよ。
ラドムアが襲ってきても、多分足止めぐらいにはなるだろうと思う。」
ガーネはそう言って、水圧洗浄ガンを抱えて、外に出ようとしました。
「待って。それなら私も行くわ。援護してくれる人がいた方が心強いでしょう。」
私はそう言って、ガーネと同じ装備で、一緒に出て行きました。
「待って。あたしも行くわ。」
トラちゃんはそう言って、ガーネの肩に飛び乗りました。
「でも、危険だと思いますが。」
「大丈夫。空は飛べなくても、速さならあいつらには負けないわ。
お願い。一緒に行かせて。」
ガーネは、ちょっと考え込んでいるようでした。
ですが、大丈夫だろうと判断したのでしょう。一緒に行く事に同意しました。
「じゃあ、わしは残っておるからの。何かあったら、直ぐ連絡するんじゃぞ。」
おじいさんのその言葉を背に、私たちはレイグルの外に出て行きました。
レイグルから降りてみると、確かにその周りには何もいません。
ですが赤の間の奥に、ラドムアはこちらを見ながら飛び回っています。
私はガンを構えたままで、あたりを警戒しました。
ですがガーネは、ガンを下ろしたまま、赤の間の周りをぐるりと眺めていました。
しばらくした後、ガーネの独り言が、聞こえてきました。
「そうか。そうなのかもしれない。」ガーネは、そうつぶやいていたのです。
ガーネはトラちゃんを肩から下ろして、手の上に載せました。
「頼みがあります。しばらくの間、トラを頼みます。」
ガーネはそう言って、トラちゃんを私に手渡しました。
そして水圧洗浄ガンも、私に手渡したのです。
「ガーネ。どうするつもりなんです?」「ガーネ?」
私たちは、口々に尋ねました。
「ちょっと思い付いた事があるんですよ。
でも、少し危険かなって思ったので、念のため、トラを預けるだけです。
多分、心配無いと思いますけどね。」
ガーネはそう言いました。
その後、ガーネは腰を下ろし、両手を地面につきました。
まるで、徒競走のスタート地点に、立っているかのようです。
ガーネは少し腰を上げて、こう言いました。
「用意、スタート。」ガーネはその声とともに、駆け出して行ったのです。
私もトラちゃんも驚いて、声を発する事も忘れ、それを眺めていました。
赤の間の奥へ走り出したガーネを、ラドムアが一斉に襲いかかりました。
「ガーネ!」私は走り出そうとするトラちゃんを、懸命に押さえていました。
と、その時、ラドムアの動きに、異変が起こりました。
ガーネを追っかけていたラドムアが一斉に、離れ出したのです。
ガーネは、その1匹の翼をつかみました。
そして、右側の壁の方に、その身体を向けたのです。
壁にはところどころ隙間があり、そこから陽の光が漏れていました。
ガーネは、じたばたするラドムアを、その光にさらしたのです。
「グワァー。」ラドムアは、断末魔の叫び声を上げました。
そしてその身体は、みるみる間に白くなってしまったのです。
ガーネは、自分がつかんでいた、ラドムアの翼を離しました。
すると、ラドムアは石のように鈍い音を立てて、床に落ちたのでした。
「やった!」私は、トラちゃんと一緒に喜びました。
その後、残りのラドムアに追いかけられて、戻ってくるガーネを援護しました。
2つの水圧洗浄ガンを両腕で構え、放水したのです。
トラちゃんもガーネの肩に飛び乗り、鉤爪を振り回して威嚇していました。
そのためガーネは、ラドムアに捕まえられる事無く、戻って来れたのです。
「有難う、レミアさん。そしてトラ。」ガーネは私たちに、お礼を言いました。
私たちは、レイグルに戻りました。
「ガーネ、よくやったの。よく弱点を見つけてくれた。
これであのラドムアに、一泡吹かせてやれるわい。」
おじいさんはそう言って、レイグルを動かし始めました。
「とすると、これから私たちのやる事は。」
私がそう言うと、おじいさんはうなずいてこう言いました。
「当然、これじゃろうて。」
私たちは、全員歌い出しました。
「♪♪邪魔する奴らは、ぶっ潰せ。」「♪♪私らいつでも、力押し。」
レイグルは思いっきり、赤の間の右側の壁に突進したのです。
その結果、その壁は私たちの思惑通り、こなごなに破壊されました。
と、そこから強い陽の光が、赤の間全体に差し込んできたのです。
「グワァー。」「グワァー。」
多くのラドムアの断末魔が、聞こえてきました。
しばらく経った後、私たちは赤の間へと、戻って行きました。
レイグルを降りて、私たち全員、歩き出しました。
その床には、いたるところにラドムアが落ちていました。
その身体は、白く石のような状態に、なっていました。
私たちが初めてここに来て見た石像と、同じ状態だったのです。
私たちは、全部のラドムアが落ちている事を、確認しました。
その後、私たちは全員、横1列に並びました。
全員で股を開き、左手は腰に当てて、右手は前に出してVサインを掲げました。
そして口を揃えて大声で、力いっぱい叫びました。
「勝利!!」
さて、後片付けが残っています。
白く石になったラドムアを片付けようと、彼らの台座の中をのぞきこみました。
すると、陽の光に照らされて、中でキラリと光るものがありました。
「魔物の、お墓の中に入るのは嫌です。」
そう言って、駄々をこねるガーネを黙らせ、中に入らせました。
その後、台座から出てきたガーネが持っていたものは、小さい箱1つでした。
それをとりあえず傍らに置き、後片付けを再開しました。
白く石になったラドムアを、元の台座の中に、放り投げました。
その後、石板でふたをして、残った一匹のラドムアを、その上に載せました。
それが終わると、3枚の護符を水で濡らし、貼り直しました。
これで、封印は終了です。もう2度と現れる事は無いでしょう。
私は先ほど見つけた小箱を、小脇に抱えました。
そして私たちは、今や、我が家であるレイグルへと、戻って行ったのです。
レイグルに戻った私は、テーブルにその小箱を置きました。
全員が見守る中、私はその小箱を開けるため、止め金具を外そうとしました。
しかし鍵が必要らしく、外す事が出来ません。
「どうしたらよかろう。」
頭を抱えるおじいさんに、私は笑って答えました。
「大丈夫ですよ。こんなちゃちな鍵、いつでも開けられます。」
私はそう言って、私のお気に入りの私用カバンから、ある物を取り出しました。
それは、ちょっと太目の針金で、変な形にねじれた物です。
特に名前は付けていません。まぁ、「万能合鍵」とでも命名しておきましょう。
いや、それより「万能出会い鍵」の方がよかったりして。
私はそれを、小箱の鍵穴に差し込みました。
そして耳をあてながら、それを動かしました。
しばらくすると、「カチリ。」と音が聞こえました。
「ふん。ちょろいわ。」
私は心の中で、ほくそ笑みながら、止め金具を外しました。
「すごいすごい。」トラちゃんは興奮して、私を褒め称えました。
「いやぁ、大したもんじゃよ。」おじいさんも、絶賛です。
「本当にすごいですね。どこでそんな技術を、身に付けたのですか?」
ガーネも、賞賛しました。
「実は私、小さい頃から、鍵を無くしてしまう事が、度々あったんです。
それで鍵を無くしても、開けれるように、個人的に修行していたんです。」
私は、長年の修行の賜物である事を告げました。
その私の告白を聞いた全員が、また更なる拍手を私に送ったのでした。
私は小箱のふたに、手をかけました。
全員が、ごくりと喉を鳴らす中。ゆっくりとそのふたを開けました。
「おおっ!!」全員から、どよめきの声が聞こえました。
その中には、まばゆいばかりに、赤く光り輝く石があったのです。
「これは!」私はそれを手に取り、その神々しさに心を打たれました。
「わしには石の事はよく判らんが...。
多分、宝石と見て間違い無いんじゃなかろうか。」
おじいさんも、心なしか声を震わせながら、そう言いました。
「おめでとうございます。レミアさん、ゾア博士。」
「よかったわね。レミアお姉ちゃん。」
ガーネとトラちゃんが、私たちに祝福の言葉を捧げました。
私は、感動で胸が張り裂けんばかりでした。
ここに来て、どれくらいの時が経った事でしょう。
私は、いや私たちはやっと、念願だった宝石を手に入れたのです。
例え、それが1つであったとしても。
今までの苦労が無駄でなかったと、感じさせるには十分の証でした。
その後、私たちはテーブルに集まり、ミーティングを始める事にしました。
議題は、ズバリ、どこに行くかでした。
「赤の間は、あの小箱のあった台座以外も、探索したがの。
他には、特にこれと言った物も、無かったわい。
そこで、一旦、大広間に戻るわけじゃが。
次はどこに行こうかの。残りは後2つ。緑と青の出入り口じゃ。」とおじいさん。
「どちらでもいいですよ。レミアさん、選んで下さい。」とガーネ。
「レミアお姉ちゃん。お任せ。」とトラちゃん。
「あのね、ガーネとトラちゃん。今ミーティングをやっているのよ。
ミーティングって言うのはね。
話し合うから、そう言うの。丸投げでは駄目なのよ。」
私はそう言って、たしなめました。
「じゃあ、緑。」「じゃあ、青。」既にグダグダの状態でした。
「もう少し考えてから...。」「何を考えるんですか?」
「だからどこに行こうって...。」「考えたら判るんですか?」
「それは...。」
「アーア。レミアお姉ちゃん、私おネム。」トラちゃんが大きい欠伸をしました。
「アーア。レミアさん。私おネム。」とガーネ。
「アーア。レミアよ。わしおネ...。」「やめんかい。」
まぁ、無理もありませんね。どこがいいなんて、誰も知らないんですから。
これ以上、グダグダにならない前に、お開きにしましょう。
まだ、午前中だと言うのに、眠たがっている人間と猫がいますしね。
本当は私も眠いんですよ。夜中に本なんか読みふけっちゃたし。
「では、大広間に戻ったら考えると言う事で。これでお開きとします。」
「はーい。」全員でハモッた後、みんなその場でばててしまいました。
確かに、今回は精神的に疲れる戦いだったと思います。
「ちょっとの間、休みましょう。」
私は、軽い足取りで、自分のベッドに向かいました。
私のベッドは、2階にあります。
「♪♪ランランラン。」いつものはしご登りも、楽しくてたまりません。
あっという間に着きました。
ただこの時、ちょっとだけ違和感がありました。
ですが、この時の私はとにかく浮かれていたので、気にもしませんでした。
ここレイグルでは、誰にも個室と名の付く部屋などありません。
巨大な貯水槽や燃料タンク、そしてエンジン。これらが幅をとっていたのです。
それなので、かろうじて個室と呼べるのは、ベッドの上だけとなります。
この2階建てベッドの2組が、私たちの部屋というわけです。
プライバシーはカーテン1つきり。まぁ、それでも何とかやっています。
最初はおじいさんと二人きりで、そんなに気にもしませんでした。
おじいさんはベッドよりも、運転席などに座っている事の方が多かったし。
そうそう、あの運転席は、180度倒す事が出来るリクライニング方式です。
つまり、あそこで寝る事も可能。
さすがは、おじいさんです。やる事にそつがありません。
他はどうでも、自分の快適さだけは、しっかり確保しているのです。
それに引き換え、私が1人で落ち着いていられるのは、この場所だけです。
ですがそれも今は、ガーネやトラちゃんが一緒。
トラちゃんは、それほど気にしませんが、問題はガーネ。
寝姿などを見られて、私の魅力に気付いてしまったら、危険です。
それに私は素顔という、個人的プライバシーをさらけ出しています。
にもかかわらず、ガーネは相変わらず鉄の仮面で、素顔を隠しているのです。
これまでいろいろあったので、信頼関係は多少なりとも、生まれてはいます。
でも、何か油断出来ないものを、常に感じているのも確かなのです。
まぁ、それはともかく。
私はあの小箱を、このベッドに持ち込んでいました。
「♪♪ランランラン。」私はその小箱を開け、中の赤い秘石を取り出しました。
寝ながら右腕を伸ばして、赤い秘石が良く見える位置に合わせました。
赤い秘石。恐らく数千年前から、あそこにあったのでしょう。
少し、不透明でした。磨けば綺麗になるのかしらん。
思えば、不思議な出会いです。
200年に1度しか現れる事の無い神殿に、この秘石は眠っていました。
しかも、魔物ラドムアのお墓の中で。
本来であれば、私たちの出会いなど夢物語です。起きるわけがありません。
でも今、悠久の時を経て、私はこの秘石を手にしています。それは確かな事です。
この秘石は、どんな時の流れを過ごしたんでしょう。
多分、あそこに保管される前に、いろいろな所に行ったんじゃないでしょうか。
この輝きです。
神族、人間、そして魔族。
いろいろな者の手を伝わって、ここに来ているのでしょう。
この秘石が私の手元に来るまでに、歩んできた道のりや時の流れ。
そしてかかわりあった多くの者たち。
それらは、私には想像も出来ないほどの、広がりがあるに違いありません。
まだ箱庭で生きている私にとっては、それは宇宙のような広がりでしょう。
「宇宙か。」私はまた、空想の世界に入っていきました。
私は今、ベッドで寝ているのではありません。
果てしなく大きい宇宙の中を、流れているのです。
私の周りには、月やたくさんの星がその光をまたたかせています。
まるで、その1つ1つが自分たちの命を主張しているかのように。
そんな中でも、ひっそりとした静寂さが保たれています。
本当の静寂。何も聞こえる物などありません。
そんな静寂の中。
その星たちの間から、1つ、また一つと私の方へ流れて来る星があります。
私は、それをつかもうと手を差し出します。
でもその星たちは私の開いた手やその指の間から、こぼれていってしまいます。
手のひらに載っても緩やかに動いて、またすり抜けてしまうのです。
つかめそうで、つかめない。ありそうで、あり得ない。
私は、そんな宇宙をただあてもなく、ひたすら流れて行くのです。
私の肉体は時が経てば、いずれ朽ちてしまう事でしょう。
すると私の魂はどこへ。
消滅してしまうのでしょうか、それとも。
ひょっとしたら、この広大な宇宙に輝く、1つの星になってさまようのかも。
だからつかめない。だからあり得ない。
私も、そんな星たちと一緒に、この宇宙をひたすら流れて行くのかもしれません。
私もまた、この宇宙で生まれた命の1つなのだから。
「あたしも宇宙に行きたい。」
「えっ!」私は驚いて、私のすぐ横から聞こえる、声の主を見ました。
トラちゃんでした。
「トラちゃん。ここは私のプライベートルームなのよ。
黙って入って来てはいけません。」
私はそう言って、たしなめました。
「でもこのベッド、あたしのなんだけど。」トラちゃんがそう訴えました。
「えっ!」私は再び驚いた後、向かい側にある2階建てのベッドを見ました。
確かに、いつもと違う光景です。
その上に、向かい側の2階にあるカバンは、紛れも無く私の物でした。
よく考えてみれば、私のベッドには、いろいろな物が置いてあります。
だから、こんなに広い筈が無かったんです。
私の方が断りも無く、トラちゃんの部屋に、ズカズカ上がっていたのでした。
「ごめんなさい。」私はトラちゃんに、謝りました。
「いやあ、判ればいいんですよ。」1階で声がしました。
私が下の階をのぞくと、そこにはガーネが寝転んでいました。
「やぁ、こんにちわ。」手を上げて愛想よく、私に挨拶をしました。
私は、恐る恐る聞きました。
「ええと、私はさっきから、何か喋っていましたか?」
「うん。レミアお姉ちゃんは声を出して、独り言をつぶやいていたわ。
その上、あたしがここに転がり込むのにも、気が付かないようだったの。」
「本当ですよ。私の方でも聞こえましたから。」
「で、私が何を話していたか、判っちゃったんですか?」
「もちろんです。」「当たり前じゃない。」
「で、どのあたりから、お聞きになっていたんでしょうか?」
「ええと、確か「箱庭」とか「宇宙か。」と言った単語が出てきたあたりから。」
私は、顔が火照ってきたのが判りました。
恥ずかしくてたまらなくなり、毛布で顔を隠しました。
そしてもう一度、小さい声でこう言いました。「ごめんなさい。」
第8話「正と邪の女神。」4つめですね。(終)
今回のお話は、第8話「正と邪の女神。」の第4回です。
今まで平気で、第8話「正と邪の女神。」の第4話なんて書いていましたね。
済みません。第4回が正解ですね。後で全部直そうかしらん。
でも、面倒なので、これからはという事で、ご了承下さい。
何か、戦いが中心の、お話になってしまったような気が...。
まぁ、魔物も強くなっていくんだし、仕方が無い事ですね。
今週は台風で、少し暑さは和らぎましたが、湿気は相変わらずです。
と言っても、今日は涼しかったです。
だから、早めに投稿する事にしました。
みなさん、体調は如何でしょうか?
これから、どんどん暑くなります。
お身体をお大切に。
なるだけ、1週間に1回ぐらいは、投稿したいのですがね。
今度はいつ頃になるのでしょうね。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




