第8話「正と邪の女神。」2つめですね。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第8話「正と邪の女神。」2つめですね。のお話です。
この回では、祭壇の間で、魔物と戦います。
第8話「正と邪の女神。」2つめですね。
神殿ガルディが私たちの目の前に現れたのは、それからまもなくでした。
私たちは、探知機でそれが実在しているのを確認しました。
そしてすぐさま、戦闘用車両レイグルの乗り込んだのです。。
ものの10分も経たないうちに、レイグルは走り始めました。
そしてあっという間に、神殿の門の前に到着しました。
「では、これから神殿へ乗り込むぞ。準備は出来ておるかの。」
おじいさんは、運転席から振り向いた後、私たちに尋ねました。
私たちは、シートベルトがきちんと締まっているかどうかを確認しました。
戦闘用車両でもあり、強い材質で作られた物だという事でした。
私は、これから起きる事を考えて、少し強めに締めて置きました。
しかし、ちょっと走っただけで、すぐに普通の締め具合に戻しました。
お腹に巻いた部分が、ちょっと苦しかったからでした。
誤解の無いように言って置きますが、私はそれほど太ってはいません。
先ほどからのおやつの食べすぎと、シートベルトの締めすぎによるものです。
ここを間違えて解釈されては、私のプライドに関わります。
なので念のため、ご報告をしておきます。
話がそれてしまったようです。本題に戻りましょう。
「私は大丈夫ですよ。」「あたしも。」
ガーネとトラが次々と声をあげました。
トラちゃんのシートベルトは、ガーネが固定したようでした。
大きいシートベルトを、トラちゃんの体形に合わせて工夫して締めていました。
手馴れた様子だったので、結構付き合いが長いのだと私は感じました。
本当は私がやってあげようと思っていたので、ちょっとがっかりしました。
「こら、レミア。お前はどうなんじゃ。」
しまった。余計なことに気を取られて、返事をするのを忘れていました。
「は、はい。OKです。」慌てて、そう言いました。
「じゃあ、行くからの。」
レイグルは、神殿へ向って進撃を開始しました。
バリバリ、ドガンドガン、バターン。
車内とは言え、凄まじい音と振動が伝わってきました。
「♪♪邪魔する奴らはぶっ潰せ。」「ぶっ潰せ。」
「♪♪あたしらいつでも、力押し。」「力押し。」
「♪♪エイエイオー。」「エイエイオー。」
しかし、車内では全員が歌を歌って、盛り上がっていました。
特にトラちゃんは、興奮して声を張り上げ、4つ足をバタバタさせていました。
おじいさんやガーネ、そして私も興奮して声を張り上げていました。
それくらい迫力ある光景が、私たちの車窓のすぐ外で、展開されていたからです。
迫り来る神殿の柱を折り、壁をぶち破り、破竹の快進撃です。
もちろん神殿が、私たちに向かって来ているわけではありません。
私たちが乗っているこのレイグルが、神殿をぶち壊しながら、進んでいるのです。
目の前に屋根の一部が、落ちてきました。
ですがそれにひるむ事無く、ひたすらレイグルは前進しました。
まさに、爽快です。身体に何か熱いものが、みなぎるような感覚さえ覚えます。
私とガーネは、こぶしを振り上げていました。
トラちゃんは、私たちの真似をしているらしく、右前足を高く上げていました。
おじいさんも、歌を熱唱していました。みんな、まさにノリノリの状態でした。
実は、この進撃のやり方には、少し議論がありました。
「そんな。絶対に駄目です。人類の貴重な財産である、あの遺跡を壊すなんて。」
私は、おじいさんに抗議しました。
「別にわしは、あの遺跡を壊すなどとは言っておらん。」
おじいさんは私の言った事を、即座に否定しました。
「えっ、でもこのレイグルをあの神殿に突っ込ませるんでしょう。」
私は、尋ねました。
「確かにその通りではあるが...。
最低限の被害は、認めてもらわねばどうにもならないのじゃ。」
「と言うと?」ガーネが尋ねました。
「あの宮殿は200年に1度しか現れないのは、もう知っておるな。」
「はい。」
それはさっき、私が説明したばかりでしたので、みんな知っていました。
お菓子を食べて、聞いていなかった場合を除けばですが。
その場合は、誰であろうと張り倒そうと思っていました。
ですので、無駄な手間が省けてホッとしました。
「この神殿に初めて人が探検をしてから、数千年の時が流れていると言う。
それにもかかわらずじゃ。まだ誰も財宝のある女神の間にまで到達しておらん。
それは何故だと思う?」
おじいさんが誰ともなしに問いかけていました。
「神殿が広すぎて、場所が判らなかったからではありませんか?」とガーネ。
「もともと、無かったっていう考え方もあるわね。
つまり、ただの伝説でしかなかったとか。」とトラちゃん。
「既に財宝が奪われていたので、悔しくて黙っていたなんて。」これは私。
しかし、おじいさんは首を横に振って、こう答えました。
「いや、どれも違う。
探検者が女神の間まで、到達出来なかった最大の理由。
それは、この神殿が守護者によって守られていたそうだからじゃよ。」
「守護者って?誰か今でもあの神殿を管理している者がいるのですか?」
私は首をかしげて、おじいさんに尋ねました。
「いや、人間ではない。もっと恐ろしいものだ。
あの宮殿の探検記は、世界中、さまざまな所に残っておる。
それを総合的に、突き合せてみると、驚くべき事実を発見した。」
「その事実とは、一体何だったんですか?」ガーネが喰いついてきました。
私は小さい声で、トラちゃんに尋ねました。
「ねぇ、トラちゃん。あのガーネって言う人、世界の歴史に興味でもあるの?」
「そうね。確かに博物館なんかがあったりした場合、間違いなく行くわね。
あと、おばあさんなんかから、昔話を聞くのも好きみたい。」
「ふーん。そうなんだ。」私は、特に大した事じゃないような返事をしました。
しかし、心の中では、ひょっとしたら私と同類なんじゃないかと思い始めました。
おじいさんは、話を続けました。
「実はのう。
この神殿には、財宝の守護者と称して悪霊や魔物が現れるとの事らしい。
これらが、探検者が進むの妨害をしているとの事じゃ。
いや、妨害だけならまだしも、そのために命を落とす者さえいたと言う。」
「それは今、私も初めて聞きましたよ。
なんで前もって言ってくれなかったのですか?」
私は寝耳に水の話に、おじいさんに抗議をしました。
「言ったら、来ないんじゃなかろうと思ってな。いや、すまんかったのう。」
おじいさんはそう言って、頭をかいていました。
「済まなかったじゃ、済みません。」
私は、顔を膨らませました。
もし、事前にこの事が判っていたら、確かに来る事はありませんでした。
私は、幽霊とかお化けとか、そう言う物が大嫌いでしたからね。
そんな私の心を知ってか知らずか、おじいさんは話を続けました。
「での。わしらが普通に探検に行っても、彼らの二の舞になるだけと思ってな。
一策講じる事にしたのじゃ。幸い、わしは戦闘用車両の専門家での。
じゃから、試作品の戦闘用車両に、今回の探検に必要な対策を施したのじゃ。
そして、なるだけ早く、財宝を手に入れる方法を練っていた。
今回のプランは、その結果なのじゃよ。」
「ですが、おじいさん。方法って言われても。
これでは、ただの力押しじゃないですか。考えた欠片も感じられません。
それにやはり貴重な遺跡を、例え一部でも自分たちで壊すのは納得出来ません。」
この正論とも思える私の抗議に対して、おじいさんはこう言いました。
「じゃがのう。
悠長な事をやっていては、手ぶらで帰るだけじゃよ。
お前だって、そうじゃ。
例え、あそこの遺跡の幾つかを、持って帰って報告したとしてもじゃ。
誰が、それを信じると言うのじゃ。
次にあの神殿が現れるのは、200年後ぞ。
相手にされないばかりか、嘘つき呼ばわりされて、それでおしまいぞ。」
「ですが...。」
「まぁ、聞きなさい。
もし、ここで仮に金銀財宝を見つけたとしたら、どうじゃろうな。
鑑定家に見せれば、確かに本物と判定してもらえるじゃろう。
それを学会に持っていって報告すれば、一躍お前は、有名人じゃ。
ひょっとしたら、「考古学の母」などと呼ばれるかもしれん。
その夢が今、手の届くところにあるのじゃ。
それを果たして、自分から放棄していいものかのう。」
おじいさんの話に、私は不覚にも、心を動かされてしまいました。
私には、断じて虚栄心などと言うものはありません。
ですが、人に蔑まされるよりは、尊敬を受けたいと思うのは、人情でしょう。
まして、「考古学の母」なんて呼ばれた日には。
それに、うまく行けば、大金持ちにもなれます。
私は、自分が気が付かないうちに、おじいさんの手を両手で握り締めていました。
「是非、その方法で行きましょう。」
1も2も無く、賛成している私が、そこにはいました。
その私の耳に、トラちゃんの声が聞こえてきました。
「やっぱり良く似ているね。」私は、その言葉を無意識に聞き流していました。
そんなわけで、今や破竹の快進撃あるのみです。
誰も、私たちを止められません。
あっという間に、祭壇の間に到着しました。
私たちは、ここでとりあえず、現在位置の確認をするために降りてみました。
「ここからが、王室専用の間になります。」
私は、古文書にあった地図のコピーを見ながら、そう言いました。
「レミア姉ちゃん。でも、この神殿随分大きいね。
もっと小さいのかと思ってた。」トラちゃんは感心していました。
「ここは神殿と言っても、外側の方は一般の民にも一部開放されていたわ。
彼らが集う広場や祭壇もあったの。
また、ここから先は王室しか入れない専用区域なっているわ。
こんな具合に、多くの人が使用出来るように考えたのね。
だから、こんな大きな敷地になったんだと思うの。」
私は、肩に乗っているトラちゃんに、そう説明しました。
「まぁ、神殿が広いのはいいとして、ここからどう行けばよいのかの。」
「それ何ですけど...。
この先に、女神の間があるのは記録にあるので、間違いなさそうなんです。
だけど、ここから先の詳細な方の地図が無いんですよ。」
「はて、それはまた何故なんでしょうね。」とガーネ。
「多分、その当時、その間取りは極秘扱いになっておったんじゃ無いかの。
王室専用であり、しかも金銀財宝が眠っているとなれば、なおさらの事じゃて。」
おじいさんは腕を組みながら、話を続けました。
「さて、これからどうしたものか。
今までのようにレイグルに乗って、破壊を続けながら探索をすべきか。
それとも念のために歩いて、探索を続けるべきか。」
おじいさんは、悩んでいました。
「敷地の広さから見て、女神の間までそんなに距離は無いと思うんですよ。
場所も判らないのに、いたずらに壊しまくるのはどうなんでしょう。
かえって見つけにくくなる場合も、あるんじゃないでしょうか?」
私は、おじいさんにそうアドバイスしてみました。
「そうじゃの。それがいいかも知れんわい。
時間はまだ、たっぷりとあるからの。
ここまで来て焦らなくとも、なんとかなるじゃろ。」
おじいさんは、私の意見に賛成のようでした。
そんな私たちの会話を聞いてたのでしょう。
ガーネとトラちゃんが、何かひそひそ話をしています。
その後、なんか不安ありげな顔で、こちらを見ていました。
「どうしたんですか?」私はガーネとトラに向かって、尋ねてみました。
「いや、何でもありません。」「そうよ、何でも無いわ。」
慌てたかのように、ガーネとトラは、私に答えました。
「別に何を言っても、気にしませんから。
何か意見があれば、おっしゃって下さい。」私は、そう言いました。
「では、お言葉に甘えて、遠慮なく言わせて頂きます。
ここから近いとは言っても、レイグルから離れて歩くのは危険だと思います。
ここから金銀財宝が近いのだとすれば、障害が大きくなるのは目に見えています。
時間だって、これからの方がかかる可能性が大きいです。
それよりもレイグルでスピードを落としながら、探査を続けるべきだと思います。
探検に安全とスピードを求めるなら、この方法が無難かと思います。」
ガーネの言葉に、おじいさんはうなずきました。
「確かにな。これからの方が、危険が大きくなるかもしれん。
1人1人で歩いて行って、何かあった場合どうしようもないからのう。
どう思う?レミアよ。」
私は考えてみました。
何のトラブルも無いのなら、私が提案した通りでいいと思います。
でも、ここは伝説の神殿。しかもいわくつきです。
何があっても、おかしくはありません。
現に過去に使者だって、出ているのです。
やはり何を置いても、安全は確保すべきです。
「そうですね。ガーネの言う通り、やはりレイグルを使いましょうか?」
「では、決まりじゃな。」
私たちの話はまとまり、出発する事になりました。
私は、肩にぶら下げていた水筒を下ろしました。
そして水筒に付いているコップを外した後、それに水筒の中の冷水を注ぎました。
私は熱中症予防のため、水は定期的に補給しています。
本当はスポーツドリンクあたりがいいらしいのですが、今はありません。
これでも無いよりかはましと、飲んでいるというわけです。
私は冷水を飲みながら、簡略に書かれた地図で、再度確認をする事にしました。
「ここには、左右両方に出入り口があってと...。
ああ、確かにありますね。
左側が王室の居住の間に繋がっていると。
一方、右側には、大広間に広がっていて、その奥は、と。
あら、記述が消されているわ。
これは怪しい。きっと何かあるに違いないわ。」
私がそう思った時、私の肩をコンコンと、突くものがありました。
「トラちゃん、今考え中なの。用事ならあとにして。
それに痛いわ。たたく時は、もう少し加減してくれない?
ねぇ、ガーネからも何か言ってやってよ。ねぇ...。」
私は、自分の前にいるガーネに文句を言おうと、顔をあげました。
「あれっ。」
ガーネの右肩には、トラちゃんがいました。
また、ガーネの横には、私のおじいさんもいました。
何故か、2人とも顔面蒼白でした。
私は小突かれた肩の方を、恐る恐る振り向きました。
黒くて鋭く尖った足先が、私を突いていたのでした。
私は更に、後ろを振り返りました。
そこには、黒い身体に8本の足を持つ、爬虫類のような生物がいました。
私は「ギャアー。」と叫ぼうとしました。
ですがその寸前、「ギャアー。」と叫び声が聞こえたのを確認しました。
それは、ガーネとおじいさんの叫び声でした。
ガーネはトラちゃんを抱きかかえて、おじいさんと一緒に逃げ出していました。
2人は、この部屋の入り口まで行って、その両側で私を見守ったのでした。
「早く逃げてくるんじゃ。」「早く来て下さい。」「レミアお姉ちゃん、早く。」
次々と矢継ぎ早に、声をかけてくるのですが、助けに来る者はいませんでした。
私はどうやら、ヒーローを待っているヒロインにはなれないようです。
自分の命は、自分で守らなければならない事を深く悟りました。
「ギャアー。」私は全力で走りました。
「ガシャ、ガシャ。」
後ろから物凄い音を立てて、追いかけて来るのが判りました。
それでも私は、その部屋の入り口近くまで、来ました。
ガーネやおじいさんが、入口から腕を伸ばしていました。
私は、精一杯手を伸ばして、その手をつかもうとしました。ですがその時。
「バザーン。」凄まじい地響きが私の周りで起こりました。
私は立ち止まり思わず目を閉じてしまいましたが、やがて静かになって来ました。
私は、恐る恐る目を開けると、何故かあたりが暗くなっていました。
周りを見回すと、先ほどの生物の足に囲まれていたのでした。
更に真上を見ると、その生物のどす黒い腹らしき物がありました。
私は、その生物の身体の真下にいたのでした。
もし、この生物がその腹を地面にくっつけられるなら、私は潰れてしまいます。
また、あの足に襲われたら、串刺しになってしまうでしょう。
私は真剣になって、逃げる方法を考えました。
幸い、足と足の間には、余裕で人が通れる広さがあります。
あと多分、前よりも、後ろの方が移動しにくいんじゃないでしょうか。
部屋の入り口では、みんなが心配そうな顔をしていました。
でも、私を助けるために近付いて来る気配は、微塵も感じられませんでした。
私は、心を決めました。
「行こう!」私はその生物の後ろの方から、外へ飛び出しました。
その生物はゆっくりと、身体の向きを私の方に移動させました。
「やっぱり、小回りが利かないんだわ。」
私はそう思って、安心しました。
気が付いてみると、喉がからからに乾いていました。
肩にぶら下げていた水筒をコップに注いで飲み、心を落ち着かせました。
しかし、次の瞬間、その生物は思いがけない行動に出ました。
私の方に向きを変えたその生物は、フワァッと浮いたのでした。
そして私の目の前に着地したのでした。
「ギャアー。」私は思わず手にしたコップを、その生物にたたきつけました。
その時、信じられない光景を見ました。
コップから流れた水がその生物にかかるや否や、白い煙が発生したのでした。
「グワァー。」私は始めて、その生物の鳴き声を聞きました。
明らかに、苦しがっています。良く見るとかかった身体の一部が溶けていました。
「そうか、この生物の弱点は水なんだわ。」
私は、切り札を手にしたような感覚を覚えました。そして、水筒を手にしました。
「あれっ。もう少ししか無いじゃない。」
水筒のふたを急いで開けましたが多分、水をかけられるのは、あと1回でしょう。
私は、どこにかけるべきか即座に考えました。
この生物の移動方法は、ジャンプと走る事、つまり足です。
足を封じてしまえばよいわけです。
そこで私は右側にある前足2本に、思いっきり水筒の残りの水をぶちまけました。
その後水筒を捨ててその生物の下を通って、全力で部屋の入り口に向かいました。
しかし予想よりはるかに早く、その生物は向きを変えていました。
そして、私の真上にジャンプしたのでした。
入口まで、あと僅かと言う所で、私はまたしても捕まってしまいました。
「残念。」私は泣きそうになりながら、入り口の方を見ました。
「!!」そこには、誰1人いませんでした。
きっと、この生物に怖れをなして、とっくに逃げてしまったんでしょう。
「ちくしょう。この人でなし。」私はありとあらゆる悪態をつきました。
やがて、私を取り囲んでいた生物の足から糸が出て、私の身体を巻き始めました。
粘着力のかなり強い糸でした。
あっという間にがんじがらめにされた私は、腹の外へと放り投げられました。
身動きの出来ない私に、その生物の口が迫って来ました。
その口の大きいあごが動いて、カチカチと音を立てています。
私を食べるために、そのあごで挟もうとした瞬間、奇跡は起こりました。
強い水流が、その生物を襲ったのでした。
私は、なんとか向きを変えて、入り口の方を向きました。
そこには生物めがけて水を飛ばしている、ガーネとおじいさんがいたのでした。
「あれは、水圧洗浄ガンだわ。」
水圧洗浄ガン。
それは、高圧力で出力した強い水流で、壁の汚れなどを落とすものです。
使用してみれば判ると思いますが、水を放出する際の勢いはすごいです。
汚い壁が、あっという間に綺麗になります。
普段、お掃除が苦手な人でも、何だか楽しくなってしまう器具です。
一度、お試しあれ。
私たちは普段、戦闘用車両レイグルの外側を洗浄するために、使用しています。
戦闘用車両には、シャワーやお風呂に毎日使えるほどの、水が補給されています。
私がおじいさんに頼んで、無理矢理作らせたから、間違いありません。
私は勝ったと思いました。
「ムァメェ、ミヤッミマメェ。」
私はぐるぐる巻きにされて、口すらあまり開く事が出来ませんでした。
それでも懸命に声を張り上げて、普段使った事の無い言葉で応援しました。
その生物は断末魔の悲鳴を上げた後、ゆっくりと崩れるように倒れて行きました。
その後、幻のようにどこへともなく、消えてしまったのでした。
私に巻きついていた、あの粘着力の強い糸も、嘘のように消えていました。
私は、しばらく呆然としていました。
気が付くとおじいさんに、肩をたたかれていました。
そして「おい、怪我はありゃせんか。」と声をかけられました。
「おじいさん、有難うございます。」
私は、おじいさんに抱きつき、泣いて感謝しました。
何とか魔物を退治出来た私たちは、祭壇の間の中へ戦闘用車両を移動させました。
その後、丁度お昼近くになっていたので、食事をする事にしたのでした。
食事の内容は、ビスケットが数枚と乳飲料でした。
「ねぇ、ちょっとわびしい食事じゃない?」
トラちゃんは、ガリガリ食べながらそう言いました。
「でも、これからの食事はずっとこんなもんなのよ。
もちろん、栄養とかカロリーは十分なので、心配いらないと思うわ。」と私。
「確かにそうなのじゃろうが...。
わしのように年をとると、食べ物ぐらいしか楽しみがなくてな。
もう少し、色をつけてくれると有り難いのじゃが。」
おじいさんは、そうこぼしていました。
「まぁ、美味しい事は美味しいんですけどね。」
ガーネは、特に不満は無さそうでした。
「ところで、さっきからズルズルって音が聞こえてきますね。
この車両からの発生音のような気がするんですが、これって何なのでしょうか?」
ガーネはおじいさんに、そう尋ねました。
「バキューム装置が働いておるのじゃ。
これで、先ほどこの部屋に放水した水を吸い上げているのじゃ。
かなり強力でな。外にいると、わしらの体内の水分までも吸い上げかねない。
じゃから、ここに移動したわけじゃよ。」
「へぇ、そうだったんですか?で、どのくらいの回収率なんですか?」
「テストの平均では1時間の吸い込みで、90%以上は常に出来ておった。
かなりの回収率じゃよ。」おじいさんは、自慢げに言いました。
「じゃあ、それが終わるまでは、ここで待機というわけですね。」
「そういう事じゃな。シャワーを浴びるのが、楽しみな孫もいるでの。」
おじいさんはそう言って、私の方をちらちらっと、見ました。
「当然ですよ。それが出来ないなら、ここには来ませんでしたもの。」
私は、断言しました。
「まぁ、私たちもお風呂は好きですしね。大助かりですよ。ねぇ、トラ。」
「そうね。やっぱり1日に1回は入らないと、毛並みによくないの。」
ガーネとトラちゃんは、私の意見に賛成のようでした。
「わしはどちらでもいいがの。
まぁ、みんながそう言うなら、文句などありゃせん。」
私のおじいさんは、清潔感というものには、無縁のお方のように思われました。
やがて、私たちはわびしい昼食を終えました。
その後、ガーネは私にこう尋ねました。
「あの、歯ブラシもらえませんでしょうか?出来れば2本。」
「ところでじゃ。先ほどのあの生物。あれはどう思う。」
おじいさんは誰ともなしに、そう言いました。
「すごく大きい爬虫類って感じだったわね。」とトラ。
「生物と言っても、水をかけたら最後は幻のように消えてしまいましたからね。
やはりあれは、魔物だったんじゃないでしょうか?」とガーネ。
「何にしても、私はとても怖かったわ。
だって最初、誰も助けに来てくれなかったんだもの。」
私は、さっきから心の中に溜まっていた不満をぶちまけました。
私としてはそれを言う事で、慰めの言葉と乙女への気配りを期待しました。
ですが驚いた事に、周りにいる人の反応は、明らかに違っていました。
「レミアお姉ちゃん。助けるってまさか、お姉ちゃんをじゃないよね。」
「そんなわけは無かろう。」「そうですとも。きっと私の事をですよ。」
私が先ほど、助けを求めるヒロインであった事を、無視した発言をしていました。
「当然、私の事じゃないですか。
あの魔物に追いかけられて、大変だったのをもう忘れたんですか?」
私は全員をにらみつけて、糾弾しました。
「と言われてもな。」「そうよ。少し無理があると思うの。」「ですよね。」
「何をわけの判らない事を言っているの?
か弱いヒロインが、助けを求めて苦しんでいたと言うのに。
何にも、感じなかったの?」
いささか、私は興奮して来ました。
「か弱いヒロインって...。
じゃあ聞くがの。確かこの神殿に乗る込む前の事じゃ。
わしがお主のの最後のおせんべいを食べた際にな。
お主からアッパーカットを喰らって、床にたたきつけられた事を忘れたのかの?」
「私はそれを止めようとしたんですけどね。
そうしたら、胸倉をつかまれて、車両の外に放り投げられてしまいました。」
「その時、ガーネの肩にいたあたしも、一緒に放り投げられちゃった。
そんなに強いレミアお姉ちゃんを、誰が助けられるって言うの?」
2人と1匹は、口々にそう叫んでいました。
駄目だ、乙女の可愛くてささいなお茶目を、根に持つなんて。
こんなひ弱な奴ら、いや、人たちの中ではとてもヒロインになんかなれっこない。
私は、けなげなヒロイン役を演じる事を断念しました。
「さてと、話は変わるがの。これからどうしたものじゃろうか?
多分、これからもあのような魔物は何体か出て来ると思うのじゃ。
その危険を冒してまで、この探検を続けるべきかの?」
おじいさんはそう言って、みんなの意思を確認しようとしました。
「私はさっき決めたように、このレイグルで先に進みたいわ。
考古学者の卵として、遺跡には興味がありますからね。
また、財宝にも魅力を感じますし。」
「じゃが、先ほどのような、怖い思いもするかもしれんのじゃがの。」
「だから余計、その怖がった分を、取り返したいんです。」
私は、きっぱりとそう言いました。
トラ。こういう人がギャンブルにのめり込んで、スッテンテンになるんですよ。
判ったわ。私も気を付けないといけないわね。
何か私の隣から、ひそひそ話が聞こえてきましたが、私は無視しました。
「ゴホン。まぁ、お主の言いたい事は判ったわい。
ところで、ガーネ。お主たちはどうなのじゃ。」
おじいさんはガーネたちにも、意見を求めました。
「私たちは、別にどちらでも構いませんよ。
財宝を手に入れても私たちには、使いようがありませんしね。
まぁ、危険が無い方がいいには決まっていますけどね。
私たちとすれば、お2人のお手伝いが出来るなら、それでいいですよ。」
「そうね。あたしもガーネと同じ意見だわ。」
ガーネとトラちゃんは、そう答えました。
財宝をもらっても、使いようが無いか...。
やっぱり、本当にこの世界の人間じゃないのかも。
私は、ふとそんな風に思いました。
「みんなの意見はよう判った。
わしとしては、この探検は続けたいのじゃ。
まだその入り口に立ったばかりじゃからの。
特に反対意見は無さそうなので、行く事にしたいと思う。
それで、構わんかの?」
おじいさんのその言葉に、全員うなずきました。
私は、1つ提案を出す事にしました。
「ねぇ、今回の探検は記録に残しておきたいのよ。
それでね、お願いがあるんだけど。
毎回、魔物が出るたびに、その生物とかいう言い方だと、おかしいと思うの。
だからさ。この際、魔物が出るたびに名前を付けるなんてのは、どう?」
「まぁ、確かにその方がいいかもしれんて。
こちらも、魔物を指す時に楽じゃからな。」おじいさんは賛成しました。
「私も構いません。」「右に同じく。」ガーネとトラも賛成のようでした。
「じゃあ、そう言う事で。これからは、順番で名前を付けることにするわね。
今回のあの魔物に関しては、私が名前を付けるわ。
名前は「ガルガン」。別に名前に意味なんていらないからね。
各人、気に入った名前を付けていってね。」
「了解しました。」全員でハモリました。
やがて、バキューム装置は自動停止しました。
放水の回収率は94%。なかなかの数字です。
これならシャワーなどに思い切り、使う事が出来ます。
私は嬉しくて、みんなにVサインをしました。
みんな、その意味が判ったらしく、全員笑顔でした。
「じゃあ、出発するぞ。みんなシートベルトをしっかりな。」
「オー!」
戦闘用車両レイグルは、発進しました。
祭壇の間の奥にある、右側の出入り口から出て行きました。
目指すは大広間です。ここから先に何があるか誰にも判りません。
私たちは未知の世界にまた1歩、歩みだしたのでした。
第8話「正と邪の女神。」2つめですね。(終)
今回のお話は、第8話「正と邪の女神。」の第2話です。
これって、ダンジョン?ロールプレイング?
いや、特に何も考えていません。
ただこういう所なら、魔物がいても有りかなと思って。
と言っても、ほとんど大した敵にはしないつもりです。
ほとんどね。
今週2日ぐらい涼しい日がありましたので、書いてみました。
今度はいつ頃になるのでしょうね。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




