表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第8話「正と邪の女神」
23/46

第8話「正と邪の女神。」2つめですね。

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第8話「正と邪の女神。」2つめですね。のお話です。

この回では、祭壇の間で、魔物と戦います。


第8話「正と邪の女神。」2つめですね。


神殿ガルディが私たちの目の前に現れたのは、それからまもなくでした。

私たちは、探知機でそれが実在しているのを確認しました。

そしてすぐさま、戦闘用車両レイグルの乗り込んだのです。。

ものの10分も経たないうちに、レイグルは走り始めました。

そしてあっという間に、神殿の門の前に到着しました。

「では、これから神殿へ乗り込むぞ。準備は出来ておるかの。」

おじいさんは、運転席から振り向いた後、私たちに尋ねました。

私たちは、シートベルトがきちんと締まっているかどうかを確認しました。

戦闘用車両でもあり、強い材質で作られた物だという事でした。

私は、これから起きる事を考えて、少し強めに締めて置きました。

しかし、ちょっと走っただけで、すぐに普通の締め具合に戻しました。

お腹に巻いた部分が、ちょっと苦しかったからでした。

誤解の無いように言って置きますが、私はそれほど太ってはいません。

先ほどからのおやつの食べすぎと、シートベルトの締めすぎによるものです。

ここを間違えて解釈されては、私のプライドに関わります。

なので念のため、ご報告をしておきます。

話がそれてしまったようです。本題に戻りましょう。

「私は大丈夫ですよ。」「あたしも。」

ガーネとトラが次々と声をあげました。

トラちゃんのシートベルトは、ガーネが固定したようでした。

大きいシートベルトを、トラちゃんの体形に合わせて工夫して締めていました。

手馴れた様子だったので、結構付き合いが長いのだと私は感じました。

本当は私がやってあげようと思っていたので、ちょっとがっかりしました。

「こら、レミア。お前はどうなんじゃ。」

しまった。余計なことに気を取られて、返事をするのを忘れていました。

「は、はい。OKです。」慌てて、そう言いました。

「じゃあ、行くからの。」

レイグルは、神殿へ向って進撃を開始しました。


バリバリ、ドガンドガン、バターン。

車内とは言え、凄まじい音と振動が伝わってきました。

「♪♪邪魔する奴らはぶっ潰せ。」「ぶっ潰せ。」

「♪♪あたしらいつでも、力押し。」「力押し。」

「♪♪エイエイオー。」「エイエイオー。」

しかし、車内では全員が歌を歌って、盛り上がっていました。

特にトラちゃんは、興奮して声を張り上げ、4つ足をバタバタさせていました。

おじいさんやガーネ、そして私も興奮して声を張り上げていました。

それくらい迫力ある光景が、私たちの車窓のすぐ外で、展開されていたからです。

迫り来る神殿の柱を折り、壁をぶち破り、破竹の快進撃です。

もちろん神殿が、私たちに向かって来ているわけではありません。

私たちが乗っているこのレイグルが、神殿をぶち壊しながら、進んでいるのです。

目の前に屋根の一部が、落ちてきました。

ですがそれにひるむ事無く、ひたすらレイグルは前進しました。

まさに、爽快です。身体に何か熱いものが、みなぎるような感覚さえ覚えます。

私とガーネは、こぶしを振り上げていました。

トラちゃんは、私たちの真似をしているらしく、右前足を高く上げていました。

おじいさんも、歌を熱唱していました。みんな、まさにノリノリの状態でした。


実は、この進撃のやり方には、少し議論がありました。

「そんな。絶対に駄目です。人類の貴重な財産である、あの遺跡を壊すなんて。」

私は、おじいさんに抗議しました。

「別にわしは、あの遺跡を壊すなどとは言っておらん。」

おじいさんは私の言った事を、即座に否定しました。

「えっ、でもこのレイグルをあの神殿に突っ込ませるんでしょう。」

私は、尋ねました。

「確かにその通りではあるが...。

最低限の被害は、認めてもらわねばどうにもならないのじゃ。」

「と言うと?」ガーネが尋ねました。

「あの宮殿は200年に1度しか現れないのは、もう知っておるな。」

「はい。」

それはさっき、私が説明したばかりでしたので、みんな知っていました。

お菓子を食べて、聞いていなかった場合を除けばですが。

その場合は、誰であろうと張り倒そうと思っていました。

ですので、無駄な手間が省けてホッとしました。

「この神殿に初めて人が探検をしてから、数千年の時が流れていると言う。

それにもかかわらずじゃ。まだ誰も財宝のある女神の間にまで到達しておらん。

それは何故だと思う?」

おじいさんが誰ともなしに問いかけていました。

「神殿が広すぎて、場所が判らなかったからではありませんか?」とガーネ。

「もともと、無かったっていう考え方もあるわね。

つまり、ただの伝説でしかなかったとか。」とトラちゃん。

「既に財宝が奪われていたので、悔しくて黙っていたなんて。」これは私。

しかし、おじいさんは首を横に振って、こう答えました。

「いや、どれも違う。

探検者が女神の間まで、到達出来なかった最大の理由。

それは、この神殿が守護者によって守られていたそうだからじゃよ。」

「守護者って?誰か今でもあの神殿を管理している者がいるのですか?」

私は首をかしげて、おじいさんに尋ねました。

「いや、人間ではない。もっと恐ろしいものだ。

あの宮殿の探検記は、世界中、さまざまな所に残っておる。

それを総合的に、突き合せてみると、驚くべき事実を発見した。」

「その事実とは、一体何だったんですか?」ガーネが喰いついてきました。

私は小さい声で、トラちゃんに尋ねました。

「ねぇ、トラちゃん。あのガーネって言う人、世界の歴史に興味でもあるの?」

「そうね。確かに博物館なんかがあったりした場合、間違いなく行くわね。

あと、おばあさんなんかから、昔話を聞くのも好きみたい。」

「ふーん。そうなんだ。」私は、特に大した事じゃないような返事をしました。

しかし、心の中では、ひょっとしたら私と同類なんじゃないかと思い始めました。

おじいさんは、話を続けました。

「実はのう。

この神殿には、財宝の守護者と称して悪霊や魔物が現れるとの事らしい。

これらが、探検者が進むの妨害をしているとの事じゃ。

いや、妨害だけならまだしも、そのために命を落とす者さえいたと言う。」

「それは今、私も初めて聞きましたよ。

なんで前もって言ってくれなかったのですか?」

私は寝耳に水の話に、おじいさんに抗議をしました。

「言ったら、来ないんじゃなかろうと思ってな。いや、すまんかったのう。」

おじいさんはそう言って、頭をかいていました。

「済まなかったじゃ、済みません。」

私は、顔を膨らませました。

もし、事前にこの事が判っていたら、確かに来る事はありませんでした。

私は、幽霊とかお化けとか、そう言う物が大嫌いでしたからね。

そんな私の心を知ってか知らずか、おじいさんは話を続けました。

「での。わしらが普通に探検に行っても、彼らの二の舞になるだけと思ってな。

一策講じる事にしたのじゃ。幸い、わしは戦闘用車両の専門家での。

じゃから、試作品の戦闘用車両に、今回の探検に必要な対策を施したのじゃ。

そして、なるだけ早く、財宝を手に入れる方法を練っていた。

今回のプランは、その結果なのじゃよ。」

「ですが、おじいさん。方法って言われても。

これでは、ただの力押しじゃないですか。考えた欠片も感じられません。

それにやはり貴重な遺跡を、例え一部でも自分たちで壊すのは納得出来ません。」

この正論とも思える私の抗議に対して、おじいさんはこう言いました。

「じゃがのう。

悠長な事をやっていては、手ぶらで帰るだけじゃよ。

お前だって、そうじゃ。

例え、あそこの遺跡の幾つかを、持って帰って報告したとしてもじゃ。

誰が、それを信じると言うのじゃ。

次にあの神殿が現れるのは、200年後ぞ。

相手にされないばかりか、嘘つき呼ばわりされて、それでおしまいぞ。」

「ですが...。」

「まぁ、聞きなさい。

もし、ここで仮に金銀財宝を見つけたとしたら、どうじゃろうな。

鑑定家に見せれば、確かに本物と判定してもらえるじゃろう。

それを学会に持っていって報告すれば、一躍お前は、有名人じゃ。

ひょっとしたら、「考古学の母」などと呼ばれるかもしれん。

その夢が今、手の届くところにあるのじゃ。

それを果たして、自分から放棄していいものかのう。」

おじいさんの話に、私は不覚にも、心を動かされてしまいました。

私には、断じて虚栄心などと言うものはありません。

ですが、人に蔑まされるよりは、尊敬を受けたいと思うのは、人情でしょう。

まして、「考古学の母」なんて呼ばれた日には。

それに、うまく行けば、大金持ちにもなれます。

私は、自分が気が付かないうちに、おじいさんの手を両手で握り締めていました。

「是非、その方法で行きましょう。」

1も2も無く、賛成している私が、そこにはいました。

その私の耳に、トラちゃんの声が聞こえてきました。

「やっぱり良く似ているね。」私は、その言葉を無意識に聞き流していました。


そんなわけで、今や破竹の快進撃あるのみです。

誰も、私たちを止められません。

あっという間に、祭壇の間に到着しました。

私たちは、ここでとりあえず、現在位置の確認をするために降りてみました。

「ここからが、王室専用の間になります。」

私は、古文書にあった地図のコピーを見ながら、そう言いました。

「レミア姉ちゃん。でも、この神殿随分大きいね。

もっと小さいのかと思ってた。」トラちゃんは感心していました。

「ここは神殿と言っても、外側の方は一般の民にも一部開放されていたわ。

彼らが集う広場や祭壇もあったの。

また、ここから先は王室しか入れない専用区域なっているわ。

こんな具合に、多くの人が使用出来るように考えたのね。

だから、こんな大きな敷地になったんだと思うの。」

私は、肩に乗っているトラちゃんに、そう説明しました。

「まぁ、神殿が広いのはいいとして、ここからどう行けばよいのかの。」

「それ何ですけど...。

この先に、女神の間があるのは記録にあるので、間違いなさそうなんです。

だけど、ここから先の詳細な方の地図が無いんですよ。」

「はて、それはまた何故なんでしょうね。」とガーネ。

「多分、その当時、その間取りは極秘扱いになっておったんじゃ無いかの。

王室専用であり、しかも金銀財宝が眠っているとなれば、なおさらの事じゃて。」

おじいさんは腕を組みながら、話を続けました。

「さて、これからどうしたものか。

今までのようにレイグルに乗って、破壊を続けながら探索をすべきか。

それとも念のために歩いて、探索を続けるべきか。」

おじいさんは、悩んでいました。

「敷地の広さから見て、女神の間までそんなに距離は無いと思うんですよ。

場所も判らないのに、いたずらに壊しまくるのはどうなんでしょう。

かえって見つけにくくなる場合も、あるんじゃないでしょうか?」

私は、おじいさんにそうアドバイスしてみました。

「そうじゃの。それがいいかも知れんわい。

時間はまだ、たっぷりとあるからの。

ここまで来て焦らなくとも、なんとかなるじゃろ。」

おじいさんは、私の意見に賛成のようでした。

そんな私たちの会話を聞いてたのでしょう。

ガーネとトラちゃんが、何かひそひそ話をしています。

その後、なんか不安ありげな顔で、こちらを見ていました。

「どうしたんですか?」私はガーネとトラに向かって、尋ねてみました。

「いや、何でもありません。」「そうよ、何でも無いわ。」

慌てたかのように、ガーネとトラは、私に答えました。

「別に何を言っても、気にしませんから。

何か意見があれば、おっしゃって下さい。」私は、そう言いました。

「では、お言葉に甘えて、遠慮なく言わせて頂きます。

ここから近いとは言っても、レイグルから離れて歩くのは危険だと思います。

ここから金銀財宝が近いのだとすれば、障害が大きくなるのは目に見えています。

時間だって、これからの方がかかる可能性が大きいです。

それよりもレイグルでスピードを落としながら、探査を続けるべきだと思います。

探検に安全とスピードを求めるなら、この方法が無難かと思います。」

ガーネの言葉に、おじいさんはうなずきました。

「確かにな。これからの方が、危険が大きくなるかもしれん。

1人1人で歩いて行って、何かあった場合どうしようもないからのう。

どう思う?レミアよ。」

私は考えてみました。

何のトラブルも無いのなら、私が提案した通りでいいと思います。

でも、ここは伝説の神殿。しかもいわくつきです。

何があっても、おかしくはありません。

現に過去に使者だって、出ているのです。

やはり何を置いても、安全は確保すべきです。

「そうですね。ガーネの言う通り、やはりレイグルを使いましょうか?」

「では、決まりじゃな。」

私たちの話はまとまり、出発する事になりました。


私は、肩にぶら下げていた水筒を下ろしました。

そして水筒に付いているコップを外した後、それに水筒の中の冷水を注ぎました。

私は熱中症予防のため、水は定期的に補給しています。

本当はスポーツドリンクあたりがいいらしいのですが、今はありません。

これでも無いよりかはましと、飲んでいるというわけです。

私は冷水を飲みながら、簡略に書かれた地図で、再度確認をする事にしました。

「ここには、左右両方に出入り口があってと...。

ああ、確かにありますね。

左側が王室の居住の間に繋がっていると。

一方、右側には、大広間に広がっていて、その奥は、と。

あら、記述が消されているわ。

これは怪しい。きっと何かあるに違いないわ。」

私がそう思った時、私の肩をコンコンと、突くものがありました。

「トラちゃん、今考え中なの。用事ならあとにして。

それに痛いわ。たたく時は、もう少し加減してくれない?

ねぇ、ガーネからも何か言ってやってよ。ねぇ...。」

私は、自分の前にいるガーネに文句を言おうと、顔をあげました。

「あれっ。」

ガーネの右肩には、トラちゃんがいました。

また、ガーネの横には、私のおじいさんもいました。

何故か、2人とも顔面蒼白でした。

私は小突かれた肩の方を、恐る恐る振り向きました。

黒くて鋭く尖った足先が、私を突いていたのでした。

私は更に、後ろを振り返りました。

そこには、黒い身体に8本の足を持つ、爬虫類のような生物がいました。

私は「ギャアー。」と叫ぼうとしました。

ですがその寸前、「ギャアー。」と叫び声が聞こえたのを確認しました。

それは、ガーネとおじいさんの叫び声でした。

ガーネはトラちゃんを抱きかかえて、おじいさんと一緒に逃げ出していました。

2人は、この部屋の入り口まで行って、その両側で私を見守ったのでした。

「早く逃げてくるんじゃ。」「早く来て下さい。」「レミアお姉ちゃん、早く。」

次々と矢継ぎ早に、声をかけてくるのですが、助けに来る者はいませんでした。

私はどうやら、ヒーローを待っているヒロインにはなれないようです。

自分の命は、自分で守らなければならない事を深く悟りました。

「ギャアー。」私は全力で走りました。

「ガシャ、ガシャ。」

後ろから物凄い音を立てて、追いかけて来るのが判りました。

それでも私は、その部屋の入り口近くまで、来ました。

ガーネやおじいさんが、入口から腕を伸ばしていました。

私は、精一杯手を伸ばして、その手をつかもうとしました。ですがその時。

「バザーン。」凄まじい地響きが私の周りで起こりました。

私は立ち止まり思わず目を閉じてしまいましたが、やがて静かになって来ました。

私は、恐る恐る目を開けると、何故かあたりが暗くなっていました。

周りを見回すと、先ほどの生物の足に囲まれていたのでした。

更に真上を見ると、その生物のどす黒い腹らしき物がありました。

私は、その生物の身体の真下にいたのでした。

もし、この生物がその腹を地面にくっつけられるなら、私は潰れてしまいます。

また、あの足に襲われたら、串刺しになってしまうでしょう。

私は真剣になって、逃げる方法を考えました。

幸い、足と足の間には、余裕で人が通れる広さがあります。

あと多分、前よりも、後ろの方が移動しにくいんじゃないでしょうか。

部屋の入り口では、みんなが心配そうな顔をしていました。

でも、私を助けるために近付いて来る気配は、微塵も感じられませんでした。

私は、心を決めました。

「行こう!」私はその生物の後ろの方から、外へ飛び出しました。

その生物はゆっくりと、身体の向きを私の方に移動させました。

「やっぱり、小回りが利かないんだわ。」

私はそう思って、安心しました。

気が付いてみると、喉がからからに乾いていました。

肩にぶら下げていた水筒をコップに注いで飲み、心を落ち着かせました。

しかし、次の瞬間、その生物は思いがけない行動に出ました。

私の方に向きを変えたその生物は、フワァッと浮いたのでした。

そして私の目の前に着地したのでした。

「ギャアー。」私は思わず手にしたコップを、その生物にたたきつけました。

その時、信じられない光景を見ました。

コップから流れた水がその生物にかかるや否や、白い煙が発生したのでした。

「グワァー。」私は始めて、その生物の鳴き声を聞きました。

明らかに、苦しがっています。良く見るとかかった身体の一部が溶けていました。

「そうか、この生物の弱点は水なんだわ。」

私は、切り札を手にしたような感覚を覚えました。そして、水筒を手にしました。

「あれっ。もう少ししか無いじゃない。」

水筒のふたを急いで開けましたが多分、水をかけられるのは、あと1回でしょう。

私は、どこにかけるべきか即座に考えました。

この生物の移動方法は、ジャンプと走る事、つまり足です。

足を封じてしまえばよいわけです。

そこで私は右側にある前足2本に、思いっきり水筒の残りの水をぶちまけました。

その後水筒を捨ててその生物の下を通って、全力で部屋の入り口に向かいました。

しかし予想よりはるかに早く、その生物は向きを変えていました。

そして、私の真上にジャンプしたのでした。

入口まで、あと僅かと言う所で、私はまたしても捕まってしまいました。

「残念。」私は泣きそうになりながら、入り口の方を見ました。

「!!」そこには、誰1人いませんでした。

きっと、この生物に怖れをなして、とっくに逃げてしまったんでしょう。

「ちくしょう。この人でなし。」私はありとあらゆる悪態をつきました。

やがて、私を取り囲んでいた生物の足から糸が出て、私の身体を巻き始めました。

粘着力のかなり強い糸でした。

あっという間にがんじがらめにされた私は、腹の外へと放り投げられました。

身動きの出来ない私に、その生物の口が迫って来ました。

その口の大きいあごが動いて、カチカチと音を立てています。

私を食べるために、そのあごで挟もうとした瞬間、奇跡は起こりました。

強い水流が、その生物を襲ったのでした。

私は、なんとか向きを変えて、入り口の方を向きました。

そこには生物めがけて水を飛ばしている、ガーネとおじいさんがいたのでした。

「あれは、水圧洗浄ガンだわ。」

水圧洗浄ガン。

それは、高圧力で出力した強い水流で、壁の汚れなどを落とすものです。

使用してみれば判ると思いますが、水を放出する際の勢いはすごいです。

汚い壁が、あっという間に綺麗になります。

普段、お掃除が苦手な人でも、何だか楽しくなってしまう器具です。

一度、お試しあれ。

私たちは普段、戦闘用車両レイグルの外側を洗浄するために、使用しています。

戦闘用車両には、シャワーやお風呂に毎日使えるほどの、水が補給されています。

私がおじいさんに頼んで、無理矢理作らせたから、間違いありません。

私は勝ったと思いました。

「ムァメェ、ミヤッミマメェ。」

私はぐるぐる巻きにされて、口すらあまり開く事が出来ませんでした。

それでも懸命に声を張り上げて、普段使った事の無い言葉で応援しました。


その生物は断末魔の悲鳴を上げた後、ゆっくりと崩れるように倒れて行きました。

その後、幻のようにどこへともなく、消えてしまったのでした。

私に巻きついていた、あの粘着力の強い糸も、嘘のように消えていました。

私は、しばらく呆然としていました。

気が付くとおじいさんに、肩をたたかれていました。

そして「おい、怪我はありゃせんか。」と声をかけられました。

「おじいさん、有難うございます。」

私は、おじいさんに抱きつき、泣いて感謝しました。


何とか魔物を退治出来た私たちは、祭壇の間の中へ戦闘用車両を移動させました。

その後、丁度お昼近くになっていたので、食事をする事にしたのでした。

食事の内容は、ビスケットが数枚と乳飲料でした。

「ねぇ、ちょっとわびしい食事じゃない?」

トラちゃんは、ガリガリ食べながらそう言いました。

「でも、これからの食事はずっとこんなもんなのよ。

もちろん、栄養とかカロリーは十分なので、心配いらないと思うわ。」と私。

「確かにそうなのじゃろうが...。

わしのように年をとると、食べ物ぐらいしか楽しみがなくてな。

もう少し、色をつけてくれると有り難いのじゃが。」

おじいさんは、そうこぼしていました。

「まぁ、美味しい事は美味しいんですけどね。」

ガーネは、特に不満は無さそうでした。

「ところで、さっきからズルズルって音が聞こえてきますね。

この車両からの発生音のような気がするんですが、これって何なのでしょうか?」

ガーネはおじいさんに、そう尋ねました。

「バキューム装置が働いておるのじゃ。

これで、先ほどこの部屋に放水した水を吸い上げているのじゃ。

かなり強力でな。外にいると、わしらの体内の水分までも吸い上げかねない。

じゃから、ここに移動したわけじゃよ。」

「へぇ、そうだったんですか?で、どのくらいの回収率なんですか?」

「テストの平均では1時間の吸い込みで、90%以上は常に出来ておった。

かなりの回収率じゃよ。」おじいさんは、自慢げに言いました。

「じゃあ、それが終わるまでは、ここで待機というわけですね。」

「そういう事じゃな。シャワーを浴びるのが、楽しみな孫もいるでの。」

おじいさんはそう言って、私の方をちらちらっと、見ました。

「当然ですよ。それが出来ないなら、ここには来ませんでしたもの。」

私は、断言しました。

「まぁ、私たちもお風呂は好きですしね。大助かりですよ。ねぇ、トラ。」

「そうね。やっぱり1日に1回は入らないと、毛並みによくないの。」

ガーネとトラちゃんは、私の意見に賛成のようでした。

「わしはどちらでもいいがの。

まぁ、みんながそう言うなら、文句などありゃせん。」

私のおじいさんは、清潔感というものには、無縁のお方のように思われました。

やがて、私たちはわびしい昼食を終えました。

その後、ガーネは私にこう尋ねました。

「あの、歯ブラシもらえませんでしょうか?出来れば2本。」


「ところでじゃ。先ほどのあの生物。あれはどう思う。」

おじいさんは誰ともなしに、そう言いました。

「すごく大きい爬虫類って感じだったわね。」とトラ。

「生物と言っても、水をかけたら最後は幻のように消えてしまいましたからね。

やはりあれは、魔物だったんじゃないでしょうか?」とガーネ。

「何にしても、私はとても怖かったわ。

だって最初、誰も助けに来てくれなかったんだもの。」

私は、さっきから心の中に溜まっていた不満をぶちまけました。

私としてはそれを言う事で、慰めの言葉と乙女への気配りを期待しました。

ですが驚いた事に、周りにいる人の反応は、明らかに違っていました。

「レミアお姉ちゃん。助けるってまさか、お姉ちゃんをじゃないよね。」

「そんなわけは無かろう。」「そうですとも。きっと私の事をですよ。」

私が先ほど、助けを求めるヒロインであった事を、無視した発言をしていました。

「当然、私の事じゃないですか。

あの魔物に追いかけられて、大変だったのをもう忘れたんですか?」

私は全員をにらみつけて、糾弾しました。

「と言われてもな。」「そうよ。少し無理があると思うの。」「ですよね。」

「何をわけの判らない事を言っているの?

か弱いヒロインが、助けを求めて苦しんでいたと言うのに。

何にも、感じなかったの?」

いささか、私は興奮して来ました。

「か弱いヒロインって...。

じゃあ聞くがの。確かこの神殿に乗る込む前の事じゃ。

わしがお主のの最後のおせんべいを食べた際にな。

お主からアッパーカットを喰らって、床にたたきつけられた事を忘れたのかの?」

「私はそれを止めようとしたんですけどね。

そうしたら、胸倉をつかまれて、車両の外に放り投げられてしまいました。」

「その時、ガーネの肩にいたあたしも、一緒に放り投げられちゃった。

そんなに強いレミアお姉ちゃんを、誰が助けられるって言うの?」

2人と1匹は、口々にそう叫んでいました。

駄目だ、乙女の可愛くてささいなお茶目を、根に持つなんて。

こんなひ弱な奴ら、いや、人たちの中ではとてもヒロインになんかなれっこない。

私は、けなげなヒロイン役を演じる事を断念しました。


「さてと、話は変わるがの。これからどうしたものじゃろうか?

多分、これからもあのような魔物は何体か出て来ると思うのじゃ。

その危険を冒してまで、この探検を続けるべきかの?」

おじいさんはそう言って、みんなの意思を確認しようとしました。

「私はさっき決めたように、このレイグルで先に進みたいわ。

考古学者の卵として、遺跡には興味がありますからね。

また、財宝にも魅力を感じますし。」

「じゃが、先ほどのような、怖い思いもするかもしれんのじゃがの。」

「だから余計、その怖がった分を、取り返したいんです。」

私は、きっぱりとそう言いました。


トラ。こういう人がギャンブルにのめり込んで、スッテンテンになるんですよ。

判ったわ。私も気を付けないといけないわね。


何か私の隣から、ひそひそ話が聞こえてきましたが、私は無視しました。

「ゴホン。まぁ、お主の言いたい事は判ったわい。

ところで、ガーネ。お主たちはどうなのじゃ。」

おじいさんはガーネたちにも、意見を求めました。

「私たちは、別にどちらでも構いませんよ。

財宝を手に入れても私たちには、使いようがありませんしね。

まぁ、危険が無い方がいいには決まっていますけどね。

私たちとすれば、お2人のお手伝いが出来るなら、それでいいですよ。」

「そうね。あたしもガーネと同じ意見だわ。」

ガーネとトラちゃんは、そう答えました。

財宝をもらっても、使いようが無いか...。

やっぱり、本当にこの世界の人間じゃないのかも。

私は、ふとそんな風に思いました。

「みんなの意見はよう判った。

わしとしては、この探検は続けたいのじゃ。

まだその入り口に立ったばかりじゃからの。

特に反対意見は無さそうなので、行く事にしたいと思う。

それで、構わんかの?」

おじいさんのその言葉に、全員うなずきました。


私は、1つ提案を出す事にしました。

「ねぇ、今回の探検は記録に残しておきたいのよ。

それでね、お願いがあるんだけど。

毎回、魔物が出るたびに、その生物とかいう言い方だと、おかしいと思うの。

だからさ。この際、魔物が出るたびに名前を付けるなんてのは、どう?」

「まぁ、確かにその方がいいかもしれんて。

こちらも、魔物を指す時に楽じゃからな。」おじいさんは賛成しました。

「私も構いません。」「右に同じく。」ガーネとトラも賛成のようでした。

「じゃあ、そう言う事で。これからは、順番で名前を付けることにするわね。

今回のあの魔物に関しては、私が名前を付けるわ。

名前は「ガルガン」。別に名前に意味なんていらないからね。

各人、気に入った名前を付けていってね。」

「了解しました。」全員でハモリました。


やがて、バキューム装置は自動停止しました。

放水の回収率は94%。なかなかの数字です。

これならシャワーなどに思い切り、使う事が出来ます。

私は嬉しくて、みんなにVサインをしました。

みんな、その意味が判ったらしく、全員笑顔でした。

「じゃあ、出発するぞ。みんなシートベルトをしっかりな。」

「オー!」

戦闘用車両レイグルは、発進しました。

祭壇の間の奥にある、右側の出入り口から出て行きました。

目指すは大広間です。ここから先に何があるか誰にも判りません。

私たちは未知の世界にまた1歩、歩みだしたのでした。


第8話「正と邪の女神。」2つめですね。(終)


今回のお話は、第8話「正と邪の女神。」の第2話です。

これって、ダンジョン?ロールプレイング?

いや、特に何も考えていません。

ただこういう所なら、魔物がいても有りかなと思って。

と言っても、ほとんど大した敵にはしないつもりです。

ほとんどね。


今週2日ぐらい涼しい日がありましたので、書いてみました。

今度はいつ頃になるのでしょうね。


気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。

では、また会える日を。See You Again.


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ