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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第8話「正と邪の女神」
22/46

第8話「正と邪の女神。」最初ですね。

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第8話「正と邪の女神。」最初ですね。のお話です。

この回では、魔女ルーディアと王女アイリスについてのお話です。

また、ガーネとトラの神殿ガルディの探検前のお話も書かれています。


第8話「正と邪の女神。」最初ですね。


とある国の国王の使者が馬で一路、王国グライアを目指していました。

ある森のそばを通ると、その路上に黒衣の者がひざまずいておりました。

「一体、どうしたのですか?」使者は、その黒衣の者に尋ねました。

「大変申し訳にくいのですが、この先をお通しするわけには、参りません。

どうか、お引き返しのほどをよろしくお願いします。」

黒衣の者は、女性でした。

「私は、ある用事があって、先を急がねばならないのです。

残念ながら、ご希望には添えません。」

使者は、そのまま通り過ぎようとしました。

しかし、黒衣の者は、馬の手綱を押さえて、先に進ませませんでした。

「一体、何があったんですか?」使者は、もう一度尋ねました。

黒衣の者は、再びひざまずいてこう言いました。

「実は、私は王国グライアの国王の従者です。

実はあそこの森の中で、我があるじはただ今、休息をしております。

そのため何か事が起きぬよう、こうして見張りをしているのです。」

それを聞いた使者は、「それは、好都合。」と言って、馬から降りました。

そして、黒衣の者に、自分が自国の国王からの使者である事を話しました。

「実はこの書状を一刻も早く、王国グライアの王に手渡したいのです。

どうか、お目通りがかないませんでしょうか。」使者は、そう尋ねました。

黒衣の者は、しばらく考え込んでいましたが、やがて顔を上げました。

「本来ならば許されぬ事ではありますが、急用とあらばやむを得ぬでしょう。

但し念のため武器は一切、私の方で預からせて頂きます。

それで構わないのであればお通ししますが、如何でしょう。」

「判りました。」

使者はそう言って、所持している武器を全て、黒衣の者に手渡しました。

「では、こちらへどうぞ。私がご案内します。」

黒衣の者はそう言って、使者を森の中へ連れて行きました。



ここは、王国グライアの神殿ガルディ。

その謁見のにおいて王のグライアは、使者と対面していました。

その使者は、他国の王からの手紙を託されていました。

その手紙を読んだ王のグライアは、その使者にこう伝えました。

「そなたの国の王が民を思うその気持ちは、もっともである。

悪霊や魔物などの災いより、そなたの国を救うには、もはや神剣のみ。

幸い、我が王家には、先祖代々より受け継がれてきた神剣が、2本ある。

そのうちの1本をお貸し申そう。

これを持って直ちに自国へ戻り、悪霊どもを打ち払うがよかろう。」

王はそう言って、2本の神剣のうちの1本、ザイドをその使者に手渡しました。

「ははぁ。」使者は、頭を下げ、その神剣を両手で押し頂きました。

その後、使者は王に対し、こう願い出ました。

「このような大切な神剣をお貸し下さり、お礼の申し上げようもございません。

我らは直ちに、自国に帰還する由にございます。

しかし、それにあたって、今1つ欲しき物がございます。」

「何じゃ。何なりと申してみるがよかろう。」

「さすれば、わらわが欲しいのは、」

使者はそう言って、王の元に駆け足で、近付きました。

先ほどまでの使者の姿から、黒衣をまとった女人の姿へと変貌していました。

そして、やわら刀を鞘から引き抜きました。

「そなたの命じゃ。」

使者はそう言って、白く光り輝く神剣の刃を王の心の臓に突き刺したのでした。

王の鮮血があたりに飛び散りました。

使者はその刃を、王からゆっくりと引き抜きました。

神剣の刃は先ほどまでとは違い、赤く光り輝いていました。

「これぞ、まさしく邪剣ぞ。」使者は、そうつぶやきました。

「ウッ。」王グライアは床に倒れ伏し、そのまま息絶えてしまいました。

「王!」倒れた王の元に、従者たちが集まって来ました。

また王を殺害した使者は、更に多くの従者に囲まれてしまいました。

「我らが王の仇じゃ。その者を斬り殺せ。」

号令と共に、従者が一斉に剣を抜き、使者に躍りかかろうとしました。

その時、使者は、自分が手にしていた神剣を1振りしたのでした。

たった1振り。その1振りで従者のほとんどが切り裂かれ、死んでしまいました。


「ほお。さすがよのう、この邪剣の威力は。ますます気に入ったわい。」

使者はそう言って、歩き出しました。

そして剣を構えながらも、怯えて動けない従者たちに向かってこう言いました。

「わらわは、魔女ルーディア。

わらわが欲したのは、神剣にあらず。邪剣だったのじゃ。

この王国に代々伝わる神剣に、現王の命を注ぐ事によって、邪剣は生まれる。

わらわが手にしている剣が、赤く光輝いている事こそ、まさに邪剣の証拠じゃ。

民を救うのでなく、民を支配し、世界を支配するための剣が今、生まれたのじゃ。

ハハハハハ、アッハハハハハ。」

魔女はひとしきり高笑いをした後、更に言葉を続けました。

「さてと、わらわにはまだやる事がある。

お前たち、斬り殺されたく無くば、そこを退け。」

その言葉を聞いた途端、生き残っている全ての者たちが魔女に襲いかかりました。

「止むをえまい。」

魔女は彼らを1振りで、せん滅しました。

そして王座を振り返り、死んだ国王のグライアに対し、こう言いました。

「さすが、グライアの王よ。

よく、これだけ忠義の者を集めたのう。その事だけは敬意に値しよう。」

魔女はそう言って、静かに部屋を出て行きました。


魔女が向かったのは神殿の奥にある、女神の間でした。

この女神の間には、王国グライアの金銀財宝が保管されていました。

また王国の守護神として、2体の女神像がそこにはありました。

1体は、力をつかさどる正神ザイド。

もう1体は、正義と愛を司る正神ラムダでした。

魔女は、正神ザイドの石像の前に立ちました。

「わらわはこの時を待っていた。この時をひたすら待ちわびていた。」

魔女は感慨深げに、言葉を紡ぎました。

「わらわが持っているのは、確かに邪剣。

されど、わらわ自身は、一介の魔女に過ぎぬ。

この邪剣を振るうに値する力は、今のわらわには無い。

それ故、わらわは自らの命を断ち、女神ザイドに捧げる。

女神がわらわの命とこの邪剣を受け入れた時、邪神ルーディアが誕生する。

逆に、受け入れ適わずの暁には、そのままむくろとなるであろう。

だが魔女と言えども、いずれ死は訪れる。

ならば今、その命をかけるに値する時が来ているのだ。

ためらう必要など、どこにもあるまい。」

魔女ルーディアは邪剣の刃の先を、自分に向けました。

そして何のためらいも無く、心の臓に刃を突き立てたのでした。

「ウウッ。」

薄れゆく意識の中で、魔女は最後の力を絞って、石像に手を当てました。

「我を導きたまえ。」

魔女は石像に手を置いたまま、ガクッと膝を崩しました。

その時、石像本体が光輝きました。

その光はどんどん大きくなり、魔女の身体ごと包んでしまいました。


光が消えた時、女神である正神ザイドの石像に変化が起こりました。

石像が新しいものに変わり、その顔は魔女ルーディアのものになっていたのです。

しばらくして、その石像が人の姿に変身しました。

石像と同じ形の鎧をまとったその者の手には、邪剣が握られていました。

そしてその顔は、まさしく魔女ルーディアの顔でした。

その者は、不思議そうにあたりを見回しました。

そして、手に持った邪剣を眺め、それに映っている自分の顔や姿を見ました。

「ハハハハハ。アッハハハハハ。

やったぞ、わらわは。わらわはついに、邪神になったぞ。

ハハハハハ。アッハハハハハ。」

ルーディアは高笑いをしました。

邪神ルーディアが今、誕生したのでした。



その頃、王の謁見の間に、王女アイリスが駆けつけて来ました。

何か、嫌な胸騒ぎを覚えていたからでした。

「こ、これは。」

その部屋は、血の海と化していました。

死者をかき分け王座まで来た時、アイリスは立ちすくんでしまいました。

国王グライアの身体が、大量の血で覆われていたのでした。

「父上、父上。」アイリスは懸命に父にすがりました。

ですがその時、国王グライアは既に息を引き取っていました。


「誰がこんな事を。」アイリスは1人立ち上がり、誰ともなしにそう言いました。

「おひい様。」かすかな声が聞こえました。

王の直属の従者の声でした。アイリスは慌ててその者に駆け寄りました。

アイリスが片膝をついて、その者を抱きかかえました。

その従者は、アイリスもよく見知っている顔でした。

「どうか、しっかりして下さい。一体、何があったのです。」

従者は、息も絶え絶えに、謁見の間で起きた事をアイリスに伝えました。

そして話し終わると安心したように、息を引き取りました。

「魔女ルーディアよ。よくも父や従者たちの命を...。

絶対に許すわけには行きません。」

王女アイリスは、謁見の間を飛び出しました。

そして2本の神剣が置かれていた、つるぎの間に入りました。

しかし今、そこにあるのは正剣ラムダただ1本でした。

アイリスは、鎧と正剣を身に付け、急いで女神の間に向かいました。


アイリスが女神の間に向かう途中、その進路に人の姿がありました。

「一体、あなたは何者です?ここで何をしているのです。」

アイリスは問い詰めました。

「ほう、まだ生き残っている従者がいたのか。」

その者は、ゆっくりとアイリスに向かって行きました。

近づくにつれて、アイリスにははっきりと判りました。

その者がまとっている鎧が、女神ザイドのものである事。

その腰に付けている剣が、神剣ザイドである事。

これらの事を確認した王女アイリスは、名乗りをあげました。

「私は、王国グライアの王女、アイリス。

魔女ルーディア。よくも父や従者たちの命を奪ったな。

絶対に許せません。覚悟なさい。」

アイリスは、正剣ラムダを手に取って身構えました。

「何か、勘違いしているようだな。

わらわは、魔女などでは無い。

わらわは、邪神ルーディアなるぞ。

いくら、お前がわらわにたてつこうとも、人であるお前が敵う筈もあるまい。

大人しく、とこにひざまずけ。

わらわのしもべになると言うのなら、生かしておいてやってもよいぞ。

わらわは、慈悲深い女神だからの。ハハハハハ。アッハハハハ。」

邪神ルーディアは、高笑いをしました。

しかし、次の瞬間その笑いは収まりました。

アイリスが目にも見えない早技で、剣を振るったからでした。

その刃の刃先が、ルーディアの頬をかすめました。

そしてその肌に、血の跡がうっすらと残っていました。

「邪神ルーディア。

神であったとしても、油断すれば待っているのは封印という名の牢獄ですよ。」

王女アイリスは、静かにそう言いました。


「おのれ、王女アイリス。この邪剣で、お前の体を切り刻んでくれるわ。」

「お黙りなさい。邪神ルーディア。

王である父上をたぶらかし、我が王家に受け継がれてきた神剣を、お前は奪った。

このまま生かしておいては、どんな災いをもたらすか計り知れません。

王家にあるもう1本のこの神剣で、お前の野望を必ず打ち砕いて見せます。」

邪神ルーディアの持つ神剣ザイド。

正神ザイドの持つ正剣として、この世に生まれた神剣でした。

それが今や、邪神となったルーディアの力を引き出す邪剣となってしまいました。

王女アイリスの持つ神剣ラムダ。

正神ラムダの持つ正剣として、この世に生まれた神剣でした。

神剣ザイドと共に、王国グライアを守って来ました。

それが今や、邪剣となったザイドに、敵対出来る唯一の剣となってしまいました。

その2本の神剣が、火花を散らしました。

最初は、互角に打ち合っていました。

ですが王女アイリスは、若いながら、優れた剣の使い手として、評判でした。

同じ神剣同士の戦いのため、次第に邪神は、追い詰められていきました。

「今だ。」王女は、隙をついて邪神に斬りつけました。

ですが、それは邪神の誘いのために作った隙でした。

王女の剣は、紙1枚の差でかわされ、邪神との間隔が広がってしまいました。

邪神は、左手のみで剣を持ち、右手を王女の前に差し出しました。

えん。」

邪神ルーディアより、業火の炎が、王女に注がれました。

「ああっ。」

炎を体や顔に浴びた王女は、床に転がってしまいました。

「ふん。わらわが、元は魔女である事を忘れたか。

特にわらわは炎を操る事を、得意とする魔女での。

邪神となった今のわらわは、使える術の全てが強化されておる。

こうなっては、もう手を出す事も出来まい。

大人しくこの刃にかかって、死ぬがよかろう。」

邪神はそう言って、王女に斬りかかろうとしました。

王女は間一髪でその刃を、自分の剣で払いました。

思わず邪神が退いた隙に、王女は何とか立ち上がりました。

しかし身にまとっている鎧は、濃く焦げ付いていました。

そして王女の顔には火傷の跡が出来て、左目は焼かれていました。

「ほう、片目が潰れたか。

いくら優れた戦士であろうと、果たしてその状態で満足に戦えるのかな。」

王女は、邪神に斬りかかりました。

ですが、片目を失った事により、方向感覚がずれてしまっていました。

そのため、刃の切っ先が邪神に届く事はありませんでした。

邪神は、その正剣を自分が手にしている邪剣で打ち払いました。

王女は、正剣をぐっと握り締め、何とか手放すのをこらえました。

ですがその反動でバランスを崩し、床に倒れてしまいました。

「王女、覚悟。」邪神は、猛然と王女に斬りかかりました。

「これまでか。」王女は自らの死を覚悟しました。

ですが邪神の剣は、王女に届く事が出来ませんでした。

「放せ、放さぬか。」邪神は大声を上げていました。

王女は急いで立ち上がり、邪神を見ました。

そこには邪神の両腕を、背後から押さえている戦士の姿がありました。

「カミーラ!」それは王女の許婚の、他国の王子でした。

「遅れて済まない。だが何とか間に合ったようだな。」

王子はそう言って、王女に微笑みました。

王女は剣を持ち直し、邪神と対峙しました。

その瞬間、邪神は高笑いをしました。

「ハハハハハ。アッハハハハハ。」

その笑い声は、神殿中に鳴り響きました。

「その程度で、神となったわらわを抑えられると思っているのか?」

そう言った後、邪神は目を閉じました。

「炎。」邪神はその身体全体を炎と化しました。

「ウワァー。」王子は、その全身が炎に包まれました。

王子は、苦しみもだえました。

しかし、邪神から決して離れる事はありませんでした。

「何故じゃ。邪神となったわらわの術を何故、耐える事が出来るのじゃ。」

不審に思った邪神は、背中越しに王子を見ました。

「なるほど。そなたのまとっているその鎧は神具なのじゃな。

道理で、持ちこたえておるわけじゃ。

わらわが以前のように魔女ならば、容易く防御したであろう。

だが、今のわらわは邪神なるぞ。いつまで耐えきれるかのう。」

邪神はうすら笑いを浮かべました。

「カミーラ!」王女は思わず、声をかけました。

それに対し、王子はうなずいた後、王女に語りかけました。

「我が愛しのアイリス。

あなたのその正剣こそ、この邪神を封印できる唯一無二の存在。

さぁ、アイリス。このまま私ごとこの邪神をその正剣で貫きなさい。」

「何を言うの、カミーラ。そんな事が出来るわけ無いじゃない。」

王女は泣き叫びました。

戯言ざれごとを抜かしおって。炎。」

再び邪神は業火の炎を、全身にまといました。

王子は激しい炎に再び、包まれました。

邪神に対峙しながら、動く事が出来ない王女の耳に、王子の声が聞こえました。

「アイリス。もう私は耐えられない。

お願いだ、アイリス。その正剣で邪神を封印してくれ。

私は、あなたを、あなたが生まれたこの国を守りたいんだ。

頼む。アイリス。私の死を無駄にしないでくれ。」

アイリスは、カミーラの目が閉じようとしているのを見ました。

「カミーラ!」

アイリスは、無我夢中で、その正剣の刃を邪神に突き刺しました。

「あーあっ。」邪神はもだえながらも、狂気の目を見開きました。

王子の死により、邪神は両腕の戒めを解かれていました。

邪神は、自分を突き刺している王女を、ものすごい形相でにらみつけました。

そして、自由になった両腕で己の邪剣を握り締め、王女に深く斬りつけました。

王女は、よろよろと邪神の元を離れ、床に膝をつきました。


邪神は、正剣に突き刺されたままの状態で、ふらふらと動いていました。

その時自分の背後で倒れている、カミーラの姿が目に映りました。

邪神は、急いでカミーラから魂を取り出そうとしました。

新しい魂さえ手に入れば、封印を免れるからでした。

邪神は、右手をカミーラの身体に触れました。

その途端、もうそれが手遅れである事を悟りました。

「駄目じゃ。もう既に事切れておる。これではもう、役には立たぬ。」

そう言って、立ち上がろうとしました。

ですが、ふと思い返して、再びカミーラの元で膝をつきました。

邪神はカミーラの頭を撫でながら、こう言いました。

「これなら、まだ使えるかも知れぬな。」

その後、カミーラの頭から、髪の毛の一本を指で押さえました。

その瞬間、その髪の毛は緑色に輝き出しました。

そして、それは邪神が頭からその髪の毛を抜くまでの間、続きました。

「一体、何を。」王女は痛みに耐えながら叫びました。

邪神はその声を聞いて、王女の方を振り向きました。

邪神の手には、もうカミーラの髪の毛はありませんでした。

邪神は、王女に向ってこう言いました。

「王女アイリスよ。これで勝ったと思うな。

邪神となったわらわが、死ぬ事はもはや無いのだ。

しばしの間、この神殿に封印される事にはなるだろう。

だが、いつの日か必ずや人の魂をこの身体に宿させ、邪神として復活してみせる。

そして今度こそ、この世界に君臨して見せようぞ。

惜しむらくは、その時をお前に見せつけられないのが、残念。

ハハハハハ。アッハハハハハ。」

邪神ルーディアは高笑いの中、手にした邪剣と共に幻のように消えていきました。

「カタン。」邪神が去ったその後に、王女の正剣が残っていました。


王女は、よろめきながらも、立ち上がりました。

「おひい様ぁ。」2人の従者が王女の元に駆け寄りました。

王女は許嫁であった、カミーラの元へ歩いて行きました。

「カミーラ!!」王女は号泣しながら、カミーラの身体を抱きました。

ですが、カミーラが息を吹き返す事はありませんでした。

王女は、カミーラを寝かせた後、2人の従者にこう言いました。

「カミーラは、王国グライアのために、邪神と戦った英雄です。

どうか、手厚く葬って下さい。」

「判りました。おひい様。」2人の従者はうなずいて、そう答えました。


王女は、再び立ち上がり、落ちている正剣を拾い上げました。

しかし、その足取りはふらふらしていました。

「しっかりして下さい。おひい様。」

2人の従者に支えられながら、王女はこう言いました。

「もう、時間がありません。私を女神のの間へ、連れて行って下さい。」

そう言って、残り少ない僅かな命の時を、ひたすら歩きました。

やがて、女神の間に入りました。

その中央には、王家に受け継がれた金銀財宝が眠る、隠し部屋がありました。

その隠し部屋の左右に、2人の女神の石像がありました。

その女神は2人共、鎧を身に着けた武闘神でした。

右は、見慣れた古い石像のままでした。

ですが、左は今、出来上がったばかりのように新しい石像になっていました。

王女は、その石像の顔を見ました。

「魔女ルーディア。いや、邪神ルーディアよ。

やはり、ここに封印されていたのですね。」

王女は誰ともなしにそう言いました。

王女は、従者たちの支えを払い、自らの足で右の石像へと歩き出しました。

それは、正神ラムダの石像でした。

しばらくその石像を眺めた後、従者たちの方を振り向きました。

「あなたたちに、伝えておかなければならない事があります。

いつの日か邪神ルーディアは必ず蘇り、世界を恐怖と混乱に陥れるでしょう。

私はその日が来ても、邪神を抑えられるよう、自らこの身を捧げるつもりです。

あなたたちは、この事を私の弟に伝えて下さい。

そして私がよりよい統治をして欲しいと願っていた事も、伝えて欲しいのです。」

「そんな、おひい様。」

2人の従者が叫ぶ声に、うなずいてこう言いました。

「このままでも、あと僅かで、私の命は尽きてしまうでしょう。

それならば、私はこの国やこの世界のために、この身を捧げたいと思います。

それが私のために命を落としたカミーラに報いる、ただ1つの道です。」

「おひい様。」

泣きじゃくる従者の肩に、王女は手を置きました。

「では、後はよろしく頼みます。」

王女はそう言って、正神ラムダの石像に向って歩いて行きました。

その王女の手には、かつて正神ラムダが所有していた正剣が握られていました。

次の瞬間、正神ラムダの石像自身が、白く光り輝きました。

そして、その光は次第に大きくなっていきました。

すると、それに呼応するかのように、正剣ラムダの光も大きくなっていきました。

2つの光は1つの大きな光となって、王女の身体を包み込んだのでした。

2人の従者は、その強く輝く大きな光を正視出来ず、思わず目を閉じました。

やがて、その光は消えました。

2人の従者が目を開けた時には、既に王女の姿はありませんでした。

しかしそこには、今までとは異なる新しい石像が立っていました。

その顔は、まさしく王女アイリスのものでした。

「おひい様。あなたは正神となられたのですね。」

2人の従者は、その石像の下にひざまずき、大声を上げて涙を流しました。


こうして王女は、正神アイリスとして生まれ変わりました。

そしていずれ訪れる邪神復活に備え、石像の姿のまま長い眠りについたのでした。



「この後、この国はアイリスの弟が、統治する事になりました。

弟は正神となった姉の意志をついで、平和と繁栄の道を歩んで行きました。」

ガリガリボリボリ。

「その数百年後、王国は天変地異に見舞われ、疫病もまん延しました。

そのため王国の全ての民が、生きる場所を求めて、その地を離れて行きました。」

ボリボリガリガリ。

「王国は、荒れ狂う砂嵐の中で、廃墟と化していきました。

その中で、神殿ガルディは、人知れずにその姿を消していました。」

ガリガリボリボリ。

「ですが200年に1度、その神殿が姿を現すと言う噂が流れ始めました。」

ボリボリガリガリ。

「また今なお、莫大な金銀財宝が眠っているとの噂もささやかれています。」

ガリガリボリボリ。

ボリボリガリガリ。

「この噂を嗅ぎつけ、その財宝を手に入れようとする者が多くなりました。」

ボリボリガリガリ。

ガリガリボリボリ。

「しかし未だかつて、それを持ち帰ったという記録は残されていません。」

ガリガリボリボリ。

ボリボリガリガリ。

ガリガリボリボリ。

「あら、袋の中、もう空っぽよ。他には無いの?」

「いや、その奥の方にあるはずじゃよ。」

「そう?じゃあ、探してみるわ。」

「そのため、ただの噂では無いのかとも、...。

てぇー、少しうるさいんじゃありません?

あの神殿の伝説を知りたいって言うから、話をしているんですよ。

それなのに何ですか、さっきからガリガリボリボリって。」

「何ですかって言われても。おせんべいだし。かじれば音は鳴ると思うの。」

「そうじゃよ。そんな事も判らんとは情けないのぅ。」

「まぁ、ドンマイですよ。レミアさん。」

「誰も、おせんべいの事を聞きたいわけじゃなーい!!」


いけない。また取り乱してしまったわ。乙女として、はしたない事を。

ええと、私は、レミア。

今、私は、私のおじいさんであるゾア博士の元で、伝説の神殿を探しています。

と言っても、おじいさんは科学者で、主に戦闘車両の開発にいそしんでいます。

私は、考古学を専攻している学生です。

きっかけはおじいさんから、伝説の神殿の話を聞かされた事から始まります。

その神殿は、200年に1度、この地上に現れるとの事でした。

私はおじいさんから、伝説の神殿の事が書かれてある古文書を渡されました。

その内容は、考古学を学んでいる私にとって、興味深いものでした。

それで、この神殿探しに参加したと言うわけなのです。

ですがおじいさんの方は、その神殿に眠る財宝が目当てのようでした。

それさえあれば思う存分、好きな研究に打ち込めるとあって、真剣でした。

私たちは、特殊に改造した戦闘車両で、この地まで来ました。

おじいさんの考えが正しければこの1両日中に、幻の神殿が現れるそうです。

私たちはそれまで、この車両に待機していたのでした。

ある日、思いがけない事が起こりました。

ある砂嵐の強い日、その中から突如として、人影が現れたのでした。

正確に言えば、人1人と猫1匹でした。

奇妙な事に人の方は、顔に鉄の仮面を付けていました。

また猫の方も極端に小さく、その上、なんと人語が喋れるのでした。

人の方はガーネ、猫の方はトラと言う名前でした。

ガーネとトラは、私たちを手伝うので、車両に泊めて欲しいと言いました。

私は、とても怪しすぎるので、反対してみました。

ですが、おじいさんは面白がっていました。

それに人手はあった方がいいと言う事で、結局私が折れることにしました。

そして現在、私が大事な話をしている最中に、おせんべいをかじっているのです。


「あったわよ。」

トラとか言う名前の猫が、喜んで新しいおせんべい袋を口にくわえて来ました。

「それは駄目よ。私が自分の分として、購入したものだから。」

私は、丁寧に説明しました。

トラは私の言葉を聞いて、一瞬硬直していました。

それから口にくわえていたせんべい袋を、ポトッと落としました。

その表情は茫然としていて、悲しみに包まれていました。

そしていつしか涙も、頬をつたってこぼれていました。

「何も、そんなにがっかりしなくても。」

その猫の落ち込みように、私は慌ててしまいました。

「鬼。」「悪魔。」祖父とガーネの声が頭の中でぐるぐると回っていました。

あれは私のです。絶対に食べさせません。

私は、心に固く誓っていました。

しかし再びトラの顔を見て、その悲しそうな表情に心が折れてしまいました。

「いいわよ、いいわよ。好きなだけお食べなさい。」

トラにそう言ってあげると、トラは泣きじゃくりながら、こう言いました。

「レミアお姉ぢゃん、ぶぁりがとう。」

「見て下さい。なんて感動的な光景なんでしょうか。」

「おお、孫が真人間なりおった。それでこそ、わしの孫じゃ。」

ガーネと祖父は、何故か手を取り合って涙を流していました。

私は正直付き合いきれない、と思いました。

ですが、おせんべいは食べたかったので、袋から菓子皿に盛りました。

「頂きます。」みんなで声を合わせて、おやつを食べる挨拶をしました。


「ところで、おじいさん。神殿は、何時頃開くのでしょうね。」

私は、おじいさんに尋ねました。

「そうじゃな。あと数時間といったところか。

もう少しの辛抱じゃよ。それでバラ色の日々が約束されるのじゃ。」

おじいさんは、もう財宝を手にしたような口ぶりでした。

時々暇を見ては、あれを買おうか、それともこれを買おうか。

ノートと電卓と武器カタログを交互に、見ていました。

全くの取らぬたぬきの皮算用です。あたしは身内ながらさすがに呆れました。

「レミア姉ちゃん。レミア姉ちゃん。」トラちゃんが声をかけて来ました。

この頃になると、喋る猫にも慣れてきていました。

その上、「レミアお姉ちゃん」と甘えてくるのです。

何だか、私はお姉さんになった気分になりました。

良く見れば、可愛い子猫ちゃんです。私はだんだん好きになって行きました。

「何。トラちゃん。」

「ねぇ、レミアお姉ちゃん。何やっているの?」

「ああ、これ。

今度街の本屋さんで、考古学の貴重な資料となる古本の即売会があるのよ。

滅多に出ないレアものも、多数出品されるというからチェックしているわけ。」

「じゃがのう。その手の本は高価なものばかりじゃ。

どうやって、購入するつもりかの。」

いつの間にか、おじいさんも絡んで来ました。

「どうやってって...。

だって、この神殿巡りで、いっぱい財宝が手に入るんでしょう?

だったら、それを一部売り払って、買えばいいじゃないの。」

私は、至極もっともな意見を述べたつもりでした。

ですがそんな私に、聞き捨てならない言葉が聞こえて来ました。

「そうかのう。そう言うのを取らぬたぬきの皮算用とかいうんじゃなかろうか。」

そう言いながら、おじいさんは私の元から遠のいて行きました。

おじいさんはガーネの所に行って、何やら話をしていました。

その会話の中で、「あんな孫に育てた覚えは...。」などと口走っていました。

私には、何を言っているのかさっぱり判りませんでした。

それなのにトラちゃんは、微笑んでこう言いました。

「おじいちゃんとお姉ちゃんって、良く似ているね。」

私は驚きのあまり、声を出す事が出来ませんでした。

トラちゃんの言葉は、私にはとても心外でした。


「ところで、確認しておきたい事があるのですが。」ガーネは私に尋ねました。

「何でしょうか?」

「先ほど、神殿が消えたって言ってましたよね。

その神殿が200年に1度、神殿が現れるとも言ったと思います。

何故、それが判ったのでしょうか?」

「ああ、その事ですか。」

私はてっきり、おせんべいを食べていて聞いていないんだろうと思っていました。

ですからはっきり言って、この質問はとても嬉しかったのです。

「今回の神殿探しの情報の出所は、全ておじいさんなんです。

おじいさんから聞いた話と、渡された何冊かの古文書から始まった事なんです。

私の先ほどの話も、これらを元に研究して出した成果に過ぎません。

だからこれから言う事も、それがベースとなっていると解釈して下さい。」

「判りました。で、どうして判ったんでしょうか?」

「まず先ほど、私が話した内容なんですけどね。

あれは王女に最後に付き添っていた2人の従者の手で、書かれたらしいんです。

それ以後は、その王国の複数の人の手で、記録として加筆されています。

また王国を離れた民の中には、隣の王国に移住した人たちもいたんです。

その人たちが時折、王国の状況を観察しては記録に留めていたと言うわけです。

それはその人たちの子孫になっても、続けられて行ったという事です。

彼らの残してくれたこれらの記録から、判ったというわけなんです。」

「なるほど、そうでしたか。あと、もう1つ質問があります。

この神殿の事と、先ほどの正と邪の女神の話しとはどんな関係があるんですか?」

「神殿が姿を消したのは、正神アイリスによるものだという事です。

人がいなくなった事で、神殿が無防備になってしまいました。

もし、誰かが女神の間まで入りこんだら、その魂を邪神が狙うのは、必至です。

そして、邪神は容易く、己を復活させてしまうでしょう。

正神アイリスは、その事を恐れたのです。

だから、神殿を人前から消させたのです。

ですが、200年に1度、正神の力は弱まるらしいのです。

以前は、正神が2人であったため、何の問題も起きなかったそうです。

ですが片方が邪神になった事で、その力の行使に空白の期間が出来たのです。

その結果、その200年に1度、姿を現さざるを得なかったという事です。

正神の力の空白期間は、数日間続きます。

この神殿の事は、既に人の噂に上っていました。

だからその期間中に、財宝目当てに神殿に行く人が、現れ始めたのです。」

「ですが、誰もその財宝を、持ち帰った人はいないんですよね。

数千年前からなら、何回か神殿に人が入ったんじゃないでしょうか。

それなのに、何故なんでしょうね。」

「それは多分、神殿内にいる悪霊や魔物が原因だと思われます。」

「それは、またどうして。」

「当時この王国やその周辺の国々は、悪霊や魔物がはびこっていました。

そして、これらが民を苦しめていたのだそうです。

そのため正神の石像が放つ力や正剣が、これらを封じてきたのでした。

ところがその正神の力が弱まった事で、これらの悪霊たちがまた出てきたのです。

これらは人の魂を喰らう事で、自分の力をより強く出来ると言われています。

現にこれらに命を奪われて、神殿から帰れなくなった者も多くいると言う事です。

これら悪霊や魔物によって、女神の間まで行く事が出来ないのです。」

「でも、それは正神アイリスにとっては、好都合なのでしょうね。

人は何人か犠牲になるにしても、邪神が蘇る事は防げるのですから。」

「まぁ、正神としては、複雑なんじゃないでしょうか。

数日間でも、自分の力が弱まったせいで、人の命が無くなるのですから。」

私は話をしながら、だんだん嬉しくなってきました。

私の研究の成果をこんなに、熱心に聴いてくれる人は初めてだからでした。

「そうかも知れませんね。

でもそれなら、私たちも女神の間までたどり着けないんじゃないんでしょうか。」

「そうね。あたしも悪霊や魔物が相手となると、ちょっと気が引けるわ。」

トラも、不安そうに言いました。


「そこで、わしの出番となるわけじゃよ。」

いつの間にか、おじいさんが私の横に座っていました。

「あの、まだいろいろとお話しておきたい事が...。」

「いや、ここからは多分、わしの専門領域じゃ。わしが話そう。」

おじいさんは、自分の孫のささやかな楽しみを奪おうとしていました。

「ですが...。」少しばかり抵抗をしてはみました。

が、話の主導権はおじいさんに奪われてしまいました。シクシク。

「それでじゃな。この試作品の戦闘車両レイグルを使う事にしたのじゃ。

これはまだ、装備している各種機器のテストが終わっておらん。

それを試す意味でも、この神殿探しに使おうと言うわけなのじゃ。

聞けば悪霊や魔物などと言うのは、太陽の光や水、そして火などに弱いと言う。

つまり人が生きるのに、必要不可欠なものがその対策として有効らしい。

じゃからの。今回はそれらを考慮した装備をほどこしたのじゃ。

また、レーザービーム砲、マシンガン砲、ロボットアームなどの装備もある。

移動する足にしても、いろいろじゃ。

車両、キャタピラ、ホバークラフト、スクリューなどがある。

平地、急な坂道やガタガタ道、そして水上や水中なども移動が可能なのじゃ。

空すら1分程度なら飛べるのじゃ。

じゃが何といっても、その特筆すべきは、その馬力と装甲の厚さじゃ。

古代の遺跡などどんな建物でも、簡単にぶっ壊して素通り出来る力があるのじゃ。

これで、一気に女神の間まで、行こうと思っておる。」

「素晴らしい。いやさすがです。

探検と言うのはこれまで1歩1歩、苦労しながら先へと進んで言ったものです。

もはや、そんな時代は終わったんですね。

今は科学力にものを言わせて、強引に目的地まで、行ってしまうんですね。

やぁ、すごい。すごい。」

ガーネはそう言って、トラちゃんと拍手をしました。

トラちゃんは、器用に前足を使って拍手をしていました。

「いやあ、科学力と言っても、結局は金と力を使っての事じゃがの。」

おじいさんは、ガーネたちの拍手に浮かれて、つい本音を出してしまいました。

「それに、この古文書を解析した、レミアお姉ちゃんも偉い。」

トラちゃんはそう言って、ガーネと一緒に、私にも拍手を送っていました。

「いやあ、私も、先輩に言われた通りに書き写しただけだから。」

私も、つい照れて、本当のことを暴露してしまいました。

「それでも、2人共すごい。」拍手は更に続きました。

「レミアよ。」「おじいさん。」

人から、自分たちの研究成果を認められるのは、大変嬉しいものです。

私とおじいさんは、手を取り合って、喜びを分かち合いました。

「有難う、ガーネ。そしてトラちゃん。」

私とおじいさんは、心の底から、感謝しました。

私たちの、仲間としての結束は強まりました。


やがて予定していた時刻がついに来ました。

私を含め、全員が窓の外の景色を見つめていました。

砂嵐が静まりかけている、その景色には変化が起きていました。

それまで、何にも無かった王国の跡地。

そこに、ぼんやりと建物の姿が浮かび上がってきたのでした。


第8話「正と邪の女神。」最初ですね。(終)


今回のお話は、第8話「正と邪の女神。」の第1話です。

いよいよ、新シリーズ開始です。

と言いたいところですが前回の後書きで述べた様に、投稿はこの1回分だけです。

後は、涼しくなってからと言う事で、ご了承ください。

では皆様も、この暑い夏に、お身体を壊されないように願っております。



気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。

では、また会える日を。See You Again.

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