第7話「天空の村にて」終わりだよ。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第7話「天空の村にて」終わりだよ。のお話です。
この回では、ガーネが「静寂の穴」に落ちた、4人組とトラを救助に向かいます。
第7話「天空の村にて」終わりだよ。
ガイムは村役場の敷地の中にいた、ガーネの目の前に降り立ちました。
「ガイム。どうしたんですか?」ガーネは尋ねました。
「みんな「静寂の穴」に落ちた。トラも落ちた。」ガイムは、そう報告しました。
「それって、本当なんですか?」「他のライバからの伝言を聞いた。」
なるほど、ライバ同士で伝言を伝え合うと聞いていましたが、この事ですか。
多分、ナミキさんたちの中の誰かのライバからの伝言なのでしょうね。
ガーネは、そう理解しました。
「しかし、ライバの使い手が3人とも、穴に落ちてしまうなんて。
一体、何が起こったんでしょうね。」
ガーネは疑問に感じましたが、今はそれを考えている場合ではありません。
「村長さーん。」ガーネは、村役場に急いで戻りました。
ガーネはガイムに乗って、湖へと直行しました。
「救助隊より先に来てみたんですが、落ちた穴ってどこにあるんでしょうね。」
ガーネは、そうつぶやきました。
ガーネは村長さんに、村の代表たちが「静寂の穴」に落ちた事を伝えました。
すると村長さんは、事の重大さを察して、救助隊を編成する事にしました。
ただ、その人手を集めるのには時間がかかります。
そこで、村長さんは、ガーネに先に現場に行くように頼んだのでした。
その際、もし単独で救助が可能ならと、救助道具一式とその方法も伝えたのです。
湖の上空に到達する手前で、1匹のライバが上空に舞い上がって来ました。
手綱の色は、黒色でした。「あれは、シャドーですね。」
シャドーはガイムに接近して、鳴き声をあげていました。
「ガイム。シャドーは何を話しているのですか?」
「シャドーは、みんなが落ちた穴を案内すると言っている。」
「判りました。ガイム、シャドーの後をついていって行ってください。」
「判った。」
シャドーに先導され、ガーネはガイムと共に、その穴の上空に到達しました。
「あそこですか。確かに藪の中に、少し開けた所がありますね。
でも、大型のライバでは、着地出来ないでしょう。
ガイム。あなたなら降りれませんか?」
ガーネが尋ねると、ガイムはその周りを何回か旋回した後に、こう言いました。
「大丈夫。」
その声を聞いた後、ガーネは、ガイムに降下の指示を出しました。
「判った。」ガイムは、その藪の中の1画に着地しました。
ガーネはガイムを降りて、周りを見回しました。
少し先に、とても綺麗な花が咲いていました。
そして、その近くにキラリと光るものが落ちていました。
「あれは何でしょうか?」
思わず駆け寄ろうとしたガーネを、ガイムがクチバシで抑えました。
「一体、どうしたんです。」「その下に穴が開いている。」
ガーネは手探りをしながら、ほふく前進でゆっくりと進みました。
「あっ。」ガーネは思わず声をあげました。
ガーネの手がその穴を探り当てたのでした。
穴の上には、長い草が幾重にも倒れていました。
そのため上から見ただけでは、その穴を確認する事は出来なかったのでした。
ガーネは村長さんから預かった、救助用具を取り出しました。
その中の鎌を取り出し、その長い草を刈っていきました。
その時です。ガーネの背後から、ガサッと音がしました。
ガーネが後ろを振り向くと藪の中で、獣が走り去っていくのが見えました。
「多分、野生のブルクですね。きっと私を襲おうとしたのでしょう。
でもガイムがここにいたので、出来なかったというところでしょうか。
そうか。
ひょっとしたら、みんなが穴に落ちたのは、ブルクのせいかもしれませんね。」
やがて、ぽっかりと空いた穴が、ガーネの前に現れました。
穴から中を除きましたが、かなり深い穴でした。
でもその中に何人もの人の姿を認めました。
ナミキさんたちは、救助をひたすら待っていました。
「シャドーの伝言は、ガーネにちゃんと届いたかな?」
ナミキさんは、ちょっと不安そうに言いました。
「我々には、自分たちでここから脱出出来る術は無い。
やれる事はやったのだ。後は運を天に任せるほか仕方が無い。」
ミヤビさんは、そう言いました。
「そうね。最悪の場合の事を考えてたって、きりが無いものね。
来る事を信じて、気軽に待ちましょうよ。」とノミチさん。
「でも、出来るだけ早く来て欲しいです。有害なガスの事も気になりますし。」
マサギさんは自分の肩の上で、ぐったりしているトラを心配していました。
それからあまり時間が経たないうちに、いきなり穴の中が明るくなりました。
みんなは、穴の入り口を見上げました。
そこには逆光で顔がよく確認出来ませんでしたが、明らかに人の姿がありました。
そしてその人が、手を振っているのが判りました。
「おーい。」ナミキさんは、思わず声をあげました。
「駄目よ。声は届かないわ。
それよりも、みんなで手を振りましょう。その方が判りやすいわ。」
ノミチさんのこの意見に、みんな賛成しました。
そして穴の入口に向かって、思いっきり手を振りました。
穴の入り口から、人の姿が消えました。
「あら、どうしたのかしら。人がいなくなってしまったわ。」
「いや、よく見るんだ。上から何かが降りてくる。あれは...ロープだ!」
穴の入り口から、太いロープが降りてきました。
そして、その先端には、何かが巻きつけてありました。
ミヤビさんが、それを受け取りました。
「これは、ライトと手紙だ。」
ミヤビさんは、ライトを点灯させました。そして手紙を開きました。
「みんな、これはガーネからのものだ。上にいるのはガーネだ。」
ミヤビさんがそう言うと、みんなの顔が明るくなりました。
トラも、ガーネの名前を聞いた途端、その顔をあげました。
「なんて書いてあるの?」ノミチさんは、尋ねました。
「このロープで、2人ずつ上に引き上げると書いてある。
準備が出来たら、ライトを点滅して欲しいとの事だ。」
そう言って、ミヤビさんはロープを見ていました。
「これは、救助用のロープだな。
この2つの輪の中に1人ずつ、体を入れて固定すればいいらしい。」
マサギさんも、そのロープを見ました。
「あれ、これは村役場に置いてあるものです。
確か、今日ガーネさんは、村役場のお手伝いをしていたんでしたよね。
きっと、村長さんに私たちの事を話して、これを貸してもらったんでしょう。
これなら、扱い方はよく知っています。私に任せてください。」
マサギさんは、胸をたたいてそう言いました。
「そうか。それでは頼む。」ミヤビさんは、ロープをマサギさんに手渡しました。
「ねぇ、誰が最初に上がる?」ノミチさんは尋ねました。
「我は後でもいいが。」ミヤビさんは、そう言いました。
「駄目です。ミヤビさんはトラさんを連れて、早くこの穴から出てください。
そして、すぐに治療を始めて欲しいんです。」
マサギさんは、自分の肩にいるトラの具合が心配でした。
そのため、ミヤビさんに早く出て行くよう、促したのでした。
「判った。トラの事は私が責任を持って保護すると、ガーネに約束してある。
では、その言葉に甘えて、先に行かせてもらうことにしよう。」
ミヤビさんはそう言って、マサギさんからトラを手渡されました。
そして自分のポケットの中に、トラを入れました。
マサギさんは、ロープの輪の中にミヤビさんをくぐらせ、固定しました。
「あと、1人誰が行く?」ナミキさんが尋ねました。
「私は村役場の職員として、皆さんの安全を確認する義務があります。
それに、ロープの扱い方は私が一番、手馴れています。
私は最後まで、ここに残りましょう。」マサギさんは、そう言いました。
「じゃあ、ナミキ。ライバ使いのあんたが先に行きなさいよ。
何か不測の事態が起きた場合、役に立つ事があるかも知れないわ。
もう大丈夫だとは思うけどね。」
ノミチさんの言葉に、ナミキさんはうなずきました。
「判った。じゃあ、俺が先に上にあがるからな。」
ナミキさんはそう言って、マサギさんにロープに固定してもらいました。
「じゃあ、合図をするわね。」
ノミチさんは、ライトを点滅させました。
マサギさんも、両腕で丸の形を作って、ガーネに知らせました。
ロープは何の異常も無く、するすると上に上がって行きました。
2人の姿が消えて少し経った頃、2つの顔が穴をのぞいて手を振っていました。
「やったわね。」マサギさんとノミチさんは、手を取り合って、飛び跳ねました。
そのうち、穴にいるのが2人だけとなっている事に気が付きました。
「よりにもよって、一番頼り無さそうな人と残ってしまったわ。」
2人は、同時にそう思いました。
でも、その思いをを顔に出す事はありませんでした。
少し、不安になった矢先、またロープが降りてきました。
2人はホッとして、ロープを固定した後、ライトを点滅させました。
ロープは何のトラブルも無く引き上げられ、穴の外に出る事が出来ました。
2人は一旦、上空に上がった後、地上へと降ろされました。
ロープを外した後、みんなが集まっているところに駆け寄りました。
そして無事に穴から出てこれた事に、喜びを分かち合ったのでした。
「ガーネ。有難う。」ノミチさんとマサギさんは、ガーネにお礼を言いました。
2人は、ロープがガイムによって、引っ張られていた事を知りました。
「なるほどね。これなら2人一緒でも、簡単に上がれた筈だわ。
でもひょっとしたら、4人一緒でも、大丈夫だったんじゃない?」
ノミチさんは、ガーネにそう尋ねました。
「ガイム自身は自信ありげでしたね。多分出来たとは思いますよ。
でもガイムは、他のライバより1回り小さいですしね。
念には念を入れたんですよ。」ガーネは、そう説明しました。
「トラさんは、どうなっていますか?」
心配そうに聞いたマサギさんの肩に、トラがちょこんと飛び乗りました。
「あたしは、もう大丈夫よ。心配してくれて有難う。」
トラは、マサギさんにお礼をいいました。
「いいえ、そんな事。トラさんが無事なら、それでいいんですよ。」
マサギさんは、顔を少し赤くしながら、顔と手を横にぶんぶん振っていました。
明るい声が飛び交う中、空は夕焼けの色に染められていきました。
マサギさんは、ミヤビさんに頼んでライバのシャドーを、村役場に飛ばせました。
全員が無事に脱出出来た事を、村役場にいる村長さんに知らせるためでした。
しばらくして、シャドーが帰って来ました。
その返事は、全員無事でよかったというものでした。
「全員無事だったので、救助隊は解散するそうです。
村の人たちにも、御心配をおかけしました。
また、みんな健康状態もいいなら、慌てて帰る必要も無い。
折角、湖まで行っているのだから、楽しんで帰って来なさい。
そうも書いてありました。
これで連絡も済んで、一安心です。」マサギさんは、ホッとしました。
「もう、陽が暮れちゃったな。これからどうしょうか?」
ナミキさんは誰ともなしに、尋ねました。
「村の方には、自分たちが無事だった事を知らせる事が出来たわけよね。
また、ゆっくりして来ていいって、言ってもらえたんでしょ。
だったらちょっと遅れたけど、予定通りここで食事をする事にしない?
食材だってちゃんと用意してあるわ。
今日、招待予定だった、ガーネとトラちゃんもここにいる事だし。
あの穴の中にいたせいで、気分が優れない場合は、止めた方がいいけどね。
どうなのかしら?」
このノミチさんの提案に全員が、賛成しました。
「あたしなら、大丈夫よ。もうすっかり、元気になったわ。」
トラも、賛成のようでした。
「じゃあ、食事の準備を始めようか。」ナミキさんは、そう言いました。
その言葉を合図に、みんなはそれぞれ、行動を開始しました。
ミヤビさんとマサギさんは、焚き火の準備を再開しました。
やがて、重ねた木材に火が点火されました。
ミヤビさんとマサギさんは、燃え盛る炎をずっと見つめていました。
ノミチさんは、焚き火で赤くなっている木片の幾つかを、取り出しました。
もちろん、焼き料理に使うためでした。
昼間釣った魚の残りは、天日で干してありました。
だから、少し炙るだけで、美味しく焼き上がりました。
「そう言えば、ナミキは木の実を取るのを任されていたのよね。
今、持っているの?」ノミチさんは、尋ねました。
「ああ、もちろんだ。この袋の中にあるさ。」
ナミキさんは、そう言って、袋の中身をテーブルの上に出しました。
ですが、その半数ぐらいが、潰れていました。
「ありゃー。きっと、穴に落ちた時に潰れたんだな。
まぁ、これでも食べられない事はないんじゃないか?」
ナミキさんは、気楽に言いました。
「あんた。何を言っているの。大事な食材をこんなに潰して置いて。
こんなペースト状になった物をどうしろっていうのよ。
それとも、あんたが料理してくれるの?」
ノミチさんの剣幕に、さすがのナミキさんもたじたじとなりました。
「すまん。いや、本当にすまん。」
ナミキさんは、両手を合わせてノミチさんに謝りました。
「なんてね。木の実の半分はスープのだしに使うから、別に構わないのよ。」
ノミチさんは、してやったりといった顔で、舌を出していました。
「こらぁー。お前はいつもそう言って、俺をからかいやがって。」
ナミキさんは、そう言って、げんこつを振り上げました。
それをノミチさんが、片手を上げて制しました。
「ちょっと待ってよ。遊ぶのは後でもいいでしょ。今は、料理に専念させて。」
ノミチさんは、一瞬で、真剣な表情に変わりました。
こいつは、本当に。
ナミキさんは、ノミチさんの正論に対し、言い返す言葉がありませんでした。
振り上げたげんこつは、へなへなと降ろすしかありませんでした。
料理が1つ出来た後、ノミチさんはナミキさんにこう言いました。
「まぁ、そんなに顔を膨らませて、ふてくされないでよ。
今夜のために、ちゃんと用意して来た物があるのよ。見てみない?」
ノミチさんはそう言って、傍らに置いていた重そうな箱を開けました。
「おおっ、これはすごい。」ナミキさんは、感動しました。
箱の中には、新鮮な肉や野菜、そして飲み物などが、入っていました。
「ねぇ、すごいでしょう。これも今夜の料理に、全て使うつもりなの。
忙しくなるからナミキにも、是非、手伝って欲しいの。
どう?お願いしても構わないかしら?」
ノミチさんにこう言われ、ナミキさんも俄然、張り切り出しました。
「判った。何でもしよう。俺に指図してくれ。」
ノミチさんはナミキさんのこの言葉に、心の中でニヤッとしました。
この後ナミキさんは、ノミチさんに言う通りに、かいがいしく働きました。
ノミチさんはナミキさんと協力して、予定していた全ての料理を作り上げました。
「お料理出来たわよ。みんな悪いけど、テーブルに並べてくれない?」
ノミチさんのその言葉に、全員がワラワラと動きました。
そして出来た料理と持ってきた飲み物が、テーブルに並べられました。
その間ノミチさんは、料理器具を洗ったり、片付けたりしていました。
それが済むと、ノミチさんもテーブルの方にやって来ました。
布巾や調味料などを置いた後、みんなにテーブルに着くように言いました。
「こうやって見ると、なかなか美味しそうに出来たわね。」
ノミチさんは、満足そうでした。
「うん。なかなかいいんじゃない。」
ナミキさんは自分も一緒に手伝ったので、誇らしげでした。
「いや、大したものだ。」とミヤビさん。
「本当に、美味しそうですね。」マサギさんも、絶賛でした。
「そう言えばお昼を食べるのが、少し早かったんでした。お腹がペコペコです。」
ガーネは、目の前の料理にお腹の虫が鳴っていました。
「本当、早く食べましょう。」トラも、食べるのを待ちわびていました。
全員が、テーブルに着きました。
「頂きます。」楽しい晩餐が始まりました。
「おっ、このお肉最高だな。」とナミキさん。
「私は、この野菜スープがたまりません。」とマサギさん。
「やっぱり、この魚の焼けた香ばしさがたまらないわ。」とトラ。
「私もやはりお肉ですね。これもブルクなんでしょうね。
本当にこの食材は、作る人によって、味が違いますね。
でも、どの人が作った料理も個性が感じられて美味しかったですよ。
もちろん、ノミチさんが味付けして焼いたこのお肉もです。」とガーネ。
「どの料理も文句が言えないくらい、美味しい。さすがは、ノミチだ。
我々のお母さんのような存在だな。有難い。」とミヤビさんも、絶賛。
みんなに褒められて、ノミチさんは顔を赤くしました。
照れ隠しに、ジュースを注いだワイングラスを顔に近付けていました。
「こちらこそ、そんなに褒めてくれて有難う。」
ノミチさんは、小さい声でつぶやきました。
ある程度、食事が進んだ所で、ノミチさんがミヤビさんに尋ねました。
「でも、なんで、「静寂の穴」には、あんな有害ガスが発生するのかしら。
他の穴では見られない現象よね。」
「先ほど、あらためてトラの症状を呪術で探っていた。
すると、それが地上に降りた時に起きた症状に似通っている事に気が付いたのだ。
これからは我の推測になるが、ひょっとしたらあそこに溜まっている有害ガス。
あれは、はるか昔この村を襲った、噴煙の中に含まれていたものかもしれない。」
「この村を襲った噴煙?
地上が死の世界になった日に、この村に湧き上がって来た噴煙の事ですか?」
ガーネは、やっと話に割り込めたと喜びました。
「ガーネ。何故、君がその事を知っているのか?」
「実は今日午前中に、トモネ様からその話を聞かされたばかりなんです。」
「そうだったのか。トモネ様ならその話を知っていても何の不思議も無い。
さてと、話を戻そう。
「静寂の穴」は、井戸のために掘られたどの穴よりも、深く掘られている。
だから、その時の有害ガスがまだ滞留しているのではないだろうか。」
「確かに、あのガスを吸った感じは、地上のそれと同じ見たいだった気がするわ。
でも、あたしは今回、地上とは違って、咳は1回も出なかったわ。」
あたしも負けてなるものかと、トラも話に参加しました。
「恐らくは、ガスの濃度のせいだと思う。
大体、本来あそこにガスが噴出しているのは、あり得ないそうだ。
だから地上からの噴煙が原因とみる考え方も、あながち否定出来ないと思う。
また地上に比べて、ここの濃度は薄いと思われる。
だからトラは咳も出なかったし、他の4人も大した影響を受けなかったのだ。
だが場所によっては長時間、穴の中にいると死に至るケースもある。
その場合、やたら咳き込んでいた形跡があったそうだ。」
「でも、その推測が事実とすると、当時の村の被害はもっと大きいんじゃない。
よくこの村は、死の世界にならなかったものね。」
「それなんだが、これから言うのも、推測でしかない事を先に言っておく。
この村が正常な状態にいられたのは、ヤーベのおかげではないかと思っている。」
「ヤーベが?また、それは何故なの?」
「本来、ヤーベの飲み水である、雲の下の湖も汚染されている筈だ。
雨が降った際に、空気中に浮遊している有害物質が混ざるからだ。
あの水をこの村に、直接使ってみた事があると言う。
だがその結果、土も田畑も異常なほど、枯れた状態になってしまったらしい。
それにもかかわらず、ヤーベが排水した水には、そんな現象は起こらない。
むしろ、いい結果のサンプルが採れるばかりだったそうだ。
ヤーベは、取り込んだ水を浄化させる事が出来る。
それは、村人全てに知られている事実だ。
だがひょっとしたら、それだけでは無いのかもしれない。
ヤーベは、大気中の汚れた空気を吸っている筈だ。
それの浄化も、しているのかも知れない。
また、排水された水が村の浄化に、1役担っているのかもしれない。
まだ、いろいろと推測の段階ではあるが、いずれは解明したいと思っている。
それは、この村人の治療にも、役に立つ事があると思っているからだ。」
「じゃあ、ヤーベを使えば、地上に新たな息吹を与える事が出来るのかしら。」
「地上は広すぎる。やるとなればたくさんのヤーベが、必要となるだろう。
だが、生物が自分の住みにくい環境を、わざわざ棲みかにするとは思えない。
飛ぶ事すら無いのでは無いだろうか。だから、その期待は薄いと思う。」
「確かにそうね。
ヤーベがあの湖で水を飲むのは、単にたくさん水があるからに過ぎないもの。
地上近くなんて飛んだ事無いわ。」
折角の楽しい晩餐なのにな。
ほとんど、ミヤビとノミチしか話していない。
残りは、黙って聞いているぐらいしか出来ない。
しかも、話がちょっと難しくて、暗い話しになりそうだ。
そう警戒したナミキさんは、話題を変えてみる事にしました。
「ウマイ、ウマイ。しかし何だな。
よりによって4人とも、同じ穴に落ちるなんてな。
間抜けもいいところだったよな。」
ナミキさんは、焼肉をほおばって、共通の話題で盛り上がろうとしました。
「何言ってんのよ。元はと言えば、あんたが悪いんでしょ。」
案の定、ノミチさんが喰いついてきました。
「おっ、何言ってんだよ。
大体お前が花を取ろうとして、穴に落ちたのが始まりじゃないか。
後から探しに来たミヤビやマサギは、そのとばっちりを受けたんだ。
2人共、お前の落とした髪留めに、気を取られて落ちたんじゃないか。」
どうだ、言い返せないだろう。ナミキさんはほくそ笑んでいました。
「あら、随分責任転嫁が、お上手になられた事。
お姉さん、びっくりして口を利く事も出来ないわ。
いい、言わなきゃ判らないようだから、言うけどね。
そもそも事の発端は、ナミキ。
あんたが野生のブルクを追っかけて、あの穴に落ちた事から始まるのよ。
あたしがあそこに行ったのは、何故だと思うの。
いつまでも戻って来ないあんたを、探しにに言ったからでしょうが。
あんた、本当に判っているの?」
ノミチさんは、反撃を開始しました。
「なるほど、そう言われてみれば、その考え方にも一理あるな。」
ナミキさんは、思わずひるみました。
「一理?それが全てじゃないの。何を人ごと見たいな事を言ってんのよ。
大体、あんたは昔から、そうだったわね。
学生の頃、遠足に行ってあんた一人だけが戻らずに、みんな大騒ぎだったわ。
後で聞いたらその言いわけがこうよ。
湖の魚を追いかけるのに夢中になっていたから、時間が経つのを忘れたって。
なんて、言い草なのかしら。小さい子供じゃあるまいし。全く呆れちゃうわ。」
ノミチさんは、昔話でナミキさんを追及しました。
「おいおい。それは昔の話だろうが。何を今更、持ち出すんだ。」
ナミキさんは、その追求をかわそうとしました。
「ああ、そうだ。ナミキのそう言う想い出なら、私にもある。」
ミヤビさんがそう言って、手を上げました。
「あっ、はい、もちろん私にも、覚えが。」
マサギさんもそう言って、手を上げました。
「こらー、ミヤビ、マサギ。お前ら調子に乗って何を言いだすつもりなんだ。」
「しかし、事実ではある。」
「事実もへったくれもあるか。もっと友達を大切にしろ。
大体、お前たちの話を聞いているとだな。
俺が行動力があるだけの、そそっかしいアホみたいに聞こえるじゃないか。」
この言葉に、周りにいた全員が「うん。」とハモリました。
「てめえら。それでも俺の友達かー。」
「あのー、実は私にも、言いたい事があるんですが。」
「なにー。やいガーネ。
てめえが俺の小さい頃の事なんぞ、知っているわけ無いだろうが。」
「いえ、今日の午前中に、トモネ様の所に行った時にですね。
こちらが聞きもしないのに、ナミキさんについてあれこれ聞かされたんですよ。
何のかんのと言いながら、ナミキさんはトモネ様に愛されているんですね。」
「うるせえや。あのオババが言った事なんか気にすんな。
ましてや、それを人前で話すなんぞ、言語道断だ。」
「えーっ、でもあちきは聞いてみたい。」
「私もです。興味があります。」
「我も、楽しみだ。」
「あたしも楽しみだわ。是非、聞かせて。ガーネ。」
「こらー、ガーネやトラまでこの俺をおもちゃにしやがって。」
「あら、おもちゃじゃないわ。ただ愛されているだけよ。
うっふん、かえってうらやましいくらいだわ。」
「だったら、お前が俺の代わりに、いじられんかい。」
「やーね。あちきには、そんな趣味ないわよ。」
「なにを―。」
楽しい晩餐は、その後も延々と続きました。
食事が終わると、場所を変えて焚き火のそばで、立ち話をしていました。
ナミキさんとノミチさん。
ミヤビさんとマサギさんが、それぞれ会話を楽しんでいました。
トラはガイムと何故か、にらみ合いをしていました。
そんな中で、ガーネは1人腰を降ろして、残った焼き魚を食べていました。
「ここに来て僅かですが、こんなに知り合いが出来たんですね。」
そう言いながら、焚き火のゆらめく炎を眺めて、感慨に耽っていました。
そしてその向こう側に、迷宮のドアが現れているのに、気が付きました。
「もう、お別れなんですね。」
ガーネは、マサギさんと話をしている、ミヤビさんの元へ行きました。
「これで、トモネ様を交えて、みんなで何か美味しい物でも食べて下さい。」
ガーネはそう言って、日当が入っている袋を、ミヤビさんに手渡しました。
ミヤビさんは最初、怪訝な顔をしていました。
ですが、すぐに気が付いたのでしょう、ガーネにこう尋ねました。
「ひょっとして、迷宮のドアが現れたのでは無いのか?」
その言葉に、一瞬、ガーネは息をつまらせました。
ですが、すぐに笑顔に戻って、こう言いました。「はい、そうです。」
その頃には、みんなが会話を止めてガーネの方を向いていました。
トラも、迷宮のドアが現れた事に気が付いたようでした。
ガイムに何かを話しかけた後、ガーネに駆け寄って、その肩に飛び乗りました。
ガーネは、あらためて全員に別れの挨拶をしました。
「短い期間ではありましたが、みなさんには大変、親切にして頂きました。
いつまでもいたい気持ちはあるのですが、迷宮のドアが現れてしまいました。
それは、残念ながらここが私たちの世界では無かった事を示しています。
私たちは、また迷宮に戻ります。
そして、自分たちの世界を見つける新たな旅に出たいと思っています。
私たちは、みなさんがこれからも幸せに、暮らしていける事を願っています。
今まで本当に有難うございました。」
「有難うございました。」
ガーネとトラは、そう言って頭を下げました。
「もっと、ゆっくりして...。」
ナミキさんがそう言いかけた時、ガーネたちの姿に変化が生じました。
身体の1部が緑色に歪み、消えかかっていたのでした。
もう、ここにはいられないのだな。
ナミキさんを含めた全員が、その事を理解しました。
「では、これで失礼します。」
ガーネとトラはそう言って、もう一度頭を下げた後、迷宮のドアに向かいました。
ガーネの背後から、「さよなら。」「また来てね。」などの声が聞こえました。
それでも、ガーネは振り向く事無く、歩み続けました。
トラはたまらなくなって、「ガーネ。」と声をかけました。
それに対してガーネは、くちびるをかみしめながらこう答えました。
「振り向いちゃ駄目です。別れが辛くなるだけですよ。」
「...うん。」
ガーネとトラは、そのまま迷宮のドアの中へと消えて行きました。
「行っちゃたわね。」ノミチさんは、誰に言うともなしにそう言いました。
「そうだな。」ナミキさんは、言葉少なに返事をしました。
ノミチさんは、ふとナミキさんの顔をのぞきこみました。
「何、ナミキ。あんた、泣いてんの。」
ノミチさんは、驚いたように言いました。
「な、何言ってんだよ。泣いてなんかいるわけ無いじゃないか。
これはただ、目に」
「目にゴミが入っただけだって言いたいの?
ナミキ。あんた、可愛い所あるじゃない。」
ノミチさんはそう言って、ナミキさんの背中をたたきました。
「あっ、痛っ。貴様、何しやがるんだ。そんなんじゃないって言っているだろ。」
ナミキさんは、ノミチさんに抗議しました。
「まぁ、いいから、いいから。お姉さんが慰めてあげるわ。」
ノミチさんはそう言って、ナミキさんの頭をつかまえ、いい子いい子しました。
「こら、こらぁ。人の心をもてあそびやがって。」
ナミキさんは、本気で涙を流してしまいました。
これはいけないわね、とノミチさんも本気で、ナミキさんを慰めにかかりました。
しばらくして、ナミキさんの気分が、落ち着いたようでした。
「じゃあ、そろそろ乾杯をしない?」ノミチさんは、そう提案しました。
「何のためにだよ。」ナミキさんが、尋ねました。
「もちろん、ガーネとトラのためよ。
あの人たちは、あちきたちと別れて、また新しい旅立ちの時を迎えたのよ
そのお別れと新しい旅立ちの門出を祝って、歓迎したいの。
それが、友達ってもんじゃない?」
ノミチさんのその言葉に、ナミキさんもうなずきました。
「それもそうだな。新しい旅立ちの時に、悲しがってばかりもいられないよな。
よーし。じゃあ、あいつらが自分たちの世界を、早く見つけられる事を願おうか。
それじゃあ、乾杯しょう。みんな、コップを持ったか?」
「あちきは持ったわ。」「我も持った。」「あ、はい。私も持ちました。」
「うん。俺も持った。じゃあ、いくぞ。
あいつらの新しい旅立ちを祝って。せーのー、」
「カンパーイ。」
4人が同時に叫んだ声が、天空の村に響き渡りました。
ガーネとトラは、迷宮へと戻って来ました。
「今回は、別れがとても辛かったですね。」「本当ね。」
ガーネとトラは、天空の村であった事を1つ1つ、思い出していました。
「ガーネ。今回も助けてくれて有難う。」トラはガーネにお礼を言いました。
「今回も、私の手柄とは言えませんね。
トラたちを助ける手段は、村長さんにアドバイスされた事をやっただけです。
それに、実際に穴から引き上げたのはガイムだったですよね。
私はそれを、現場で実際にやったに過ぎません。
つまるところ、私1人では、何も出来ませんでしたよ。それは事実です。」
ガーネはそう言って、苦笑しました。
「何だ、そうなの。感謝して損したかも。」トラは笑いながら、そう言いました。
「そう言えばガイムって、変わったライバだったわね。
どうして、あのライバの言葉だけ、あたしたちに判ったのかしら。
それに、どうしてあんなに早くガーネは乗り回す事が出来たのかしら。」
「さぁ、何故なんでしょうね。それは私にも判りません。
でも、ミヤビさんが言っていましたよね。
ライバの声を理解できたのは、私たちが迷宮の旅人だったからかもしれないって。
ひょっとしたら、全ての原因は私たちにあるのかもしれません。
だとしても、疑問は深まるばかりですね。
だって、私たち自身にも、まだ迷宮の旅人の事が良く判っていないのですから。」
「そうね。
その回答は、旅を続けて行く中で、見つけていくしかないんじゃないかしら。」
「それにしても、ついうっかりしてしまいました。
ガイムに何の別れの挨拶もしていませんでしたね。済まない事をしました。」
ガーネは、後悔しているようでした。
「ああ、その事なら心配要らないと思うわ。
あたしが、ガイムに話をしておいたもの。
あたしたちは、迷宮に戻らなければいけないから、これでお別れよって。」
「そうだったんですか。それを聞いて、ホッとしました。
そう言えば、トラはガイムのそばにいたんでしたね。
それで、ガイムは、何と返事をしたのでしょうか?」
「いつもみたいに、口数少なくこう言っただけだったわ。「判った。」ってね。」
「そうですか。
私にはまだガイムの心が、今1つ理解する事が出来ませんでした。
それがとても、心残りです。もう少し一緒にいたかったと思います。
でも、それはそれとして、トラには感謝しなければなりませんね。
よく、最後にガイムに声をかけて下さいました。
いや、本当に助かりました。有難うございました。」
ガーネは、トラにお礼の言葉を口にしました。
「どういたしまして。あたしはあなたの相方ですもの。」
トラはすました顔で、そう言いました。
トラは天空の村にいる間、心の中に隠していた事をガーネに打ち明けました。
「でもね。ガーネ。本当は迷宮のドアが現れた時、あたしホッとしたの。」
「えっ、それは何故ですか?」
「天空の村では、出会う人たちに言われたわ。
あたしのような猫はいないって。
でもそれって、ここがあたしの世界じゃないって事の裏返しじゃない。
だから、すぐにでも迷宮に戻りたいなって思っていたの。
でも、あそこに地上の世界があると知ってちょっと期待したの。
ひょっとしたら、そこにはあたしのような猫がいるんじゃないかって。
でも、実際に行ってみたら、死の世界だったでしょ。
これが、あたしが帰るべき世界だなんて、絶対に信じたくなかったの。
あの光景を見た後は、迷宮のドアが現れるのをひたすら待っていたわ。
だから、迷宮のドアが現れた時には、あたしは心の底から安心したの。
とても嬉しかった。まだあたしの世界には、希望が持てると判ったからよ。」
「そうだったんですか。トラも苦悩していたんですね。
実は、私も服装や何かで、村人とはだいぶ違っていましたからね。
トラと同じ気持ちだったんですよ。
だから、迷宮のドアが現れた途端、複雑な思いでしたよ。
みんなと別れ難い思いも感じていたし、一方ホッとしたのも事実でしたからね。」
「そうか。ガーネも同じだったんだ。」トラは、嬉しそうにガーネを見ました。
「本当にいい人たちでしたね。トラ。
あの人たちへの感謝の意味も込めて、早く自分たちの世界を見つけましょうよ。」
「そうね。絶対に見つけるわ。」
ガーネとトラは、その思いを固く心に誓いました。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか?」
「ええ、行きましょう。」
ガーネとトラは、果てしなく続く迷宮の道を、また歩き出しました。
第7話「天空の村にて」終わりだよ。(終)
今回のお話は、第7話「天空の村にて」の最終話です。
早いものですね。
この第7話「天空の村にて」第1話の初回掲載日は2011年6月7日です。
全9話で、約1か月ぐらいかかった事になります。
大体、週2回ぐらいで投稿をしました。
最初からお読み頂いた方は、おられるのでしょうか。
もし、おられるなら、心から感謝申し上げます。
相変わらず、拙い文書で、しかも誤字脱字などいろいろだったかと思います。
それでも、めげずに読んで下さった方がいるとしたら、頭が下がる思いです。
「天空の村にて」はこれで終わりですが、トラ・オブ・ラビリンスは続きます。
またいつか、別の世界へ、みなさんを連れて行く事が出来たらと思います。
ただ、新シリーズになる事や、それに加えて夏本番です。
ノートパソコンで入力しても、パソコンの暑さで、手に汗がびっしょり。
パソコンもベタベタになって来ます。
その上、汗もだらだらこぼれてきます。
クーラーはあるんですが、今年は節電ですよね。
電気量を15%カットする場合、どうしてもエアコンを切らざるを得ません。
折角、去年暑過ぎて、購入したばかりなんですけどね。シクシク。
でも扇風機だけでは、苦しいです。
そこで、エアコンを28度で使う事にしました。
28度でも湿気は結構あるものですね。でもだいぶ楽になりました。
節電は、私には無理でした。
一番いいのは、夜間のAM1:00~6:00の間で打ち込む事です。
もっと暑くなっても、昼間よりは多少なりとも、ましですから。
扇風機だけでも、なんとかなるかもしれません。
でも、そんな時間、眠くて仕方がありません。
結局、入力する機会が無くなって来ますね。従って、投稿も出来なくなります。
やはり、エアコンは付けたいと思います。
でも、夏は出来るだけ、入力は避けたいです。
いつ頃、投稿しやすくなるんでしょうね。やっぱり、秋でしょうか。
と言う事で、次回のシリーズは、予告の意味も含めて1回分のみだけ投稿します。
後は、涼しくなってからと言う事で、ご了承ください。
では皆様も、この暑い夏に、お身体を壊されないように願っております。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




