表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第2話「ある旅人との出会い」
2/46

第2話「ある旅人との出会い。」

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第2話「ある旅人との出会い。」(ラビリンス・ロードにて)のお話です。

この回では、迷宮に入ったばかりのガーネが、同じ旅人のバードと出会います。

ガーネは、バード自身が初めて行った世界「ぬかるみの地」の話を聞かされます。

ある旅人との出会い。(ラビリンス・ロードにて)


その人は、自分が進む路上の直ぐ先に見える階段で、座り込んでいました。

黒い帽子を被り、喪服みたいな黒い服を着ていました。

寝ているようです。

起こさないように、通り過ぎましょうか。

ですが、ガーネは今、自分が置かれている状況を知りたがっていたのです。

多少、迷いましたが、意を決してその人に声をかけました。

「もしもし、もしもし。」ガーネはその寝ている人の肩をそっと叩きました。

「うん。」

しばらくして、その人は帽子をとりました。

そして、寝ぼけ眼で、ガーネの方を見ました。

「お休みのところ、申し訳ありません。少し、聞きたいことがあるのです。」

ガーネはお辞儀をして、その人に問いかけました。

その人は、目を擦った後、珍しいものを見るかのような顔をガーネに見せました。

「久しぶりだな。この迷宮の道で、人に会うのは。」その人は言いました。

「迷宮の道?」ガーネは聞き返しました。「一体、あなたは....。」

「失礼、まだ名前を言っていなかったね。私はバード。君は?」

バードはガーネに手を差し出しました。

「私は、ガーネと言います。」ガーネはその手と握手をしました。

「で、何か私に用でもあるのかな?」バードは尋ねました。

ガーネは、自分の事を、バードに話し始めました。

自分が気が付いた時には、この世界に居た事。

自分の名前以外、何も思い出せない事。

これからどうしたらいいのか判らない事。

ガーネは、これらの自分が抱えている悩みを、バードに打ち明けました。

バードは、ガーネのいう事を、いちいち頷いて聞いていました。

ガーネの話が終わって、しばらくしてから、口を開きました。

「話は、大体判ったよ。多分、君は私と同じ状況なんだと思う。」

バードは言いました。

「私が、ここに来たのは、だいぶ前の事だ。

といっても、ここでは時間の流れは全く判らない。

自分の記憶から、それが判るぐらいでしかないんだよ。

君は、もうドアの向こうに、行った事があるのかい?」

「ドアの向こうって?」ガーネが聞き返しました。

「どうやら、君はここに来て、まだ間が無いようだね。」バードは言いました。

「僕にも、ここの事は、こうなんだと、はっきり断言出来るものは無いんだ。

ただ、今までの経験から、こうなんじゃないかと思っているだけなんだ。

そんな話でもよければ、話すけどね。どうする?」

「是非、お願いします。」ガーネは答えました。

「周りを見ても、判ると思うが、ここは道と階段しかない世界だ。

後は、暗闇が広がっているだけだ。

たまに、君のように自分と同じ目に遭った人を、見かけるぐらいだよ。」

「他にも人が?」ガーネは聞きました。

「本当に、たまにだけれどね。

まぁ、それは置いといて、先に私の話を続ける事にするね。

どのくらいの時間、歩いたのか判らない。

ここでは、疲れる事も、お腹が空く事も無いんだ。

自分の体の調子で、時間の経過を知る事も出来ない。

まぁ、そうやって歩き続けたわけだ。

そうやって、歩き続けているうちに、ある変化が起きたんだ。」

「変化って言いますと。」

「道の片側に、それまで無かったドアが、いきなり現れたんだよ。」

「それって一体。」

「判らない。ただこのまま歩いていても、何のあても無かったからね。

不安だったけど、思い切ってそのドアを開いてみたんだ。」

「それで、どうなりました。」

「ドアを開けると、その向こうには、光に満ちた世界があったんだよ。

今、私たちが歩いている、迷宮の世界。それとは、まるで違う世界が見えたんだ。

嬉しかったね。私は走り出そうとしたよ。」

バードは話を続けました。


ぬかるみの地にて。


バードは、1歩1歩と前に進んで行きました。

しかし、思うように歩く事が出来ませんでした。

足元をみると、地面がぬかるみになっており、それに足がとられていたのでした。

「早くここから、逃げ出さなくては。」バードは走り出しました。

ですが一歩一歩進む度に、体は、地面の中に引きずり込まれて行きました。

バードの体は、ほとんど埋まってしまいました。

かろうじて、腕の1/3ぐらいが、外に出ているだけとなりました。

息も出来ません。「もう駄目か。」

意識が薄れる中、バードは自分の手が、誰かの手に握られたのを感じました。

そして強い力で、引っ張り上げられているのを感じていました。


気が付くと、バードは、船の上に、引き上げられていました。

バードを引き上げたのは、漁師のようでした。

その小さい船の上には、釣り上げたであろう、魚が何匹か横たわっていました。

「危ないところでしたね。」その漁師は言いました。

「なんで、あんな所に居たんです?」

バードは、どう説明したら判ってもらえるか、途方にくれました。

「まぁ、言いたくないなら、無理に言う必要もありません。さぁ、帰りますよ。」

漁師は、そう言って、船を漕ぎ出しました。

しばらくすると、ぬかるみの地の上に、建っている家々が現れました。

「水上住宅みたいなもんなのかな。」

見慣れない、その光景にしばし見入っていました。

船は、桟橋と思われるところに、到着しました。

「おかあさん。帰って来ましたよ。」その漁師は大声で叫びました。

「さぁ、降りて下さい。あとは母が、面倒を見てくれますから。」

バードは漁師さんにお礼を言って、桟橋に上がりました。

漁師のおかあさんらしき人が、走ってきました。

「あれまぁ、どうしてこんなに泥だらけなの?」おかあさんは言いました。

「ぬかるみに浸かってしまって、身動き出来なかったんです。

そこをあの漁師さんが、通りかかって助けてくれたんです。」

「家の息子が、人助けをねぇ。

判ったわ。とりあえずその格好じゃあ、どうしようもないでしょう。

シャワーを浴びて、服が乾くまで、ここにいなさい。」

おかあさんの申し出を断る理由はありません。

バードは喜んで、ご好意に甘える事にしました。

おかあさんに、家に連れて行ってもらいました。

バードは、その家で、シャワーを浴びる事が出来ました。

その後、戻ってきた漁師とともに、食事も、ご馳走になりました。

食事を終えた後、おかあさんは、バードに尋ねました。

「それにしても、どうしてぬかるみの中なんかにいたの?」

漁師から聞いたのでしょう。おかあさんは尋ねました。

バードは、うまい説明が思いつきませんでした。

仕方が無く、本当の事を話し始めました。

「信じてもらえるかどうかは、判りませんが、実は。」

バードは自分の経験した事を話し始めました。

話終わると、おかあさんは、バードにお茶を勧めました。

そしてバードに言いました。

「なるほどね。とても、信じられない話ではあるけれど。

でもそれで、息子が見た情況と、一致するわ。

息子はね。あなたが溺れそうになっていた場所で、いつも漁をしているの。

あの時もそうだったのよ。

息子の話では、漁の間、誰も近くには居なかったって言っているの。

あそこは、ぬかるみの深い場所で、慣れた漁師しか絶対に近寄らないわ。

それなのに、あなたが突然現れて、しかも溺れていたって言っていたわ。」

おかあさんは話を続けました。

「それに、あなたの服はここでは、見たことが無いような服よ。

考えにくいけど、あなたの言っている事は、嘘ではないみたいね。

あなたは、この世界の人間では無いのよ。」

おばあさんはそう言いました。

バードはうなずきました。

「ちょっと、こちらの部屋に来て頂戴。」おかあさんは言いました。

おかあさんの連れられて、ある部屋に入りました。

「この写真を見て。これが私の夫よ。

数年前に、泥の津波に襲われて、亡くなったわ。」

おかあさんは、話を続けました。

「その夫が、私に喋ったことがあるんだけれどね。

あなたと同じような人に、会った事があるらしいのよ。

その人は、道と階段しかない迷宮を、さまよっていたんだそうよ。

突然、現れたドアの向こうへ行ったら、ここに着いたんだって。」

バードは、生唾を飲み込みました。

「で、その人は、どうしたんですか?」

「夫と、1~2日ぐらい居たらしいの。

ある日、漁に夫と一緒に出かけたんですって。

1日中、漁を手伝ってもらって、その後、帰る支度をしていたの。

その時、夫は、その人が自分の家とは反対の方向を見ている事に、気が付いたの。

「どうしたんだ。」夫は尋ねたそうよ。

そしたら、その人は、「ねぇ、君にはあれが見えるかい?」と尋ねたそうよ。

その人が指さす方向を見たけれども何も無かったんですって。

それで、「何も見えないが。」っていったのよ。

すると、その人が言ったそうよ。

「でも、自分には、迷宮のドアがはっきりと見えるんだ。」

「迷宮のドア。それって、何なんだい?」

「私のように、迷宮をさまよっている人間が、出入り出来るドアなんだ。

君にあのドアが見えないのは、君がこの世界の住人だからなんだよ。

さて、そろそろ、お別れの時が来たようだ。

君にはいろいろ、迷惑をかけて済まなかった。

あらためて、お礼を言うよ。有難う。」

そう言って、その人は、別れの握手を求めたの。

夫も、それに応じたわ。

「どうしても、すぐに帰らなきゃいけないのかい?」

「見てごらん。この左手を。」そう言って、自分の左手を見せたの。

その手は、緑色の光を放って、消えかかったいたそうよ。

「もし、このまま、ここに居れば、私は消滅してしまうかもしれない。

だから、ここに留まるわけにはいかないんだ。

私は、自分の世界に帰りたい。

だから、私は、迷宮をどんなにさまよっても、探し出すつもりだ。

自分の世界のドアを、必ず、見つけてみせる。」

その人は、もう1度、お礼を言った後、ぬかるみの中を歩いて行ったそうよ。

そして、立ち止まると、右手を前方に差しだす仕草をしたらしいの。

そしたら、突然、その人の体が、あとかたもなく消えてしまったらしいわ。」

おかあさんは、話を終えました。

バードは、ずっと、その話を聞いていました。

しばらくして、おかあさんに言いました。

「参考になる話を、聞かせて頂いて有難うございました。

おかげで、私もどう生きるべきか、決心する事が出来ました。」

そう言って、おかあさんと、別れの握手をしました。

家を出ようとした時に、おかあさんの息子の漁師も、駆けつけてきました。

「この人を、あの場所まで、連れて行ってあげて。」

おかあさんは、漁師にそう言いました。

バードは、あらためて、おかあさんにお礼を言って、頭を下げました。

そして、漁師の船に、乗り込みました。

船は動き出しました。

漁師は、自分のお父さんから、迷宮から来た人と別れた場所を、聞いていました。

漁師は船を漕いで、バードを、その場所まで送ってくれました。

しばらくして、その場所に到着しました。

迷宮のドアが、バードの目の前に現れました。

「あなたにも、本当にお世話になりましたね。有難うございました。」

バードは、その漁師と握手をした後、別れを告げて、船を降りました。

バードは、そのドアを開きました。

そして、迷宮へと戻って行きました。



バードは話を続けました。

「そして、私は、ここに戻ってきたんだよ。

あれから、どれくらいの年月が経ったんだろう。

そして、どれくらい、迷宮のドアをくぐり、別の世界を見て来たんだろう。

でも、自分の世界を見つける事は、まだ出来てはいないんだ。

帰る事が、出来ないでいるんだよ。」

そう言いながら、バードは立ち上がりました。

「さぁ、いつまでも、愚痴を言っていても仕方が無い。

帰りたいなら、歩くしかないんだ。」

そう言って、バードは歩き始めました。

ガーネも一緒に着いて行きました。

しばらく歩くと、その道は、幾つかの分かれ道になっていました。

「さぁ、どちらへ行く?」バードはガーネに聞きました。

「私は、一番右側にします。」ガーネは言いました。

「そうか、では、私は真ん中にしよう。」バードは言いました。

「では、さようなら。」二人は、お互いに、そう声をかけました。

そして、別々の道を歩き出しました。



トラは、尋ねました。

「ねぇ、なんで一緒に行こうとは、思わなかったの?」

ガーネは答えました。

「彼と、一緒に行ったのでは、いつまでたっても、彼に追いつけません。

だから、1人で歩くことにしたんです。

いつか、また会えるかどうかは判りません。

彼が、自分の世界を見つけてしまう事も、当然あるわけですからね。

でも、もし会う事があったとしたら、その時は彼と対等の立場でありたい。

そう思ったんです。

多分、彼も、同じ気持ちだったんじゃないかと思います。」

「ふーん。でもあたしとは、一緒よね。どうしてなの。」

「それは、トラ。あなたが、心配だったからですよ。」

「あたしは、あなたよりも未熟だといいたいわけね。」

「違います。未熟なのはお互い様です。

だから、対等の立場で、付き合っていけると思ったんです。

それに。」

「それに、何なの?」

「あの迷宮を1人で、何年もさまようのは、私には辛すぎます。

トラ、私は、あなたに会えて、本当によかったと思っています。」

ガーネは、心をこめて、トラに言いました。

トラは、顔を赤らめました。そして言いました。

「本当ね。ガーネ。私もあなたに会えて、よかったわ。」

そして、お互いに、うなずき合いました。

「トラ。これで私の話もおしまいです。では、そろそろ行きましょうか。」

ガーネはトラに、そう言いました。

「ええ、行きましょう。」

1人と一匹は、また迷宮の、果てしない道を歩き出しました。



ある旅人との出会い。(終)


今回のお話は、ガーネが、その相方のトラと出会う前の物語です。

今回の主役は、バードという、ガーネと同じ迷宮の旅人です。

彼の話から、ガーネは、迷宮や別世界についての知識を得る事になるのです。


さて、次回は、いよいよ、猫のトラとの出会いとなります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ