第7話「天空の村にて」ななつめだよ。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第7話「天空の村にて」ななつめだよ。のお話です。
この回では、ガーネがトモネ様の元へ薬の配達をします。
第7話「天空の村にて」ななつめだよ。
ガーネは、目を覚ましました。
ボーっとした状態で、ベッドを降りて立ち上がりました。
そして、両腕を高く上げて背伸びしながら、欠伸をしました。
「ああ、いつの間にか、ぐっすりと寝てしまいました。
おや、今日もいい天気ですね。」
窓の方を見ながら、1人、そうつぶやきました。
ベッドの方を見ました。
トラも起きたらしく、前足で、目をこすっていました。
トラもボーっとしているのか、よたよたしながら、ベッドから転げ落ちました。
でも、下の方のベッドにいたので、大した事は無かったようです。
トラは、首を振った後、足を伸ばしながら欠伸をしました。
人間と猫の、朝の恒例行事が終わると、お互いに挨拶をかわしました。
「お早う、トラ。いい朝ですね。」
「お早う、ガーネ。いい朝だわ。」
その後も、トイレに行ったり、顔を洗ったりと朝の恒例行事に励んでおりました。
これらが終わった頃、ガーネは、部屋の時計で時刻を確認しました。
「ああ、もう食堂は始まっていますね。じゃあ、急ぎましょう。」
ガーネは、そう言うと、トラを抱えて食堂に向かいました。
食堂には、あまり人はいませんでした。
「そうか、今日は村役場はお休みです。だから、人が少ないんですね。」
「だから、マサギさんも今日は、湖に遊びに行けるのね。」
ガーネは、いつものように食事をもらうために、列に並ぶつもりでした。
ですが、今日は人が並ぶ姿がありませんでした。
そのため、ガーネはすぐに係りの人に、食券を渡す事が出来ました。
ガーネたちはあたりを見回しましたが、テーブルはほとんどがら空きでした。
それでも、ガーネたちは、いつものテーブルにトレイを運びました。
「頂きます。」ガーネは、両手を合わせて、そう言いました。
「頂きます。」トラも、そう言いました。
今日は、魚が出ていたので、トラは大喜びでした。
バリバリと噛み砕かんばかりに、勢いよく食べました。
あっという間に、トレイの上の物を全部平らげてしまいました。
駄目だわ、まだ食べ足りないの。そう思って、ひょいとガーネの方を見ました。
そんなトラに引き換え、ガーネはおハシで少しづつ、口に運びました。
「あら、美味し。」
そう言いながら、右手の手のひらを頬に当てました。
トラは、思いました。
ひょっとしたら、ガーネの魚の方が、あたしのよりはるかに大きいんじゃない?
それとも、魚が嫌いなのかも知れないわ。
だから、あんなにゆっくりと食べているのよ。
きっと、そうだわ。そうに決まっている。
ガーネは、あの魚を食べ切るのが大変なんだわ。
だったらここは相方として、あたしがガーネの魚を食べてあげる義務があるわ。
その方が、ガーネも喜んでくれる筈だわ。
変な理屈を、真剣に考え始めました。そしてガーネに言いました。
「ねぇ、そんなに食べるのに時間をかけるなんて、おかしいわ。
ひょっとしたら、魚が嫌いなんじゃないの。もしそうなら、私が食べてあげる。」
そう言って、トラは前足の鉤爪をニュッと出しました。
そして、ガーネの食べかけの魚をすくおうとしました。
ですがその瞬間、ビシッとガーネの手にあるおハシが、それを見事に抑えました。
ガーネはニッコリ笑って、トラに注意しました。
「トラ。お食事中に、下品な真似をしてはいけません。」
今にも、口に手を当ててほっほっほっと、笑いたそうな様子でした。
「ふん。もう、ガーネなんて知らない。」トラは、そっぽを向こうとしました。
ですがそんな言葉とはうらはらに、トラの目はガーネの魚から離れませんでした。
どうしても、ガーネの魚が欲しくてたまりませんでした。
「心と身体は違うのね。」トラは自分の事ながら、悲しくなりました。
トラはガーネに頭を下げて、こう言いました。
「あたし、ガーネの魚を食べたいの。少しでいいからおすそ分けして。」
ガーネは、トラのそんなけなげな態度に、心を打たれました。
「はい。どうぞ。」
ガーネは、残っている魚を半分ずつにして、その一方をトラに与えました。
「有難うございます。」トラは再び、頭を下げました。
そして、遠慮なくバリバリと食べました。
食事が終って、歯を磨いた後、ガーネとトラはひと休みしていました。
出かける時刻が近くなったので、ガーネは服を着替えました。
やがて、出かける時刻になりました。
「じゃあ、行きましょうね。トラ。」
「ええ。行きましょう。」
ガーネとトラは、顔を見合わせてにっこりとしました。
そして、宿舎をあとにしたのです。
2人が、この宿舎に戻ってくる事は、もう2度とありませんでした。
ガーネとトラは、呪術院のドアを開けました。
待合室を通り、休憩室に入りました。
「お早うございます。ミヤビさん。」「お早うございます。」
ガーネとトラは、ミヤビさんに朝の挨拶をしました。
しかし、すぐに「?」と思いました。
いつも呪術院で見る黒衣とは、違う服をまとったミヤビさんがいたからでした。
それはどう見ても、どこかに遊びに行くようなラフな格好でした。
ガーネは、頭にピーンと来ました。
「ミヤビさん。ひょっとして今日、湖へ遊びに行くつもりではありませんか。」
ガーネのこの問いに、ミヤビさんはしらを切りました。
「な、何を言っている。そんな事では無い。
ただ、たまにこの格好で、診療するのも悪く無いと思っただけだ。」
それを聞いたガーネは、ミヤビさんの両肩に手を置きました。
そして涙を流しながら、こう言いました。
「別に気にしませんから、本当の事を話してくれて構いませんよ。
実は私たちにも、昨日、ノミチさんから手紙が届いたんです。
今日、私たちを湖へ招待したいって言う手紙でした。
結局、行くのはトラだけにしました。
私には、ミヤビさんと村長さんのお手伝いが、決まっていましたからね。」
ガーネがそう言うと、何だ知っていたのか、とミヤビさんはホッとしていました。
「実は、そうなんだ。我の方にも、ノミチからの手紙が届いたのだ。
ただそれは我が、ガーネに手紙を出した後だったのだ。
だから今朝まで、どうしようか悩んでいたのだ。」
ミヤビさんの目は、充血していました。
それは今日の配達と役場の手伝いは止めてもらって、一緒に遊びに行くか。
それとも、自分だけ遊びに行くので、その事を伝えるか。
どちらにしようか悩んでいたようにも思えました。
しかしそれにしては何故か、顔がいつもと違い、浮かれているようでした。
ひょっとしたら、遊びに行くから興奮して眠れなかっただけじゃないのか。
そんな風にも思えてきました。
そんなガーネの思いをよそに、ミヤビさんは淡々と話を進めました。
「トモネ様に渡す荷物は、ここにある。これを、午前中に運んでもらいたいのだ。
それが済んだら後は、自由にして構わない。
但し午後からは、村役場に行って欲しい。
手紙にも書いたように、村役場の荷物運びの手伝いだ。
両方とも、よろしく頼む。
ここでの手伝いは午前中なので、日当はいつもの半金だ。それは今、払っておく。
午後は、村役場の仕事だ。
ガーネたちのこの村での滞在費用を肩代わりしているから、日当は出ないと思う。
少し気の毒な気もするが、まぁ、これも運命だと思ってやってもらいたい。」
「そうですか。判りました。」ガーネはそう言いました。
午後は、日当が出ないというあたりに、何となく解せない思いはありました。
しかし、自分たちの滞在費用を、負担してもらっているのも事実です。
また、いくら日当をもらっても、結局は使う事が無いかも知れません。
ガーネは、これは仕方が無い事だな、と諦めました。
「では私はこれから、トモネ様の所に配達に行きます。
ミヤビさんはトラを、湖へ連れて行って下さいますか。」
ガーネはミヤビさんに、そうお願いをしました。
「判った。トラは、確かに我が責任を持って預かろう。」
ミヤビさんがそう約束をしてくれました。
「じゃあ、行って来ます。トラは湖で、ゆっくり楽しんで来て下さい。」
「判ったわ。行ってらっしゃい。」
ミヤビさんはガーネに、トモネ様の荷物と今日の分の日当を手渡しました。
その荷物は、これまで配達した物とは違い、小さな物でした。
ガーネは、渡された荷物を持って、ガイムの元に向かいました。
ガイムは翼を休めて、大人しくしていました。
ガーネは、ガイムにその荷物をくくり付けました。
その後、ガイムの背中に乗りました。
「じゃあ、ガイム。飛んで下さい。」ガーネは手綱を引きました。
「判った。」ガイムは、大空へ舞い上がりました。
ガーネは、トモネ様が住んでいると思われる田畑の近くまで、飛んで来ました。
「さて、どこらへん何でしょうかね。
多分、ここらあたりだと思うんですが、なかなか見つかりませんね。」
ガーネはもう少し、先を飛んでみる事にしました。
しばらく飛んでいると、やがて1件の家が見えてきました。
「ひょっとして、あれですか。何と大きいお屋敷何でしょうね。」
半信半疑ながら、ガーネはそのお屋敷の近くに降下し始めました。
すると、そのお屋敷の玄関先で、手を振っているおばあさんの姿がありました。
それは、見覚えのある顔でした。
「トモネ様です。」
トモネ様は、降りてくるガーネに、人差し指で何か方向を示していました。
「あれは、降りる場所を誘導してくれているんですね。」
ガーネは、トモネ様が歩く方向に、ガイムを移動させました。
トモネ様は、そのお屋敷の裏庭に、ガーネたちを導いてくれました。
そこには、ライバが1匹いました。
「ガイム、あそこに降りてください。」ガーネは、そうガイムに指示をしました。
「判った。」ガイムは、そう言って、ガーネの指示する場所に着地しました。
ガーネはガイムから降りて荷物を外した後、ガイムにこう言いました。
「じゃあ、ここで休んでいて下さいね。」
ガイムは、ガーネの言うとおり、翼をたたんで休みの姿勢をとりました。
ガーネはそれを確認した後、近寄って来たトモネ様にこう言いました。
「お早うございます。ミヤビさんに頼まれたお薬を届けに来ました。」
「それは、済まなかったのう。有り難く貰って置こう。
時にあのライバが、お前さんの「ガイム」とか言う、名前のライバなのじゃな。」
トモネ様は、そう言いました。
「何故、その事を知っているのですか?」ガーネは驚いて尋ねました。
「そんな事、もう村中の人間が知っておるわい。
ナミキの奴が、ご丁寧にも、1件1件触れ回ったからの。」
ガーネは、ナミキさんは村の広報係でもあったのかと、気が付きました。
なるほど、こんな狭い村ならあっという間に情報なんて広がってしまうのですね。
悪い事は、なかなか出来無いものですと、ガーネはしみじみ思いました。
「どうも、お騒がせしてすみませんでした。」
ガーネは、そう言って頭を下げました。
「いや、構わん。
さて、立ち話もなんじゃ。今日はこれから何か他に用事でもあるのかのう?」
「いえ、午前中はもう何もありません。」
「じゃったら、屋敷に上がっていかんか。
お茶菓子などでも、つまんでいってはどうかな。」
ガーネは、今日の配達はこれで終わりなので、その申し出を受ける事にしました。
「では、お言葉に甘えて、お屋敷に上がらせて頂きます。」
ガーネがそう言うと、心なしかトモネ様は喜んでいるように見えました。
「では、その荷物を持ってついて来なさい。」
トモネ様は、先導してガーネをお屋敷に招きました。
ガーネはお屋敷の中に入ると、その広さに圧倒されていました。
また、かなり太い木材で、構成されていました。
「さすが、昔に建てられた屋敷ですね。迫力があります。」
ガーネは感心しながら、周りを見回しました。
床は、畳と木の両方でした。
家の真ん中に、囲炉裏がありました。
掘りごたつのように、足を下ろせる深い囲炉裏でした。
そこで、トモネ様は、腰を下ろしてお茶をすすっていました。
「さぁさぁ、そんな所に突っ立っていないで。
こちらに来て、一緒にお茶を飲むがよかろう。」
トモネ様はそう言って、鉄瓶に入っているお茶をひしゃくで茶飲みに注ぎました。
そして、そばにあるお茶菓子を添えて、ガーネの前に置きました。
「有難うございます。では、喜んで頂きます。」
ガーネが、お茶をすすっているのを見ながら、トモネ様はこう言いました。
「どうじゃな。この屋敷は。こんな建物を見るのは初めてじゃないのかな?」
「いえ、同じような家に寝泊りした事があります。
もっともこんなに広くはありませんでした。」
「それは、この村での事かの。」トモネ様は、尋ねました。
「いえ、旅先での出来事です。あそこでは激しい雨が降っていました。」
ガーネは、懐かしそうに目を細めていました。
「ここは、現在使用されている人家では、一番古い建物なのじゃ。
じゃがの、ご覧の通り、しっかりした造りになっとるでの。
まだまだ、耐久性は十分との事らしい。」
「そうでしたか。確かにこれなら他の家よりも安全かもしれませんね。」
ガーネも同意しました。
「あと、何年使えるか判らんがの。
あたしゃ、ここに生涯住み続けるつもりじゃよ。
あたしが死ぬのが先か、この屋敷が壊れるのが先か、楽しみだで。」
トモネ様は、そう言って、フッフッフと笑いました。
「そんな事を言わないで、いつまでも長生きして下さい。
ナミキさんたちも、きっとそう思っていますよ。」
ナミキさんの事を言うと、トモネ様は更に、フッフッフと笑い続けました。
「ナミキか。あれは小さい頃から、男勝りな子でな。
だから、余計可愛がってしまったのじゃ。
じゃが、今でも、あのように口調が男のようでな。
少し、教育の仕方が間違ったのではないかと後悔をしておる。」
「確かに、そうかもしれませんね。」ガーネは、遠慮なくそう言いました。
「ですが、性格はさっぱりとしていて、なかなかいいんじゃありませんか。
責任感や決断力もあるし。人の上に立つ才能はあると思いますよ。
お嫁さんになれるかどうかは別ですけどね。」
「そこなのじゃよ。それが心配じゃ。
誰ぞ、よい人が見つかればよいのじゃが。」トモネ様は、そうこぼしていました。
「はい。これがミヤビさんから、渡すように頼まれたお薬です。」
ガーネはそう言って、脇に置いていた小さ目の荷物を渡しました。
「おお、わざわざ有難うのう。」トモネ様は、お礼を言いました。
「ちょっと待ってて下され。」
トモネ様は、そう言って、薬の受取書に記入しました。
「じゃあ、これをミヤビさんへな。」トモネ様は受取書を差し出しました。
ガーネはそれを受け取ると、かばんの中に入れました。
「ところで、ガーネとやら。
そなたは昨日、地上の世界に降りたとの事だが、どうじゃった。
あたしゃ、あそこへは、随分若い頃に1回行ったきりでな。
それ以後は行っておらん。」
「ああ、ナミキさんから聞いたのですね。
そうです。確かに行きました。
あそこは、廃墟と化していました。がれきが散在していましたね。
でも、妙に綺麗な所もありましたよ。
もっとも、何かが建っていたような痕跡は残っていましたがね。
特にクレーターのようなものが出来ている部分はそうでした。」
「やはり、昔のままなのじゃな。
まぁ、今あそこで生きておるのは1人もおらんそうだから、無理も無い事じゃ。」
トモネ様はそう言って、ため息をつきました。
「それで、空気はどうじゃったかの。少しは綺麗になっておったかの。」
トモネ様はそう尋ねました。
「いえ、空気の中に何かが浮遊しているらしく、黒がかった色をしていました。
トラはすぐに、咳き込んで止まらなくなってしまいました。
私も咳き込み、気分が悪くなってしまいました。
ナミキさんに連れられて急いでここに戻り、ミヤビさんの手当てを受けました。
おかげで私もトラも、元の状態に戻る事が出来ました。」
「そうか。それは大変じゃったの。
やはり、もう元の世界には戻れんのかいの。」
トモネ様は、さみしそうな顔をして、遠くをみつめていました。
「あそこで何が起きたか、知っておるかの?」トモネ様は、尋ねました。
「ナミキさんが、トモネ様から聞いた事があると言っていました。
領土と利権による戦争が起きたせいでみたいな事を言っていましたね。」
「そうか。ナミキは、あたしが言ったことをを覚えておったのか。」
トモネ様は、少し微笑んでいました。
「これからあたしが言うのは、この村に伝えられてきた話じゃ。
じゃから少し正確さに欠けるかもしれんがの、聞いてくれるか?」
「トモネ様さえよければ構いません。お話を伺いましょう。」
ガーネはそう言いました。
トモネ様は、話を続けました。
「地上の世界はの。こことは違い、科学文明に目覚めた世界じゃった。
身の回りにあるものは、ほとんどが電気製品化しておったそうじゃ。
地上には2つの国家があっての。
かつては、各々の国が相手国とは異なる得意な分野を、発展させていったんじゃ。
そして、それを相互に補完し合う事で、共存の道を歩んで行ったという。
国が発展するにつれて、人々の暮らしが良くなっていった。
それにつれて各々の国が、更なる発展を模索するようになったんじゃ。
当然、相手国の得意とする分野にまでも、進出するようになった。
それは、今まで無かったような競争や反発を招いての。
事あるごとに、いさかいを起こすようになって行ったらしい。
また同じ産業を行なうと言う事はじゃ。
それに使用する原材料も同じになるという事でもある。
この2つの国が、原材料として使っていたのは、この山に眠る資源じゃった。
あたしらが、火石を使うようになったようにな。
じゃが、この山にはそれ以外にも、有用な資源が多く眠っておった。
当然、その取り合いも激しくなっていったというわけじゃよ。
これらの争いの種の他にも、更に問題があった。
この2つの領土は、もともと暫定的に決められたものだったのじゃ。
そのあいまいさ故に各々の国が、領土と山の資源を要求し合っての。
各々の国の言い争いは、留まる所を知らなかったと言う。
じゃが、それでもまだ致命的な決裂にまでは、至らなかった。
事が起きたのは、それからじゃ。
ある時、片方の国がこれまでに無かった技術を持つ、飛行機を作った。
それは、この天空の村にも届くという触れ込みの飛行機だったのじゃ。
これまで、ミサイルはあったし、飛行機もむろんあった。
じゃが、飛行距離も短く、高度も大した事は無かった。
どんなに頑張っても、この村にまで届くような物は作れなかったのじゃ。
だから、その国は大喜びでの。空の制空権は自国が握ったと大騒ぎをした。
そして、ついにそのお披露目の日が来たのじゃ。
じゃがの、その飛行機はこの山の高さの半分を過ぎた所で爆発した。
そして、相手国側の軍事基地周辺に落ちたのじゃ。
飛行機を飛ばした国は、相手国に迎撃されたと非難した。
一方、相手国は、我が国の破壊を狙った侵略行為だと非難したのじゃ。
この事件がきっかけとなっての。
お互いどちらからともなく、宣戦布告に至ったと言うわけだ。
最初は、人が銃や刀を持った戦いだったそうな。
それに戦車が加わり、死者が一気に増えた。
近代兵器の投入が、敵の損失を早めると確信した軍部は新たな兵器を投入した。
飛行機、船など、いろいろじゃ。
そしてついに、片方の国が、自国が最強とするミサイルを発射した。
そして、相手国の多くの戦力を、一瞬にして奪ったのじゃ。
それに味をしめたその国は、次々と強力なミサイルを造っていった。
一方、先制攻撃された国の方も、それで終わりでは無かった。
自国のミサイルを相手以上に、強力なものにして発射したのじゃ。
当然、相手国も大きな被害を被った。
こうなると、後は泥沼じゃな。
強力なミサイルを開発しては、発射し、また開発しては、発射。
それを両方の国が繰り返して行ったのじゃ。
互いの国の人間の命が奪われ、その都市も次々と破壊されて行った。
そして、最後。
お互いの生き残りをかけた最終兵器のミサイルが、各国全弾、放たれた。
その幾つもの光が、空を覆い、地上世界の全てに広がって落ちて行ったのじゃ。
次の瞬間、この村でも大地震かと思われる大きな揺れを感じたらしい。
噴煙が一気にこの村まで、襲いかかり寄った。
その噴煙の中、幾つもの光がここまで見えたと言う。
恐ろしい光景だったそうじゃ。
幸い、ある程度ホコリに包まれたが、この天空の村は無事じゃった。
じゃがの。
地上の世界は、生きとし生けるもの全てが滅んだ死の世界となってしまった。
そしてそれから、途方もなく長い年月が経っておる。
それなのに、地上は、ガーネ。そなたが見た様に変わっておらんのじゃよ。」
トモネ様の話は、終わりました。
しかし、その壮絶な話の内容に、ガーネは声が出せませんでした。
しばらくして、気を取り直したガーネは、トモネ様に尋ねました。
「大変な事が起きた事は、判っていました。
でも、まさかそれほどとは、思いませんでした。
ですが、そんな地上の話が何故、この村に詳しく残っているのですか?」
「実はの。ここの村人も、昔はよく地上の世界に降りていたのじゃ。」
「ああ、それは確かマサギさんから聞いた気がします。
確か、地上の人の技術を学んでいたっていう話でしたね。」
「その通りじゃ。
その技術を学んだ村人の中に、最終日近くまで残っておった者がいたのじゃ。」
「えっ、それでどうなったんですか?」
「実は、そのミサイルの発射は極秘扱いでの。
研究室にいる全ての者が、軍に拘束されてしまったのじゃ。
もちろん、村人も同じ目にあったらしい。
じゃがの。一緒に拘束された研究者の1人と村人がすごく仲が良くての。
おまけにその研究者、その研究所の抜け道を知っておったのじゃ。
そこでその研究者に連れられて、研究所を脱出し、ライバの所に戻れたのじゃ。
脱出の際、村人が、一緒に行こうと誘ったらしいのじゃがの。
地上の人間は、あたしらのように天空の村では生きていけないのだと言う。
なんでも、呼吸困難に陥ってしまうからというのが、その理由らしいのじゃ。
それに今いるここが、自分たちの世界だから逃げるわけにはいかない。
そう言っての、村人に自分の書いた日記を渡して、立ち去ったそうじゃ。
ライバが、村に戻って2日後、あの最終日が訪れたのじゃ。
その村人の告白と、手渡された研究者の日記が今でも語り継がれているのじゃ。」
「えっ、そうすると、その日記は今でも、この地にあるんですか?」
「ああ、村役場にあるそうじゃ。」
「是非、見てみたいですね。」ガーネは、心の底からそう思いました。
「あるとは思う。じゃが、そなたがそれを見るのは不可能じゃろうて。」
「えっ、見てはいけないのでしょうか?」
「そんな事は無い。村役場にある資料は、誰でも見る事が出来る。
もちろん、そなたでもな。じゃがの、やっぱり無理じゃろうな。」
「一体、どういう事なんでしょうか?
実は午後から、村役場の荷物運びを手伝う事になっています。
それが終わったら、その事を聞いてみようと思っていたのです。」
「何?午後からじゃと。
フーム。なら今、あたしがここで言わんでも、理由はすぐに判るじゃろう。
向こうに行ったら、村長さんに聞いてみるとよい。
それで、何もかもはっきりする筈じゃ。」
何か奥歯に物が挟まったような言い方でした。
ですがそれ以上、聞いても無理だと判断して、ガーネは諦めました。
「では、そろそろおいとまします。」
そう言って、立ち上がるガーネをトモネ様は制しました。
空になったガーネの茶のみに、鉄瓶からひしゃくでお茶を注ぎました。
そして、茶菓子を前に差し出しながら、こう言いました。
「もう少しいいじゃろ。もっと話したい事があるんじゃ。」
村の事や、代表たちの事など、とりとめの無い話が続きました。
気分を害されてもまずいなと思い、ガーネは黙ってその話に耳を傾けました。
やがて、いつの間にかお昼近くになりました。
「どうじゃ、お昼はここで食べて行かんか?
すぐに用意するでの。宿舎のラーメンでは、味が濃すぎてうまくないじゃろ。」
人の腹の中を、見透かしたような発言でした。
あのラーメンの味は、ここまで知れ渡っているのかと、感心しました。
「では、よろしくお願いします。」
ガーネは自分が気が付いた時には、もうこの言葉を喋っていました。
出された料理は、ブルクを野菜と一緒に炒めたものでした。
この村で良く出てくる、「ご飯」と呼ばれる主食と一緒に、食べました。
レストランとは違う味でしたが、なかなか美味しい味でした。
「家庭料理の味っていう奴ですね。」ガーネは感心しました。
洗面所を借りて歯を磨いたり、トイレを済ませたりしました。
その後、しばしの休息をとっていました。
ガーネは部屋にあった時計で、現在の時刻を確認しました。
そろそろ村役場に行かなければならない時刻が近付いてきました。
ガーネは、トモネ様にお礼を言った後、その屋敷の外に出ました。
そして、裏庭のガイムの元に行きました。
そこには、ガイムが食事したと見られる跡が残っていました。
ガーネは、見送ろうと近づいてきたトモネ様に、こう言いました。
「トモネ様。ガイムにも、食事を与えて下さったんですね。
つい、うっかりしていました。本当に有難うございます。」
ガーネは、トモネ様にお礼を言いました。
「なーに。あたしのライバに、餌を与えるついでにじゃよ。気にするでない。」
トモネ様は、こう言いました。
ガーネは、ガイムの背中に乗りました。
そして、別れ際に、こう言いました。
「今日は、本当に有難うございました。
面白いお話も伺えましたし、美味しい料理もごちそうになりました。
とても、感謝しています。では、これで失礼します。」
そう言って、飛び去ろうとするガーネに、トモネ様はこう言いました。
「こちらこそ、手伝いと言いながら、ここまで来てくれて有難い事じゃ。
その上、こちらの無駄話をじっと聞いて下さって、感謝するでの。
じゃあ、帰りは気を付けて行きなされ。」
トモネ様は、そう言って、後ずさりをしました。
ガーネは、トモネ様に、もう一度会釈をした後、ガイムを舞い上がらせました。
眼下を見ると、いつまでも、手を振るトモネ様の姿がありました。
「では、ごきげんよう。」ガーネはその場所を立ち去って行きました。
「それにしても、年寄りは敬うべきものですね。
要求もしないのに、惜しげも無く欲しい情報を提供して頂けるのですから。
今度、来る事があったら、美味しいお菓子でも買って持って行きましょうかね。」
ガーネはそう言いながら、呪術院へと帰って行きました。
呪術院の裏庭に戻って来ました。
ガーネはガイムから降りて、こう言いました。
「ご苦労様でした。
多分、今日はもう乗る事は無いと思うから、ゆっくり休んで下さいね。」
「もっと、飛ぼう。」
ガイムは、翼をバタバタさせながら、だだをこねていました。
ガーネは、こすりつけてくる頭をなでながら、「また明日ね。」と説得しました。
ガーネは、ガイムが落ち着いたのを確認した後に、呪術院に向かいました。
ドアには、鍵がかかっていました。
「こんなに、早く帰ってくるわけありませんものね。」
ガーネは、そのまま歩いて、村役場に向かいました。
ガーネは、村役場に着きました。
「何とか、時間前に来る事が出来ましたね。」ガーネは、ホッとしていました。
中に入ると、職員であろう数人の人が、荷物は運んでいました。
そこへ、村長さんもやって来ました。
「やぁ、今日はすみません。なにせ、忙しいものですから。
猫の手も、借りたいくらいなんですよ。」村長さんは、そう言いました。
ガーネは、しまった、トラを連れてくれば良かった。と思いました。
村長さんに、荷物運びの段取りを説明してもらいました。
その後、村長さんの案内で、村役場の裏庭の方に向かいました。
そこには、村役場を圧倒するような強大な建物が、3つ並んでいました。
正確には、建築中のが、そのうち1件ありました。
それぞれの建物に、「1、2、3」と番号が振られていました。
「これは、一体何なのでしょうか?」ガーネは尋ねました。
「何を隠そう、倉庫なんです。村で一番でかいんですよ。」
村長さんは、自慢げにそう言いました。
「で、この2と書いてある倉庫に、荷物を入れてもらえればいいんです。」
「なるほど。ほんのちょっとでいいですから、中を見せて頂けないでしょうか?」
「別に構いませんよ。どうぞ見ていって下さい。」
村長さんは、そう言って倉庫の鍵を開けました。
「グワーン。」大きな音を立てて、その扉は開かれました。
「おおっ。」倉庫の灯りがついた時、ガーネは思わず声を漏らしました。
そこには既に倉庫いっぱいの荷物が積まれていたのでした。
「あの、これのどこに荷物を置けとおっしゃるのですか?」
「この上の方にまだまだ隙間があるから、大丈夫ですよ。」
村長さんは、事もなげにそう言いました。
「あのー、質問があるのですが。
普通、お片付けって言うと、要らない物を捨てて、要る物を残す。
すなわち、取捨選択をすると思うんですが、ここではやっているんですか?」
「当然、やっていません。」村長さんは胸を張って答えました。
「何故でしょう?」ガーネは、尋ねました。
「ここにある資料は、歴代の村長が心を込めて作成した物です。
捨てられるわけがありません。」
何故か、村長さんは、涙を流しながら、訴えていました。
「でも、すぐにいっぱいになってしまいますよ。
そうしたら、どうするんですか?」
「だから、今あの3号倉庫を造っているんです。
大丈夫です。必ず、間に合わせます。」
またもや、村長さんは、胸を張って答えました。
きりがないですよ。ガーネは、そう言おうとしました。
ですが、言っても聞く耳を持たないようでしたので、止めました。
その時、ガーネはふと気が付きました。
「ねぇ、村長さん。
実は、先ほど、用事があってトモネ様に会って来たのです。
その際ここに、地上の世界が消滅する前に、そこの研究者が書いた日記がある。
そう聞かされました。」
「フム。確かにありますが、それがどうかしたのですか?」
「それは、どこにあるのですか?」
「こちらですよ。」
村長さんは、そう言って1号の倉庫に向かいました。
そしてその鍵を開け、中を見せてくれました。
「その時代の物は、必ずこの中にある筈です。
但し、それを探すのに、どのくらいの年月がかかるか判りませんよ。
また仮に見つけたとしても、その後、また元の状態に戻してもらいますからね。」
村長さんは、念を押すように言いました。
ガーネは、そこに積み上げられていた荷物を見ました。
それは完全に天井についていました。
「だから、トモネ様は見る事が出来ないとおっしゃったのですね。」
ガーネは、日記を見るのを諦める事にしました。
でも、少し粘ってこんな質問をしてみました。
「ですが、あの1件はこの村でも、特異な出来事であった筈でしょう。
何故、他の書類と別にしなかったのですか?」
「最初は、そうしていたらしいのです。
でもこの役場も、それ以後、何回か引っ越しをしているのですよ。
だから、いつの間にか、他の資料の中に埋もれてしまったというわけです。」
「なるほど。そうでしたか。」ガーネは納得せざるを得ませんでした。
ガーネは、荷物運びを始めました。
やがて、全ての荷物を、何とか整理する事が出来ました。
「皆さん。ご苦労様でした。
予定通り、全ての荷物を片付ける事が出来ました。
今日の作業は、これでおしまいとしたいと思います。
では、皆さん、お気を付けてお帰り下さい。」
その村長さんの言葉を受けて、全ての職員がぞろぞろと、家路に急ぎました。
ガーネも、村役場の建物から出て来ました。もう、くたくたの状態です。
「まだ陽は高いですが、夕食を食べてしまいましょうか。
今夜はトラは、向こうで食べるとか言っていました。
すると、私1人で食事をする事になりますね。
だったら、今日は宿舎の食堂では無くて、外食にしましょう。
日当もある事ですし。」
ガーネは、そう言って村役場の門を出ようとした時、ふと上空を見上げました。
するとそこには、あのガイムが勢いよく、ガーネに向かって飛んで来ました。
ガーネには、それが不吉な事を知らせる、サインのように思えました。
「何かあったのでしょうか?」ガーネの心に不安が芽生えました。
ガーネの1日はまだ終わっていませんでした。
第7話「天空の村にて」ななつめだよ。(終)
今回のお話は、第7話「天空の村にて」の第7話です。
今回の話は、ガーネがトモネ様の話を聞くところがメインのお話です。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




