第7話「天空の村にて」むっつめだよ。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第7話「天空の村にて」むっつめだよ。のお話です。
この回では、ガーネとトラが、ナミキさんへ薬の配達をします。
第7話「天空の村にて」むっつめだよ。
「次はナミキさんの所ですね。」
ガーネはガイムの背中に乗り、大空へ舞い上がりました。
地図にあった方角にしばらく進むと、上空にたくさんのライバを見つけました。
「ああ、あそこですね。」
ガーネはその真下の平地に、小屋があるのを見つけました。
ガーネは小屋から少し離れた所で、ガイムを着地させました。
「ガイム、有難うございます。しばらくここにいて下さいね。」
「判った。」
ガーネは、ナミキさんがいると思われる、その小屋に向かって歩き出しました。
するとトラが右ポケットから這い出して、ガーネの右肩にちょこんと座りました。
「午前中はノミチさんで、午後はナミキさんか。
両方ともライバに乗れるのに、なんで薬をもらいに行かないのかしら。」
トラが疑問を呈しました。
「ノミチさんの予定は、ヤーベの体調の具合で変わるんだそうですよ。
だから出来るだけ、ヤーベの近くにいた方がいいらしいのです。
小屋があそこにあるのは、そのためですね。
一方、ナミキさんは、この山頂全体にいるライバを、全て管理しているんです。
多くのライバと、多様な運搬や連絡などを共に管理しています。
だからライバが多くいるこの小屋に常駐した方が、対処しやすいらしいのです。」
「そうなの。翼竜使いも楽じゃないわね。
じゃあ、あまり自宅には帰っていないの?」
「はい。2人とも、ほとんど毎日、小屋で寝泊まりしているらしいです。
と言っても、時々お休みは取るらしいです。
長い時間、体が空く場合には、呪術院に顔を出す事もあるそうですよ。」
ガーネはトラとそんな話をしている間に、ナミキさんの小屋に到着しました。
ガーネはその小屋の戸をたたいた後、こう言いました。
「ナミキさん。お薬をお届けに上がりました。」
すると、中から声が聞こえてきました。「ああ、ちょっと待っててくれ。」
その後ガチャと、戸が開きました。
「何だ。ガーネじゃないか。でも、お前、どうやってここまで来たんだ。」
ナミキさんは不思議がっていました。
「あのライバに、乗ってきたんです。」そう言って、ガイムを指差しました。
「ちょっと待て。俺はお前に、ライバに乗る許可を出した覚えは無いんだがな。
それに、そのライバはまだ子供だ。危険すぎる。」
ナミキさんは、怒ったように言いました。
「それについては、ミヤビさんからもらった証明書があります。」
そう言って、ガーネはその文書を、ナミキさんに手渡しました。
「ふーん。どれどれ。」
ナミキさんは、渡された文書を開いて読み出しました。
文書を読み終わったナミキさんは驚いて、ガーネに言いました。
「このライバ自身が、お前を選んだと言うのは、本当なのか?」
「本当です。ミヤビさんとマサギさんも見ていました。
ミヤビさんは、私に、ライバの使い手にならないかと言ってくれました。
私は、その申し出を受ける事にしたんです。
そうしたら2人は、私にこのライバに乗っていいと許可をくれたのです。
だから今、私は、このガイムに乗って空を飛ぶ事が出来るんです。」
ガーネはナミキさんに、そう説明しました。
「そうよ。あたしもそこにいたもの。間違いないわ。」トラもそう言いました。
ナミキさんは、ガーネの話を聞いた後、もう一度その文書を読んでいました。
読み終わるとナミキさんは、ガーネの方に顔を向けました。
「そうか。あの2人が承認したんだ。
本来、ライバはその使い手である、俺が管理している。
ライバに乗るには、俺の許可が必要なんだ。
いたずらに乗り回して、怪我をされたらたまらないからな。
人間も、ライバも傷つく事があるからだ。
だが、例外もある。
村の代表者の2人以上の承認があれば、ライバに乗ることは可能なんだ。
そして、この文書には2人の承認の印がある。」
そう言って、ナミキさんは2人の印を押してあるところを見せました。
「あの2人がいいと言うなら、この俺も承認したいな。
だが、念のためだ。そのライバ、ええと、名前は何と付けた?」
「ガイムです。」
「そのガイムをここに呼んでくれ。そして、俺の前で飛んでみてくれないか。」
「判りました。でもその前に、薬を受け取って頂けませんでしょうか?」
「えっ、ああ、そうだったな。」
ナミキさんは、ガーネから薬を受け取りました。
「とりあえず、礼を言っておくよ。持って来てくれて有難う。」
「いえ、これもミヤビさんのお手伝いですから。後で、受取書を渡して下さい。」
ガーネは、そう言ってガイムの方を向きました。
「ガイム。ちょっとこっちに来てもらえますか?」
ガーネがそう言うと、ガイムは「何?」と、ガーネの近くに寄ってきました。
そして、ガーネに頭を垂れました。
「ガイム。少し乗っても構いませんか?」
「もちろん。」
ガイムは、体を低くしました。ガーネはガイムの背中に乗り、手綱を引きました。
「ガイム。では飛んで下さい。」
ガーネはそう言って、ポンとガイムを触りました。
「飛ぶ。」ガイムは鳴き声をあげながら、大空へと舞い上がりました。
ガーネは、ガイムに何回も、小屋の上空を旋回させました。
飛行している間、ガイムは鳴き声をあげていました。
「あれは、ライバの歌だ。ライバが歌を歌っている。
俺が初めて、ゼノンに乗った時のように。」
ナミキさんは、何故か、懐かしい思いに駆られていました。
そして上空に舞うガイムに乗っている、ガーネの姿が目に映りました。
その時ナミキさんは、はっきりとその理由が判りました。
「あれは、昔の俺だ。
ガーネは、初めてゼノンに乗った時の、俺の姿を見せてくれているんだ。」
例えようも無いその懐かしさに、ナミキさんはいつしか涙を流していました。
ナミキさんがふと気が付くと、いつの間にか自分もゼノンに乗っていました。
「ゼノン、行くよ。」ナミキさんはかけ声とともに、手綱を引きました。
ゼノンはそれに応えて、大空高く舞い上がりました。
「おーい。ガーネ。」ナミキさんのゼノンは、ガーネのガイムと合流しました。
「どうだ。並飛行をやらないか?」「いいですね。やりましょう。」
二人は、それぞれの翼竜を並ばせて、飛行をしました。
直進、旋回、降下、上昇、また直進と、基本的な動きを繰り返しました。
ガイムの方が多少、遅れ気味になる事もありましたが、順調な飛行を続けました。
「楽しいな。ガーネ」「そうですね。ナミキさん。」
ナミキさんは、ガーネに気を使いながらも、その飛行を楽しんでいました。
やがて2人は飛行を終了し、小屋の近くに着地しました。
「どうだった。?」「はい。とても気持ちがよかったです。」
「今度は、是非、並飛行で宙返りやきりもみ回転もやってみたいな。
教えてやるからどうだ、やってみないか?」ナミキさんは、乗り気でした。
「まぁ、そういう機会があれば。」ガーネは、遠慮がちに答えました。
2人は、土手の草むらの上に寝転びました。
ナミキさんは空を見上げて、こんな事を口ずさみました。
「俺は、空が好きだ。
空の青さが、好きだ。
空の青さは、1つじゃない。見る角度や高さによって、さまざまに変化する。
季節によっても違う。
俺は、そのどの空の青さにも、心を惹かれてしまう。
俺は、空を飛ぶ事で、その青さを独り占めに出来る。
その青さと一体になって溶け込む事が出来る。
時が止まるような、錯覚さえ覚えてしまうその瞬間。
別な世界に、飛び込んだようなその感覚。
俺にとって、それはなくてはならない大切な時間。
この空には、もう1つ、俺を魅了させるものがある。
それは、太陽。
まぶし過ぎて、直視は出来ない。
だがそれは、この空の青さを背景として、壮大な輝きを見せてくれる。
天空に浮かぶ、神のような存在だ。
俺は、空を飛ぶ事で、その神に近付く事が出来る。
その偉大な力を、この身体いっぱいに浴びる事が出来る。
空の青さと太陽の輝き。
これをこの身体全体で感じる事こそ、俺が空を飛ぶ最大の理由。
俺が生きている事に、無上の喜びを感じるその瞬間。」
ナミキさんは、目の前に広がる空を、じっと眺めていました。
「確かに確認したよ。俺もガーネがライバに乗る事を承認しよう。」
「有難うございます。」
ナミキさんは、ガイムから降りたガーネと握手をしました。
そして、持っていた証明書に、自分の承認の印も追加しました。
「これでいい。これで間違いなくガーネは、ライバの使い手として認められた。」
ナミキさんは満足したように言いました。
「しかし、ライバ自身がお前を選ぶとはな。まるで、俺の時と同じだった。」
「えっ、そうだったんですか?」
ナミキさんは懐かしむような表情で、ガーネにうなずきました。
ナミキさんは、ガーネがここに来た理由を思い出しました。
「そうだ。確か、今日は薬を持って来たんだったな。」
ナミキさんは小屋で、薬の受取書に記入しました。
「はい。これでいいんだろう。」ナミキは受取書を差し出しました。
ガーネはそれを受け取ると、かばんの中に入れました。
その後、ガーネはナミキさんに、こう言いました。
「すみません。あの、実は午前中にノミチさんの所に行ったんですよ。」
「ああ、あいつの所に行ったのか。何の用だったんだ?」
「翼竜ヤーベ用のお薬を渡すためです。」
「ああ、そうか。あいつの所にも、必要だからな。で、それがどうかしたのか?」
「その時ノミチさんに、ヤーベが飲み水に使う湖を見たいと言ったんです。」
「フムフム。それで、あいつ、何と言ったんだ?」
「自分ではうまく案内出来ないので、ナミキにお願いして、と言われました。」
あのヤロー、面倒な事は全部、俺に押し付けるつもりだな。
ナミキさんは、そう思いました。
「まぁ、行っても構わないけど、どうしても行きたいのかい?」
ナミキさんは念のために、ガーネに尋ねました。
「はい。午前中ノミチさんに、この山頂全体をライバで案内してもらったんです。
だから出来れば、雲の下の世界も行ってみたいんです。」
ガーネがそう言うと、ナミキさんは気難しそうな表情をしました。
まぁ、いいか。行けば分かるからな。
そんなつぶやきが聞こえた後、ナミキさんはガーネに言いました。
「判った。どうしても行きたいんなら、連れて行ってやる。
但し、お前のガイムは置いて行け。
雲の下の世界は環境が厳しくてな。子供のライバにはよくないんだ。
あと、行く前にこの布で、お前とトラの口を覆っておけ。」
ナミキさんはそう言って、2枚の布を渡しました。
「判りました。でも、この布は何で必要なんですか?」
「降りて見れば、すぐに判るよ。」
ガーネは、自分とトラの口を、もらった布で覆いました。
「じゃあ、トラ。降下している間は、風の抵抗が激しいと思うんですよ。
だから、着地するまでは、ポケットの奥にいて下さい。」
ガーネはトラに、そうお願いしました。
「モグモグ。」ガーネはトラが、何を言っているのか判りませんでした。
ですが、トラがガーネの右ポケットに潜り込んだ事で、安心しました。
ナミキさんはゼノンの背中に、ガーネと一緒に乗りました。
「しっかり、つかまっていろよ。じゃあ、出発だ。ゼノン。」
ナミキさんが手綱を引くと、ゼノンは大空へ舞い上がりました。
ゼノンは、山頂の先端に差しかかりました。
ナミキさんとガーネの眼下には、どこまでも広がっている雲がありました。
「じゃあ、あの雲の中に突入するからな。しっかり、つかまっておけ。」
「はい判りました。」ガーネは、そう答えました。
「降下だ。ゼノン。」
ナミキさんはそう言って、ゼノンに雲の下に降りるよう、指示を出しました。
ゼノンは、頭を下にして、雲海に突入しました。
ナミキさんたちは、薄暗い雲の中をただひたすら、降下しました。
やがて、突然視界が開きました。
「見るんだ。ガーネ。あれがお前が見たがっていた地上の姿だ。」
ナミキさんは、そう言いました。
「あれが...。」ガーネは絶句しました。
ナミキさんたちは、降下を続けた末に、無事に地上に着地する事が出来ました。
「着きましたよ。トラ。」
ガーネはトラが入っている、右ポケットのふたを開けました。
「やれやれ、やっと着いたわね。結構、時間がかかったんじゃない。」
トラはそう言うと、ポケットから飛びだして、地上にスタッと降りました。
「へぇ、ここが...。」
ガーネとトラは、その世界の姿に、言うべき言葉を失っていました。
ただ、唖然として、見つめる事しか、出来ませんでした。
それは、まさしく、死の世界でした。
ガーネたちの周りは、全て廃墟と化していました。
たくさんのがれきが散在していました。
それでいて、何もかも根こそぎ吹き払ったかのような、綺麗な場所もありました。
ただそこには、幾つもの建物が建っていたと思われる、痕跡が残っていました。
クレーターになっている場所もありました。
人の気配はもちろん、僅かな生命の息吹さえ、感じられませんでした。
空気はよどんでいて薄黒い色をしており、呼吸するのも困難なほどでした。
「何故、こんな事に。」ガーネは咳をしながら、ナミキさんに尋ねました。
「俺も、詳しくは知らない。
オババ、いやトモネ様から聞いた話では昔、ここで激しい戦争が行われたそうだ。
領土や利権絡みの戦争だったらしい。
それから、どれくらいの年月が経ったか判らないが、今もそのままになっている。
大地も、空気も荒れ果てて、新しい命が生まれる事の無い世界になってしまった。
何の希望も見当たらない。まさに、死の世界となってしまったんだ。」
ガーネは、それ以上聞く事は、何もありませんでした。
ふと気が付くと、トラがいません。ガーネは、慌ててトラを探しました。
ガーネは、がれきの中を探し回りました。
そのがれきの中で、一番高い所に、トラはいました。
「トラ。」ガーネはトラの名前を呼びました。
でも、トラは動く気配はありませんでした。
ガーネは急いで、トラの元へ駆け寄りました。
トラは、何かをじっと見ていました。
ガーネは、トラの見ている方向に目をやりました。
そこには、がれきが砂にまみれていました。
そして、その中に、白骨化している人間のかけらが多く散在していました。
ガーネは、トラを抱きかかえました。トラの体は震えていました。
トラはガーネに何か言おうとしていました。
ですが、咳が邪魔をして、喋れないようでした。
「もう、帰ろう。これ以上いると、肺がやられてしまう。」
ナミキさんは、ガーネたちにそう言いました。
「そうですね。帰りましょう。」ガーネも賛成しました。
2人は、待機しているゼノンの元へ、歩きだしました。
ガーネはトラを、右ポケットに入れました。
するとトラは、右ポケットの奥に、潜り込みました。
トラの咳は、続いていました。
ゼノンの元に戻ったナミキさんたちは、その背中に乗りました。
「じゃあ、帰るからな。」
ナミキさんはそう言って、ゼノンに帰還の指示を伝えました。
ゼノンは、大空へ舞い上がりました。
雲の中に突入する前に、ナミキさんは、ガーネに声をかけました。
「あれを見て。あそこがヤーベたちが水飲み場にしている湖なんだ。」
ガーネは、ナミキさんが指さす方向を見ました。
そこには、かなり大きい湖がありました。
そして、たくさんのヤーベが群がっていました。
「ノミチも、あそこにいる筈だ。どうだ。寄ってみるか?」
ナミキさんは、ガーネに尋ねました。
「いえ、さっきから、トラの咳が止まらないんですよ。
私も、ちょっと調子がおかしいんです。
このまま、まっすぐ村に帰った方がいいと思います。」
「多分、地上の空気を吸い込んだので、喉や肺がやられたんだな。
判った。村に戻ったら、呪術院にまっすぐに向かおう。」
ナミキさんは、そう言って、少し速いスピードで、ゼノンを上昇させました。
「でも、これで判っただろう。
何故、ノミチがお前たちを、雲の下に連れて行きたくなかったのか。
うまく案内が出来なかったからじゃない。
あいつは、お前たちに、あんな光景を見せたくなかったんだよ。」
ゼノンは、雲海に突入しました。
薄暗い雲の中を、ゼノンは、ひたすら飛び続けました。
しばらくしてゼノンは、雲海を突き抜けました。そして村の上空に到達しました。
ガーネは、村が見えて来た途端、何かホッとする思いを感じました。
ガーネは右ポケットを触って、こう言いました。
「トラ、帰って来たよ。」
ゼノンは、呪術院の裏庭に、着地しました。
ナミキさんは、ガーネたちをゼノンから、降ろしました。
「先に呪術院の中に入って、ミヤビの診療を受けて来るんだ。
その間、俺は、一旦小屋に戻る事にしよう。
その後、ガイムを連れて戻って来るから、心配するな。」
ナミキさんは、ガーネにそう言いました。
「有難うございます。では、よろしくお願いします。」
ガーネはそう言って、頭を下げました。
中に入ると待合室には、既に人が1人もいませんでした。
休憩室に入ると、そこにはミヤビさんがいました。
「お帰り。と言いたいが、ガイムの姿が見えない。何かあったのか?」
ミヤビさんは、ガーネに尋ねました。
ガーネは、答えようとしましたが、声がかすれて、うまく喋る事が出来ません。
ミヤビさんは、それを察したのでしょう。
ガーネを診療室に、連れて行こうとしました。
その時、ガーネはポケットから、トラを出しました。
トラの咳も、さっきから続いていて苦しそうでした。
ガーネは、ミヤビさんの顔を見ました。
ミヤビさんは、納得したようにうなずきました。
「判った。ガーネとトラ。一緒に来るんだ。」
ミヤビさんはそう言って、ガーネたちを診療室に連れて行きました。
治療が終わって、ミヤビさんたちは診療室から出て、休憩室に入りました。
そこには、ナミキさんの姿がありました。
「おっ、やっと終わったようだな。大丈夫か?」
「おかげ様で、咳が止まり、声も楽に出るようになりました。
気分もさっきまでとは違って、だいぶよくなったように思います。」
「あたしも、ついさっきまでは、本当に苦しくて仕方が無かったわ。
でも、今はもう大丈夫よ。」
ガーネとトラは、ナミキさんとミヤビさんにお礼を言いました。
「我は、ガーネたちが良くなってくれれば、それで満足だ。」
「俺も、地上に行く前にもう少し、注意をしておいてやればよかった。
すまなかったな。でも、大した事が無くて本当によかった。」
ナミキさんは、ガーネにそう言って、頭を下げました。
「とんでもありません。地上に行きたいと言ったのは、私の方です。
私こそ、自分の無理なお願いで、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
ガーネも謝罪の言葉を口にしました。
その後ミヤビさんは、自分の分も含めて3人と1匹に、飲み物を用意しました。
出された飲み物を飲みながら、話題を変えて、別の話に盛り上がっていました。
やがて、ナミキさんは、用事があると言って、帰る事にしました。
その際、ふと気が付いたように、ガーネにこう言いました。
「あっ、それはそうと、俺の小屋の近くでガイムが待機していただろう。
あいつに、お前がここにいると言ったら、すぐに飛んで行っちまった。
今は裏庭に、ゼノンやシャドーと一緒にいるよ。」
「有難うございます。ナミキさん。」ガーネはナミキさんにそう言いました。
「ガーネ。今日はもう帰って、宿舎で、ゆっくり休んだ方がいい。」
ミヤビさんは、そう言ってガーネに今日の日当を手渡しました。
ガーネはそれを受け取ると、あらためて2人にお礼を言いました。
そして、トラと宿舎への帰路につきました。
「それにしても、あの薬がこんなにうまく利くとは、思わなかったな。
やはり、被験者は必要だ。」
ミヤビさんは、そうつぶやきました。
「うん。ミヤビ。今、何か言ったか?」ナミキさんは、尋ねました。
「いや別に。何でも無い。」ミヤビさんは、そう答えました。
ガーネとトラは、宿舎に戻りました。
「お腹が空きましたね。部屋に戻る前に、食事をしませんか?」
ガーネは尋ねました。
「そうね。元気になったら、あたしも食欲が出てきたわ。
じゃあ。食堂に行きましょう。」
ガーネとトラは、食堂に直行しました。
ガーネは、食券を使って、係りの人に手渡しました。
すると、いつものようにトレイが2つ出て来ました。
トラが待っているテーブルに着いた後、そのトレイを置きました。
ガーネが席に着くと、トラがこう言いました。
「この時間って、あまり人はいないのね。」
「まぁ、大体の人は、定時で帰るんじゃないでしょうか。
ここは、そんなに村人の数も、多く無さそうですしね。」
「じゃあ、食べましょうか。」ガーネはハシを割って、手を合わせました。
「頂きます。」ガーネとトラは同時に、食事の挨拶をしました。
ガーネたちはこの食堂で、初めてラーメン以外の物を口にしました。
「なかなか、美味しいですね。」「ここは、夕食の方がいいわね。」
期待していた以上の味に満足しながら、食事を楽しみました。
やがて食事も終わり、ガーネたちは歯を磨いて、自分の部屋に戻りました。
「今日1日も結構、大変でしたね。
翼竜ライバに追いかけられたかと思えば、急にその使い手になってしまいました。
その後も、すぐにガイムに乗って、大空を飛び回りましたよね。
それでも、こうやって無事に宿舎に帰れる事が出来ました。
これって、奇跡と言っていいんじゃないでしょうか?」
「確かに、ここに来てからは、ちょっと忙しいわね。
まぁ、迷宮と比較しても、仕方がないんだけど。
それにしても、よくあんなにすぐに翼竜で、飛べたものね。
あたし、ガーネを見直したわ。」
「まぁ、あれはガイムがしっかり、私をサポートしてくれたからですよ。
ど素人の私の技量だけでは、あんなに簡単に飛ぶ事は出来ませんでした。
私は、ガイムに感謝しなければ、いけないんでしょうね。」
その時この部屋のドアから、ノックの音が聞こえてきました。
「はーい。ちょっと待って下さい。」
ガーネは、ドアの方に行って開きました。
「あの、私、この宿舎の受付の者です。
実はさきほど、ガーネ様へのお手紙を、ライバが運んで来ました。
これがその手紙です。どうかお受け取り下さい。」
そう言って宿舎の受付の人はガーネに、その手紙を手渡しました。
その人がお辞儀をして立ち去った後、ガーネは部屋の中に戻りました。
手紙は2通ありました。
片方の手紙は、ミヤビさんから来たものである事が判りました。
ガーネは早速、その封を開いてみました。
「何て、書いてあるの?」トラは尋ねました。
「明日の午前中は、トモネ様の家へ、お薬の配達をして欲しいとあります。
それからミヤビさんが、村長さんから頼まれた、私への伝言も書いてありますね。
ええと、午後からは村役場で、荷物運びを手伝って欲しいとあります。」
「ふーん。それで、もう一方の手紙は何て書いてあるの?」
「ちょっと待って下さいね。」
もう片方の手紙は、ノミチさんから来たものでした。
ガーネは、その封も開いてみました。
「フムフム。ノミチさんたちは、明日、湖へ遊びに行くそうですよ。
ついては私たちも、招待するから来てみませんかと書いてありますね。」
「あっ、そうなんだ。で、ガーネはどうするの?」
「まぁ、居候の身としては、ミヤビさんや村長さんの方を取らざるを得ませんね。
湖の方は、諦めるしか無さそうです。」
「じゃあ、あたしも、ガーネに付き合うわね。」
トラの言葉に、ガーネは少し考え込んでいました。
やがて顔を上げると、トラにこう答えました。
「いえ、トラは、ノミチさんたちと一緒に、湖に行った方がいいと思います。
トモネ様の所はともかく、村役場の方は行っても退屈なだけですよ。」
トラはその言葉に、どうしたらいいか迷っているようでした。
ですが少し経った後、トラはガーネを見上げてうなずきました。
「判ったわ。あたしは明日、ノミチさんたちと出かける事にするわ。」
「そうして下さい。そしてゆっくりと楽しんで来て下さいね。」
ガーネは微笑みながら、そう言いました。
夜遅くなり、お風呂に入った後、ガーネとトラは寝る事にしました。
「じゃあ、私は下で、寝ますね。」ガーネが、そう言いました。
ガーネがベッドの中に入ると、トラもその中に潜りました。
「あったかい。今日はあたしもここで寝る。」トラがそう言いました。
「どうぞ。じゃあ、お休みなさい。」
ガーネはそう言って、消灯しました。
「ねぇ、ガーネ。」「はい。何でしょうか。」
「今日、地上の世界を見たでしょ。」「えっ、ああそうですね。」
「どうして、あんな事になっちゃたのかしら?」
「ナミキさんは、領土や利権絡みの戦争のせいだって言ってましたよね。
でも、あれは人間同士が争った跡には、とても見えませんでした。
何か強力な兵器で、破壊尽くされた。そんな感じを受けたんです。
私にはあの大惨事が戦争によるものか、それ以外なのかは判りません。
でも、それが自然などではなく、人が故意に起こしたものだとしたら。
そこには、人の「思い」が隠されているような気がしてなりません。
最初から、世界の崩壊や破滅を願っていたとは、到底思えません。
やはりその根底にあるのは、幸せになりたいという「思い」ではないでしょうか。
今以上に、幸せになりたいという願いではないでしょうか。
人はその「思い」を実現するために、強い力を生み出す事があります。
その力は、その「思い」が強ければ強いほど、より強力になっていきます。
そしていつしか、誰にも手に負えないほどの化け物になってしまったのです。
でもその事を、創造した者たちさえ、正確には認識していなかったのでしょう。
それは、常に自分たちの管理下にある。
使用したとしても、想定以上の被害は絶対にもたらさない。
そう思っていたのでしょう。いや、思いたかったんでしょう。
その結果、それを使用して、破滅した。
そんな風に思えて、ならないんです。
ですが、あの大惨事が起きる事が事前に判っていたら、結果は違っていた筈です。
今よりも不幸になってしまう、というか、全滅してしまうからです。
世界中が協力し合って、それを回避する事が出来たのではないでしょうか。
でもね。トラ。
人は、未来を予測する事は出来るかも知れません。でも、知る事は出来ません。
あそこに生きていた1人1人が、その心に自分たちの未来を描いていたでしょう。
でも、それが現実の未来とは限らないんです。
現実の未来を知る事は、誰にも出来ないんです。
だから、あの大惨事を、回避する事が出来なかったんです。
ひょっとしたらあの大惨事を、正確に予測出来た人たちがいたのかもしれません。
例え、そうであったとしても、それだけでは回避出来ません。
その人たちに、あの世界の人全てを説得するだけの力が無ければ、無理なんです。
その行動を止めさせるだけの力が無ければ、駄目なんです。
そういう人たちが、いなかったからこそ、あの世界は破滅したんでしょうね。」
ガーネたちの部屋は消灯して、既に暗くなっていました。
それでもトラには、ガーネの切ない思いが伝わって来ました。
「だけど、どんな事情があったにせよ。悲しい事ね。」トラはそう言いました。
「そうですね。悲しい事です。
犯した過ちを正したり、償ったりする事は、もう出来ません。
未来に向かって歩きだす事も、もはや、かなわぬ夢なのですからね。」
「そうね。」トラは何となく落ち込んでいました。
「なんてね。ごめんなさい、トラ。
布団に入って、演説する話でも無かったですね。
さぁ、明日も早く起きなければなりません。
もう、寝ましょう。お休みなさい、トラ。」
「うん。お休みなさい、ガーネ。」
ガーネとトラは、やるせない気持ちを抱きつつも、いつしか眠ってしまいました。
第7話「天空の村にて」むっつめだよ。(終)
今回のお話は、第7話「天空の村にて」の第6話です。
今回の話は、ガーネたちとナミキさんの話のやり取りがメインのお話です。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




