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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第7話「天空の村にて」
17/46

第7話「天空の村にて」いつつめだよ。

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第7話「天空の村にて」いつつめだよ。のお話です。

この回では、ガーネとトラが、ノミチさんへ薬の配達をします。


第7話「天空の村にて」いつつめだよ。


ガーネは、ガイムに乗って、ノミチさんの所に向いました。

「ええと、確か方角はこっちでいいんでしたよね。」

少し不安になりながらも、ガイムを飛ばしていると、やがて深い森が現れました。

その上空には昨日、喫茶店で見た翼竜の姿を何匹か見つけました。

「あれは、ヤーベよね。」トラはそう言いました。

「そうみたいですね。やっと見つける事が出来ました。」

ガーネはホッとしました。

やがて、森の中に、少し開けた場所が現れました。

そして、そこにはたくさんのヤーベが集っていました。

「多分、ここらあたりでしょう。」

ガーネは、ヤーベのいる場所と少し離れた場所に、ガイムを着地させました。

「ここで、待っていて下さいね。」

ガーネはそう言って、ガイムの体をポンと触りました。

「判った。」ガイムはそう言うと、その場所で翼を休めるのでした。


ガーネは、ヤーベが集っている場所の近くに、1件、小屋があるのを見つけました。

「多分、あそこですね。」「そうね。そうに違いないわ。」

いつの間にか、ポケットから這い出たトラが、ガーネの右肩に載っていました。

ガーネは小屋の戸をたたきました。

「ノミチさん。ノミチさん。お薬をお届けに上がりました。」

何回か戸をたたくと、ノミチさんの声が聞こえてきました。

「戸は開いているから、勝手に入って来ていいわ。」

では、お言葉に甘えまして、という事で、ガーネは戸を開けました。

そこには、テーブルの椅子に腰を下ろしているノミチさんの姿がありました。

「あら、お早う、ガーネ。そしてトラちゃん。」

ノミチさんは、ガーネだと判り、笑顔で手を振っていました。

「お早う。ノミチさん。」トラも挨拶をしました。

「お早うございます。ノミチさん。

はい。これがミヤビさんから、渡すように頼まれたお薬です。」

ガーネはそう言って、薬の入った大き目の荷物を渡しました。

「あっ、有難う。」ノミチさんは、はにかみながら、お礼を言いました。

「少し待っててね。」ノミチさんは、そう言って、薬の受取書に記入しました。

「はい。これお願いね。」ノミチさんは受取書を差し出しました。

ガーネはそれを受け取ると、かばんの中に入れました。


その後、気が付いたようにノミチさんは、ガーネの方を見ました。

そして首をかしげて、ガーネに尋ねました。

「でも、ミヤビさんと一緒じゃないみたいね。どうやってここまで来たの?」

「実は。」

ガーネは自分が、ライバの使い手になった事を話しました。

そして、ミヤビさんが作成した、証明書を見せました。

ノミチさんは、それをしげしげと見つめました。

驚いた様子で、ガーネに言いました。

「すごいじゃない、ガーネ。ここに来てまだ今日で2日しかならないのに。

しかも、今朝起きたばかりの事なんでしょう。

それで、もうライバに、いやガイムに乗っているんだ。

とても、信じられないわ。」

そう言いながら、ノミチさんはガーネを連れて、外に出ました。

「ねぇ、ちょっと飛んでみてくれない?」

「えっ、まぁいいですけれど。」

ガーネはそう言って、ガイムの背中に乗りました。

そして、小屋の周りを旋回したのでした。

ノミチさんは、その様子を見て、思わず拍手をしながら叫んでいました。

「ガーネ。すごいわ。本当にすごい。」

やがて、ガーネは地上に戻ってきました。

ノミチさんは駆け寄って、拍手で出迎えました。

「すごいわね。これは奇跡なんじゃないかしら。

こんな僅かな時間に、大空を自由に飛べるなんて。」

ノミチさんは、感動しているようでした。

「ちょっと不安定な部分も、あったみたいだったけどね

ガイムがちゃんと、サポートしてくれていたわ。

これなら、何の心配もいらないわね。」

「確かに。ガイムは私に乗りやすいように気を使っているみたいです。

この子は、本当に優しい子です。」

ガーネはそう言いました。

「ガーネ。あなたは運がいいわね。こんなライバに巡り会えて。」

「私も、そう思います。」

ガーネは、心の底からそう思いました。

「じゃあ、いつまでも表で立ち話もなんだから、そろそろ小屋に戻らない?」

そう言って、ノミチさんはガーネたちと小屋の中に入りました。

その後、ノミチさんたちは、テーブルの椅子に腰を下ろしました。


「さっき、結構、難しい顔をしていましたね。何かあったんですか?」

「えっ、いや別にそういう事じゃないのよ。

今日の、ヤーベのスケジュールを練っていただけ。」

「スケジュールと言いますと。」

「うーん。簡単に言うとね。ヤーベって生き物でしょう?

ある程度決まった時間に、湖でお水を飲んだり、雨を降らしたりするんだけどね。

たまに、体調が崩れる事もあるのよ。

そういう場合、湖に行く時間を遅らせたり、中止したりするの。

あと、雨を散布する場所を検討したりするわ。

池や湖、村人たちが作った貯水池など、必要以上に溜まらない様に管理するの。

その日その日によって違うからね。結構、面倒なのよ。」

「そうでしたか。いろいろ大変なんですね。」

「特に心配なのが、羽が痛んでしまったり、体調が元に戻らない場合よ。

自然治癒だけでは、どうにもならない場合があるわ。

だから、そういう時は、ミヤビさんにお願いして、お薬を調合してもらうの。」

「それは、ナミキさんの方でも、同じなんでしょうね。」

「ナミキも翼竜使いだからね。

でも同じ翼竜と言っても、種が違うから、同じ症状でもお薬が違うのよ。

それにヤーベはライバと違って、体がデリケートに出来ているの。

だから、お薬が必要になる事が多いんだけど。

それに比べてライバは、ナミキと同じで体だけは頑強なのよ。

だから、それほど体調管理には気を使わなくて済む筈よ。

まぁ、それでもライバは、やる事が多岐に渡っているし、使用頻度も高いわ。

その分、怪我なんかが多くなるわね。

もちろん、ヤーベと同様、羽を痛めるなど翼竜特有の症状も出るわ。」

「そうね。翼竜に限らず、体調管理は難しいわ。

あたしたちは、ほとんど迷宮だから、気にしなくて済むけどね。」

トラは、そう言いました。

「そうですね。トラの言う通りです。その点は確かに楽ですね。

で、今日のヤーベたちはどんな感じなんですか?」

「さっき、ヤーベの頭領に尋ねたんだけど、体調はみんないいみたい。

だから後は、雨の散布場所を決めればいいだけよ。

でも、それも今、決めたわ。」

そう言って、両腕を上の方に伸ばして、背伸びをしました。

「それは、よかったですね。

じゃあ、ノミチさんへの配達も終わりましたし、これで失礼します。」

そう言って、ガーネたちは小屋を出て行こうとしました。

「あっ、待って。」ノミチさんが呼び止めました。

「ガーネ。あなた、今日は、忙しいのかしら?」

「いいえ。午前中は、この配達でおしまいです。」

「そう。それじゃあ、少しの間、あちきと付き合わない?

まだ、住宅街以外、案内してもらっていないんでしょ。

あちきが案内してあげるわ。」

「それは嬉しいですね。確かにまだ時間はたっぷりあります。

トラ、どうしますか?」

「いいんじゃないかしら。あたしもこの村をもっと見てみたいわ。」

「そうですね。じゃあ、ノミチさん。喜んでお供させて頂きます。」

「そう?じゃあ、決まりね。」

そう言うと、ノミチさんはガーネたちを連れて、小屋の外を出ました。

少しばかり歩いて行くと、ライバの姿が見えてきました。

「これが、あちきのライバ。名前はマーガレットよ。」

ガーネはそれを聞いて、トラと小さい声で話しました。

「聞きましたか。トラさん。」

「ええ、聞いたわ。

あのライバからどうしてそんな、お人形さんみたいな名前を考え出したのかしら。

あたしには、ちょっと理解に苦しむんだけど。」

「まぁ、ネーミングは人それぞれですからね。

しかし、確かに私の理解も超えてしまっていますね。

こういう場合、どういう風に対処をしたらいいんでしょうかね。」

「普通で、いいんじゃない。変におかしい事を言うと怪しまれるわ。」

「そうですね。」

ガーネは、にこやかな顔で、ノミチさんに答えました。

「ええと、それは結構なお名前ですね。

名は体を現わすなどといますが、まさにその通りです。」

「そうでしょう。

あちきもこの子に会った途端に、すぐにこの名前を思いついたの。

あちきたちって、結構ウマが合うんじゃないかしら。

それに引き換え、ナミキったらひどいのよ。

そんなお人形さんみたいな名前を付けるなんて、お前xxじゃないのか。

なんて、言うのよ。」

「それはひどいですね。」ガーネはそう言いました。

ナミキさんは正常な人なんですね。ガーネとトラは、心の中で思いました。

「まぁ、ナミキの事なんかどうでもいいわ。それより、早く飛びましょうよ。」

そう言って、ノミチさんはマーガレットの背中に乗りました。

ガーネも、自分たちの後をトコトコついて来たガイムに乗ろうとしました。

「あっ、悪いけど、今回はあちきの後ろに乗ってくれない?

ガーネ。あなたは乗り始めたばかりだし、並飛行はまだ無理だと思うの。」

「それもそうですね。」

ガーネも同意して、連れてってと訴えるガイムをなだめました。

その後、ノミチさんの後ろに乗りました。

そして、その腰に両腕で、しっかりとつかまりました。

ウフフ。悪くないわね。ノミチさんは、そう思いました。

もちろん、トラはいつものように、ガーネの右ポケットに潜りました。


「じゃあ、行くわよ。しっかりつかまっていなさいね。マーガレット、飛んで。」

そう言って手綱を引くと、マーガレットは「グキキキ。」と鳴き声をあげました。

そしてノミチやガーネたちを背に、大空に舞い上がりました。


「あのね。ここが住宅街で、あそこが放牧地帯で」

空の上から、後ろを振り向いて、ノミチさんは説明を始めました。

トラがポケットから顔を出しながら、こう言いました。

「ねぇ、ノミチさん。

説明の最中に悪いんだけど、こちらをいちいち振り向かなくてもいいと思うの。

それより、もっとマーガレットの操縦に専念してくれない?

説明は前を向いていても、出来ると思うんだけど?」

「なに、トラちゃん。ひょっとして怖がっているの?

大丈夫だったら。あちきは、こう見えてもライバだってベテランなんだから。

目隠ししたって、乗りこなせるわ。」

「お願いだから、それだけは止めてください。

それより、何だかマーガレットが左下へ傾いているんですけど。」

ガーネが不安そうに言いました。

「おっといけないわ。」

慌てて、マーガレットの姿勢を正しました。

「駄目よ。トラちゃんも、ガーネも。

操縦中の相手に不用意に、話しかけるのはよくない事だと思うの。

もちろん、あちきが魅力的過ぎて、ほっておけないっていうのは判るわよ。

でもね。それはやっぱりいけない事だわ。」

ノミチさんは、ガーネたちに、そう注意しました。

「あのね。あたしがいつノミチさんのモグモク。」

何か文句を言いかけたトラの口を、ガーネは片手でふさぎました。

ガーネは小さい声で、トラに言いました。

「トラ。世の中にはね。

時として理不尽な事があっても、耐えなければいけない場合もあるのですよ。」

ガーネはトラに優しくさとしました。

「判ったわ。ガーネ。」トラはうなずきました。

「どうも、すみませんでした。これからは気をつけたいと思います。

でも、出来れば前の方を向いて話をして頂けると、こちらも安心なのです。

どうかよろしくお願いします。」

「そうね。判ったわ。

大丈夫なんだけど、同乗者を不安にさせてはいけないわね。

これからはあちきも、気を付けるわ。」

この言葉に、ガーネとトラは、ほっとしました。


「あそこは、放牧場ですか?」

「そうよ。見てごらんなさい。たくさんのブルクがいるでしょう。」

「ブルクってなんでしょうか。」

「あちきたちが、食べるお肉さん。

あそこにいるのは、家畜だけどね。森の中には野生のブルクもいるの。

ナミキが、いつか獲ってやるって言ってたわ。」

「美味しいんですか?」

「まぁ、ブルク自体を食べても、味なんて無いわね。

やっぱり、どれくらい味付けがうまいかで、変わってしまうわ。

料理人の腕のみせどころって、わけね。

どう?もし気になるなら、降りてみる?」ノミチさんはガーネに尋ねました。

「是非、近くで見てみたいです。」ガーネはそう答えました。

ガーネの要望で、ノミチさんはマーガレットを放牧場の近くに着地させました。

そこにはたくさんの動物がまとまって、歩いたり走ったりしていました。

それを飼い主が先導しながら、歩いていました。

「あれが、ブルクなんですね。」

「そうよ。

家畜は人間になれているから、近づいても、そんなに攻撃的にならないわ。

でも、野生のはそういうわけには、行かないわね。

かなり、凶暴だと言う話よ。でも、めったに獲れないから、人気があるの。」

「他に家畜はいるんですか?」

「ブルクと種が違う動物が、2種類ほどいるわ。後、鳥類もやっぱり2種類ね。

でも、その中で、よく食べられているのは、やっぱりブルクね。

肉質が柔らかいし、味付けがしやすいので、料理に最適らしいの。」

「多分、昨日夕食でお肉が出たから、あれがブルクなんじゃないかと思うんです。

確かに、美味しかったですね。」

「でしょ。」

ノミチさんにとって、ブルクの放牧は小さい頃からの、見慣れた光景でした。

ですから、特別に何の感慨もありません。

でも、ガーネとトラには、初めての経験だったのです。

特に、動物だと言う事で、トラには強く心をひかれる光景だったようです。

「すごい数ですね。ほらあんなにいますよ。よく、はぐれないものですね。」

「本当ね。あっ、あそこにいる小さいブルク、転んじゃったわ。

でも、すぐに起き上がった。丸っこくてなんて可愛いのかしら。」

小さくて可愛いと呼ばれている、トラが絶賛していました。

「こうして見ると、一緒に移動してはいますが、1匹1匹違いが判りますね。

1匹に対して1つのドラマがあります。なかなか興味深い光景ですね。」

ガーネは、いつしか評論家になっていました。

「それに、本当に美味しそうだわ。」

トラは、昨夜食べたお肉を思いだして、舌舐めずりをしました。


「そろそろ行きましょうよ。」

ノミチさんが、ガーネたちにそう声をかけました。

ですがその声が聞こえないかのように、ガーネとトラはじっと見つめていました。

ノミチさんが粘った末、ようやくガーネたちを、放牧場から引き離しました。

「じゃあ、行くわね。」

ノミチさんは、ガーネたちが放牧場に引き返すのではないかと、心配しました。

だから急いで、マーガレットに飛び乗りました。

そして、ガーネが背中に乗ったのを確認するや否や、急いで飛び立ちました。


ノミチさんは、ガーネたちとしばし休憩をしようと思い、こんな事を言いました。

「ねぇ、あそこにこの村で一番大きい湖があるの。これから寄って行かない?」

ノミチさんは、湖の場所を指さしながら、ガーネにそう言いました。

「それは多分、昨日、ミヤビさんが言っていた湖の事ですね。

トラ。どうします?」ガーネはトラに、尋ねました。

「あたしも少し休憩したいわ。行きましょう。」トラも賛成しました。

「では、連れて行って下さい。お願いします。」

ガーネはノミチさんに、そう頼みました。

「OK。じゃあ行くわよ。」

ノミチさんは、マーガレットを湖に直行させました。


ノミチさんは、マーガレットを湖のほとりに、着地させました。

「本当に、大きい湖ですね。淡水なのに、水の色も綺麗です。」

「そうでしょ。あちきたちは、ここがお気に入りなの。

あちきたち以外で、ここに来たのは、ガーネとトラちゃん。

あなた方が、初めてだわ。」

「そうですか。それは身に余る光栄ですね。」

ガーネたちがいる所には、木で作られた屋根のある休憩所や調理場がありました。

休憩所には、テーブルが1つと、椅子が6つぐらい置いてありました。

ノミチさんたちは、椅子に座りました。

ノミチさんは、水筒を出して、3つのコップに注ぎました。

飲み口が大きめだったので、トラでも楽に飲めそうでした。

「はい、どうぞ。少し甘めだけど、飲みやすいわよ。」

「では、頂きます。」ガーネとトラはその飲み物を口にしました。

「確かに、うっすらと甘いですが、飲みやすいですね。

これなら、かえって喉が渇いてしまうという事もないでしょう。」

ガーネとノミチさんは、美味しそうに飲んでいました。

「本当。飲みやすいわ。これならいくらでも、飲めそう。」

トラも、その味に満足していました。

「今日もよく晴れているわね。でも、本当は雨の方があちきは好きなの。」

「そうなんですか。」

「と言っても、滝みたいに激しく流れるような雨じゃないわよ。」

ノミチさんは、昨日のナミキさんとの事を、思い出したのでしょう。

ガーネの方を見て笑いながら、そう言いました。



「しとしとと降って、それとなく、草木や大地に湿り気を与えるような雨。

静かではあるけど、生きとし生ける物全てに、希望を与えるような雨。

あちきは、そんな雨が好き。

だから、そんな雨をみんなに分けてあげたくて、あちきは雨を降らせているの。

ヤーベの降らせる雨は、この雲の下で降る雨とは違うの。

ヤーベがいつも飲んでいる湖の水とも違う。

ヤーベによって取り込まれた水には、あらゆる汚染が取り除かれ、浄化される。

そして、生きとし生ける物に必要な、成分が加えられる。

ヤーベから排水されたその水は、命と名付けられた全ての物に力を与える。

静かに、そしてゆっくりと。でも、着実に。

あちきは、雨が好き。

暑い陽射しを和らげてくれる。

湿り気の中で、乾いた心を解きほぐしてくれる。

人に、生きようとする希望を見出してくれる。

あちきは、そんな雨がとても好き。

だから、あちきは雨を降らせてあげたいの。

この天空の村全てに。

あちきが、生まれたこの故郷に。

あちきが、愛しているこの大地に。」



ノミチさんは、ポエムのようにガーネやトラに語りました。

「ノミチさんは、この村が大好きなんですね。」

「そんなの決まっているじゃない。この村も。この村に住んでいる人たちもね。」


ガーネは湖の周りの景色を眺めていました。

「あのー、ノミチさん。あの森は結構大きいですね。」

ガーネは森を指さしながら、ノミチさんに言いました。

「ああ、あの森ね。

私たちはよくあの森で遊ぶわ。でもね、気を付けないと、大変なのよ。」

「と言うと?」

「昔、井戸を作ろうとして、とても深く掘った穴が、あちらこちらにあるの。

でも、結局あまり水が出なくて、そのままになっているわけ。

だから、ついうっかりすると、穴の中に落ちちゃうかも知れないのよ。

あそこは、普通の村人では、歩行禁止になって入れないの。

だから、もし私たちがあの穴に落ちちゃたら、助からないかも知れないわ。

特に「静寂の穴」には気を付けないといけないの。」

「「静寂の穴」って一体、何なのですか?」

「「静寂の穴」は、昔掘った穴が、特殊な状態に変化したものなの。

その穴にに入ってしまうとね。

中からどんなに大きい声で叫んでも、外に聞こえる事は絶対に無いの。

外からの声も全く聞こえないわ。文字通り、静寂な世界なの。

その上、その底には、ある種のガスが溜まっているの。

もし、1日以上、そこにいたら喉や肺がやられて確実に死ぬとさえ言われているわ。

だから、とても危険なのよ。

ガーネもあの場所に行くときには、気を付けるのよ。

まぁ、多分、行く必要なんて無いとは思うけどね。」

「あっ、そうなんですか。判りました。

いろいろと教えて頂いて、有難うございます。」

ガーネは、ノミチさんにお礼を言いました。

「でも、そんなに危険なら、板みたいなものでも、敷いたらいいのに。」

トラは、そう言いました。

「もちろん、幾つかの穴には、そうしているのよ。

でも当時は、穴を作っても、水がすぐに出なくなっちゃったみたいなのよ。

だから、たくさん掘ったのね。

あちきたちにも、まだどこにどのくらいあるのか、正確には判らないのよ。」

「水を得るって、大変なことなのね。」トラは、そう言いました。


マーガレットは、ついに山頂の先端部分まで、来ました。

「ほら、あそこに小さい建物が、幾つかあるでしょ。

あれが、発電所や掘削所なの。あっ、工場もあったわね。」

「あんなに小さいんですか。まるで掘立小屋みたいですね。

もっとしっかりした大きい建物群を想像していたんですが。」

「科学と言っても、ここにいる村人が不自由なく暮らせる程度でいいって事よ。

みんなも必要以上はいらないって言っているわ。

万が一、それが原因で自然を壊したら、元も子も無いしね。

工場なんかも実用と言うよりは、実験を目的で建ててあるだけなの。」

「自然重視って事なんでしょうか。

それとも共存って言った方がいいんでしょうかね。

まぁ、どちらにせよ、今ある自然が、いつまでも続くといいですね。」

「当たり前よ。

自然が無ければ、この村で生きていく事なんか出来ないもの。」


その後、マーガレットは、山頂を一周しました。

「どう、大体、村全体の感じがつかめたんじゃない?」

「はい。村の中心の住宅街が、一番人が多い場所だと言う事が判りました。

それに手つかずの自然が多く残っているんですね。」

「さて、これで一応、この山頂を一回りしたわ。

他にどこか行きたいと思った場所は無い?」

「そうですね。

そう言えばノミチさんはヤーベに、湖の水を飲ませているって言ってましたね。」

「ええ、そうだけど。それがどうしたのかしら?」

「出来れば、その湖に連れて行って欲しいんですけど、駄目でしょうか?」

ガーネはノミチさんに、そう言ってみました。

「そうね。あたしも、行ってみたい。」トラも賛成しました。

「えっ、あの湖に。うーん。」

ノミチさんは、手を組んで考え込んでしまいました。

「ノミチさん。手綱から手を離さないで下さい。マーガレットが傾いています。」

ノミチさんは、ガーネの声に気が付いて、慌てて手綱を握りしめました。

「もう、ガーネったら。操縦者を困らせる様なお願いをしないでよ。」

「あっ、やっぱり駄目ですか?」

「ごめんなさい。」そう言って、ガーネの方を向いて手を合わせました。

「だから。」

「あっ、またやっちゃった。」

ノミチさんはそう言って、再び手綱を握りました。

「ごめんなさいね。あちき、あの雲の下にあなたを連れていくのは無理だわ。」

「いや、無理ならいいんですけど、でも、どうしてでしょうか?

確か、ヤーベに毎日水を飲ませるために、降りているんですよね。」

「そうなんだけどね...。

あの雲の下には、ナミキと一緒に行ってもらいたいのよ。

彼女なら、うまく案内が出来ると思うわ。」

「そうですか。判りました。

ノミチさんには、この山頂を案内してもらって、私もトラも嬉しかったです。

もうこれ以上、無理をお願いするわけも行きません。

ノミチさんの言う通り、行くのは諦めましょう。」

「そう?ごめんなさいね。じゃあ、そろそろ帰りましょうか?」

「はい。」

マーガレットは、ノミチさんの小屋へと戻って来ました。


「今日は楽しかったわ。また来てね。」

「私の方こそ、本当に有難うございました。」

ガーネはそう言って、頭を下げました。

「有難うございました。」

トラもお礼を言いました。

その後、ガーネたちは、ノミチさんの小屋をあとにしました。

その後ろ後を、ノミチさんは見送っていました。

「ごめんなさい、ガーネ。

あの雲の下の事は、あちきではどうしても、うまく説明出来ないの。」


ガーネは、ガイムが待っている場所に戻りました。

ガイムが駆け寄ってきて、ガーネの顔を舌で舐めました。

そして、顔を体に擦りつけていました。

「待たせてごめんね。じゃ、帰りましょう。」

ガーネは、そう言ってガイムの背中に乗りました。

そして、体をポンと触りました。

「うん。帰ろう。」

ガイムはそう言って、翼を羽ばたかせて、大空へ舞い上がりました。

そして、呪術院へ戻って行きました。


呪術院に帰ると、休憩室でミヤビさんがお弁当を食べていました。

「ただ今、帰りましたって、もうお昼ですか?」

「と言うより、朝昼混合だな。

今朝は忙しかったので、朝食を取り損ねたのだ。」

ガーネは今朝、ミヤビさんに迷惑をかけてしまった事を思い出しました。

「すみません。私のせいでご迷惑をおかけしました。

本当に、申し訳ありませんでした。」「申し訳ありませんでした。」

ガーネとトラは、一緒に頭を下げて謝りました。

「いや、謝る必要は無い。

こちらも、いい体験をさせてもらったからな。

ところで、ガーネ。お昼はどうするつもりだ。」

「あっ、はい。食券はもうもらっています。

だから、宿舎の食堂で食べるつもりです。」

「そうか。お昼を食べたら、また来てくれ。もう1つ、配達する物が出来た。」

「判りました。」

ガーネはそう言って、呪術院を出た後、宿舎に向かいました。


宿舎の食堂で、食券を渡すと、昨日とは味が異なるラーメンが出てきました。

「また、ラーメンなんだ。」トラは可笑しそうに言いました。

「ええ、そうです。でも、味が違うみたいですよ。」

ガーネとトラは、仲良くそのラーメンを食べました。

「なんか、しょっぱかったですね。」

「あたしはガーネが水で薄めてくれたので、丁度よかったわ。」

とても美味しかったと言うには、難があるラーメンの味でした。

でも、何故か舌にその味が、いつまでも染みついていました。

ガーネたちは、自分たちの部屋で歯を磨き、ひと休みしました。

そろそろ出かける時間です。

ガーネとトラは、また呪術院に向かいました。


呪術院の休憩室では、食事を食べ終えて休んでいる、ミヤビさんがいました。

「また、来ました。」ガーネはミヤビさんに挨拶をしました。

「ウム。」と言って、ミヤビさんは、診療室から、荷物を持ってきました。

昼間より、2倍ほど大きい荷物でした。

「これは、ナミキから頼まれていた薬だ。これを運んで欲しい。」

「随分、大きい荷物ですね。これも、翼竜用なのですか?」

「その通りだ。ノミチのヤーベと違って、ライバは数が多いからな。

薬の量もそれに従い、多くなると言うわけだ。」

「判りました。では、これをナミキさんの所に運びますね。」

そう言って、その大きい荷物を運ぼうとしました。

「ああ、そうだ。今のうちに言っておく。

その荷物が無事にナミキの手に届いたら、今日はもうおしまいだ。

だから、ゆっくり行って来て大丈夫だ。

ガーネ。君がどこか案内して欲しいところがあるなら、ナミキに頼むといい。

ナミキに時間があれば、そこに連れて行ってくれると思う。」

「判りました。では、行ってきます。」

ガーネはその荷物を、ガイムの所まで運んで、くくりつけました。

「じゃあ、行きましょう。トラ。準備はいいですか?」

「もちろんよ。」トラは右ポケットから顔を出して、ガーネに答えました。

ガーネは、ガイムの背中に乗り、その体をポンと触りました。

「では、ガイム。行きましょう。」

「判った。」

ガイムは、鳴き声を上げて、大空高く舞い上がりました。


第7話「天空の村にて」いつつめだよ。(終)


今回のお話は、第7話「天空の村にて」の第5話です。

今回の話は、ガーネたちとノミチさんの話のやり取りがメインのお話です。


気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。

では、また会える日を。See You Again.


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