第7話「天空の村にて」よっつめだよ。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第7話「天空の村にて」よっつめだよ。のお話です。
この回では、ガーネが、ライバの使い手になります。
第7話「天空の村にて」よっつめだよ。
ミヤビさんたちはシャドーに乗って、無事に呪術院に戻って来ました。
「今日は、ご苦労だった。我も助かった。」
別れ際にミヤビさんは、ガーネにこう言いました。
そして、日当を払ってくれました。
宿舎に戻る途中で、ガーネはトラに言いました。
「日当が入ったし、今夜は外食をしてみませんか?」
「いいわね。食べたい物を選べるのはいい事だわ。」トラも、賛成しました。
昼間、案内してもらった場所に、レストランがあったのを思い出しました。
「あそこに行ってみましょうか?」「そうね。それがいいわ。」
ガーネたちは、レストランに向かう途中で、声をかけられました。
「ガーネさん。トラさん。」
ガーネたちが振り向くと、マサギさんが手を振っていました。
そして、駆け寄って来ました。
「マサギさん。今晩は。あっ、今、お帰りですか?」ガーネが声をかけました。
「はい。そうです。ガーネさんやトラさんもですか?」
「はい。今日はミヤビさんのお手伝いをしていました。
これから、レストランで食事でもしようかと話していたんですよ。」
「あっ、そうでしたか。
だったら、昼間のお詫びに、私が夕食にお二方を招待したいと思います。
如何でしょうか?」
それを聞いて、ガーネとトラは顔を見合わせ、にっこりとしました。
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」
ガーネは、マサギさんにそう言いました。
マサギさんの案内で、ガーネとトラはレストランに行きました。
そこは、ガーネたちが期待していた以上に、立派なレストランでした。
「こんな立派な所で、大丈夫なんですか。」ガーネは、小声で聞きました。
「大丈夫です。必要経費で落としますから。」
マサギさんも小声で、そう返事をしました。
ガーネとトラは、それを聞いて、とても安心しました。
中に入ると、ウエイトレスさんがテーブルを案内しました。
マサギさんたちは、そのテーブルの椅子に着席しました。
テーブルには、メニューが置いてあります。
ウエイトレスさんが「どれになさいますか?」と尋ねました。
「こういう機会でもないと、こんなお店にはなかなか来れないんです。
だから、高くても、美味しい物を頼んだ方がいいですよ。」
「有難うございます。」
マサギさんの素敵なアドバイスに、ガーネもトラも嬉しくなってしまいました。
マサギさんたちは、気に入った食べ物と飲み物を何品か選び、注文しました。
「お金の事を気にしないで注文出来るなんて、なんて素晴らしい事かしら。」
マサギさんたち全員が、喜びをかみしめていました。
やがて、注文した品が運ばれ、マサギさんたちは豪華な食事を楽しみました。
食事が終わった後、食後の飲み物が運ばれてきました。
マサギさんたちは、自分の注文した飲み物を味わいながら、飲んでいました。
トラも、ストローを使って器用に飲んでいました。
「今日1日は、どうでした。」ガーネがトラに尋ねました。
「迷宮の生活とだいぶ違っていたから、まだまだ慣れたとは言えないわね。
それに会議室にいた、村の代表たちって、みんな個性が強い気がしたわ。
まぁ、あれくらいでないと、代表になれないのかもしれないけれどね。」
「あの中で普通なのは、村長さんと、マサギさんくらいでしょうか。」
ガーネは笑いながら、話しました。
「普通が一番ですよ。」マサギさんはそう主張しました。
「本当を言うと、あたし、ちょっとマサギさんは苦手だったの。」
トラは本音を吐露しました。
このトラの言葉に、マサギさんは愕然としました。
「えっ、どうしてなんですか?」ちょっと涙目になってマサギさんは尋ねました。
「ほら、会議室でマサギさん、トラをもみくちゃにしていたでしょ。
あれ以後、トラは警戒しているんですよ。」ガーネも同情しました。
「あの可愛がり方は少し、異常だったわ。
あたし、だんだん自分の身が心配になって来たもの。」
トラのその言葉に、マサギさんはショックを受けたようでした。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」マサギさんはひたすらトラに謝りました。
「私、小さくて可愛い物が、大好きなんです。
そこへトラさんが現れたので、私、もう夢中になってしまって。
本当に、ごめんなさいね。」
「まぁ、こういう人は案外、多いんですよ。トラ。
あの時、ナミキさんにも、注意されていました。
これからは、あんな事の無いようにお願いしますね。」
「はい。今後は気をつけます。
だから、トラさん。嫌いにならないでいてくださいね。」
「判ったわ。じゃあ仲直りしましょう。」
トラの差し出した前足を、マサギさんは指で握りました。
「まぁ、これでこの件は解決としますか。」ガーネはそう言いました。
「そうね。そうしましょう。」「はい。お願いします。」
マサギさんとトラは、顔を見合わせて、にっこりしました。
「話は変わるんだけどね。
この世界には、翼竜っていう生き物がいるのね。びっくりしたわ。
それに、あの翼竜たちがいないと、生活が出来ないなんてね。」
トラがこの世界の感想を言いました。
「まぁ、昔からですからね。」マサギさんはそう言いました。
「それに、知っていましたか?ここにはまだ、電話が無いそうですよ。」
ガーネが、トラにそう言いました。
「えっ、本当なの?」トラは、マサギさんに振り向きました。
マサギさんは、飲み物を飲みながら、うなずきました。
「というか、まだ電話という概念自体、確立されていないらしいのです。」
「じゃあ、誰かに何か連絡したい時は、どうするの?」
このトラの質問に対し、マサギさんが答えました。
「もともと村人の大半が住宅街に居るので、それほど不便では無いんです。
少し歩けば、出会う事も出来ますしね。
村役場で知らせたい事があれば、拡声器を使って村中に知らせています。」
「でも、田畑の方に点在する家や、発電所などは、遠くにあるわね。
どうやって、連絡をとるの?」
「遠くにいる相手との連絡手段には、ライバを使うんです。
ライバには、手紙を入れておく筒が、装備されています。
それを使って、手紙のやり取りを行なうんです。
また、それとは違った方法もあります。
ライバは人の言葉を理解出来るし、耳もかなりいいんです。
まず、近くにいるライバに、相手に伝えたい話をするんです。
すると、村中に散らばっているライバどうしが、伝達し合うんです。
最後には、あのナミキさんにその内容が伝わります。
そして、ナミキさんから連絡したい相手に伝言が伝えられるんです。
ナミキさんは、ライバの話を正確に理解出来ますからね。
遠くで無くても連絡がしにくい場合は、これらの方法を使っています。」
「でも、なかなか手間がかかるのね。不便な事は不便だと思うわ。」
「確かに、急いでいる場合には、不向きですね。
これらのやり方では、会話のような早い言葉のやり取りは出来ません。
だから、いずれは電話が生まれて、普及していくんじゃないでしょうか。
まぁ、電話に限った事ではありません。
今でも科学的なものを、どんどん取り入れているようですからね。
いずれは、翼竜たちの出番も無くなる日が来るんじゃないでしょうか?」
ガーネのそんな予想に、マサギさんもしぶしぶ認めました。
「確かに今の村でも、そういう流れになりつつありますね。」
「長い目で見れば、どっちがいいのかしら。」トラは尋ねました。
「私には、判りません。
人間にとっては自分たちだけで、生活出来る環境を作りたいと思うでしょうね。
ただ生命がそこに存在する以上、何らかの必燃性があるんじゃないでしょうか。
科学に一方的に走って、その存在を脅かす必要は無いと思います。
それよりも、互いに助け合って共存出来る道があるなら、それを模索すべきです。
と、思うんですけどね。」
ガーネは、そう答えました。
話が1段落したところで、トラは話を変えました。
「それにしても、呪術師って初めて知ったわ。
なんか、少し不気味な気がするんだけど、私たち、大丈夫かしら。」
「私も同感ですね。事件が何も起きない事を、期待するしかありませんね。」
「心配いりませんよ。あの人はいい人です。
同級生だった私が言うんだから、間違いありません。」
マサギさんは、そう言ってミヤビさんを弁護しました。
マサギさんたちは、食後の飲み物を全て飲み終えました。
マサギさんはレジで料金を払い、領収書をもらっていました。
レストランを出た後、ガーネたちの宿舎の前で、マサギさんは言いました。
「今日は、夕食にお付き合いしてもらって、有難うございました。
また、いろいろなご意見を聞かせて頂いたので、本当によかったと思います。
また機会があれば、お食事をご一緒にさせて下さい。では、お休みなさい。」
マサギさんはそう言って、ガーネたちと別れました。
ガーネたちは、マサギさんの後ろ姿を見送りながら言いました。
「マサギさんって、いい人ですね。」
「あたしも、そう思うわ。
あたし、悪い事を言っちゃったかもしれないわね。」
トラは、ちょっと反省しているようでした。
ガーネとトラは、宿舎に戻りました。
自分たちの部屋に戻ると、ガーネもトラもぐったりしました。
「今日は、疲れました。本当に目まぐるしい一日でしたね。」
「迷宮での生活が長かったせいもあるけれど、本当に疲れたわね。」
「でも、最後に食べた夕食は、とても美味しかったですね。
昼食を御馳走にならなくて、かえってよかったんじゃないでしょうか。」
ガーネの意見にトラがうなずいた後、こう言いました。
「でも、こんな贅沢が出来るのは、今日だけね。
ガーネ。あたし、明日からは食券で食べる事にするわ。」
「私も、そうする事にしますよ。」
ガーネとトラは、歯を磨いた後、お風呂に入りました。
トラも入浴する事が許されたので、喜んでいました。
風呂から上がった後、ガーネはトラに言いました。
「日当にまだ手を付けていませんでした。寝る前に何か飲みましょうか?」
「そうね。何か飲みましょう。」
ガーネとトラは、売店で、好きな飲み物を買いました。
そして部屋に戻った後、それを飲み干しました。
「じゃあ、今日はもう寝ましょうか?」「それがいいわね。」
ベッドは、2階建てでした。
「どちらで眠ります?トラの好きな方でいいですよ。」
「そう?だったら、上の方で眠りたいな。」
「じゃあ、私は下で眠りましょう。」
ガーネとトラは、それぞれにベッドに潜り、そのまま眠ってしまいました。
数時間後、トラは目覚めました。
「まだ、朝は来ないのね。」
トラは欠伸をして、また眠りにつこうと思いました。
でも、なかなか眠れませんでした。
ベッドに備えてある階段で、下に降りて行きました。
ガーネは静かな寝息を立てて、ぐっすり眠っていました。
それを眺めている間に、トラもまた眠くなってきました。
大きく欠伸をした後、トラはガーネの布団に潜りこみました。
そして今度は、朝までゆっくりと眠る事が出来ました。
翌朝、ガーネとトラは欠伸をしながら、歩いていました。
「ねぇ、ガーネ。何でこんなに朝早く起きなきゃいけないのよ。」
トラが不満そうに言いました。
「朝早く、ミヤビさんからの電話が宿舎にかかってきたんですよ。
すぐ来いって。だから、仕方が無いでしょう。
ミヤビさんは、私たちにとって、大切な雇い主なんですからね。」
「でも、呼ばれているのは、ガーネだけなんじゃないの?
あたしまで、引っ張っていく必要があるのかしら。」
「ありますよ。」「あら、何かしら?」
「苦労は分かち合うのが、仲間じゃないですか。
あまり冷たい事を言うと、泣きますからね。」
「はいはい、判りました。お伴させて頂きます。」トラは観念しました。
だらだらーっと歩いていたガーネがふと立ち止まりました。
ガーネの歩いている前には、ライバが立ち塞がっていたからでした。
ゼノンやシャドーとは違い、1回り小さいサイズでした。
「お早う。」突然、ライバが喋り出しました。
それを聞いて、ガーネとトラは、耳を疑いました。
「ねぇ、トラ。今のライバの言葉、聞こえました?」
「ええ、聞こえたわ。お早うって言ってたわね。」
「やっぱり、トラもそう聞こえたんですね。
でも今まで、ライバの声なんて理解出来なかったのに、どうしてでしょう。」
「ねぇ、ガーネ。あたしにそれを聞いて、本気で判ると思っているの?」
「はい。私は、そう信じています。」
「ねぇ、無い物ねだりや他力本願はそろそろ止めて、現実を直視しない?」
「直視していたら、生きては行かれませんよ。特に、迷宮の旅人はね。
違いますか?」
「それを言ったら、おしまいだわ。まぁ、いいわ。で、これからどうするの?」
「とりあえず、こちらも挨拶して、すぐに別れましょう。」
「そうね。それが正解だわ。余計な事に首をつっこむのも好きじゃないし。」
「それを言ったら、それこそおしまいですよ。」
「お早うございます。」
ガーネとトラは、そう言ってお辞儀をしました。
その後、すぐにライバの横を通り過ぎようとしました。
「ねぇ、あそぼ。」ライバが、そう言いました。
「いやです。」「やめとくわ。」ガーネとトラは相手にしませんでした。
ガーネは何事も無かったかのように、ミヤビさんの呪術院に向かって歩きました。
「ねぇ、ガーネ。」「何でしょうか。トラ。」
「あの子、ついて来ているわよ。しかも歩いて来るわ。どうしたらいいと思う?」
ガーネは、そっと後ろを向きました。トラの言っている通りでした。
あのライバが、トコトコと歩いてついて来ていました。
ガーネは不意に立ち止まりました。
後ろを振り向くと、ライバも立ち止まっていました。
「このまま行くと、ミヤビさんや患者の方々にご迷惑ですよね。」
ガーネは、トラにそう言いました。トラもうなずきました。
いきなり、ガーネは走り出しました。
「ガーネ。あの子も走ってくるわよ。」トラが驚いたように言いました。
ひょいと後ろを見ると、少し翼を羽ばたかせてはいますが、確かに走っています。
ガーネは無我夢中で、村の中を駆け回りました。
それでも、あのライバはついてきました。
「どうにか出来ないものでしょうか?」ガーネは走りながら、思案しました。
と、その時、村役場へ歩いているマサギさんの姿が目に映りました。
「おお、女神よ。」ガーネは一目散で、マサギさんにしがみつきました。
「マサギさん。お早うございます。」ガーネは朝の挨拶をしました。
マサギさんは、最初誰なのか判らないようでした。
でも、すぐにガーネだと気が付いて、返事をしました。
「ガーネさん。お早うございます。一体どうしたんですか?」
「ライバに追われています。助けて下さい。」
そう言って、マサギさんの影に隠れました。
「えっ。えっ。」迫り来るライバの姿に、マサギさんも思わず走り出しました。
ガーネはその後を、追っかけました。
「何で、私の後ろにについて来るんですか?」
マサギさんは走りながら、ガーネにそう言いました。
「だって昨日、会議室で村長さんが言いましたよ。
滞在中不都合があったら、遠慮なくマサギさんにご相談下さい、って。
だからお願いしているんですよ。」
「ライバの担当は、ナミキさんです。私じゃありません。」
「だけど、あなたは村役場の職員さんじゃないですか。何とかして下さい。」
「でも、私が助けるのは村民なんです。
ガーネさん。あなたは村民じゃありません。」
「そんな冷たい事を言わないで下さい。
昨夜、一緒に夕食を食べた仲じゃありませんか。」
「それはそれ。これはこれです。」
マサギさんとガーネは、そんなやり取りをしながら、逃げ回っていました。
だんだん、2人は走り疲れてきました。
歩道を曲がったところで、隠れそうな物陰に身を潜めました。
追いかけて来たライバは、立ち止まってあたりをキョロキョロしていました。
2人はぜいぜいと息を切らしていました。
それでもライバに、気付かれないようにしていました。
「このままでは、らちがあきません。どうしたらいいんでしょうか?」
ガーネはあらためて、マサギさんに尋ねました。
「この状態では、ナミキさんに連絡を取る事が出来ません。
こうなったら、もうあのお方にすがるしか方法はありません。」
マサギさんはきっぱりと、そう言いました。
やはり、あのお方に頼るしか術は無いんですね。とガーネは思いました。
出来る事なら、迷惑をかけないつもりでいましたが、やむを得ません。
マサギさんとガーネは顔を見合わせ、うなずきました。
「ミヤビさーん。」
2人はそう叫びながら、全力で、呪術院に向かいました。
そんな2人を見つけたライバも、急いで後を追って行きました。
2人は、呪術院の中に駆け込みました。
2人とも、息切れして、苦しそうでした。
その様子に、待合室にいた患者も、看護婦もあっけにとられていました。
診療室にも、その様子が報告されたせいでしょうか、ミヤビさんが出てきました。
「一体、どうしたのだ。二人とも。」
2人は、その言葉を聞いて、救われた気がしました。
しばらくして、呼吸が元に戻ると、マサギさんが話し始めました。
「実は、ライバに追われているんです。なんとかならないでしょうか?」
「ライバに追われている?」
ミヤビさんは、呪術院の窓から、外を眺めました。
そして、そこにはライバの姿がありました。
「確かに。だが、あれは子供だな。
それにしても、何故、追いかけられているのか?」
ミヤビさんが、そう尋ねました。するとガーネが、その問いに答えました。
「実は今朝、あのライバが、私たちの進行方向にいたんです。」
更に、ライバの言葉を理解出来た事。
その言葉を無視して行き過ぎようとしたら、追っかけて来た事。
これらをミヤビさんに説明しました。
「ガーネ。君たちは本当に、あのライバの言葉が理解できたのか?」
ミヤビさんは、信じられないと言った顔つきで、尋ねました。
ガーネとトラは目を合わせて互いにうなずきました。
「はい。その通りです。」ガーネはそう答えました。
「信じられません。
この村で、ライバの声が理解出来るのは、ナミキさんだけなんですよ。」
マサギさんも疑っているようでした。
「フム。これは確認する必要があるな。
と言って、あそこでは人の往来の邪魔になってしまう。
そうだ。あのライバを裏庭に連れて行こう。そこでゆっくりと、調べてみたい。」
ミヤビさんが、そう提案をしました。
「でも、どうやって連れて行くのですか?」
「簡単だ。君たちを追いかけて来たのだから、君たちが先導すればいい。
そうすれば、必ず付いて来る筈だ。」
「そうですか。仕方がありませんね。」
ガーネトラは、諦めたようにミヤビさんの指示に従いました。
ライバはミヤビさんが言ったように、ガーネたちの後をついて行きました。
ライバは何のトラブルも無く、呪術院の裏庭に移動しました。
「では、ガーネ。ライバに何か話しかけてくれ。」
「えっ、あ、はい。判りました。
ライバ、あなたは何故、私たちの後についてくるのですか?」
ガーネのその問いに、ライバは答えました。
「あたし、遊びたいの。」
「今、何と言ったのか?」ミヤビさんが、ガーネに尋ねました。
「こう言ったんですよ。あたし、遊びたいの、って。」
ガーネはそう答えました。
「本当なんでしょうか?」マサギさんはまだ半信半疑でした。
「残念ながら、我にもライバの言葉は判らないな。
だが、呪術で心を読む事は可能だ。
私がいいと言ったら、もう一度やってみてくれ。
少なくとも、このライバが心に思った事は、見える筈だ。」
ミヤビさんは、呪文を口の中で唱えました。
しばらくすると、トランス状態になったようでした。
「構わない。やってみてくれ。」
ガーネはミヤビさんの言葉に、うなずきました。
そして再び、ライバに質問しました。
「ライバ、あなたは私と遊びたいですか?私と一緒にいたいですか?」
ライバは、勢いよく首を縦に振りました。そして鳴き声をあげました。
「ミヤビさん。大丈夫ですか?」
ガーネは、倒れそうになったミヤビさんを、慌てて支えました。
ミヤビさんは、目を開けました。
「ガーネ。今、ライバは何と言ったか?」
「はい、あなたと遊びたい。あなたとずっと一緒にいたい、と言いました。」
「我も、あのライバの心の声を聞いた。
それはガーネ。今、君が答えた内容そのものだった。
間違いない。君にはあのライバの声が聞こえるんだ。」
ミヤビさんは、そう確信しました。
「私にはライバの声を、理解する事は出来ません。
ですが、あのライバがガーネさんの問いに、首を縦に振りました。
それは私も見ていましたから、間違いありません。
だから、私もガーネさんの言った事は、本当だと認めたいと思います。」
マサギさんも、賛成しました。
「ガーネ。君は以前、ナミキのゼノンに会った事がある筈だ。
ゼノンの声は理解出来たのか?」
ミヤビさんが尋ねました。
ガーネとトラは顔を見合わせました。ですが共に首を横に振りました。
「いいえ、私たちは鳴き声を聞きましたが、理解出来ませんでした。」
ガーネは、そうミヤビさんに答えました。
「そうか。ナミキなら全てのライバの声を、理解できるのだがな。」
ミヤビさんは、考え込んでいました。
しばらくして顔を上げると、ガーネにこう言いました。
「ガーネ、頼みがある。君はあのライバの使い手になってもらえないだろうか?」
「えっ、私がですか?」
「そうだ。君は迷宮の旅人という、今まで我らがあった事が無い人間だ。
どういう可能性を秘めた人間なのか、我としてもすごく興味がある。
君だって、今の自分の力を、もっと知りたいんじゃないのか?
ガーネ。
もし君さえよければ、君をあのライバの使い手として、承認する用意がある。
そうなればこの村で、可能な限りの待遇を約束しよう。どうだろうか?」
ガーネは、このミヤビさんの新たな申し出を、トラと話し合っていました。
しばらくして、ガーネはミヤビさんに、こう答えました。
「ミヤビさんやマサギさんも知っている通り、私たちは迷宮の旅人です。
場合によっては今すぐにでも、ここから消える運命にあります。
そんな人間でも、何かのお役に立てるというのであれば、喜んでお受けします。
待遇は今まで通りで、構いません。
但し、行く事が可能な場所であれば、どこへでも連れて行って欲しいのです。
もちろん、ナミキさんやノミチさんが行ける所は、全てです。
如何でしょうか?」
ガーネのこの答えに、ミヤビさんはマサギさんと相談しました。
その結果、ミヤビさんは、こう答えました。
「判った。君の言う通りにしよう。」
「有難うございます。
でも、あのライバからも、承認も得る必要があると思います。
ちょっと、待ってて下さい。」
そう言ってガーネは、ライバに振り向きました。
「ライバ。私たちは、ここの世界の人間じゃありません。
迷宮の旅人です。いつ君の前から消えるか、判らない存在です。
私たちが消えた場合、君はとても悲しい思いをするかもしれません。
それでも、私を使い手として、認めてくれますか?
一緒にいたいと、言ってくれますか?」
このガーネの問いに、ライバは首を縦に振って答えました。
「あたしはあなたと一緒にいたい。あたしはあなたに従う。」
「有難う、ライバ。」ガーネは、そうライバにお礼を言いました。
再び、ミヤビさんの方を振り向きました。
「ミヤビさん。では、喜んでお引き受けします。」ガーネは、そう言いました。
「そうか。では確認の印を取り交わさなければいけない。こちらへ来てくれ。」
そう言って、ミヤビさんはみんなを連れて、呪術院の休憩室に入りました。
そして、マサギさんと話し合い、何やら紙にしたためていました。
その後、ミヤビさんとマサギさんは、その紙に自分たちの印を押しました。
ミヤビさんはその紙を、ガーネに手渡しました。
「これは、君がこのライバの使い手である事を示す書類だ。
私たちの印は、既に押してある。
後は君がここに、自分の名前とあのライバの名前を、書き込めばいいだけだ。」
「ライバの名前とは?」
「自分が所有するライバの名前は、自分で決められる。
そして、あのライバにもその名前を認識させる事になっている。」
ガーネは窓の外から、ライバを眺めました。
その後、自分の名前とライバの名前を記入しました。
ガーネはその書類を、ミヤビさんに手渡しました。
「これで、もうこの書類は誰に見せても有効だ。
ガーネ。君をあのライバの使い手として認めよう。」
そう言って、あらためてその書類を、ガーネに手渡しました。
パチパチパチ。ガーネは、ミヤビさんとマサギさんから、拍手を送られました。
「あ、有難うございます。」ガーネは照れたように、頭をかいてそう言いました。
「おめでとう。」トラも喜んでいました。
そんなトラにガーネは言いました。
「トラ。あなただって、あのライバの使い手なんですよ。
ほら、見て下さい。トラっていうあなたの名前も書いてあるじゃないですか。」
「えっ、本当なの。」トラも嬉しそうでした。
「よかったですね。ガーネさん。トラさん。
でも、それに引き換え、私の夢は破れてしまいました。」
マサギさんは思い出したように、ハンカチで涙ぐんでいました。
「私の夢とは?」全員がつっこみました。
「実は私の願いは、無事に村役場を、定年退職する事なんです。
その際に、遅刻や欠席が1回も無ければ、皆勤賞がもらえるんですよ。
それを楽しみに、今まで勤めてきたんです。本当に残念でした。」
なんて地味で、しかも時間のかかる遠大な夢を持っていたんだ。
その部屋にいた全員が、そう思いました。
「だ、大丈夫だと思いますよ。マサギさん。
ほ、ほら、もともとマサギさんを私の担当にしたのは、村長さんじゃないですか。
私が不都合を感じたら、マサギさんに相談してと言ったのも、村長さんです。
今回が、その不都合だったんです。
つまり今朝、私がお願いした時点で、村役場の業務は始まっていたんですよ。
それを村長さんに話せば、遅刻は取り消されるんじゃないでしょうか。
あと、それで難しいようなら、私がこう言ったと付け加えて下さい。
今回はマサギさんのおかげで、助かりました。
マサギさんがいなければ、村長さんに余計な手間をわずらわせる所でした。
そんな風に言えば、きっと理解されると思いますよ。
もちろん、その事に関しては、ここにいるミヤビさんも証人になってくれます。」
マサギさんは、ミヤビさんの方を向きました。
すると、ミヤビさんはうなずいていました。
マサギさんは、涙を拭き取りました。その眼には希望の光が宿っていました。
「有難うございます。これからすぐに村役場に行って、その事を伝えます。」
そう言ってマサギさんは急いで、呪術院を出て行きました。
後に残った全員が、フゥーとため息をつきました。
「人の夢って、いろいろなのね。」トラが複雑そうな表情を浮かべていました。
「ところで、ガーネ。君はライバに1人で、乗れるのかな。」
今更ながら、ミヤビさんが尋ねました。
まさか。ガーネは苦笑しながら、首を横に振りました。
ガーネは、ミヤビさんに連れられて、納屋の方に向かいました。
そして、ライバの手綱と思われるものの束を、ガーネに見せました。
「これはライバの手綱ですね。これがどうしたんですか?」
「自分が所有するライバには、自分が選んだ色の付いた、手綱をつけるんだ。
だが、他の人間が使用している色は使えない。
その色には、ライバを判別する意味もあるからだ。
ナミキは、青色。ノミチは、黄色、我は黒色だ。ガーネは何色にする?」
「あの、マサギさんやトモネ様。
あと村人の中にも、ライバは使える人がいるんですよね。
その人たちは、何色なんですか?」
「マサギやトモネ様は乗る事は出来るが、現在所有しているライバは無い。
あと、ナミキに手ほどきされた村人は、使う事が出来るだけで、所有は出来ない。
決まっているライバの中から、ナミキが選んで使わせてるだけだ。
だから、色は無い。」
「そうでしたか。では使用していない色を選びますね。」
ガーネは見比べた結果、1つの手綱を手にしました。
「ミヤビさん。私はこれにします。」
そう言って、ガーネが見せた手綱の色は、白色でした。
「判った。ではそれにしよう。
君の書類にも、その事を付け加えておくとしよう。」
そう言って、ガーネに渡した書類に、手綱の色も書き加えました。
ガーネとミヤビさんは再び、裏庭に来ました。
見れば、ライバがうとうとしていました。
ですが、2人の足音で目を覚ましたように、しゃんと立ちあがりました。
「ねぇ、あそぼ。」ライバは言いました。
それに対し、ガーネはこう答えました。
「たった今、私はあなたの使い手となりました。
ライバ。今日からあなたの名前は、「ガイム」です。いいですね。」
それを聞くと、ライバはこう答えました。
「はい。あたしの名前は「ガイム」です。名前を付けてくれて有難う。」
ガーネは話を続けました。
「それから今後、私たちの事は、名前で呼んで下さい。
私はガーネ。この猫の名前はトラです。よろしいですか。」
「はい、ガーネ。そしてトラ。」ガイムは、そう言って頭を下げました。
「これがあなたの手綱です。」そう言って、手綱を首にかけてやりました。
「判った。」ガイムは翼をバタバタさせながら、そう言いました。
「じゃあ、初飛行ですね。
ガイム。私が乗りたいから、姿勢を低くしてもらえませんか。」
「判った。」
ガイムはガーネが乗りやすいように、体を低くしました。
「では、行って来ます。」ガーネはミヤビさんに、そう言いました。
「ウム。気を付けてな。」ミヤビさんは、そう答えました。
ガーネは、ガイムの背中に乗り、両手で手綱を握りました。
そして左手で、ポンとガイムをたたいた後、こう言いました。
「じゃあ、ガイム。行きましょうか。」
ガイムは翼を羽ばたかせ、大空へ舞い上がりました。
ミヤビさんは待合室に、患者を待たせているのも忘れてその光景を見ていました。
「トラ。君は行かなくてよかったのか?」
ミヤビさんは、自分の右肩に乗っているトラに聞きました。
「はい。ガーネから、今は危ないから乗っちゃ駄目って、言われたの。
でも、ここから見ている限りは、大丈夫そうね。」
「ああ、でも上がる時や、旋回を始めたりする時は、バランスを崩しているな。
だが、あのガイムがちゃんと自分の体を傾けて、補正させている。
あんなに親切なライバを、私は見た事が無い。
使い手を本当に、大切に思っている証拠だ。
あれなら、不慣れな人間でも、安心して乗る事が出来るだろう。」
ミヤビさんがそう言うと、トラは「ふーん。」と言うだけでした。
不審に思って、ミヤビさんがトラの顔を見ると、なんだかつまらなさそうでした。
自分も乗りたかったのだろうか。それともガイムに嫉妬しているのだろうか。
ミヤビさんは、トラのそんな思いに、妙に心が動かされました。
やがて、無事にガーネが帰って来ました。
「ガイム、有難うございました。」「面白かった。」
ガイムとそんな会話をした後、ガーネはミヤビさんとトラの元に駆け寄りました。
「どうだった。」「危なく無かったの?」
ミヤビさんとトラの言葉に、ガーネは微笑みながら、こう言いました。
「ガイムが我慢をして、私をサポートしてくれました。
だから、安心して乗っていられました。
あの子は、本当に気の優しい子です。
ミヤビさん。私はあの子に乗れてよかったと思っています。
トラも、今度は一緒に乗りましょうね。」
「そうか。それはよかったな。」「私も乗りたい。」
ガーネが嬉しそうだったので、ミヤビさんもトラもホッとしました。
呪術院に戻ると、待合室では、患者が溢れかえっていました。
「しまった。うっかり忘れていた。」ミヤビさんは、そう言いました。
「看護婦さん。診療を再開しますが、もう少し待たせておいて下さい。」
ミヤビさんは、そう看護婦さんにお願いしました。
看護婦さんは、ニッコリと笑いました。
そして、出来るだけ早くお願いしますね。と返事をしました。
ミヤビさんは、ガーネたちを休憩室に、連れて行きました。
「予定より、随分遅くなってしまった。実は、ガーネに頼みたい事があるんだ。」
ミヤビさんは、そう言ってガーネの前に、大きい荷物を置きました。
「実は、これをノミチに届けて欲しいんだ。」
「えっ、これは何ですか?」
「翼竜ヤーベ用の薬だ。翼竜にもいろいろと、薬が必要な時があるんだ。
だから定期的に、薬を調合して持っていく事にしている。
本当はシャドーで、我と一緒に行く予定だったのだがな。
時間が大幅にずれてしまって、今はこの通り、患者でいっぱいになってしまった。
我はこれから診療を、再開しなければいけない。
だから、ガーネ。君が1人で、これをノミチの所まで、運んで欲しいんだ。
幸い、ガーネも、翼竜ライバの使い手の1人になった事だしな。」
「でもさっき、なったばかりなんですけどね。
そんな大事な物を、まだまだ素人の私に任せて、いいんですか?」
「大丈夫。君にはあのガイムがついている。我は、何の心配もしていないよ。」
ガーネは、しばらく考え込んでいました。
やがて、意を決したのでしょう。ガーネはこう言いました。
「判りました。では、これを運ぶ事にします。」
それを聞いて、ミヤビさんは言いました。
「そうか。では、よろしく頼む。午前中に帰って来ればそれでいい。
飛行テストも兼ねて、ゆっくりと飛んで行ってくれ。」
「判りました。有難うございます。じゃあ、トラも行きましょう。」
ガーネはトラに、そう声をかけました。
「判ったわ。あたしも行きます。」トラも張り切って答えました。
ガーネは右肩にトラを乗せ、荷物を持ってガイムの元に行きました。
先ほどと同様、ガーネはガイムに体を低くしてもらいました。
そして、トラにこう言いました。
「トラ。私の右ポケットに入ってて下さい。顔や前足は出してて構いませんよ。
でも、しっかりつかまってて下さい。
強い風が吹いて危ないと思ったら、ポケットの奥に体全部を入れて下さい。
すぐに、ポケットのふたが閉じてくれますからね。」
「判ったわ。心配しないで。」トラは、そう答えました。
ガーネはトラが、右ポケットの中に入ったのを、確認しました。
その後、ガイムの背中に乗り、両手で手綱を握りました。
そして左手で、ポンとガイムをたたいた後、こう言いました。
「じゃあ、ガイム。行きましょうか。」
ガイムは翼を羽ばたかせ、再び大空へ舞い上がりました。
第7話「天空の村にて」よっつめだよ。(終)
今回のお話は、第7話「天空の村にて」の第4話です。
やっと、2日目になりました。
今回の話は、前半は、マサギさんとの夕食でのお話です。
後半は、ガーネがライバの使い手になるまでにお話です。
今まで、サブキャラが中心の話でしたが、やっと本来の感じになってきました。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




