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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第7話「天空の村にて」
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第7話「天空の村にて」みっつめだよ。

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第7話「天空の村にて」みっつめだよ。のお話です。

この回では、ガーネとトラが、ミヤビさんのお手伝いをします。


第7話「天空の村にて」みっつめだよ。


我は、闇が好きだ。

暗闇の中には、あらゆる人の思いが隠されている。

良い心、悪い心、全てがそこにはある。

だから、怖れを抱く。

それと同時に、安らぎも感じてしまう。


真っ暗な闇の中にポツンと我が浮かんでいる。

誰かが、話しかけてくる。

でも、本当は誰もいない。

我以外、他には誰もいない。誰も話しかける者はいない。

それは、物音1つしない、静寂に満ちた世界。

なのに、誰かが話しかけてくる。

耳からではない。音としてでも無い。

それは、我の心に直接響いて来る。

喜び、怒り、憎しみ、嘆き、そして快楽。

全ての感情が、我に話しかけてくる。

我は、その1つ1つを全て受け止める。

そして、それらを全て自分の力に変える。

我には判る。

その力が、我の体の隅々まで、充たしてくれるのを感じる。

我が呪術を使うための力が、体中にみなぎるのを感じる。

だから、我は明日を、更に強く生きる事が出来る。

我は闇が好きだ。

我に怖れと安らぎと、そして力を与えてくれる。

それは、我がまだ見ぬ未来に挑むのに、かけがえの無いもう1つの世界。

我は闇が好きだ。


ガーネは、呪術師ミヤビさんの元に行きました。

「ここが、呪術師の家か。割と広いんですね。」

「ここが、村で唯一の、病気や怪我を治療をする場所だって聞いたわ。

だから、入院も出来るようになっているんじゃないの。」

「なるほど。病院ですね。」

中に入ると、待合室でしょうか。何人か人がいました。

ガーネは受付に行きました。

「あの、今日こちらのミヤビさんから、来る様に言われたんですが。」

その時、中にいた看護婦さんらしい人が、ガーネに声をかけました。

「あの、すみません。ひょっとしたら、ガーネさんでしょうか?」

「はい、そうです。」

「よかった。それでしたら、先生がお待ちしていました。

あちらのドアから入って来てくれませんか。」

ガーネは言われた通り、少し離れたドアの方に歩いて行きました。

そのドアには、「関係者以外立ち入り禁止」と書いてありました。

そのドアを開けて、中に入りました。

「失礼します。」

そこには、テーブルが1つと、座りやすそうな椅子が幾つか並べられていました。

誰もそこにはいませんでした。

反対側にあったドアから、先ほど声をかけてくれた看護婦さんが現れました。

「先生は、ただ今、治療中です。いましばらくお待ち下さい。」

「はい、判りました。」

それから、半時ほど経ったあとでしょうか。ミヤビさんが入ってきました。

「いや、申し訳ない。今日はいつもより人が多くて時間がかかってしまった。」

「あの待合室にいた全員の治療が、終わったんですか?」

「いや、ほとんどは薬をもらいに来ているだけなんだ。

それは、他の者でもやれるからな。」

「なるほど、そうでしたか。ところで、ここは病院なのですか?」

「ここでは、呪術院と呼ばれている。

薬による治療もあるが、主な治療は呪術によるものだからな。」

「そうでしたか。ところでこの部屋は、どういう部屋なんでしょうか?

ここは、休憩室だ。よくナミキやノミチなど村の代表が遊びに来る。

まぁ、我らの溜まり場だな。」

「ここが溜まり場ですか。まぁ、確かにここは村の中心にありますしね。

集まりやすい所でしょう。

おまけに居心地がよさそうな、家具もおいてありますし。

ところで、私に何か御用があると聞いたのですが、一体何でしょうか?」

「実は、最近助手が辞めてしまってね。人手が足らなくなっている。

これから、募集をかけるところだった。

もし、ここで手伝って頂けるのであれば、有り難いと思ってね。どうだろうか?」

「それは構いませんが、私は医療に関しては、何も知りませんよ。」

「いや、助手と言っても、治療の手伝いではない。

頼まれて作った薬の配達とか、治療に使う花や薬草などの採取をして欲しい。

もちろん、日当も払おう。

ここにいる間、宿泊所の食券だけでしか食べれないのは、味気ないだろうし。

何かちょっとしたものを買いたくても、いちいち担当の職員に言わねばならない。

それじゃあ、不便だと思うのだが、どうだろう。」

「判りました。ではそうさせて頂きましょう。」

ガーネは間髪入れずに、そう答えました。

「マサギには、この村を案内してもらったか?」

「はい。」

「ではもう知っていると思うが、この天空の村はこの住宅街が主要地域だ。

ここが村の大半の人の、生活拠点というわけだ。

後は、田畑や家畜の放牧のための草原。翼竜の棲みか。

小さな工場や掘削場、そして発電所があるだけだ。

だから配達してもらう家や建物は、全てこの近くにある。迷う事は無いと思う。

一応、簡単な地図は渡しておく。」

そう言って、ミヤビさんはガーネにかばんと地図を渡しました。

「では、早速だがここにある荷物を運んで欲しい。

向こうからは、受取書をもらってくればいいから。では頼む。」

そう言って、荷物をガーネに預けました。

「判りました。配達に行ってきます。」

ガーネはそう言って、呪術院を出ました。


「地図判る?」

「まぁ、簡単なものだけれどね。

でも、この村の家並は理路整然と並んでいるしね。迷う事は無いと思いますよ。」

ガーネは、1件目の家の玄関の呼び鈴を鳴らしました。

「はーい。」声が聞こえた後、玄関のドアが開きました。

「こんにちわ。呪術院からお薬の配達に来ました。」

ガーネがそう言うと、その家の奥さんらしき人が答えました。

「あら、いつもの人と違うのね。

あなた、確か午前中にナミキさんに助けられた人じゃなかったかしら。」

「はい、そうです。しばらく、ここでお世話になる事になりました。

今は、ミヤビさんの勧めもあって、呪術院のお手伝いをしています。」

「そうだったの。えーとあなたのお名前は?」

「あっ、申し遅れました。私はガーネと言います。

こっちはトラと言う名前の猫です。」

そう言って、トラの紹介もしました。

「どうぞ、よろしくお願いします。」トラも頭を下げました。

「ああ、あなたが噂に聞いた喋る猫なのね。

こちらこそ、よろしくね。」

そう言いながら、手元にある受取書にはんこを押していました。

「じゃあ、これ受取書ね。」そう言って、ガーネに手渡しました。

「有難うございます。またご用がお有りの時は、遠慮なくお越し下さい。」

ガーネはそう言って、受取書をかばんに入れて、その家を出て行きました。

「なるほどね。こうやって1件1件回るわけなのね。」

「ミヤビさんの言った通り、注文した家が近いって言うのは楽ですね。

あと6件ですね。さぁ、どんどん行きましょう。」

ガーネとトラは、こうして1件ずつ回りました。

やがて、全ての家に配達が終わると、呪術院に戻ってきました。

休憩室に入ると、ミヤビさんがお茶を飲んで、くつろいでいました。

「ただいま。」

「おや、もう帰って来たのか。もっとゆっくりしてもよかったのにな。」

ミヤビさんはそう言いました。

「と言いましても、さきほど村の案内はしてもらいました。

それに特に立ち寄りたい所も、ありませんでした。」

「やれやれ、ガーネたちもここの常連になりそうだな。

ここに入り浸る時間が増えていくと思う。」

ミヤビさんは、そう言って湯飲みをテーブルに置きました。

「そうだ。特に用事が無いなら、薬草採取も手伝ってくれないか?

もちろん、我も行く。」

「いいですね。行きましょう。」

ミヤビさんは、ガーネとトラを連れて、呪術院の裏庭に行きました。

「これは、ライバですよね。」「ライバだわ。」

ガーネたちは目の前にある生き物を指差して、ミヤビさんに尋ねました。

「そうだ。ライバだ。名前はシャドーと付けた。」

「これは、ナミキさんだけが、乗れるんじゃなかったんですか?」

「いや、確かにナミキはライバの使い手だし、会話も出来る。

だが、ライバに乗るだけなら、彼女以外にも出来るのだ。

この間、会議室に集まった者たちであれば、誰でも乗ることは可能だ。

もちろん。我もだ。

ただ、トモネ様はお年なので、1人で乗る事はもう無いと思う。

我ら以外でも、ナミキから手ほどきを受けた者なら乗りこなせる。

荷物や人の運搬に、大いに利用されているのだ。」

「そうでしたか。」

「では行くぞ。我の後ろに乗って、しっかりつかまっていろ。」

そう言ってミヤビさんはガーネとトラを載せて、シャドーで飛んで行きました。


ミヤビさんが、シャドーから降りたのは、住宅街からだいぶ離れた森の中でした。

「やっぱり住宅街とは、全然雰囲気が違いますね。

木々の緑に囲まれて、まさに山の中です。」

「住宅街は、人が生活する拠点だからな。自然よりも人を優先している。」

ミヤビさんは、そう言って、更に森の中に入りました。

「まだ、先なのですか。」ガーネは尋ねました。

「ああ、まだ先だ。

だが、シャドーが降り立つのに丁度いい広さは、あそこしかないんだ。

ここから先は、徒歩で行かなければならない。」

そう言って、ミヤビさんは、歩き出しました。

ほとんど道になっていない所を歩きました。

険しい坂や、木々の中を通り抜けて、目的の場所にたどりつきました。

「ここでは、いろいろな草木や植物が生い茂っている。

我にとっては、宝箱のような場所なんだ。」

そう話すミヤビさんは、とても楽しそうでした。

「さて、ガーネ。頼みがある。

この木に成っている実を、取って来て欲しいのだ。

我は、もう少し先で、薬草を取ってくる。」

ミヤビさんは、ガーネにそう言いました。

ガーネは、その木の上の方に、実が成っているのを見つけました。

そして、それを指差しながら、ミヤビさんに尋ねました。

「木の実と言うと、あれですか。」

「そうだ。ゆっくりやって構わない。じゃあ、我は行って来る。」

ミヤビさんは、ガーネの肩をポンとたたいて、森の奥に入っていきました。


「高い木ね。ガーネは登れるの?」

「さぁ、木というものに登った記憶が無いんですよ。

でも、この木はかなり太いし、登っても大丈夫なんじゃないでしょうか。

つかまりやすそうな感じもしますしね。」

そう言いながら、ガーネはその木を登り始めました。

両手両足で、しっかりとしがみつきながら、登っていきました。

しかし、1/3ぐらいのところで、止まってしまいました。

「どうしたの?」

「いや、疲れました。やっぱり迷宮とは全然違いますね。」

ガーネは、休みをとりながら登っていきました。

そして、ついに木の実に手が届くところまで来ました。

ガーネは、木に絡めた足で自分を固定させて、周りの木の実を採っていきました。

また、近くの枝になんとか移って、更に幾つか木の実を採りました。

「これくらいで構いませんよね。」

「もっと、採った方がいいんじゃないかしら?」

「と言っても、どれくらい採れとは言われていませんでしたしね。

じゃあ、あと少し採ったら降りましょう。」

ガーネはこわごわ、別な枝に移って木の実を採りました。

その枝にある木の実を全て採った後、その木を降りました。

「はい、ご苦労様でした。」トラはガーネをねぎらいました。

「まだ、ミヤビさんは、帰ってこないようですね。

じゃあ、ひと休みして戻ってくるのを待ちましょうか。

それにしても、体のあちこちが傷だらけになってしまいました。」

ガーネとトラは、休憩する事にしました。


しばらくして、ミヤビさんが戻ってきました。

見れば、バケツにたくさんの薬草が入っていました。

「お帰りなさい。」ガーネは声をかけました。

「ああ、今日はいいものがたくさん手に入った。

ところでガーネの方は、どれくらい取ったのだ。」

「はい、これです。」

ミヤビさんは、ガーネが差し出したバケツに入っている、木の実を見ました。

「なんだ。まだこれしか取っていないのか。」

ミヤビさんは、明らかに不満そうでした。

「ですが、私は木登りは初めてなんですよ。

あそこまで登って、木の実を取るのは、難しかったんですよ。」

「何だガーネ。君はあの木を登って取ったのか?」

「えっ、はい、そうですけど。違ったんでしょうか?」

そう言うガーネを見ながら、ミヤビさんは苦笑しました。

そして、ガーネが登った木に手を当て、その木を揺らしました。

「あっ。」

バタバタバタ。その木の上から、雨のように木の実が落ちてきました。

ガーネとトラは唖然とした状態で、その光景を見ていました。

それを見たミヤビさんは、何故か嬉しそうでした。


ミヤビさんも交えて、ガーネたちは、草の上に腰を下ろし、休憩を取りました。

「ちょっと、お聞きしたい事があるんですが、いいでしょうか?」

ガーネは、ミヤビさんにそう尋ねました。

ミヤビさんは、一瞬キョトンとした顔をしましたが、すぐにうなずきました。

「ミヤビさんは、何故、呪術師になったのですか?」

「我の事か。そうだな。

我ら一族に流れる血のせいと言えば、言えない事も無いのだ。

この天空の村で、呪術を使えるのは我ら一族のみだからな。

その事は、マサギからも聞いたんじゃないか。」

「はい。

ミヤビさんだけでは無く、ノミチさんもナミキさんもそうだと言っていました。」

ミヤビさんはうなずくと、話を続けました。

「我が1人っ子で、他に呪術を使える者がいなかったのも、理由の1つだ。

おまけに、呪術師以外、この村では医療に携われるものはいなかったからな。

ただ本当のところは、やはり我自身が、呪術医療が好きだからなのだと思う。

だから、不満を感じる事も無く、続けていられるのだ。

それに出来れば、この村でも医療に携わる事が出来る人間を、増やして生きたい。

そうしないと、我ら一族が途絶えた後、医療を出来る人間がいなくなってしまう。

もちろん、呪術は、我ら一族以外不可能だ。

だが、薬草などを患者の様態に合わせて調合する事は、教育する事で可能だ。

だから、それが出来るように教育していきたいというのが、我の願いなのだ。

そのためには、我自身が、薬の源となる動植物に対して、正しい知識が必要だ。

だから、医療の合間に、こうやって薬草採取をしているんだ。」

大したものです。

この人はこの村の未来の事まで、ちゃんと考えています。

だから、きっと村の人たちに慕われているんでしょうね。

ガーネは、ミヤビさんの言葉に、感動しました。

「だが、それと同時に、」

「はい?」

「呪術で、多くの人を、思い通りに操りたい。

または、興味本位で調合した薬を、多くの人で試してみたい。

そんな衝動に駆られて、この体がうずいてしまう事がある。

そして一旦、そうなると、もう我自身では、どうする事も出来なくなってしまう。

気が付いて見れば、いつの間にか我の大事な助手が診療台に乗っているのだ。

そして、我は何故か、指で注射器を支えている。」

この人はやっぱり駄目だ。とても危ない人なんだ。

必要以上に、近寄っちゃいけないんだ。

ガーネは、さきほどの感動が、間違いであった事に気付きました。


少しばかりの休憩の後、再び薬草探しに戻りました。

ミヤビさんとガーネは、森のあちらこちらを歩きまわって、薬草を採取しました。

いつの間にか、バケツ4つには、薬草や木の実がたくさん入っていました。

「これだけ取れれば、当分は大丈夫だと思う。」

いつもは愛想の無いミヤビさんの顔にも、満足そうな笑みがありました。


「どうだろう、まだ陽も高いし、釣りでもやって帰らないか?」

ミヤビさんがそう言い出しました。

「えっ、釣りですか?ミヤビさんがやりたいのなら、私は別に構いません。」

ガーネも特に用事があるわけでもないので、賛成しました。

「釣りって、魚を捕まえるのよね。ワァー、楽しみだわ。早く食べてみたい。」

昼食のラーメンが、自分的にはイマイチだったため、トラも喜んでいました。

「何匹か釣って、食事に一品付け加えるのも悪くない。

じゃあ、行くぞ。こっちだ。」

そう言って、ミヤビさんが歩きだしました。

ガーネとトラは、ミヤビさんの後をついて行く事にしました。

藪の中に入りました。草木をかき分け、近寄ってくる虫たちを払いました。

しばらくすると、目の前の視界が開けました。

ようようの思いで、たどり着いた所には、大きな池があったのでした。

「これもヤーベが降らした雨が、溜まって出来たものなんですか?」

「この天空の村では、すべての水が、ヤーベからもたらされたものだ。

その水から、このような池や湖が出来たのだ。

さてと、本当はここより少し遠くの方に、綺麗でもっと大きな湖があるんだ。

でも、今日は薬草採取が目的だったから、ここで釣る事にしようと思う。」

「それはいいんですけどね。

さっき、たくさんの虫にたかられて、体の何ヶ所か刺されたんです。

トラも刺されたみたいで、気持ち悪がっています。

これって、大丈夫でしょうか。あと、ミヤビさんは、どうでしたか?」

ミヤビさんがトラを見ると、地面に体を揺すりながら、転がっていました。

「ああ、ここの虫たちには毒が無いので、心配はいらない。

自分たちの縄張りに侵入して来たので、追い払おうとしただけだ。

あと、我は虫よけの薬を塗っているので、大丈夫だ。」

その時、ガーネとトラの動きが、一瞬、止まりました。

「あの、それを私たちに、塗って頂くわけにはいかなかったのでしょうか?」

「そうよ。そうよ。」

ガーネは、いつの間にか、そばに近寄って来たトラと一緒に抗議しました。

「すまん。つい忘れてた。」

ミヤビさんは、いつものような愛想の無い顔で、愛想の無い返事をしました。

「では、まず釣り竿を用意しなければならない。それには、」

虫よけの薬の話は、もう解決したと言わんばかりに、釣りの話をし出しました。

「ああ、もうこの人は。」

ガーネとトラは、同時にため息をつきました。


釣り竿には、その近くにある笹のような木を使用しました。

ガーネも、ミヤビさんの真似をして、その木を一本刈り取りました。

ミヤビさんはその木に、持参してきた釣り糸、おもり、釣り針を取り付けました。

ガーネもミヤビさんに手伝ってもらいながら、仕掛けを作りました。

「釣り道具なんて、売っているんですか?」

「この村の付近には、湖や池が、幾つかあるからな。

村人も、娯楽と料理の材料の調達を兼ねて、釣りをする事が多いんだ。

需要あれば、供給ありというわけだ。」

「なるほど。で、餌はどこにあるんですか?」

「ここだ。」

ミヤビさんが池の中にある石を引っくり返しました。

何か小さな虫が、そこに這っていました。

小さいので、針にうまく刺すには時間がかかりましたが、何とか出来ました。

池のほとりで、ガーネとミヤビさんは並んで、釣竿の糸を垂らしました。

「あの、すみません。1つ、質問したい事があります。」

ガーネはミヤビさんに、そう言いました。

「どうぞ。」ミヤビさんは、ガーネに質問を促しました。

「あのですね。竿の長さに比べて、釣り糸が短すぎるんじゃないでしょうか?

これだと釣れても、手元まで届かないと思います。」

「その通りだ。本来は釣り糸の長さは、竿より少し長めにするものだ。

また、釣り糸の途中に、魚の引きが判る目印を付けるんだ。

釣りの際は、その目印が動いた時に、竿を上げるタイミングを判断する。

竿を上げた時、タイミングが良ければ、魚を釣り上げる事が出来るというわけだ。

だが、これが我には難しい。

引いたと思って、竿を上げて見れば、もう餌は無くなっている。

あるいは、引いた事に全然気が付かない。これでは、駄目だと思ったのだ。

だから、釣り糸の長さを短くして、釣竿を上下に動かす事にした。

これなら、釣竿を持っている手に直接振動が来るから、魚の引きがすぐに判る。

あとは、釣竿を上げれば、ほとんどの場合釣り上げる事が出来るんだ。

ようするに、釣り上げる事が楽になると言うわけだ。」

「ですが、どうやって、魚を取り込むのですか。」

「魚を釣りあげたら、そのまま、釣竿ごと後ろの草むらに放り出すのだ。

その後、草むらで跳ねている魚から針を抜いて、バケツに放り込めばいいんだ。」

「あっ、そういう釣り方なんですか。

判りました。私もその方法で、やってみましょう。」

2人で並んで、釣竿を上下に動かしていました。

「これをやっている光景を人が見たら、何て思うんでしょうね。

まず、面白い人たちって思われる事は、間違いないでしょうね。」

「釣りに集中するんだ。そんな事はすぐに忘れる。」

しばらくして、ガーネの釣竿を持つ手に、魚の引きを感じました。

「えい。」釣竿を引き上げると、魚がかかっていました。

ガーネは言われた通り、そのまま釣竿を後ろに手放しました。

その後、跳ねている魚を見つけて針を取り、バケツの中に放流しました。

「まずは、1匹ですね。」ガーネは何だか楽しくなってきました。

その後、ミヤビさんも釣りあげました。

何匹か釣り上げた時、トラが言いました。

「ねぇ、これ食べられないの?」

バケツの魚を凝視しながら、トラが尋ねました。

「この世界の猫も、釣り上げたばかりの魚を食べられるから、問題無いとは思う。

ただ、池の魚なので、泥が体の中にあるんだ。

すぐに食べるなら、湖か渓流の魚の方がいい。」

「ふーん。でも食べられない事は無いのね。ちょっと食べていい?」

「ああ、構わない。」

トラは、前足から、鉤爪を出しました。

「子猫なのに、随分大きいな。」ミヤビさんはちょっと感心していました。

「だから、あまり怒らせないようにしないと、いけないんですよ。」

小さい声で、ガーネがミヤビさんに、トラとの付き合い方を説明しました。

トラは、その鉤爪で簡単にバケツの魚を採りました。

地面にバタバタ動き回る魚を、ムシャムシャ食べ始めました。

「そうね。確かに泥の感じや匂いがするけど、美味しいわよ。

ああ、でも、一匹だけじゃよく判らないわ。もう一匹、食べてもいい?」

「後で、釣った魚を焼くから、今はそれくらいにしておいた方がいい。」

ミヤビさんが、トラにそう言いました。

ウーン。トラは悩んでいましたが、言われた通り、食べるのを止めました。

結局、10匹ほど釣りあげて、釣りを終えました。


ミヤビさんは釣った魚を、さばきにかかりました。

「何か手伝う事は、ありませんか。」

ガーネはそう言って、ミヤビさんの顔を見た瞬間、絶句しました。

目は怪しげな光を放っていました。

その口元は笑っているように横に開いて、中の歯が見えていました。

何かトランス状態に陥っているようでした。

トラは思わず、ガーネに飛び付きました。

そして、共にガタガタ震えていました。

魚をさばいた後は、いつものミヤビさんに戻っていました。

魚の内臓を取り出した後、持参した水の中でそれを洗って、塩を振りました。

その後、そのうちの何本かを、細い串に差しました。

ミヤビさんは、釣り上げた全ての魚の処理を続けました。

その間に、ガーネはミヤビさんの指示通り、たき火の準備をしていました。

やがてミヤビさんは、全ての魚の処理を終えました。

そのうちの何本かを、たき火の近くに刺しました。

しばらくして、煙と共に香ばしい香りが、あたりに立ち込めてきました。

ガーネは焼けた魚の一匹を取り出して、ほぐしました。

そして、少し冷ましたものをトラにあげました。

「さぁ、どうぞ。」

トラは、食べてみました。

「とても、美味しいわ。とてもよく脂が乗っているの。

さっきの泥臭さも抜けているし、何よりこの焼けた香ばしさが嬉しい。」

トラは、とても喜んでいるようでした。

ですがそれに対し、ミヤビさんはこう言いました。

「ただ、「美味しい。」だけでいいのでは? 

そんなにコメントは必要ないと思うが。」

トラは、その言葉にシュンとしてしまいました。

ガーネも、あまりのドライな発言に、トラの弁護をしようかと思いました。

ですが、気まずくなりそうなので止めました。

その代り、自分も焼けた魚をほおばる事にしました。

「でも、やっぱり美味しいですよ。トラの気持ちが判ります。」

口をホクホクさせながら、ガーネはそう言いました。

そんなガーネを見て、ミヤビさんも魚を口にしました。

「確かに、そうだな。トラ、言いすぎたようだ。すまなかった。」

トラはその言葉を聞いて納得したのか、またムシャムシャと食べ始めました。

「でも、何ですね。たき火で、魚を焼いて食べるのは確かに美味しいです。

でも、これが昼間じゃなくて、夜だったらもっと素敵でしょうね。

満天の月と星空の下で、森に囲まれて、たき火をする。

そのたき火の、赤々と燃える火を見ながら、美味しく焼けた魚を頂く。

なかなかロマンチックじゃないでしょうか。」

「確かに、そうかもしれない。だったら、今度は夜に来てみようか?」

ミヤビさんも、思い浮かべてみたのでしょうか。そんな提案をしてきました。

ええ、お願いします。と言おうとした時、ガーネの背中をたたく物がいました。

えっ、と後ろを振り向いてみると、そこには魚を食べていた筈のトラがいました。

丁度、ミヤビさんからは隠れて見えない位置にいます。

トラはその頭でガーネの背中に、頭突きをしていたのでした。

「どうしたのですか?」

ガーネが聞くと、トラがさかんに、頭を横に振っていました。

ガーネはトラの言わんとしている事に、気が付きました。

ガーネの脳裏にはミヤビさんが夜中、トランス状態に陥っている姿が見えました。

そして、自分たちに包丁を切りつけている光景が浮かび上がったのです。

ガーネは自分の全身から、震えが起こり始めているのを感じました。

ですが、それをかろうじて、押しとどめました。

そしてミヤビさんに、こう言いました。

「と、思ったのですが、これからは虫が多くなる季節です。夜は止めましょう。」

「それもそうだな。」ミヤビさんも納得したようでした。

ガーネもトラも、ホッとしました。


焼いた魚を全部食べ終わると、たき火の後始末をしました。

後片付けが全て終わった時、いつしか夕暮れになっていました。

「じゃあ、そろそろ帰るとしよう。」

ミヤビさんは、もう一度、バケツの中の薬草や木の実を確認しました。

先ほどさばいた魚が、バケツの中に入っている事も確認しました。

そして、これらをシャドーへ、丁寧にロープでくくりつけました。


「じゃあ、帰るとしようか。ガーネ。」「はい。」

ミヤビさんたちを乗せたシャドーは、大空に舞い上がりました。



「ナミキ、いるー?いるなら返事してー。いなくても返事してー。」

「おい、ノミチ。」

「あっ、やっと見つけたー。」

「さっきから、見つけてたろう。いいかげんにしろよ。

それから、語尾にーを付けるのは止めろ。」

ノミチさんは、ナミキさんの目の前に、明るさ満載で現れました。

「やぁ、相変わらず元気そうじゃない。ナミキ。」

「出たな。無意味に元気な女の子。てめえ、一体何しに来やがった。」

「あれ、もう忘れちゃったのかな。これだから年をとると...。」

「やかましいわ。特に用が無いなら、とっとと消えな。」

「あれ、本当に忘れちゃったのかな?」

ノミチさんは首をかしげました。かなり真面目な顔つきでした。

その様子に、ナミキさんはちょっと不安を覚えました。

「えーと、何か約束していた事って、あったけ?」

その問いに、ノミチさんはフゥーとため息をつきました。

「これよ、これ。」

ノミチさんが差し出したのは、先ほど泥だらけになった自分の衣服でした。

ちゃんと乾いており、綺麗に折り畳まれていました。

「オゥ、わざわざ、持って来てくれたのか。有難いな。

それならそうと、早く言ってくれればいいじゃんか。

そうしたら、あんなに邪険にしなかったのによ。

それにしても、もう乾いたのか。早いな。」

「あのね。ここは天空の村なのよ。陽射しが強いから、乾くのも早いわ。」

「それにしても随分、綺麗にして持って来てくれたな。

いやあ、有難い。有難い。」

ナミキさんは、そう言って、その場で着替えました。

「うん。やっぱり、この服の方がいいな。

お前の服は軽いし、それほど丈夫でもないからな。

返す時、ボロボロだったら悪いと思っていたんだ。

あー、よかった。よかった。

じゃあ、これはあとで洗って返すから。」

そう言って、来ていた服を、片付けようとしました。

「あ、それ今返してもらうわ。」

ノミチさんは、ナミキさんから自分の服をひったくりました。

「いいよ。洗って返すから。」

そう言って手を伸ばすナミキさんに、ノミチさんはこう言いました。

「駄目よ。この服はあなたのと違って、もっと柔らかい生地で出来ているのよ。

大切に気を付けて洗わないと、すぐに駄目になっちゃうの。」

「ああ、そうですか。判りましたよ。どうせ、俺は雑な女の子ですよ。」

「いいえ、雑な男みたいな女の子よ。」

「何を。」

「キャー、この子、暴力を振るうわ。逃げなきゃ、キャー。」

げんこつを振り上げて、追いかけるナミキさん。

両手で頭を抱えて、逃げまどうノミチさん。

いつもの光景が、繰り返されていました。

やがてお互い、走り回るのに疲れたのでしょう。

近くの大きい岩の上に、腰を下ろしました。

「それにしても、最近物忘れがひどくなったんじゃない?

午前中に来た時も、自分が来た用事を忘れたりしていたわよね。

今も、預けた服の事を忘れちゃうなんて。

それに、運動神経もにぶくなったみたいだわ。

ほら、あちきはまだ大丈夫なのに、ナミキはもう息切れしているし。

見かけより年なんだから、気を付けた方がいいわ。」

ノミチさんは、ナミキさんの事を心配しました。

「おい、ちょっと待て。」

ナミキさんは、ノミチさんの腕をグイッとつかまえました。

「確か、俺の記憶が正しければよ。

俺とあんた、マサギとミヤビは学生時代、同級生で同年齢だった筈だが。」

その問いにノミチさんは、首をかしげて考え事をしていました。

そして、しばらくした後、ポンと手を打ちました。

「そうね。そうだったわ。

それじゃあ、あなたが、そんなに急に年をとったのは、卒業してからかしら。

ほら、人って、それぞれ個人差って言うものがあるじゃない。」

「あのな。」ナミキさんは絶叫しました。

「時間の流れは、みんなに平等なんだ!!」


第7話「天空の村にて」みっつめだよ。(終)


今回のお話は、第7話「天空の村にて」の第3話です。

今回の話は、ミヤビさんが中心のお話でした。

サブキャラでは、一番謎めいたキャラです。

お楽しみ頂けたのであれば、幸いです。


今回の第7話「天空の村にて」に関しては特にクライマックスはありません。

気が付いてみたら、さよならでした。

そんな最後にしたいです。

ガーネもトラも、別に大した活躍はしません。

ただ、時間に流されるまま生きて行くだけです。

ヒーローものでも、ヒロインものでもありません。


それにしても、もう3話目なのに、1日目が終了していません。

あと、そんなに長い話では無いと思うのですが、どうなるんでしょうね。

何となく、人ごとみたいに考えてしまう今日この頃です。


気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。

では、また会える日を。See You Again.

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