第7話「天空の村にて」ふたつめだよ。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第7話「天空の村にて」ふたつめだよ。のお話です。
この回では、ガーネとトラが、天空の村の会議室に呼ばれます。
第7話「天空の村にて」ふたつめだよ。
ナミキさんとトモネ様は、村役場の会議室に入りました。
「おっ、みんな来ているみたいだな。」
「あっ、ナミキ、やっと来たのね。
人に呼び出しをかけた割には、来るのが遅いじゃない。」
ノミチさんが、声をかけました。
「まぁ、オババ、いやトモネ様の所へ行っていたんだ。仕方が無いだろう。」
「そうか。確かそんな事を言っていたわね。あっ、トモネ様。お久しぶりです。」
「おお、ノミチか。相変わらず、元気いっぱいじゃな。」
「こんにちわ。トモネ様。これは先日頼まれたお薬です。
ついでに持ってきました。どうかお納めください。」
「これは、ミヤビさん。いつもお世話をおかけします。」
「あれ、トモネ様。何でミヤビばかりに、そんな丁寧語を使うの?」
「当たり前じゃ。ミヤビさんは、この村唯一の呪術師じゃぞ。
あたしゃミヤビさんのおかげで、こうして長生きも出来ておる。
敬意を表すのは、当然の事じゃ。」
「それなら俺だって、ライバでみんなに貢献しているが。」とナミキさん。
「あちきだって。あちきだって。」とノミチさん。
「この美貌と色気で、みんなに幸せを与えているわ。」
「お前はヤーベ使いだろうが。この雨女。」ナミキさんはつっこみました。
「何よ、この若ボケ女。」
「何だ、その若ボケ女と言うのは。」
「だって、そうじゃない。
あちきの所に来る早々、自分が来た用事を忘れているじゃないの。」
「あれはお前のせいだろうが。あんなつまらないテストなんかやりやがって。」
「何よ。」「何だよ。」
「まぁ、まぁ。お2人とも、気を静めて下さいまし。」
「おや、マサギ。やっと来たのか。」
「ええ、やっと体が空きました。まだ会議の時刻より前ですよね。よかった。
あっ、トモネ様。お久しぶりでしたね。いつもお元気そうで、何よりです。」
「おお、マサギ、会いたかったぞ。」
トモネ様は涙を流して、マサギさんに抱きつきました。
「随分、見ないうちに綺麗になったのう。このオババも嬉しい。」
トモネ様は、相好を崩して喜んでいました。
「マサギのおばあさんはどうしたかの。元気でやっているか?」
「はい。おかげ様で、トモネ様に負けないくらい元気です。」
「そうかそうか。それは良かったのう。」
この2人に背を向けて陰口をたたいている人間が2人いました。
「何だ、自分でオババとは。俺には、トモネと呼べってうるさかったのに。
しかも、たかが会えたぐらいで、あんなに歓迎しやがって。
俺たちとは、全然待遇が違うじゃないか。」
「全くその通りね。
あちきたちの中では、マサギちゃんはトモネ様に、一番可愛がられていたからね。
仕方が無いと言えば、仕方が無いんだけど。」
「そうそう、小さい頃からそうだった。
一緒につるんでいても、ミヤビとマサギは別格だったな。」
なにやら、不穏な空気がたちこめていました。
「こんにちわ。ナミキさん。ノミチちゃん。」
2人の目の前には、大きく目を見開いて、嬉しそうなマサギさんがいました。
そして、がしっと2人の首を左右の腕で、抱えました。
「よ、よう、相変わらず、綺麗な窓だな。」
「そ、そうね。いいお天気だわ。」
いきなりの事で2人は思わず、訳の判らない事を口走っていました。
2人もマサギさんの事は好きなので、面と向っては何も言えないのでした。
「じゃあ、みなさん。そろそろお時間ですので、席について下さい。」
マサギさんがそう言うと、みんなはうなずいて、いつもの席に座りました。
「ところで、その異星人とやらは、いつ頃来るのかの。」
トモネ様がそう言ったので、みんなは首をかしげてしまいました。
そして、その視線はトモネ様からナミキさんに移りました。
「こ、こらオババ、いやトモネ様。異星人では無いと言ったじゃないか。
別の世界から来た人間なんだよ。」ナミキさんは、大声をあげました。
「そうだったかの。あたしゃ、てっきり異星人だと思って来たのじゃが。」
みんなの視線が更にきつく、ナミキさんに注がれました。
「まぁ、この若ボケ女が連絡係になったのが、そもそもの間違いなのよ。」
「ナミキ、間違った事を訂正するのは、格好悪い事では無い。」
「ナミキさん。早くトモネ様に謝って、訂正した方がいいですよ。」
「ナミキ。恥を知るのも、人間として時には必要な事じゃよ。」
ノミチさん、ミヤビさん、マサギさん、そしてトモネ様に注意されました。
「こらぁ、あたしは無実なんだぁ!」
ナミキさんの叫びは、部屋中に空しくこだましました。
しばらくして、予定時間になったのか、村長さんが現れました。
その後ろには、ガーネがついて来ていました。
ガーネの右肩にはいつものように、トラがちょこんと乗っていました。
部屋のみんなが席に着きました。そして、村長さんが口を開きました。
「ここにおられるのが今日、ナミキさんが助けたガーネさんとトラさんです。」
村長さんは、2人を紹介しました。
ガーネとトラは、頭を下げました。
「私の名前はガーネです。この猫はトラと言います。
この度は、この村の人のご好意のおかげで助かりました。
特にナミキさんには、この山から落下しているところを、助けて頂きました。
本当に、有難うございました。」
そう言ってガーネは、トラと共に頭を下げました。
「いやあ、いいんだよ。そんな事。」
ナミキさんは、右手で頭の後ろを押さえながら、言いました。
「あれ、あのナミキが、照れているわ。」
ノミチさんが、ミヤビさんにささやきました。
「めったに、お礼なんて言われないから、恥ずかしがっているのだな。」
ミヤビさんはそう答えました。
「ナミキさんって、純情なんですね。」
うんうんと、マサギさん。
「あたしゃ、あんなナミキ、久しぶりに見たの。」
トモネ様は、珍しいものを見るように、ナミキさんを見つめていました。
「確かに。なかなかいい表情をしていますね。ナミキさん。」
村長さんも、何故か変に感心していました。
部屋にいる全員に見つめられて、ナミキさんは顔を真っ赤にしました。
「こらー、俺の顔をそんなにじろじろ見るな。
大体、今日の会議の主役は、あの2人であたしじゃないんだ。」
ナミキさんは、大声を出してごまかすしか、どうしょうもありませんでした。
「さて、ナミキをいじるのは、これくらいにして。」
ミヤビさんは、急におごそかな顔になりました。
それにつられて、ナミキさん以外の他の代表たちも真面目な顔つきになりました。
あたしは、いじられてたんかい。ナミキさんはそう思いました。
まぁ、風向きが変わったみたいだしと、ナミキさんも真面目な顔をしました。
「さて、確か君の名前はガーネと言ったね。
君は一体、何者なのか?何故、ここに来たのか?」
ミヤビさんは、質問しました。
ガーネは自分が迷宮で、トラと旅をしている事。
それ以前の記憶が、自分にもトラにも無い事。
そして迷宮の道やドアの事についても、そこに集まった人たちに説明しました。
「なるほど。君はその迷宮のドアを開いて、ここに来たと。」
「はい。ドアを開くと、そこにはこの山の岩壁があったんです。
そして、それにつかまってみたところ、この世界に来たというわけです。」
「そしてその岩壁から落ちた所を、あたしが拾ったってわけか。」
ナミキさんは、ガーネにそう言いました。ガーネはうなずきました。
「で、これから君はどうするつもりなのか?」
再び、ミヤビさんは質問しました。
「ここが、自分やトラの世界なら、この旅はこれでおしまいです。
ですが違えば、迷宮のドアがまた現れるので、私たちは迷宮に戻ります。
とりあえず、今はそれが判るまで、ここに滞在したいのです。」
ガーネは、部屋の中にいる人たち全てに、そう訴えました。
「どうかよろしくお願いします。」トラも頭を下げました。
「聞けば、確かに変わった話よね。すぐにはとても信じられないわ。
でも、ガーネさんでしたっけ。
あなたの隣にいる、トラっていう名前の猫は確かに不思議な猫ね。
体もここの猫にしては小さすぎるし、しかも人の言葉を喋るなんて。
そんな猫は見た事が無いわ。
それに、さっきあなたが言っていた、ここに来た時の話。
それは、ナミキ自身から聞いた話と一致するしね。
ナミキはちょっとおかしいところもあるけど、でたらめは言わないわ。
だから、あちきは信じていいと思う。」ノミチさんは、そう言いました。
ちょっとおかしいってなんだ。
そういきり立つナミキさんを、ミヤビさんが制しました。
「私は、ちょっと確認したい事があります。
その子猫ちゃんを、私のところに寄こしてくれませんか?」
マサギさんが、何やら真剣そうな顔で、ガーネにそう言いました。
ガーネとトラは、顔を見合わせ、うなずき合いました。
トラは歩いて、マサギさんの目の前に立ちました。
「ほら、こっちへおいで、子猫ちゃん。」
そう言ってマサギさんは、おいでおいでをしました。
トラがマサギさんに近付くと、マサギさんは両手でトラを抱きかかえました。
マサギさんは顔を真っ赤にして、トラを可愛がりまくりました。
「ああ、可愛い、可愛い過ぎるわ。ほら見て。この肉球なんてプニプニよ。」
トラに夢中になって遊んでいるうちに、マサギさんはふと気が付きました。
周りにいるみんなの目が、冷たくなっていたのです。
その時、ふいに肩をたたかれました。
マサギさんが振り返ってみると、ナミキさんが怖い顔をしていました。
「なぁ、今は会議中なんだろ。もうやめろ。猫だって迷惑がっているだろう。」
マサギさんはトラをテーブルの上に置くと、コホンと咳をしました。
そして先ほどのような真剣な顔に戻って、こう言いました。
「べ、別に遊んでいたわけでは、ありませんよ。
ただ、この子が本当に猫なのか、確認したかっただけです。
ガーネさんの言っている事を、認めるかどうかの判断材料にしていただけです。」
「ほう。ではマサギ。お前さんの意見は?」
ナミキさんは、マサギさんの返答を促しました。
「もちろん、この子猫ちゃんは、可愛いです。」マサギさんは、即答しました。
「誰もそんな事は、聞いていないだろうが。」ナミキさんは詰め寄りました。
「えっ、ああ、そうでしたね。
ええ、私もガーネさんの言う事を信じたいと思います。」
マサギさんも賛成しました。
「あたしは、当事者だからな。信じるしかないだろうな。」
ナミキさんはそう言いました。
「では、あとは私と、トモネ様と言う事になるわけだ。」
ミヤビさんは、話を続けました。
「今回は状況証拠だけで、判断するしかないわけだ。
結論としては、ノミチの意見に賛成だな。
確かにこの天空の村には、このような不思議な猫は存在しない。
そして、彼が岩壁に急に現われて落下した事は、ナミキの証言とも一致する。
この2つを考慮すれば、彼の話を事実と考えても差支えないと思う。」
「では、ミヤビもガーネの話を信じるというわけだな。
じゃあ、最後はオババ、いやトモネ様だ。さぁ、どうする?」
「お前、わざと間違えておるじゃろう。まぁ、それはこの際、いいとしよう。
あたしゃ、あまりこういう話には興味が無いんでな。
お前たちが信じると言うなら、あたしゃ、何も言う事は無いよ。
本当は、異星人の方が、よかったのじゃがな。」
「まだ言っているのか。ガーネは宇宙人じゃない。」
ナミキさんは、声を大きくして言いました。
「ああ、判ったよ。耳元で大きな声を張り上げなさんな。
あたしゃ、老い先短いんだ。もっと大切に扱え。」
トモネ様は、ナミキさんに注意しました。
大体、あんたが、と言いそうになるのをナミキさんはこらえました。
「まぁ、いいや。で、村長さんの意見も聞いておこうか。どう思うんだい。」
ナミキさんは、村長さんに尋ねました。
村長さんは右手を額に載せて、何やら考えているようでした。
しばらくして、ガーネの方を振り向いて言いました。
「いやあ、あなたがこの世界の人間では無いなんて、とても信じられません。
ですが、この話し合いの結果から言えば、事実と認めざるを得ないでしょう。
私も、信じる事にしたいと思います。」
「そうか。じゃあ、これでガーネが言った事はみんな信じたわけだ。
ところで、本人はしばらく滞在したがっているが、どうしたらいいと思う?」
ナミキさんは、みんなに尋ねました。
その時、最長老のトモネ様が、手を上げました。
「トモネ様。何かご意見でもおありでしょうか。」村長さんは尋ねました。
「どうじゃろう。
そういう事情なら、しばらくの間ここで、滞在させてみてはどうじゃ。
もちろん、ここにいる間に必要な費用は、村の方で面倒を見る必要があるがの。
みんなの意見を聞きたい。」トモネ様はみんなにそう提案しました。
「あちきは、滞在する事には何の問題も無いわ。問題はその費用よね。
でも折角助けた命なのに、1文無しで路頭に迷わせるのも可哀そうだわ。
今回は例外中の例外と言う事で、滞在費用を出してあげてもいいんじゃない。」
ノミチさんも賛成しました。
「私もその意見に賛成だ。
それに、滞在費用については私にも考えがある。」ミヤビさんも賛成しました。
「私も賛成です。」「もちろん、俺も賛成だ。」
マサギさんとナミキさんも賛成しました。
全員が賛成した事を確認した村長さんは、ガーネにこう言いました。
「どうやら、この会議の結論が出たようです。
ではガーネさん。しばらくの間ここで、ゆっくりとご滞在下さい。
後の事は、ここにいる村役場の職員のマサギに任せるつもりです。
何か滞在中不都合がございましたら、遠慮なく彼女にご相談下さい。
さてと、他に皆さまの中から、他に質問はございますでしょうか?」
その質問に誰も、答える者はいませんでした。
「では、これでこの会議を終了させて頂きます。
皆さま、お忙しいところ、有難うございました。」
村長さんがそう言うと、1人ずつ部屋を出て行きました。
その中でミヤビさんだけが、ふと気が付いたように立ち止まりました。
そしてガーネの方を向いて、こう言いました。
「ああ、ガーネさん。」「ガーネと読んで下さって結構ですよ。」
「では、ガーネ。後でいいから体が空いたら、私の呪術院に来てくれないか?
いろいろと相談したい事があるんだ。」
「えっ、あ、はい。判りました。後ほど、伺わせて頂きます。」
「そうか。では待っている。
あとそれから、今みんなは、ガーネの自己紹介を聞いた。
だから、トモネ様以外の村の代表には、もう敬語を使う必要は無いと思う。
普通に喋って欲しい。でないと話しづらいのだ。
多分、みんなも同じ意見だ。」
ガーネはそれを聞くと、笑いながらこう答えました。
「判りました。ミヤビさん。」
ミヤビさんはうなずくと、部屋の外に出て行きました。
最後に、村長さんとマサギさんが出て行きました。
「やりましたね。これで大出を振ってここにいられますよ。」
ガーネは手を、トラは前足を使ってたたき合いました。
「うわぁ、私早く美味しい物が食べたいわ。
綺麗なお風呂にも入りたいし、ふかふかのベッドで寝たい。」
トラは有頂天になっていました。
ガーネもうんうんとうなずきました。
「まぁ、迷宮からここに来るまでに、大変な事ばかりでしたからね。
これくらいの恩典があっても、いいでしょう。」
ガーネとトラ、共に浮かれていました。
トントン。ドアをたたく音が聞こえました。
ガーネとトラは、背筋をピンと伸ばしました。
「はい、いいですよ。」
部屋に入って来たのは、先ほどマサギと呼ばれていた女の子でした。
「こんにちは。あの、初めまして。
先ほどもお会いしましたが、この村役場の職員でマサギと言います。
ガーネさんがここに滞在中、何か困った事がありましたら、私にご連絡ください。
どうかよろしくお願いします。」
そう言って、少しぎこちない手つきで名刺を差し出しました。
「ああ、マサギさんですか。こちらこそ、よろしくお願いします。」
ガーネも挨拶をしました。
「では、これからガーネさんたちの宿舎をご案内します。こちらへどうぞ。」
ガーネとトラは、マサギさんと一緒に村役場の外に出ました。
村役場から、そう距離が離れていないところに、その宿舎はありました。
「ここがガーネさんたちが滞在する間の、宿泊施設となります。」
ガーネとトラは、自分たちが入る部屋を案内されました。
「ここですか。随分質素な、いやさっぱりとした部屋ですね。」
「はい、なかなかよい部屋だと思います。」
何となく、話がかみあっていない感じもありましたが、無視する事にしました。
「では、しばらくひと休みしていて下さい。あとで私がこの村をご案内します。」
そう言って、マサギさんは部屋を出て行きました。
「最初、考えていたのとはちょっと違うわね。」
「でも、景色は最高じゃないでしょうか。」
ガーネは窓を開けて、深呼吸をしました。「空気も美味しいですよ。」
トラも真似をしてみました。「本当だわ。それに風が気持ちいい。」
「本当ですね。陽射しは少し強いですが、我慢出来ないほどじゃありません。」
ガーネとトラは、ベッドに寝転んでみました。
「まぁ、ふかふかではないんですけどね。」
「ええ、でもそんなに悪くないわ。これならぐっすり眠れるでしょう。」
「長い事、迷宮の中で、しかも階段を歩き続けでしたからね。
あの時に比べれば、天国ですよ。」
「そうね。そう思うわ。」
ガーネは、用意されてあったお茶を飲みました。
トラにも、少し水で薄めたものを飲ませました。
「その茶飲み茶碗、横に広いから飲みやすいでしょう。」
「ええ、綺麗に全部飲めたわ。」トラは、口の周りをぺロリと舐めました。
ガーネもお茶を飲み干しました。
しばらくすると、宿舎の人がやって来ました。
そして何か紙切れのようなものを、ガーネに手渡していました。
その人が、部屋を出て行った後、ガーネに尋ねました。
「何なの?」トラは尋ねました。
「これは食券ですね。これを持っていけば、昼ご飯が食べられるらしいですよ。」
「そう、じゃあそろそろお昼だし、行ってみない?」
「いいですね。行ってみましょう。」
1階にある食堂には、結構人が集まっていました。
食事を注文する場所にも、少しばかり列が出来ていました。
ガーネも一緒に並びました。しばらくすると、ガーネの順番がやってきました。
「あの、これでお願いします。」ガーネは食券を2枚差し出しました。
「はい、判りました。」
係りの人は、その食券と引き換えに、ラーメンを2つ載せたトレイを置きました。
「あの、これが私たちの昼ご飯なんですね。」
ガーネは念のために、確認をしました。
「はい、そうですよ。」係りの人はすぐにそう答えました。
ガーネは、トレイを持ってトラを探しました。
トラには、あらかじめテーブルの席を取っておくように、頼んでいたのです。
キョロキョロ周りを見回すと、食堂の端にあるテーブルにトラはいました。
「ここよ。ここ。」
食堂にいる人が、一斉にトラの方を向きました。
ああ、あれがお喋り出来る猫なのか、と言う言葉が、次々と聞こえてきました。
ガーネはなんだか照れくさそうに、トレイを持ってトラの元へ行きました。
「はい、お待ちどうさま。」ガーネは、トレイをテーブルに置きました。
「あら、私たちはラーメンなの?」「どうやらそうみたいですね。」
ガーネは、小さい茶碗とスプーンを食堂からもらってきていました。
小さい茶碗に、麺とスープを入れました。
スプーンで、麺を少し細かくした後、スープを水で薄めて飲みやすくしました。
「さぁ、召し上がれ。」ガーネはトラにそう言いました。
トラは、ずるずる麺を食べ、スープを飲みました。
「どうです。お味は?スープは薄いでしょうか?」
トラは、首を横に振りました。
「麺は丁度いい硬さだわ。
スープはもともと濃いのでしょうね。薄めた事で丁度いい味になったわ。」
「どれどれ、私も頂きましょう。」
ハシを開いて「頂きます。」と礼をした後、ガーネも食べ始めました。
「ああ、トラが言った通りですね。少しスープは濃いようです。」
ガーネはそう言って、水を足しました。
「ああ、これなら丁度いいですね。
ちなみに麺は、個人的にはもっと柔らかい方がいいですね。」
ガーネは、ラーメンを食べながら、そう言いました。
食事を食べ終わると、席を立って食器を片づけました。
その後、自分たちの部屋へ向かいました。
部屋の中には、歯磨きセットが置いてあります。
部屋の洗面所で、ガーネとトラはいつものように、歯を綺麗に磨きました。
差し込んできた太陽の光で、その歯がキラリと輝きました。
午後になり、休憩しているガーネの部屋に、トントンとたたく音が聞こえました。
「はーい。」ガーネがドアを開けました。入って来たのは、マサギさんでした。
「約束通り、お迎えに来ました。
あの、先ほどは言い忘れていたのですが、もうお昼はお済みでしょうか?」
マサギさんは恐る恐る尋ねました。
「はい、ラーメンを食べました。」ガーネはそう言いました。
ああ、やっぱりと後悔したように手で顔を覆いました。
「あっ、そうでしたか。大変申し訳ありません。
実は、これからお食事に誘うつもりでいたのです。
でも、もう食べてしまわれたんですよね。本当に申し訳ありませんでした。」
そんな、あなた。ガーネもトラも心の中で、そう思いました。
でも、もうお腹はいっぱいでした。
「いいえ、お気持ちだけで十分ですよ。」そう言うのが精いっぱいでした。
でも、落胆した表情を、隠す事は出来ませんでした。
「申し訳ございません。申し訳ございません。」
半分、涙目になりながら、マサギさんは謝りました。
ガーネはトラと顔を見合わせて、ため息をつきました。
そしてもう終わった事ですからと、マサギさんを慰めました。
「では、これから村をご案内します。ご用意は如何ですか?」
「はい、大丈夫です。いつでも行けます。」
マサギさんはガーネとトラを連れて、宿舎を出ました。
「何か乗り物に乗るんですか?」
「村を案内すると言っても、中央にある住宅街付近だけなんです。
だから、それほど広く無いんですよ。」
マサギさんはそう答えました。
住宅街にある人家はすべて一軒家でした。またそこには、市場もありました。
食料品を始め、衣服、日常雑貨、金物などさまざまな物が売られていました。
「いろいろな物がたくさん売っていますね。」ガーネとトラは感心しました。
「はい。日常で必要な物は、ここで全て購入出来ます。」
「これ全部1つ1つ見て歩きまわったら、半日潰れてしまうかもしれませんね。」
市場を出ると、広い公園がありました。
そして、その近くに大きな建物がありました。
「マサギさん。あれは何なのでしょう。」
「呪術院です。あそこで病気などの治療を行っています。
院長は先ほど会議室にいました、ミヤビさんです。
そう言えばさっきミヤビさんが、相談があるような事を言っていましたね。
ガーネさん、ちょっと寄って行きますか。」
ガーネはしばらく考えていましたが、やがて口を開きました。
「いや、今は案内を先にしてもらいましょう。
マサギさんに、余計な時間を使わせるわけにもいきません。
それに寄るのは、後でも構わないみたいな事を言っていましたしね。」
「そうですか。そう言って頂けると私も助かります。」
村の住宅街のはずれに来ました。
「ここから先は、森林や放牧用地です。」
「放牧用地っていうと、家畜がいるわけですね。見てみたいです。」
「すみません。
残念ながらこの先は、特別に許可を取ったものしか入れないのです。」
「そうでしたか。」ガーネはちょっとがっかりしました。
「じゃあ、住宅街より外は、全てあんな感じなんですか?」
「いえ、違います。
その他にも小規模ながら、工場や掘削場、そして発電所などがあります。」
「発電所?ここは電気が通っているんですか?」
「はい。火石と太陽の光を利用しています。」
「火石とは一体、何なのですか?」
「私もよくは、知らないのです。
聞いた話では、とても強いエネルキーをたくさん蓄えている岩石なのだそうです。
そしてその岩石の集合体である岩盤が、この山の地層にはありました。
そこで、その火石を地層から取り出して、村に運んだのです。
発電所は、火石のエネルギーを利用して、電気を発生させるために作られました。
ただ、問題が発生しました。
発電所は、エネルギーを得るために、化石の活性化を行っています。
ところが、使用が進むにつれ、不活性化が思ったよりも加速してしまったんです。
その結果、予定より早い段階で、電気を得る事が出来無くなってしまいました。
それで一時は、電気の使用を止めてしまう事も、検討されたらしいのです。
ですが、太陽の光を照射する事で、再活性化させられる事が判りました。
加えて、火石のエネルギー量の回復や増幅が、可能な事も判ったんです。
今では、どこの家庭にも、送電されるようになりました。
私たちの生活にかかせない、貴重なものとなっています。」
「すごいですね。それを全部ここの人たちが開発したんですか?」
「いえ、違います。これらは全て、地上でつちかわれた技術なんです。
その技術を昔、村人が地上で暮らす人たちから学んだ結果、実現させたんです。」
「いや、それでも大したものですよ。」ガーネは、賛嘆しました。
そんなガーネを見て、ちょっとマサギさんは自慢気な顔をしました。
そして、話を続けました。
「発電所の話は、これくらいにして村の周りの話に戻りますね。
このずっと向こうには、翼竜の棲みかもあるんです。」
「翼竜?
ここに初めて来た時、助けてくれたあのライバっていう名前の翼竜ですか?」
「はいそうです。でもライバの他にもう1種類、翼竜がいるんです。」
「そうなんですか。それは一体どんな翼竜なんですか。」
「口で言うよりも、実際見た方が早いと思います。
まもなく、現れると思いますので、期待して待っていて下さい。」
「判りました。楽しみにしています。」ガーネはそう言って、目を輝かしました。
やがて、村の案内を終えると、マサギさんが時刻を確認していました。
「これで私の案内は終わりです。
ですが、もし少しお時間を頂けるなら、私と喫茶店に行きませんか?
お見せしたい物があるのです。」
「ご存じのとおり、特に何かしなければならない事が、あるわけではありません。
御好意に甘えさせて頂きましょう。トラもそれでいいね?」
「もちろんよ。でも何か美味しい飲み物があるといいな。」
トラは、期待しました。
「では、行きましょう。」
ガーネとトラは、マサギさんと一緒に喫茶店に入りました。
そして、窓際のテーブルの席に着きました。
ガーネとマサギさんは、コーヒーを注文しました。
トラには、猫用の甘い飲み物を注文しました。
注文した飲み物を待っている間、ガーネはマサギさんに尋ねました。
「ところでマサギさんは、他の村の代表の人たちとは親しげでしたね。
お知り合いなんですか?」
「はい。ナミキさん、ノミチさん、そしてミヤビさんはよく知っています。
実は、この3人は、学生時代の同級生だったんです。
登下校や授業中、そして休み時間に、よく4人で一緒に行動しました。
学校を終わってからも、互いの家に行って遊んだりしていました。」
「なるほど、そうだったんですか。じゃあ、今でも、遊ぶ事があるんですか?」
「昔ほどじゃないんですけれど、ありますね。
ただ、今はそれぞれやっている事が異なるので、全員揃う事は少ないですね。」
「マサギさん以外の人たちって、どんな事をしているのですか?」
「えっ、あ、はい。
まずはナミキさんですね。翼竜ライバの使い手です。
あっ、これはガーネさんも知っていますよね。」
ガーネはうなずきました。
「はい。私はナミキさんに助けられたんです。」
「そうでしたね。次はノミチちゃんです。ノミチちゃんも翼竜の使い手です。」
「ああ、さっきマサギさんが言っていた、もう1種類の翼竜ですね。」
マサギさんはうなずきました。そして話を続けました。
「最後は、ミヤビさんですね。
村の案内の時にも言いました通り、呪術院の院長です。
呪術院はこの村で、病気や怪我をした人を治療できる唯一の場所なんです。」
「その3人が、それをやるようになったのは、何かわけでもあるのですか?
また、村の代表になっているのは、どうしてなんです?」
ガーネはマサギさんに尋ねました。
「あの3人が今やっている事は、それぞれの一族が長年やってきた事なんです。
そして、それぞれの一族の血を持つ者しか、やれない事なんです。
また、それをやる者はその一族の代表者なんです。
だから、村の代表者の集まりにも、出席してもらっているんです。」
「そうだったんですか。で、マサギさんはどうなんですか?
マサギさんが、村役場の職員をやっているのも、一族の血だからですか?」
ガーネの問いに、マサギさんは笑いながら答えました。
「いえ、私は違います。
だって、村役場の職員ですよ。誰だって採用試験に受かれば入れます。
でも私の父もそうでしたから、全く無いとは言えないのかもしれません。」
「さて、どうなんでしょうね。」ガーネも笑っていました。
「あっ、そうそう、他にも1人、村の代表者はいましたよね。」
「えっ、ああ、トモネ様の事ですね。
トモネ様は、私が物心ついた時から、村の最長老として代表をやっていました。
私も随分、可愛がってもらいました。」
「そうだったんですか。いや、よく判りました。
いろいろお話を伺わせて頂いて、どうも有り難うございました。」
ガーネは、マサギにお礼を言いました。
しばらく経つと、それぞれが注文した飲み物が運ばれてきました。
ガーネとマサギさん、そしてトラは、それを飲み始めました。
「美味しいですね。」ガーネがそう言いました。
「そうでしょう。ここのコーヒーは村人に一番人気があるんですよ。」
マサギさんも美味しそうに飲んでいます。
「本当に美味しいわ。」トラも猫用の飲み物に、喜んでいました。
ガーネたちが、その味に舌づつみを打っていると、マサギさんが話しかけました。
「ガーネさん。トラさん。窓の外を見て頂けますか。」
ガーネとトラは、言われた通り、窓の外を眺めていました。
すると、ぽつぽつと雨が降り出しました。
「あっ、雨が降っていますね。でもここは雲ひとつない筈です。
どうして、降るのでしょうか?」
ガーネは首をかしげながら、空の方を向きました。
「あっ、あれは何です?」ガーネは空を指さしました。、
そこには、ヘリのプロペラのように羽を回転させている生き物が飛んでいました。
「あれですよ、ガーネさん。あれが先ほどお話した、別の種類の翼竜ヤーベです。
ああやって、翼から雨を降らしているんです。
あの雨が、この天空の村に降る唯一の雨あり、水源なんです。」
「あんな形の翼竜がいるんですね。しかも雨をもたらすなんて。
本当に不思議な光景だ。晴れている空に、雨が降っています。」
ガーネは、驚いていました。
「ガーネさん、あのヤーベのどれかに、ノミチさんが乗っているんです。
何か、神秘的だとは思いませんか?」マサギさんは尋ねました。
「はい。不思議の世界にいるような、そんな感じさえしますね。」
ガーネはそう答えました。
トラも、その光景をじっと見つめていました。
やがて、雨が止みました。
マサギさんは、ガーネたちと別れ、職場に戻る事になりました。
「色々有難うございました。」ガーネたちは、マサギさんにお礼を言いました。
「こちらこそ、お付き合い頂き、有難うございました。
ところで、ガーネさん。
今日は、宿舎に帰る前に、ミヤビさんの所に言って頂けないでしょうか?
多分、ガーネさんの事を待っているんじゃないかと思うんです。」
「ああ、その件がありましたね。判りました。
じゃあ、これから、あの呪術院に立ち寄ってみる事にしましよう。
マサギさん。今日は本当に有難うございました。
また、機会があれば、一緒にコーヒーを飲みましょう。」
「えっ、あ、はい。楽しみにしています。」
マサギさんは、少し顔を赤くしながら、ガーネと握手をしました。
ガーネは立ち去っていく、マサギさんの後ろ姿を見送りました。
「じゃあ、マサギさんの言う通り、呪術院に行ってみましょう。」
ガーネは、そうトラに言いました。
「そうね。ミヤビさんが待っているなら、早く行きましょう。」
ガーネとトラは、ミヤビさんの待つ、呪術院に向かいました。
第7話「天空の村にて」ふたつめだよ。(終)
今回のお話は、第7話「天空の村にて」の第2話です。
今回の話は、村についてやサブキャラクターの説明が主体でしたね。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




