第7話「天空の村にて」最初だよ。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第7話「天空の村にて」最初だよ。のお話です。
この回では、ガーネとトラが、天空の村に行く事になります。
第7話「天空の村にて」最初だよ。
ガーネとトラは、自分たちの目の前にある階段に圧倒されていました。
「これは、何でしょうか。」
「階段だとは、思うんだけど。」
ガーネたちが見ていた階段。
それは、異様なほど段差が大きく、そして足の踏み場は狭い階段でした。
「階段というよりは、むしろ断崖絶壁と言ってもいいんじゃないでしょうか。」
「まぁ、それは大げさな表現だけど、それに近いかもしれないわね。
それにしても、よくこんなオブジェみたいなものを作ったわね。
何か理由でもあるのかしら。で、どうするのこれ。上って行く?」
「さすがに、これは遠慮しますよ。」
ガーネはそう言って、迷宮の道以外の真っ暗な闇を指さしました。
「ここを飛び降りれば、他の道に降り立つ事が出来ますしね。」
「それもそうね。別に疲れるわけじゃないけど、登るのは大変そうだわ。
じゃあ、そこを降りましょうか。」
「念のために、私の右ポケットに入っていてくれませんか?
ひょっとしたら、はぐれてしまうかもしれませんし。」
「そうね。判ったわ。」
トラはガーネの言う通り、ガーネをよじ登って右ポケットに入りました。
「これでよしと。では行きますよ。」「いいわ。」
ガーネは飛び降りました。
ガーネは、真っ暗な闇の中を下へ下へと降りて行きました。
と、急にその落下スピードにブレーキ―がかかりました。
「急に何事ですか。」
ガーネが驚いている間に、今度は上へ上へと上昇して行きました。
そして、あの階段のある道の高さまで、戻ってしまいました。
でも、それで終わりではありませんでした。更に上に上昇して行きました。
「どこまで、上って行くんでしょう。」
さすがに、ガーネも不安になってきました。
そしてついに、あの階段の頂上まで上昇したのでした。
ガーネは、何気なくその頂上を見ました。
「えっ!」ガーネは目を疑いました。
そこに、迷宮のドアがあったからです。
ガーネは、ここで止まってくれたらいいのに、と思いました。
しかし、そうはうまくいきませんでした。
今度はゆっくり下がり続け、結局、元の場所に着地したのでした。
「トラ、あれを見ましたか?」
「うん、ポケットの中からのぞいていたわ。
あれは確かに、迷宮のドアだったわね。
でも、あそこまで行かないと入れないのね。」
「この際諦めて、来た道を戻りますか。」
そう言って、後ろを振り返った途端、「あっ!」と驚いてしまいました。
そこにも、階段がそびえ立っていたからでした。
「どうやら、登らなきゃならないみたいね。
ガーネ。仕方がないわ。上りましょう。」
「いやです。何か方法はある筈です。」ガーネはだだをこねました。
「とは、言っても他に方法なんてあるの?」トラはガーネに尋ねました。
「少し考えてみますので、静かにしていて下さい。」
ガーネはそう言って、目をつぶりました。
「諦めが悪いんだから。」トラはそう思いました。
相方がこの様子では、先に進むのはもう少し待った方がよさそうです。
トラも、隣で毛づくろいを始めました。
かなりの時間が経ちました。でもガーネは動く気配がありません。
近くに寄ってみると、ガーネはいつの間にか居眠りをしていました。
「呆れた。」そう言って、トラもガーネの右ポケットに入ってしまいました。
そして、そのまま時が過ぎて行きました。
「行きましょう。」ガーネは立ち上がりました。
「あっ、やっとその気になったのね。」トラも立ち上がりました。
「やはり、時間を無駄にするわけには行きません。
それにここに立ち止まっていても、事態が好転するわけではありませんしね。」
やれやれ、やっとそんな事に気が付いたの。トラはそう思いました。
ガーネはしばらくためらっていましたが、意を決して、登り始めました。
それは、長い登階段の始まりでした。
ガーネは両手を次の段に載せて、両腕の力で体を持ち上げました。
次に両足をその段に載せる事で、何とか次の段を踏む事が出来ました。
トラも、気合を入れてジャンプしないと、次の段に移る事は出来ませんでした。
それでもトラは一歩ずつ、着実に登って行きました。
途中何度もジャンプに失敗をして、階段を2~3段落ちてしまう事もありました。
それでも、諦める事なく登って行きました。
「アーレーッ。」と叫びながら大回転をして落ちていく相方がいました。
それも気にする事無く、ひたすら登り続けました。
どれくらいの時間が経ったか判りません。
トラは、ついにその階段の登頂に成功しました。
「やっと着いたわ。」トラは感動していました。
階段の頂上には、何もありませんでした。
ただ、そのゴールを歓迎するかのように、迷宮のドアがそこにはありました。
トラは頂上の周りを、一回りしました。
そして、その中央でしゃがみこみました。
「さぁ、あの人はいつここに来るのかしら。」
トラは、1猫で、迷宮のドアの中に入る気はありませんでした。
この時より、ここを住み家としたトラの日々が始まりました。
トラの日常としては時折、頂上をぐるぐる散歩します。
それが飽きた頃、毛づくろいをして時間を過ごします。
それを繰り返して、やる事がなくなると眠りに入りました。
トラは自分が猫である事を感謝しました。
いくらでも、眠ろうと思えば眠れたからです。
別に眠たいわけではありませんでしたが、時間を潰すには好都合でした。
時折、階段の下から、「アーレーッ。」という声が聞こえてきました。
トラは子守唄のように聞きながら、眠っていました。
1回、階段の下をのぞいて見た事がありました。
あの懐かしい顔を持つ人間が、階段の半分まで来ていました。
「おーい。」トラは前足を振って、呼びかけました。
ガーネも気が付いたのでしょう、手を振って応えようとしました。
その時、バランスを崩したのでしょう。
ガーネは「アーレーッ。」と叫びながら、大回転をして落ちて行きました。
「悪い事をしてしまったかしら。」
トラはそう言って、小さい舌を出しました。
それから更に時間が経ちました。
トラは前足を体の下に入れた状態で、しゃがんでいました。
「あれからどのくらいの時間が経ったのかしら。
あたし、仙人になったような気分だわ。
この世は、まさに諸行無常ね。」などとつぶやいていました。
さぁ、そろそろ眠りましょうか。トラがそう思った時でした。
いつの間にか、階段のあたりからニョキっと両手が生えていました。
「まさか。」トラは期待で思わず、立ち上がりました。
そして次にあの懐かしい顔が、トラの目の前に現れたのでした。
その顔には微笑みとともに、苦労した思いがありありと浮かんでいました。
そして、トラの方に近づいて来ました。
「ガーネ。」トラはガーネに駆け寄りました。
「ガーネ。登頂おめでとうございます。」
トラは、ガーネに抱きつきました。
「やっと、やっとやりましたよ。」
ガーネは涙を流しながら、その場に膝をつきました。
「おめでとうございます。ガーネさん。今のご心境をお聞かせください。」
「まさに感無量です。長く険しい道のりでした。
ですが、無事にこうやってたどり着けて、本当によかったと思っています。」
そんなインタビューごっこを、ガーネとトラは演じていました。
やがて、それにも飽きたので、トラはこんな事を言いました。
「それにしても、長かったわ。
私が登頂を果たしてから、実時間なら1年間ぐらいかかったんじゃないかしら。」
「たったそれっきりですか。私は3年以上過ぎた気がするのです。」
どちらも時間の流れが判らないので、正確な時間を知る事は出来ませんでした。
ガーネは、迷宮のドアを見つめました。
「疲れているわけではありませんが、しばらく休憩します。
それから、迷宮のドアを開けましょう。」
「そうね。それがいいわ。」
ガーネは、その場で横たわり、目をつぶりました。
いつしか、寝息が聞こえてきました。
トラは、そんなガーネを懐かしげに見ていました。
そのうち、トラもうつらうつらとし出しました。
そしてガーネの直ぐ横で、いつの間にか眠ってしまいました。
「さあ、行きますよ。」ガーネは迷宮のドアを開きました。
と、そこには岩壁のようなものが立ち塞がっていました。
「これでは中に入れませんよ。一体どういう事なんでしょうか。」
「ねぇ、こことここに手をかけて、こことここに足を乗せればいいんじゃない。
そうすれば張り付く事が出来ると思うんだけど、どうかしら。」
「ここに張り付いてどうするんですか?」
「判らないけど、何か起きるんじゃないかしら。」
ガーネはしげしげと、その岩壁を見ました。頑丈そうな岩肌でした。
岩壁を押してみました。何の反応もありません。
少しの間、どうしたらいいのか考えてみましたが、いい案は思いつきません。
「やっぱり、張り付いてみるしかないのでしょうか。
何か、危険な気もしますけどね。」
試しに片足ずつ乗せて、重心をかけて見ました。
大丈夫。安定していました。
上の方に両手をかけてぶら下がっていました。
それでも、びくともしませんでした。
「じゃあ、ちょっとこれに体を預けてみましょうか。」
ガーネはトラにそう言いました。
「あっ、ガーネ。ちょっと待って。」
トラは、何か嫌な予感がしました。
「私、念のためにガーネの右ポケットに入っているわ。」
トラはそう言ってガーネをよじ登り、ポケットの中に入りました。
「まぁ、いいですけれどね。」ガーネは首をかしげていました。
「じゃあ、やってみますよ。」ガーネは、その岩壁に張り付いてみました。
その時でした。迷宮やドアが一瞬にして消えました。
そしてガーネの周りには、青い空がどこまでも広がっていました。
「えっ、ええ!」ガーネは眼下を見ました。
そこは雲に覆われて、下界が全く見えませんでした。
ものすごく強い風が吹いています。
ガーネは必死で、両手両足を使って、岩壁にしがみついていました。
しかし、このままでは、落ちてしまうのは時間の問題です。
ガーネは上の方を見上げました。
頂上が全然見えません。でも今はそれに向かって進むしかありません。
バランスを取りながら、右足を岩壁から離しました。
強風の中、右足を乗せられる場所を探りました。
そして何とか、その場所を見つけてそこに右足を乗せました。
そして、重心をかけた途端、その足元の岩が崩れてしまいました。
「ウワァ。」
ガーネはバランスを崩し、両手でぶら下がっている格好になってしまいました。
何とか両手で、体を持ち上げようとしました。
ですが、力尽きて出来ませんでした。
強風にさらされる中、ガーネの両手は感覚を失ってしまいました。
そして手に力を込める事も、出来なくなってしまいました。
「もう、これまでです。トラ、すみません。」
力を失った両手は、岩壁から離れてしまいました。
ガーネは気を失い、その体は下へと落ちて行きました。
その時、とてつもなく大きい鳥が、ガーネの目の前に現れました。
そして、ガーネをクチバシでくわえて、飛んで行ってしまいました。
「おい、大丈夫か。」人の声が聞こえました。
ガーネは、はっと目が覚めました。
そして自分の目の前に、女の子がいるのを確認しました。
ガーネは、上半身を起こしました。
「あなたは一体、どなたなのでしょうか。」
まだ少しボーッとしている頭で、ガーネは尋ねました。
「あたしの名はナミキ。ライバの使い手だ。」その女の子はそう言いました。
「ライバって、何でしょうか。」
「こいつさ。」ナミキさんは右手の親指で、自分の後ろを指さしました。
「グキキキ。」ライバが鳴き声をあげて、こちらを向きました。
「あわわわ。」ガーネは思わず後ずさりをしました。
「これは一体、何なんです。」
ガーネは震えながら、ライバを指さして尋ねました。
「お前、命の恩人に対して、その態度は失礼じゃないのか。
このライバがいなければ、今頃お前はあのまま落ちて死んでいたんだ。」
ナミキは怒ったように言いました。
ガーネは自分が岩壁から落ちて、気を失った事を思い出しました。
「それじゃあ、あなたとその鳥が私を助けてくれたんですか?」
「鳥じゃない。これはライバと言う翼竜だ。名前はゼノンと言う。
そしてあたしはその使い手なんだ。」
「そうでしたか。いやすっかり気が動転していました。
先ほどからの無礼な発言を、どうかお許し下さい。
あなた方には、とても感謝しています。有難うございました。」
ガーネは、土下座してナミキさんとゼノンに深くお詫びしました。
ナミキさんは、さすがに土下座にはちょっと引いたような感じでした。
「ま、まぁ、判ればいいんだよ。
ところで、あんたは、ここらあたりでは見かけない顔だね。
着ている服もあたしたちと少し違うし。一体、何者なんだい。」
ナミキさんは、いぶかしげにガーネに尋ねました。
その時、ガーネの右ポケットが、もぐもぐと動きました。
「うるさくて起きちゃったんだけど、何かあったの?」
トラは、怒ったように言いました。
ガーネは、トラを両手で持ち上げました。
そして、にこやかに頬笑みながらこう言いました。
「ああ、あなたは寝ていたんですね。
私があれほど大変な目に会っていたのに、自分だけが寝ていたんですね。」
トラはそれを聞くと、我に返ったような顔をしました。
そして少し後ろめたそうな表情で、こう言いました。
「や、やあねぇ、私がガーネだけに辛い思いをさせるわけ無いじゃないの。
わざと言ってみただけよ。」トラはしらを切り通そうと思っていました。
「じゃあ、私の身にどんな事があったか言ってみて下さいませんか?」
ガーネに詰め寄られました。
両手で押さえられているので、逃げる事も顔をそむける事も出来ませんでした。
トラは、観念しました。
「ごめんなさい。私が悪かったわ。」トラは素直に謝りました。
ガーネは再び、微笑みました。
「いえ、いいんですよ。
下手に起きていたりしたら、大変な事になっていたかも知れませんしね。」
トラは、その言葉を聞いてほっとしました。
このやり取りを、ナミキさんとゼノンは聞いていました。
「この猫、すごいじゃないか。人間と話をしている。」
ナミキさんは驚きを隠せない様子でした。
「うちのゼノンも、人間の言葉を理解出来るけどね。
さすがに、人の言葉を喋る事は無理だよ。」
ナミキさんは興味深い顔で、トラを眺めました。
「実は私たちは、この世界の人間ではありません。」
ガーネはそう言って、詳しい話をしようとしました。
「あっ、待って。」ナミキさんは、ガーネが話し出すのを止めました。
「どうやら、あんたの話はあたしでは理解するのは難しそうだ。
あんたは、しばらくここにいるつもりなのかい?」
「出来れば、そうお願いしたいです。」
「それなら、これから村役場へ行こうじゃないか。
あんたの話を他のやつらにも、聞いておいてもらう必要があるからな。
あんただって、何回も同じ話をするのは嫌だろう?」
ナミキさんは、そうガーネに尋ねました。
「確かに、その方がよさそうですね。」
「判った。じゃあ、あたしに任せな。
ゼノン。もう、あんたの今日のお仕事は終わりだ。自分の巣へ帰りな。」
ナミキさんは、ゼノンにそう伝えました。
「グキキキ。」ゼノンは鳴き声をあげた後、翼を羽ばたかせました。
そして、どこかへ飛んで行ってしまいました。
ナミキさんは、その姿を見送っていました。
ゼノンが見えなくなると、ガーネたちの方に向き直りました。
「じゃあ、そろそろ行くか。もう、あんた歩けるのかい?」
ガーネはうなずきました。
ナミキさんは、ガーネとトラを連れて、村役場に向かいました。
村役場の前には、多くの人が集まっていました。
ナミキさんが、岩壁から落ちた人を助けに行った事が知れ渡っていたからです。
いきなり、たくさんの拍手が起こりました。
「ナミキさん。ご苦労様。」「本当によく助かったわね。」
そんな声が次々と聞こえてきました。
その中の1人が、ガーネの前に進み出ました。
「この村へようこそ。私は、この村の村長です。
あなたを助けたのは、同じくこの村の住人のナミキです。
では、まず、失礼とは存じますが、あなたのお名前をお聞かせ願いますか?」
村長さんは、ガーネに尋ねました。
「私の名前はガーネと言います。
この度は、助けて頂いて本当に有難うございました。」
「では、ガーネさん。
とりあえず、村役場まで来ませんか?いろいろお話をお聞きしたいです。」
「いいですよ。そのつもりで来ました。」ガーネはうなずきました。
その時、ナミキさんは村長さんにこう言いました。
「あっ、村長さん。これからこの村の代表たちを呼んでくるつもりだ。
ガーネから話を聞くのは、その時にしてくれないか?」
村長さんはそれを聞いて、ナミキさんにこう話しました。
「判りました。ではそうする事にしましょう。
ナミキさん、会議室にみんなが集まるように伝えてもらえますか?」
「判った。そうする。」
ナミキさんはそう言うと、どこへともなく立ち去っていきました。
「では、ついて来て下さい。」村長さんはガーネにそう言いました。
村長さんに連れられて、ガーネは移動しました。
トラが、ガーネに尋ねました。
「これから、一体どうなるのかしら。」
「さぁ、とりあえずやれる事をやってみるだけですね。」
ガーネはそう答えました。
このやり取りを村長さんを始め、周りにいた村人たちはみんな聞いていました。
「この猫、すごいぞ。人間と話をしている。」
「本当だわ。すごいすごい。」
口々に驚いているのが、聞こえてきました。
目の前の村長さんも驚いていました。
「ガーネさん。これは一体。」
「ああ、この猫は喋るんですよ。
その事も含めてあとで、私たちの事を聞いて頂きたいと思います。」
「そうですか。いや判りました。それにしても、喋る事が出来る猫とはね。」
村長さんは興味深い顔でトラを眺めていました。
やがて、村役場に到着しました。
その頃には、もう村人たちは散らばっていました。
「昨今は話題になるのも、忘れられるのも早いですからね。
明日にでもなれば、みんな忘れちゃっていますね。」
ガーネはそうつぶやきました。
職員室を通り、村長室に入りました。
「さぁ、お席に腰をおかけ下さい。」
村長はガーネに席を勧めました。
「では、お言葉に甘えまして、座らさせて頂きます。」
ガーネとトラは、席に座りました。
「では、しばらくの間、ここで待ってて頂けますか。
村の代表たちが集まり次第、お話を伺う事にします。」
村長さんは、ガーネにそう言いました。
「はい、判りました。お待ちしております。」ガーネはそう答えました。
ガーネたちは出された飲み物を飲んだりしながら、その時が来るのを待ちました。
その頃ナミキさんは、村の代表たちに声をかけていました。
どの代表もナミキさんにとっては、旧知の間柄でした。
最初に行ったのが、呪術師ミヤビの所でした。
「おーい、ミヤビいるか。いたら返事しろ。」
ナミキさんは、声を張り上げましたが、一向に応答がありません。
しかし、家の煙突から煙が上がっているのを見て、在宅だと気が付きました。
「失礼するぞ。」ナミキさんは、ドアを開けて家の中に入って来ました。
その瞬間、異様な臭気が漂っているのが判りました。
「なんだこれは。」ナミキさんは慌てて、自分の持っていた布で口を覆いました。
しかし、時既に遅くナミキさんは、その臭気のため気絶してしまいました。
気が付くと、僅かな灯りがともる、その部屋の診療台の上に寝かされていました。
ナミキさんの目の前には、その薄暗い中で不気味に微笑む人の顔がありました。
「ギャアー。」思わずナミキさんは、叫び声をあげました。
「どうしたのか。」その顔はそう言って、ナミキさんの顔をのぞき込みました。
「何だ、ミヤビか。おどかしやがって。」ナミキさんはほっとしました。
「一体、何をやっているんだ。」
「いや、先日森に行って、薬草やトカゲのしっぽなどを取って来たのだ。
だからちょっと変わった薬でも、作ってみようかと調合していたというわけだ。」
「ちょっと変わった薬って。」
「一時的に人間の精神を壊してしまう薬なんだ。」
「そんな事を...。一体それが何の役に立つと言うんだ。」
「私の考えでは、人の健全な精神が、健全な肉体を作るとなっている。」
「なるほど。あえて否定はしない。
だが、それとこの薬を作るのとどういう関係があるんだ。」
「だから、この薬で人間の精神を破壊した後の、肉体が引き起す変化をだな。
じっくり観察して、これからの研究に役立てたいと思っているのだ。」
「物騒な研究をしやがって。
まぁ、今日はあんたとその事で、議論する気は無いんだ。
実は今日、この山の岩壁から落ちた人間を拾ってやったんだ。」
「ほう、この山の岩壁に人がいたというのか。随分、物好きな人間だな。
一体、誰なんだ。」
「それがな、本人はこの世界の人間じゃないと言い張っているんだ。」
「それは面白い。で、どこから来たと言っているのか?」
「いや、何だか難しい話になりそうだったんでね。
1回、村の代表たちに集まってもらおうと思ったんだ。
そしてその席で、やつの話を一緒に聞こうと思ってさ。」
「なるほど、それでここに来たと言うわけか。了解した。」
「集まるのは、村役場の会議室だ。午前10時に始まる。」
「了解した。必ず行く。」
ナミキさんはゼノンに乗り込み、見送るミヤビさんに手を振って別れました。
「さてと今度はノミチの所に行くか。出かけてなければいいんだけどな。」
ナミキさんは、次の目的地へゼノンを飛ばしました。
ナミキさんは、上空に多くのヤーベが飛んでいる事を確認しました。
「あそこだ。」
ナミキさんは、ゼノンから降りて、ヤーベが集っている場所に足を向けました。
「おーい、ノミチ、いるか。」
ナミキさんは、大きな声でさけびました。
「こっちよ、ナミキ。」
ノミチさんの返事が聞こえた方に、目をやりました。
するとノミチさんが、力いっぱい走ってくる姿が見えました。
「やぁ、ナミキじゃない。お久しぶりね。」
ノミチさんはナミキさんに抱きつくなり、そう言いました。
「えっ、確か昨日会った筈だか。」「あのね。あなたがここに来るのがよ。」
相変わらず、ハイテンションだな。とナミキさんは思いました。
「実は、今日来たのは」ナミキさんはノミチさんに、話をしようとしました。
ですがノミチさんはいきなり、ナミキさんの手を引っ張りました。
「そんな事より、早くこっちに来てよ。」
ノミチさんは興奮して、ナミキさんを連れて行きました。
行った先は、ヤーベたちがたむろしているド真ん中でした。
「すごいな。やーべもこれだけ揃っていると、すごい光景だな。」
ナミキさんは、感心しながら、そう言いました。
「そんな事は、どうでもいいのよ。それより、あちきの話を聞いて。」
ナミキさんは、いつになく、ハイテンションなノミチさんに圧倒されていました。
ですが特に拒否する必要も無いので、うなずきました。
「実はね。すごい発見をしたのよ。」
「発見?」
「ナミキ。
あなたはこのヤーベが、この天空の村に雨を降らせている事は知っているわね。」
「当たり前だ。この天空の村に住む者なら誰だって知っている。
ヤーベが雨鳥とも呼ばれるのも、それが理由だろう。」
ナミキさんは、ノミチさんにそう言いました。
翼竜ヤーベ。
ナミキさんが操る翼竜ライバたちの役割は、主に荷物や人の運搬が仕事でした。
また遠くの人からの連絡手段にも、役立っているのでした。
一方、ノミチさんが操るヤーベの役割はただ一つでした。
但し、それが無ければ、この天空の村に人が住む事は出来ませんでした。
いや、人だけではありません。
動物や植物など生きとし生けるものが、住む事が出来無かったのです。
ヤーベの役割。それはこの天空の村に雨を降らす事でした。
ヤーベは雲の下にある、この山の巨大な湖から、たくさんの水を飲み込みます。
そして、体いっぱいに貯め込むのです。
ヤーベは、その中にあるプランクトンや小魚を消化し、栄養としています。
もちろん、水分も補給しますが、ヤーベが必要とする量はほんの僅かです。
だから残りは、排水される事になります。
ヤーベは排水の際、天空の村を飛び回ります。
ヤーベは、8枚羽の羽を、ヘリのプロペラのように回して飛びます。
その羽の骨に沿って排水管があり、そこから排水するのです。
ヤーベの飲む湖の水は、そのままでは使い物になりませんでした。
ですが、ヤーベに取り込まれた水は、その体内で浄化されていました。
たくさんのヤーベが一斉に、天空の村を飛び回って排水します。
それは慈雨として、この地の生きとし生ける者全てに、恵みをもたらしました。
村人はこの雨を、井戸水や貯水池に貯め込みました。
そして、安定した水の補給を実現したのでした。
「で、それがどうかしたのか?」
「本来、ヤーベは羽の排水管の複数の穴から、排水するんだけどね。
羽の広がりを狭める事により、雨では無くて滝のように流す事が出来るの。」
「その状態では、飛ぶ事なんか出来ないだろう。」
「だから、ギリギリ飛べる程度に狭めるのよ。
もちろん、飛ぶ高さは低くなるけどね。その分勢いもすごい筈よ。」
「と言う事はまだ、テストはしていないんだな。」
「その通りよ。飛べるギリギリの狭める角度は判ったんだけどね。
実際の排水はしていないの。
だから、今やってみようと思って、あなたをここに呼んだの。
ねぇ、一緒に体験しましょう。」
「ちょっと待て。テストをしたけりゃ自分1人だけでやれ。俺を巻き込むな。」
「フフフ。もう手遅れよ。さぁ、ヤーベ。さっさとやっておしまい。」
そのノミチさんのかけ声に一匹のヤーベが、2人の頭上に飛びました。
そして羽を少し狭めた状態で、排水を開始しました。
それは、ものすごい水流となって、2人を襲いました。
あっという間に、その水流に巻き込まれ、柔らかい土の上に体ごと落ちました。
そこに、更に大量の水が注ぎ込まれました。
ナミキさんとノミチさんは、泥になった土の中に埋まりました。
やがて、排水は終わりました。
しばらくして、2人の人間が、顔を上げました。
「プワァッ。」「プワァッ。」
「....。」「....。」
「....てへ。失敗しちゃった。」
「....その前に何か言うべき言葉があるんじゃないか?」
「....ごめんなさい。」
2人は、ノミチさんの家に行ってシャワーを浴び、そして着替えました。
「ああ、やっとさっぱりしたわ。
お互い同年齢で、しかも同じ背格好だったのが、幸いしたわね。
あちきの服が、ちゃんと似合っているじゃないの。
あなたは、いいお友達を持って幸せね。」ノミチさんはそう言いました。
「誰がいいお友達だって。誰がこんな目に会わせたと思っているんだ。」
いかにもつかみかからんばかりに、ナミキさんは責めたてました。
「いや、いやあね。お茶目で言っただけじゃないの。
本当に悪かったって、心の底から後悔しているんだから。」
と言いつつ、ノミチさんは笑っていました。
こいつは、子供の頃からこういう奴なんだ。ナミキさんはため息をつきました。
「じゃあ、俺はもう帰るよ。」
そう言って、ナミキさんは立ち去ろうとしました。
「あら、今日は何か、あちきに用事があったんじゃなかったの?」
ノミチさんのその言葉に、大事な事を思い出しました。
「あのな。お前がこんなテストなんてやるから、すっかり忘れていたぞ。
今日、お前の所に来たのはな。」
ナミキさんはそう言って、自分が助けた人間の話をしました。
そして、その人の話を聞くようにノミチさんに促しました。
しばらく考えた後、ノミチさんは答えました。
「なるほどね。ミヤビが面白がるのが判るわ。
あちきも興味があるわね。判ったわ。あちきも会議室に行く。」
ノミチさんも集まる事に同意しました。
「でも、ナミキ。もう、トモネ様の所へは行ったの?」
「いや、まだだが。」
「だったら、早く行った方がいいわ。
あそこに行ったら、なんやかんや言いながら、長く引き留められちゃうし。」
「お前が言うな。」
ナミキさんは、ゼノンに乗り込みました。
「じゃあ、また後で会おう。」ナミキさんはノミチさんにそう言いました。
そして再び、ゼノンで大空に舞い上がりました。
「さてと。マサギは村役場の職員だから、村長から話を聞いている筈。
あたしが、連絡する必要も無いだろう。
じゃあ、真っすぐオババ様の所に向かうか。」
ナミキさんはそう言って、ゼノンと飛んで行きました。
ナミキさんは、村の最長老であるトモネ様の家の前に来ていました。
「オババ様、いるか?」玄関の戸をガラリと開けました。
ナミキさんは、靴を脱ぐと、ズカズカ家の中に入りました。
そして、一番奥の部屋の戸を、開けました。
「あっ、オババ様。見つけた。」ナミキさんは、嬉しそうに言いました。
「全く、オババ様は玄関で声をかけても、返事もしないんだからな。
いないかと思った。」
トモネ様は、部屋の畳の上で座っていました。
湯のみでお茶を飲みながら、ナミキさんにこう言いました。
「ナミキ。まずはその戸を閉めて、ここに座りなさい。」
トモネ様は、ナミキさんに静かにそう言いました。
「はい。」何か悪い事でも言ったかなと思いながら、戸を閉めました。
「ナミキや。お前はいろいろ間違っている。
まず、玄関には呼び鈴があった筈。何故、それを鳴らさない?
また、そこに住んでいる人の許可も得ずに何故、勝手に入って来るのじゃ?」
「それは、だって俺は昔から、オババ様の事を知っているし...。」
「ナミキや。親しき仲にも礼儀は必要なのじゃよ。
それとオババ様って誰の事じゃ。あたしゃ、トモネっていう名前なんだがの。」
「それは...。判っているんだけど。」
「じゃあ、これからはちゃんと人の名前を呼ぶんじゃぞ。判ったな。」
「はい。オババ、いやトモネ様。」
「よし、それでいいんじゃ。」トモネ様は、そう言ってお茶を飲もうとしました。
「うん。何じゃ。もう無いのか?
ナミキや。ちょっと台所に行って、お茶を入れて来てくれんか?」
「えっ、でもちょっと急ぎの話があるんだが...。まぁ、いいか。
まだ時間もあるしな。
はいはい、判りました。少し待っていて下さいね。トモネ様」
ナミキさんはそう言って、台所に行きました。
きゅうすの中身の茶葉は既に広がっていました。
ナミキさんは、中の茶葉を捨て、新しい茶葉を入れました。
鉄瓶には、熱いお湯が沸いていたので、それを注ぎました。
きゅうすから、湯のみにお茶を注ぎ、トモネ様の所に持って行きました。
「トモネ様。お茶が入ったよ。」
そう言って、トモネ様の前に湯のみを差し出しました。
トモネ様は、お茶を一口飲みました。
「うん。なかなか良い味じゃ。ナミキや。お茶の入れ方がうまくなったの。」
ただ、新しい茶葉にお湯を注いだだけなんだけどな。
ナミキさんは心の中で、そう思いながら言いました。
「そうか。それはよかった。」
トモネ様は、お茶を堪能した後、ナミキさんに尋ねました。
「ところで、今日ここに来た理由は何かの?」
「実は。」
ナミキさんはそう言って、自分が助けた人間の話をしました。
そして、その人の話を一緒に聞いて欲しいとトモネ様に訴えました。
「何と、異星人がこの星に来たというのじゃな。
それなら、会わずにはおられまいて。」
なんか、エキサイトしていました。
「いや、違う世界から来たとは言っていましたが、宇宙人では無いようです。」
「それは残念。じゃが、久々に面白い事になりそうじゃ。
行く事にするとしようかの。」
「そう言ってくれると有難い。では、あたしと一緒に村役場まで来てくれ。」
「あのライバに乗るのかの。少し気が引けるの。」
「大丈夫。ゼノンには、かごも付けてきたんだ。
あたしも、そばにいるから安心して乗ってくれ。」
こうして、ナミキさんは、トモネ様を説得し、一緒に村役場へ向かいました。
「久しぶりの空の散歩じゃ。なかなか気持ちがいいのう。」
「だろう。たまにはこんな風に外に出てみるのも悪くないんじゃないか。
なぁ、オババ様。」
「トモネじゃ。」ゴツン。
トモネ様のげんこつに、ナミキさんは思わず頭を押さえました。
やがて前方に、村役場が見えてきました。
「時間的には、十分間に合うはず。もう、みんな来ているかな。」
ナミキさんは、そう思いながら飛んで行きました。
第7話「天空の村にて」最初だよ。(終)
今回のお話は、第7話「天空の村にて」の第1話です。
今回の世界の話は、サブキャラクターが結構出てきます。
また、天空の村についての説明も少なからず、入っています。
特に盛り上がる事も無く、淡々と、時が流れて行く。
そんな話にしたいなと思っています。
無料小説投稿について。
ネットでも、小説投稿が出来るサイトが多くなりました。
私も、投稿している1人です。
これらのサイトに投稿した小説は、無料で読める物が多くあります。
でも、それは本当に無料なのでしょうか?
この小説を読むためには、パソコンやスマートフォンなどの機材が必要です。
これらを購入する資金が要ります。
次に、インターネットに接続をするための契約をしなければなりません。
それにも、お金は必要です。
もちろん、電気も使用出来なければなりません。
使う場所も必要です。
これらの必要な物が全て揃って初めて、やっと無料の小説が読める事になります。
つまり、厳密にはタダではありません。
もともと、パソコンやインターネットを使っていた人もいるでしょう。
また、図書館などで、パソコンを無料で使えるところもあるでしょう。
そういう所で読むのであれば、無料と言えない事は無いかもしれません。
ですが、それでも何の損も無いのかと言えば、それは違うと思います。
小説である以上、ある程度の大きさの文章量があります。
それを読もうとすれば、どうしても時間がかかってしまいます。
その分、それを読んだ人の人生が削り取られます。
また、文章を理解しようとすれば、頭を働かせる必要もあります。
頭は、使えば使うほど、研ぎ澄まされるものかもしれません。
ですが、それとは反対に消耗あるいは劣化する部分も必ずあります。
稚拙な文章であれば、なおさらでしょう。
自分の中で何よりも大切なこれらと引き換えに、人は小説を読む事になります。
ただ、そんな大事なものと引き換えるには、無料小説はリスクがあります。
本屋で並べられている本は、今やいろいろなジャンルがいっぱいあります。
ですが、そのどれもが、第3者のチェックを通って生まれた物です。
厳しい編集者や批評家にたたかれながら生まれた物です。
当然、ある一定以上の品質が、そこにはあります。
自分の見たいジャンルの本を読めば、その面白さに引き込まれるでしょう。
でも、無料小説は違います。
それをチェックするのは、書いた本人のみ。当然、査定は甘くなります。
無料小説は、玉石混交なのです。
感動させられ、読んでよかったと思う作品もあります。
それとは逆に、長い時間読んだ後で「つまらない時間を過ごしてしまった。」
そんな感想を抱いた作品もあるでしょう。
こんな事も言えるかもしれません。
無料小説で、偶然、巡り合った1つの作品に、感動したとします。
ですが、それと同じ作者だからと言って、その品質が続くとは限りません。
第3者のチェックを経ないで生まれた作品に、安定した品質を求める。
これは、どうしても無理があると考えざるを得ません。
では、こうしたリスクを持つ無料の小説投稿は、無い方がいいのでしょうか。
私は、否と思います。
例えば、ここに稚拙で、読むに耐えない文章であったとします。
それは、筆者の文章だったりします。
それを読んだ人は、不快な思いをするかもしれません。
でも、人が自分で書いた物には、自分の心が、自分の思いが宿っています。
自分が書いた物。それは小説、マンガ、ブログ何でも構いません。
これらの作品をネットで公開するという事。
それは作品を通じて、多くの人に自分の存在を訴えている。
そんな風に筆者は考えるようになりました。
だから、そんな機会を無料で与えてくれるさまざまなサイト。
そんなサイトがある事を心から、感謝しています。
自分の書いた作品。
それは自分が生きていた証です。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




