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トラ・オブ・ラビリンス  作者: シード
第7話「天空の村にて」
13/46

第7話「天空の村にて」最初だよ。

迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。

第7話「天空の村にて」最初だよ。のお話です。

この回では、ガーネとトラが、天空の村に行く事になります。

第7話「天空の村にて」最初だよ。


ガーネとトラは、自分たちの目の前にある階段に圧倒されていました。

「これは、何でしょうか。」

「階段だとは、思うんだけど。」

ガーネたちが見ていた階段。

それは、異様なほど段差が大きく、そして足の踏み場は狭い階段でした。

「階段というよりは、むしろ断崖絶壁と言ってもいいんじゃないでしょうか。」

「まぁ、それは大げさな表現だけど、それに近いかもしれないわね。

それにしても、よくこんなオブジェみたいなものを作ったわね。

何か理由でもあるのかしら。で、どうするのこれ。上って行く?」

「さすがに、これは遠慮しますよ。」

ガーネはそう言って、迷宮の道以外の真っ暗な闇を指さしました。

「ここを飛び降りれば、他の道に降り立つ事が出来ますしね。」

「それもそうね。別に疲れるわけじゃないけど、登るのは大変そうだわ。

じゃあ、そこを降りましょうか。」

「念のために、私の右ポケットに入っていてくれませんか?

ひょっとしたら、はぐれてしまうかもしれませんし。」

「そうね。判ったわ。」

トラはガーネの言う通り、ガーネをよじ登って右ポケットに入りました。

「これでよしと。では行きますよ。」「いいわ。」

ガーネは飛び降りました。

ガーネは、真っ暗な闇の中を下へ下へと降りて行きました。

と、急にその落下スピードにブレーキ―がかかりました。

「急に何事ですか。」

ガーネが驚いている間に、今度は上へ上へと上昇して行きました。

そして、あの階段のある道の高さまで、戻ってしまいました。

でも、それで終わりではありませんでした。更に上に上昇して行きました。

「どこまで、上って行くんでしょう。」

さすがに、ガーネも不安になってきました。

そしてついに、あの階段の頂上まで上昇したのでした。

ガーネは、何気なくその頂上を見ました。

「えっ!」ガーネは目を疑いました。

そこに、迷宮のドアがあったからです。

ガーネは、ここで止まってくれたらいいのに、と思いました。

しかし、そうはうまくいきませんでした。

今度はゆっくり下がり続け、結局、元の場所に着地したのでした。

「トラ、あれを見ましたか?」

「うん、ポケットの中からのぞいていたわ。

あれは確かに、迷宮のドアだったわね。

でも、あそこまで行かないと入れないのね。」

「この際諦めて、来た道を戻りますか。」

そう言って、後ろを振り返った途端、「あっ!」と驚いてしまいました。

そこにも、階段がそびえ立っていたからでした。

「どうやら、登らなきゃならないみたいね。

ガーネ。仕方がないわ。上りましょう。」

「いやです。何か方法はある筈です。」ガーネはだだをこねました。

「とは、言っても他に方法なんてあるの?」トラはガーネに尋ねました。

「少し考えてみますので、静かにしていて下さい。」

ガーネはそう言って、目をつぶりました。

「諦めが悪いんだから。」トラはそう思いました。

相方がこの様子では、先に進むのはもう少し待った方がよさそうです。

トラも、隣で毛づくろいを始めました。

かなりの時間が経ちました。でもガーネは動く気配がありません。

近くに寄ってみると、ガーネはいつの間にか居眠りをしていました。

「呆れた。」そう言って、トラもガーネの右ポケットに入ってしまいました。

そして、そのまま時が過ぎて行きました。


「行きましょう。」ガーネは立ち上がりました。

「あっ、やっとその気になったのね。」トラも立ち上がりました。

「やはり、時間を無駄にするわけには行きません。

それにここに立ち止まっていても、事態が好転するわけではありませんしね。」

やれやれ、やっとそんな事に気が付いたの。トラはそう思いました。

ガーネはしばらくためらっていましたが、意を決して、登り始めました。


それは、長い登階段とざんの始まりでした。

ガーネは両手を次の段に載せて、両腕の力で体を持ち上げました。

次に両足をその段に載せる事で、何とか次の段を踏む事が出来ました。

トラも、気合を入れてジャンプしないと、次の段に移る事は出来ませんでした。

それでもトラは一歩ずつ、着実に登って行きました。

途中何度もジャンプに失敗をして、階段を2~3段落ちてしまう事もありました。

それでも、諦める事なく登って行きました。

「アーレーッ。」と叫びながら大回転をして落ちていく相方がいました。

それも気にする事無く、ひたすら登り続けました。

どれくらいの時間が経ったか判りません。

トラは、ついにその階段の登頂に成功しました。

「やっと着いたわ。」トラは感動していました。


階段の頂上には、何もありませんでした。

ただ、そのゴールを歓迎するかのように、迷宮のドアがそこにはありました。

トラは頂上の周りを、一回りしました。

そして、その中央でしゃがみこみました。

「さぁ、あの人はいつここに来るのかしら。」

トラは、1ひとりで、迷宮のドアの中に入る気はありませんでした。

この時より、ここを住み家としたトラの日々が始まりました。

トラの日常としては時折、頂上をぐるぐる散歩します。

それが飽きた頃、毛づくろいをして時間を過ごします。

それを繰り返して、やる事がなくなると眠りに入りました。

トラは自分が猫である事を感謝しました。

いくらでも、眠ろうと思えば眠れたからです。

別に眠たいわけではありませんでしたが、時間を潰すには好都合でした。

時折、階段の下から、「アーレーッ。」という声が聞こえてきました。

トラは子守唄のように聞きながら、眠っていました。

1回、階段の下をのぞいて見た事がありました。

あの懐かしい顔を持つ人間が、階段の半分まで来ていました。

「おーい。」トラは前足を振って、呼びかけました。

ガーネも気が付いたのでしょう、手を振って応えようとしました。

その時、バランスを崩したのでしょう。

ガーネは「アーレーッ。」と叫びながら、大回転をして落ちて行きました。

「悪い事をしてしまったかしら。」

トラはそう言って、小さい舌を出しました。


それから更に時間が経ちました。

トラは前足を体の下に入れた状態で、しゃがんでいました。

「あれからどのくらいの時間が経ったのかしら。

あたし、仙人になったような気分だわ。

この世は、まさに諸行無常ね。」などとつぶやいていました。

さぁ、そろそろ眠りましょうか。トラがそう思った時でした。

いつの間にか、階段のあたりからニョキっと両手が生えていました。

「まさか。」トラは期待で思わず、立ち上がりました。

そして次にあの懐かしい顔が、トラの目の前に現れたのでした。

その顔には微笑みとともに、苦労した思いがありありと浮かんでいました。

そして、トラの方に近づいて来ました。

「ガーネ。」トラはガーネに駆け寄りました。

「ガーネ。登頂おめでとうございます。」

トラは、ガーネに抱きつきました。

「やっと、やっとやりましたよ。」

ガーネは涙を流しながら、その場に膝をつきました。


「おめでとうございます。ガーネさん。今のご心境をお聞かせください。」

「まさに感無量です。長く険しい道のりでした。

ですが、無事にこうやってたどり着けて、本当によかったと思っています。」

そんなインタビューごっこを、ガーネとトラは演じていました。

やがて、それにも飽きたので、トラはこんな事を言いました。

「それにしても、長かったわ。

私が登頂を果たしてから、実時間なら1年間ぐらいかかったんじゃないかしら。」

「たったそれっきりですか。私は3年以上過ぎた気がするのです。」

どちらも時間の流れが判らないので、正確な時間を知る事は出来ませんでした。

ガーネは、迷宮のドアを見つめました。

「疲れているわけではありませんが、しばらく休憩します。

それから、迷宮のドアを開けましょう。」

「そうね。それがいいわ。」

ガーネは、その場で横たわり、目をつぶりました。

いつしか、寝息が聞こえてきました。

トラは、そんなガーネを懐かしげに見ていました。

そのうち、トラもうつらうつらとし出しました。

そしてガーネの直ぐ横で、いつの間にか眠ってしまいました。


「さあ、行きますよ。」ガーネは迷宮のドアを開きました。

と、そこには岩壁のようなものが立ち塞がっていました。

「これでは中に入れませんよ。一体どういう事なんでしょうか。」

「ねぇ、こことここに手をかけて、こことここに足を乗せればいいんじゃない。

そうすれば張り付く事が出来ると思うんだけど、どうかしら。」

「ここに張り付いてどうするんですか?」

「判らないけど、何か起きるんじゃないかしら。」

ガーネはしげしげと、その岩壁を見ました。頑丈そうな岩肌でした。

岩壁を押してみました。何の反応もありません。

少しの間、どうしたらいいのか考えてみましたが、いい案は思いつきません。

「やっぱり、張り付いてみるしかないのでしょうか。

何か、危険な気もしますけどね。」

試しに片足ずつ乗せて、重心をかけて見ました。

大丈夫。安定していました。

上の方に両手をかけてぶら下がっていました。

それでも、びくともしませんでした。

「じゃあ、ちょっとこれに体を預けてみましょうか。」

ガーネはトラにそう言いました。

「あっ、ガーネ。ちょっと待って。」

トラは、何か嫌な予感がしました。

「私、念のためにガーネの右ポケットに入っているわ。」

トラはそう言ってガーネをよじ登り、ポケットの中に入りました。

「まぁ、いいですけれどね。」ガーネは首をかしげていました。

「じゃあ、やってみますよ。」ガーネは、その岩壁に張り付いてみました。

その時でした。迷宮やドアが一瞬にして消えました。

そしてガーネの周りには、青い空がどこまでも広がっていました。

「えっ、ええ!」ガーネは眼下を見ました。

そこは雲に覆われて、下界が全く見えませんでした。

ものすごく強い風が吹いています。

ガーネは必死で、両手両足を使って、岩壁にしがみついていました。

しかし、このままでは、落ちてしまうのは時間の問題です。

ガーネは上の方を見上げました。

頂上が全然見えません。でも今はそれに向かって進むしかありません。

バランスを取りながら、右足を岩壁から離しました。

強風の中、右足を乗せられる場所を探りました。

そして何とか、その場所を見つけてそこに右足を乗せました。

そして、重心をかけた途端、その足元の岩が崩れてしまいました。

「ウワァ。」

ガーネはバランスを崩し、両手でぶら下がっている格好になってしまいました。

何とか両手で、体を持ち上げようとしました。

ですが、力尽きて出来ませんでした。

強風にさらされる中、ガーネの両手は感覚を失ってしまいました。

そして手に力を込める事も、出来なくなってしまいました。

「もう、これまでです。トラ、すみません。」

力を失った両手は、岩壁から離れてしまいました。

ガーネは気を失い、その体は下へと落ちて行きました。

その時、とてつもなく大きい鳥が、ガーネの目の前に現れました。

そして、ガーネをクチバシでくわえて、飛んで行ってしまいました。


「おい、大丈夫か。」人の声が聞こえました。

ガーネは、はっと目が覚めました。

そして自分の目の前に、女の子がいるのを確認しました。

ガーネは、上半身を起こしました。

「あなたは一体、どなたなのでしょうか。」

まだ少しボーッとしている頭で、ガーネは尋ねました。

「あたしの名はナミキ。ライバの使い手だ。」その女の子はそう言いました。

「ライバって、何でしょうか。」

「こいつさ。」ナミキさんは右手の親指で、自分の後ろを指さしました。

「グキキキ。」ライバが鳴き声をあげて、こちらを向きました。

「あわわわ。」ガーネは思わず後ずさりをしました。

「これは一体、何なんです。」

ガーネは震えながら、ライバを指さして尋ねました。

「お前、命の恩人に対して、その態度は失礼じゃないのか。

このライバがいなければ、今頃お前はあのまま落ちて死んでいたんだ。」

ナミキは怒ったように言いました。

ガーネは自分が岩壁から落ちて、気を失った事を思い出しました。

「それじゃあ、あなたとその鳥が私を助けてくれたんですか?」

「鳥じゃない。これはライバと言う翼竜だ。名前はゼノンと言う。

そしてあたしはその使い手なんだ。」

「そうでしたか。いやすっかり気が動転していました。

先ほどからの無礼な発言を、どうかお許し下さい。

あなた方には、とても感謝しています。有難うございました。」

ガーネは、土下座してナミキさんとゼノンに深くお詫びしました。

ナミキさんは、さすがに土下座にはちょっと引いたような感じでした。

「ま、まぁ、判ればいいんだよ。

ところで、あんたは、ここらあたりでは見かけない顔だね。

着ている服もあたしたちと少し違うし。一体、何者なんだい。」

ナミキさんは、いぶかしげにガーネに尋ねました。


その時、ガーネの右ポケットが、もぐもぐと動きました。

「うるさくて起きちゃったんだけど、何かあったの?」

トラは、怒ったように言いました。

ガーネは、トラを両手で持ち上げました。

そして、にこやかに頬笑みながらこう言いました。

「ああ、あなたは寝ていたんですね。

私があれほど大変な目に会っていたのに、自分だけが寝ていたんですね。」

トラはそれを聞くと、我に返ったような顔をしました。

そして少し後ろめたそうな表情で、こう言いました。

「や、やあねぇ、私がガーネだけに辛い思いをさせるわけ無いじゃないの。

わざと言ってみただけよ。」トラはしらを切り通そうと思っていました。

「じゃあ、私の身にどんな事があったか言ってみて下さいませんか?」

ガーネに詰め寄られました。

両手で押さえられているので、逃げる事も顔をそむける事も出来ませんでした。

トラは、観念しました。

「ごめんなさい。私が悪かったわ。」トラは素直に謝りました。

ガーネは再び、微笑みました。

「いえ、いいんですよ。

下手に起きていたりしたら、大変な事になっていたかも知れませんしね。」

トラは、その言葉を聞いてほっとしました。


このやり取りを、ナミキさんとゼノンは聞いていました。

「この猫、すごいじゃないか。人間と話をしている。」

ナミキさんは驚きを隠せない様子でした。

「うちのゼノンも、人間の言葉を理解出来るけどね。

さすがに、人の言葉を喋る事は無理だよ。」

ナミキさんは興味深い顔で、トラを眺めました。

「実は私たちは、この世界の人間ではありません。」

ガーネはそう言って、詳しい話をしようとしました。

「あっ、待って。」ナミキさんは、ガーネが話し出すのを止めました。

「どうやら、あんたの話はあたしでは理解するのは難しそうだ。

あんたは、しばらくここにいるつもりなのかい?」

「出来れば、そうお願いしたいです。」

「それなら、これから村役場へ行こうじゃないか。

あんたの話を他のやつらにも、聞いておいてもらう必要があるからな。

あんただって、何回も同じ話をするのは嫌だろう?」

ナミキさんは、そうガーネに尋ねました。

「確かに、その方がよさそうですね。」

「判った。じゃあ、あたしに任せな。

ゼノン。もう、あんたの今日のお仕事は終わりだ。自分の巣へ帰りな。」

ナミキさんは、ゼノンにそう伝えました。

「グキキキ。」ゼノンは鳴き声をあげた後、翼を羽ばたかせました。

そして、どこかへ飛んで行ってしまいました。

ナミキさんは、その姿を見送っていました。

ゼノンが見えなくなると、ガーネたちの方に向き直りました。

「じゃあ、そろそろ行くか。もう、あんた歩けるのかい?」

ガーネはうなずきました。

ナミキさんは、ガーネとトラを連れて、村役場に向かいました。


村役場の前には、多くの人が集まっていました。

ナミキさんが、岩壁から落ちた人を助けに行った事が知れ渡っていたからです。

いきなり、たくさんの拍手が起こりました。

「ナミキさん。ご苦労様。」「本当によく助かったわね。」

そんな声が次々と聞こえてきました。

その中の1人が、ガーネの前に進み出ました。

「この村へようこそ。私は、この村の村長です。

あなたを助けたのは、同じくこの村の住人のナミキです。

では、まず、失礼とは存じますが、あなたのお名前をお聞かせ願いますか?」

村長さんは、ガーネに尋ねました。

「私の名前はガーネと言います。

この度は、助けて頂いて本当に有難うございました。」

「では、ガーネさん。

とりあえず、村役場まで来ませんか?いろいろお話をお聞きしたいです。」

「いいですよ。そのつもりで来ました。」ガーネはうなずきました。

その時、ナミキさんは村長さんにこう言いました。

「あっ、村長さん。これからこの村の代表たちを呼んでくるつもりだ。

ガーネから話を聞くのは、その時にしてくれないか?」

村長さんはそれを聞いて、ナミキさんにこう話しました。

「判りました。ではそうする事にしましょう。

ナミキさん、会議室にみんなが集まるように伝えてもらえますか?」

「判った。そうする。」

ナミキさんはそう言うと、どこへともなく立ち去っていきました。

「では、ついて来て下さい。」村長さんはガーネにそう言いました。


村長さんに連れられて、ガーネは移動しました。

トラが、ガーネに尋ねました。

「これから、一体どうなるのかしら。」

「さぁ、とりあえずやれる事をやってみるだけですね。」

ガーネはそう答えました。

このやり取りを村長さんを始め、周りにいた村人たちはみんな聞いていました。

「この猫、すごいぞ。人間と話をしている。」

「本当だわ。すごいすごい。」

口々に驚いているのが、聞こえてきました。

目の前の村長さんも驚いていました。

「ガーネさん。これは一体。」

「ああ、この猫は喋るんですよ。

その事も含めてあとで、私たちの事を聞いて頂きたいと思います。」

「そうですか。いや判りました。それにしても、喋る事が出来る猫とはね。」

村長さんは興味深い顔でトラを眺めていました。


やがて、村役場に到着しました。

その頃には、もう村人たちは散らばっていました。

「昨今は話題になるのも、忘れられるのも早いですからね。

明日にでもなれば、みんな忘れちゃっていますね。」

ガーネはそうつぶやきました。

職員室を通り、村長室に入りました。

「さぁ、お席に腰をおかけ下さい。」

村長はガーネに席を勧めました。

「では、お言葉に甘えまして、座らさせて頂きます。」

ガーネとトラは、席に座りました。

「では、しばらくの間、ここで待ってて頂けますか。

村の代表たちが集まり次第、お話を伺う事にします。」

村長さんは、ガーネにそう言いました。

「はい、判りました。お待ちしております。」ガーネはそう答えました。

ガーネたちは出された飲み物を飲んだりしながら、その時が来るのを待ちました。


その頃ナミキさんは、村の代表たちに声をかけていました。

どの代表もナミキさんにとっては、旧知の間柄でした。

最初に行ったのが、呪術師ミヤビの所でした。

「おーい、ミヤビいるか。いたら返事しろ。」

ナミキさんは、声を張り上げましたが、一向に応答がありません。

しかし、家の煙突から煙が上がっているのを見て、在宅だと気が付きました。

「失礼するぞ。」ナミキさんは、ドアを開けて家の中に入って来ました。

その瞬間、異様な臭気が漂っているのが判りました。

「なんだこれは。」ナミキさんは慌てて、自分の持っていた布で口を覆いました。

しかし、時既に遅くナミキさんは、その臭気のため気絶してしまいました。

気が付くと、僅かな灯りがともる、その部屋の診療台の上に寝かされていました。

ナミキさんの目の前には、その薄暗い中で不気味に微笑む人の顔がありました。

「ギャアー。」思わずナミキさんは、叫び声をあげました。

「どうしたのか。」その顔はそう言って、ナミキさんの顔をのぞき込みました。

「何だ、ミヤビか。おどかしやがって。」ナミキさんはほっとしました。

「一体、何をやっているんだ。」

「いや、先日森に行って、薬草やトカゲのしっぽなどを取って来たのだ。

だからちょっと変わった薬でも、作ってみようかと調合していたというわけだ。」

「ちょっと変わった薬って。」

「一時的に人間の精神を壊してしまう薬なんだ。」

「そんな事を...。一体それが何の役に立つと言うんだ。」

「私の考えでは、人の健全な精神が、健全な肉体を作るとなっている。」

「なるほど。あえて否定はしない。

だが、それとこの薬を作るのとどういう関係があるんだ。」

「だから、この薬で人間の精神を破壊した後の、肉体が引き起す変化をだな。

じっくり観察して、これからの研究に役立てたいと思っているのだ。」

「物騒な研究をしやがって。

まぁ、今日はあんたとその事で、議論する気は無いんだ。

実は今日、この山の岩壁から落ちた人間を拾ってやったんだ。」

「ほう、この山の岩壁に人がいたというのか。随分、物好きな人間だな。

一体、誰なんだ。」

「それがな、本人はこの世界の人間じゃないと言い張っているんだ。」

「それは面白い。で、どこから来たと言っているのか?」

「いや、何だか難しい話になりそうだったんでね。

1回、村の代表たちに集まってもらおうと思ったんだ。

そしてその席で、やつの話を一緒に聞こうと思ってさ。」

「なるほど、それでここに来たと言うわけか。了解した。」

「集まるのは、村役場の会議室だ。午前10時に始まる。」

「了解した。必ず行く。」

ナミキさんはゼノンに乗り込み、見送るミヤビさんに手を振って別れました。

「さてと今度はノミチの所に行くか。出かけてなければいいんだけどな。」

ナミキさんは、次の目的地へゼノンを飛ばしました。


ナミキさんは、上空に多くのヤーベが飛んでいる事を確認しました。

「あそこだ。」

ナミキさんは、ゼノンから降りて、ヤーベが集っている場所に足を向けました。

「おーい、ノミチ、いるか。」

ナミキさんは、大きな声でさけびました。

「こっちよ、ナミキ。」

ノミチさんの返事が聞こえた方に、目をやりました。

するとノミチさんが、力いっぱい走ってくる姿が見えました。

「やぁ、ナミキじゃない。お久しぶりね。」

ノミチさんはナミキさんに抱きつくなり、そう言いました。

「えっ、確か昨日会った筈だか。」「あのね。あなたがここに来るのがよ。」

相変わらず、ハイテンションだな。とナミキさんは思いました。

「実は、今日来たのは」ナミキさんはノミチさんに、話をしようとしました。

ですがノミチさんはいきなり、ナミキさんの手を引っ張りました。

「そんな事より、早くこっちに来てよ。」

ノミチさんは興奮して、ナミキさんを連れて行きました。

行った先は、ヤーベたちがたむろしているド真ん中でした。

「すごいな。やーべもこれだけ揃っていると、すごい光景だな。」

ナミキさんは、感心しながら、そう言いました。

「そんな事は、どうでもいいのよ。それより、あちきの話を聞いて。」

ナミキさんは、いつになく、ハイテンションなノミチさんに圧倒されていました。

ですが特に拒否する必要も無いので、うなずきました。

「実はね。すごい発見をしたのよ。」

「発見?」

「ナミキ。

あなたはこのヤーベが、この天空の村に雨を降らせている事は知っているわね。」

「当たり前だ。この天空の村に住む者なら誰だって知っている。

ヤーベが雨鳥とも呼ばれるのも、それが理由だろう。」

ナミキさんは、ノミチさんにそう言いました。

翼竜ヤーベ。

ナミキさんが操る翼竜ライバたちの役割は、主に荷物や人の運搬が仕事でした。

また遠くの人からの連絡手段にも、役立っているのでした。

一方、ノミチさんが操るヤーベの役割はただ一つでした。

但し、それが無ければ、この天空の村に人が住む事は出来ませんでした。

いや、人だけではありません。

動物や植物など生きとし生けるものが、住む事が出来無かったのです。

ヤーベの役割。それはこの天空の村に雨を降らす事でした。

ヤーベは雲の下にある、この山の巨大な湖から、たくさんの水を飲み込みます。

そして、体いっぱいに貯め込むのです。

ヤーベは、その中にあるプランクトンや小魚を消化し、栄養としています。

もちろん、水分も補給しますが、ヤーベが必要とする量はほんの僅かです。

だから残りは、排水される事になります。

ヤーベは排水の際、天空の村を飛び回ります。

ヤーベは、8枚羽の羽を、ヘリのプロペラのように回して飛びます。

その羽の骨に沿って排水管があり、そこから排水するのです。

ヤーベの飲む湖の水は、そのままでは使い物になりませんでした。

ですが、ヤーベに取り込まれた水は、その体内で浄化されていました。

たくさんのヤーベが一斉に、天空の村を飛び回って排水します。

それは慈雨として、この地の生きとし生ける者全てに、恵みをもたらしました。

村人はこの雨を、井戸水や貯水池に貯め込みました。

そして、安定した水の補給を実現したのでした。

「で、それがどうかしたのか?」

「本来、ヤーベは羽の排水管の複数の穴から、排水するんだけどね。

羽の広がりを狭める事により、雨では無くて滝のように流す事が出来るの。」

「その状態では、飛ぶ事なんか出来ないだろう。」

「だから、ギリギリ飛べる程度に狭めるのよ。

もちろん、飛ぶ高さは低くなるけどね。その分勢いもすごい筈よ。」

「と言う事はまだ、テストはしていないんだな。」

「その通りよ。飛べるギリギリの狭める角度は判ったんだけどね。

実際の排水はしていないの。

だから、今やってみようと思って、あなたをここに呼んだの。

ねぇ、一緒に体験しましょう。」

「ちょっと待て。テストをしたけりゃ自分1人だけでやれ。俺を巻き込むな。」

「フフフ。もう手遅れよ。さぁ、ヤーベ。さっさとやっておしまい。」

そのノミチさんのかけ声に一匹のヤーベが、2人の頭上に飛びました。

そして羽を少し狭めた状態で、排水を開始しました。

それは、ものすごい水流となって、2人を襲いました。

あっという間に、その水流に巻き込まれ、柔らかい土の上に体ごと落ちました。

そこに、更に大量の水が注ぎ込まれました。

ナミキさんとノミチさんは、泥になった土の中に埋まりました。

やがて、排水は終わりました。

しばらくして、2人の人間が、顔を上げました。

「プワァッ。」「プワァッ。」

「....。」「....。」

「....てへ。失敗しちゃった。」

「....その前に何か言うべき言葉があるんじゃないか?」

「....ごめんなさい。」


2人は、ノミチさんの家に行ってシャワーを浴び、そして着替えました。

「ああ、やっとさっぱりしたわ。

お互い同年齢で、しかも同じ背格好だったのが、幸いしたわね。

あちきの服が、ちゃんと似合っているじゃないの。

あなたは、いいお友達を持って幸せね。」ノミチさんはそう言いました。

「誰がいいお友達だって。誰がこんな目に会わせたと思っているんだ。」

いかにもつかみかからんばかりに、ナミキさんは責めたてました。

「いや、いやあね。お茶目で言っただけじゃないの。

本当に悪かったって、心の底から後悔しているんだから。」

と言いつつ、ノミチさんは笑っていました。

こいつは、子供の頃からこういう奴なんだ。ナミキさんはため息をつきました。

「じゃあ、俺はもう帰るよ。」

そう言って、ナミキさんは立ち去ろうとしました。

「あら、今日は何か、あちきに用事があったんじゃなかったの?」

ノミチさんのその言葉に、大事な事を思い出しました。

「あのな。お前がこんなテストなんてやるから、すっかり忘れていたぞ。

今日、お前の所に来たのはな。」

ナミキさんはそう言って、自分が助けた人間の話をしました。

そして、その人の話を聞くようにノミチさんに促しました。

しばらく考えた後、ノミチさんは答えました。

「なるほどね。ミヤビが面白がるのが判るわ。

あちきも興味があるわね。判ったわ。あちきも会議室に行く。」

ノミチさんも集まる事に同意しました。

「でも、ナミキ。もう、トモネ様の所へは行ったの?」

「いや、まだだが。」

「だったら、早く行った方がいいわ。

あそこに行ったら、なんやかんや言いながら、長く引き留められちゃうし。」

「お前が言うな。」

ナミキさんは、ゼノンに乗り込みました。

「じゃあ、また後で会おう。」ナミキさんはノミチさんにそう言いました。

そして再び、ゼノンで大空に舞い上がりました。

「さてと。マサギは村役場の職員だから、村長から話を聞いている筈。

あたしが、連絡する必要も無いだろう。

じゃあ、真っすぐオババ様の所に向かうか。」

ナミキさんはそう言って、ゼノンと飛んで行きました。


ナミキさんは、村の最長老であるトモネ様の家の前に来ていました。

「オババ様、いるか?」玄関の戸をガラリと開けました。

ナミキさんは、靴を脱ぐと、ズカズカ家の中に入りました。

そして、一番奥の部屋の戸を、開けました。

「あっ、オババ様。見つけた。」ナミキさんは、嬉しそうに言いました。

「全く、オババ様は玄関で声をかけても、返事もしないんだからな。

いないかと思った。」

トモネ様は、部屋の畳の上で座っていました。

湯のみでお茶を飲みながら、ナミキさんにこう言いました。

「ナミキ。まずはその戸を閉めて、ここに座りなさい。」

トモネ様は、ナミキさんに静かにそう言いました。

「はい。」何か悪い事でも言ったかなと思いながら、戸を閉めました。

「ナミキや。お前はいろいろ間違っている。

まず、玄関には呼び鈴があった筈。何故、それを鳴らさない?

また、そこに住んでいる人の許可も得ずに何故、勝手に入って来るのじゃ?」

「それは、だって俺は昔から、オババ様の事を知っているし...。」

「ナミキや。親しき仲にも礼儀は必要なのじゃよ。

それとオババ様って誰の事じゃ。あたしゃ、トモネっていう名前なんだがの。」

「それは...。判っているんだけど。」

「じゃあ、これからはちゃんと人の名前を呼ぶんじゃぞ。判ったな。」

「はい。オババ、いやトモネ様。」

「よし、それでいいんじゃ。」トモネ様は、そう言ってお茶を飲もうとしました。

「うん。何じゃ。もう無いのか?

ナミキや。ちょっと台所に行って、お茶を入れて来てくれんか?」

「えっ、でもちょっと急ぎの話があるんだが...。まぁ、いいか。

まだ時間もあるしな。

はいはい、判りました。少し待っていて下さいね。トモネ様」

ナミキさんはそう言って、台所に行きました。

きゅうすの中身の茶葉は既に広がっていました。

ナミキさんは、中の茶葉を捨て、新しい茶葉を入れました。

鉄瓶には、熱いお湯が沸いていたので、それを注ぎました。

きゅうすから、湯のみにお茶を注ぎ、トモネ様の所に持って行きました。

「トモネ様。お茶が入ったよ。」

そう言って、トモネ様の前に湯のみを差し出しました。

トモネ様は、お茶を一口飲みました。

「うん。なかなか良い味じゃ。ナミキや。お茶の入れ方がうまくなったの。」

ただ、新しい茶葉にお湯を注いだだけなんだけどな。

ナミキさんは心の中で、そう思いながら言いました。

「そうか。それはよかった。」

トモネ様は、お茶を堪能した後、ナミキさんに尋ねました。

「ところで、今日ここに来た理由は何かの?」

「実は。」

ナミキさんはそう言って、自分が助けた人間の話をしました。

そして、その人の話を一緒に聞いて欲しいとトモネ様に訴えました。

「何と、異星人がこの星に来たというのじゃな。

それなら、会わずにはおられまいて。」

なんか、エキサイトしていました。

「いや、違う世界から来たとは言っていましたが、宇宙人では無いようです。」

「それは残念。じゃが、久々に面白い事になりそうじゃ。

行く事にするとしようかの。」

「そう言ってくれると有難い。では、あたしと一緒に村役場まで来てくれ。」

「あのライバに乗るのかの。少し気が引けるの。」

「大丈夫。ゼノンには、かごも付けてきたんだ。

あたしも、そばにいるから安心して乗ってくれ。」

こうして、ナミキさんは、トモネ様を説得し、一緒に村役場へ向かいました。

「久しぶりの空の散歩じゃ。なかなか気持ちがいいのう。」

「だろう。たまにはこんな風に外に出てみるのも悪くないんじゃないか。

なぁ、オババ様。」

「トモネじゃ。」ゴツン。

トモネ様のげんこつに、ナミキさんは思わず頭を押さえました。

やがて前方に、村役場が見えてきました。

「時間的には、十分間に合うはず。もう、みんな来ているかな。」

ナミキさんは、そう思いながら飛んで行きました。


第7話「天空の村にて」最初だよ。(終)


今回のお話は、第7話「天空の村にて」の第1話です。

今回の世界の話は、サブキャラクターが結構出てきます。

また、天空の村についての説明も少なからず、入っています。

特に盛り上がる事も無く、淡々と、時が流れて行く。

そんな話にしたいなと思っています。



無料小説投稿について。

ネットでも、小説投稿が出来るサイトが多くなりました。

私も、投稿している1人です。

これらのサイトに投稿した小説は、無料で読める物が多くあります。

でも、それは本当に無料なのでしょうか?

この小説を読むためには、パソコンやスマートフォンなどの機材が必要です。

これらを購入する資金が要ります。

次に、インターネットに接続をするための契約をしなければなりません。

それにも、お金は必要です。

もちろん、電気も使用出来なければなりません。

使う場所も必要です。

これらの必要な物が全て揃って初めて、やっと無料の小説が読める事になります。

つまり、厳密にはタダではありません。


もともと、パソコンやインターネットを使っていた人もいるでしょう。

また、図書館などで、パソコンを無料で使えるところもあるでしょう。

そういう所で読むのであれば、無料と言えない事は無いかもしれません。

ですが、それでも何の損も無いのかと言えば、それは違うと思います。


小説である以上、ある程度の大きさの文章量があります。

それを読もうとすれば、どうしても時間がかかってしまいます。

その分、それを読んだ人の人生が削り取られます。

また、文章を理解しようとすれば、頭を働かせる必要もあります。

頭は、使えば使うほど、研ぎ澄まされるものかもしれません。

ですが、それとは反対に消耗あるいは劣化する部分も必ずあります。

稚拙な文章であれば、なおさらでしょう。

自分の中で何よりも大切なこれらと引き換えに、人は小説を読む事になります。


ただ、そんな大事なものと引き換えるには、無料小説はリスクがあります。

本屋で並べられている本は、今やいろいろなジャンルがいっぱいあります。

ですが、そのどれもが、第3者のチェックを通って生まれた物です。

厳しい編集者や批評家にたたかれながら生まれた物です。

当然、ある一定以上の品質が、そこにはあります。

自分の見たいジャンルの本を読めば、その面白さに引き込まれるでしょう。

でも、無料小説は違います。

それをチェックするのは、書いた本人のみ。当然、査定は甘くなります。

無料小説は、玉石混交なのです。

感動させられ、読んでよかったと思う作品もあります。

それとは逆に、長い時間読んだ後で「つまらない時間を過ごしてしまった。」

そんな感想を抱いた作品もあるでしょう。


こんな事も言えるかもしれません。

無料小説で、偶然、巡り合った1つの作品に、感動したとします。

ですが、それと同じ作者だからと言って、その品質が続くとは限りません。

第3者のチェックを経ないで生まれた作品に、安定した品質を求める。

これは、どうしても無理があると考えざるを得ません。


では、こうしたリスクを持つ無料の小説投稿は、無い方がいいのでしょうか。

私は、否と思います。

例えば、ここに稚拙で、読むに耐えない文章であったとします。

それは、筆者の文章だったりします。

それを読んだ人は、不快な思いをするかもしれません。

でも、人が自分で書いた物には、自分の心が、自分の思いが宿っています。

自分が書いた物。それは小説、マンガ、ブログ何でも構いません。

これらの作品をネットで公開するという事。

それは作品を通じて、多くの人に自分の存在を訴えている。

そんな風に筆者は考えるようになりました。

だから、そんな機会を無料で与えてくれるさまざまなサイト。

そんなサイトがある事を心から、感謝しています。


自分の書いた作品。

それは自分が生きていたあかしです。



気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。

では、また会える日を。See You Again.


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