第6話「残留思念」ふたつめかしら。
迷宮の旅人である、ガーネと猫のトラが織りなす、別世界での旅のお話です。
第6話「残留思念」ふたつめかしら。のお話です。
この回では、ガーネとトラが、ナミコちゃんと遊びます。
第6話「残留思念」ふたつめかしら。
ガーネは、目を覚ましました。
あまりの息苦しさを感じたからでした。呼吸が思うように出来ません。
ふと気が付いて見ると、何かが顔に張り付いていました。
ガーネは窒息死する前に、それをはがしました。
「お早う、ガーネ。」張り付いていたのは、トラでした。
トラを下に置いた後、ゴホッ、ゴホッとガーネはむせかえりました。
しばらくして息が整える事が出来たので、深呼吸をしてみました。
室内でしたが、苦労して吸う事が出来た、空気の味は格別でした。
「空気って美味しいんだな。」ガーネはしみじみ思いました。
ガーネはトラに朝の挨拶をしました。
「お早うございます。トラさん。相変わらずお元気で何よりです。」
ガーネはトラににこやかに微笑みながら、話を続けました。
「でもね、あなたに気が付くのがもう少し遅かったら、大変でしたよ。
今頃、私は迷宮ではなく、冥界に旅立っていたかもしれません。
トラさん。人間っていうのは、こう見えてデリケートな生き物なんですよ。
この鼻と口を同時に塞がれると、息が出来なくなってしまうんです。
つまり、死という現象が真直に迫ってくるわけです。
そんなわけですから、トラさんにはもっと人に優しい接し方をお願いします。」
そうお願いした後、あらためてガーネはトラに、尋ねてみました。
「で、一体、どうしたって言うんですか?」
「だって、いくら前足でたたいても起きないんですもの。
仕方が無いから太の字になって、顔にしがみ付いていたの。」
「太の字?大の字でしょう。」
「あたし、猫だから尻尾があるのよ。」
「それだったら木の字では?あっそうか、トラさんの尻尾は短いんでしたね。
なるほど、それで判りましたよ。」
ガーネは納得しました。
「そんな事より、もう朝ごはんがとっくに出来ているわ。
みんな、あなたを待っているのよ。早く降りて来なさいね。」
トラは、そう言って出て行きました。
「えーと、そんなに遅くまで寝ていたんでしょうか。
とりあえず、これ以上みんなを待たせておくわけにはいきませんね。
朝食を食べに早く降りましょう。」
念のため、時刻を見てみました。まだ、朝の7時前でした。
早すぎると思いましたが、田舎だからしようが無いのかも、と思いました。
ガーネは急いで、1階に降りて行きました。
トラの言う通り、全員揃っていました。
「お早うございます。どうも、遅れて申し訳ありませんでした。」
ガーネは集まっている人たちに謝りました。
ナミコちゃんが、ガーネに言いました。
「そこに座って。」
ガーネはうなずきました。そして昨夜と同じ場所に腰を据えました。
食事が始まりました。それも昨夜と変わらない食事風景でした。
食事の後片付けを一緒にやった後、ナミコちゃんが歯ブラシを持って来ました。
「はい、これ。」
実は昨日、ガーネは、ナミコちゃんに相談をしていました。
余っている歯ブラシがあったら欲しいと訴えたのでした。
歯ブラシを受け取ったガーネは、ナミコちゃんにお礼を言いました。
早速、洗面所で歯を磨きました。
ガーネは、昨日は磨く事が出来なかったので、とても嬉しい様子でした。
「フン、フフンフン。」ガーネは浮かれていました。
今朝になって、やっとジャケットとパンツが乾いたのでした。
誰も見ていないうちに、着込む事にしました。
今まで、腰に巻いていたバスタオルを取って、乾いたパンツに履き換えました。
パンツの色はダークグリーンでしたが、パステルカラーでした。
それが昨日の雨で、ただのダークグリーンになっていました。
4つポケット付きのジャケットも、羽織りました。
これも、雨で白さが暗い色になっていました。
ですが、今では本来の白さに戻っていました。
ガーネは、いつもの姿に戻ったのでとても満足でした。
鳥のさえずりが、聞こえました。ガーネは窓から、外を眺めました。
いい天気でした。雲が多少あるくらいでした。
さて、気晴らしに散歩でもしようかしらん、と思っていました。
そんなガーネの元へ、いつものように愛想の無いナミコちゃんが来ました。
ガーネは身構えました。またとんでも無い事を話すかも知れなかったからです。
そんなガーネの懸念は、的中してしまいました。
ナミコちゃんは一言、「山登りに行こう。」って、のたまっていました。
ガーネは、よっぽど無視しようかと思いました。
「お母さんから、みんなのお弁当も作ってもらった。」
ナミコさんのこの言葉で、ガーネは止めを刺されました。
今回は、拒否する事は出来ませんでした。
山の入り口は自宅から、僅か数分でした。
石の階段が、どこまでも続いていました。
その階段を、ナミコちゃんを先頭にトラ、ガーネの順で歩いて行きました。
石の階段を上りきると、そこからは山道に入る事になります。
石を重ねて作った階段で、人の手がかかっている分、歩きやすい階段でした。
本来なら、話をしながら楽しく歩いて行った方が、いいのかもしれません。
退屈なのか、それとも疲れたのか、時々トラがナミコちゃんの肩に座ります。
すると、ナミコさんは嬉しそうに、トラと話をしていました。
一方、ガーネは帰りの事も考え、なるべく体力温存を図ろうとしました。
そこで迷宮を歩いているがごとく、ただ黙々と歩いて行きました。
ただ、ここは迷宮と違い、歩けば歩くだけ疲れます。
おまけに、昨日の雨でまだ靴は濡れていたので、快適とは決して言えません。
次第に、汗も流れてきました。
山道を歩き続けると、その多様性に驚くかもしれません。
上り道もあれば、下り道もあります。
広い道もあれば、細い道もあります。
石畳のような所もあれは、土を踏み固めただけのような場所もあります。
なだらかで上りやすい斜面や階段もあれば、急な場所もあります。
地面に落ち葉がいっぱいに広がって、歩きやすかったり滑りやすかったりします。
ごつごつした石が、あちらこちらに埋まっていたり、散乱していたりもします。
そんな山道を、ガーネたちは歩いて行きました。
途中で、10分ほどの休憩を2回とりました。
ナミコちゃんが、水筒のお茶をコップに注いで、ガーネに渡しました。
ガーネは、そのお茶を、ごくごくと飲みました。
それは、ナミコちゃんの自宅で飲む、いつものお茶の筈でした。
ですがガーネは、今まで飲んだ事の無いような美味しさだと感じていました。
山の頂上付近まで来ると、さすがに風は涼しいです。
「あと、もう一息だから。」ナミコちゃんの言葉に勇気づけられ、歩きました。
そして、山の入り口から歩いて約2時間後、ついに山の上に到達しました。
ガーネがそこに着くと、ナミコちゃんはガーネの手を取って迎えてくれました。
実はガーネが登頂に四苦八苦している最中、ナミコちゃんに声をかけられました。
「私、先に行ってる。ここからは、一本道だから大丈夫。」
ナミコちゃんは、そう言って先に進んで行きました。
目的地に到着したナミコちゃんは、その山の大きい木の根元を陣取っていました。
キャンピングシートを敷き、食事の用意をして到着を待っていてくれてたのです。
ガーネは、汗まみれでした。とめどもなく汗が顔や体中からあふれていました。
ナミコちゃんが差し出したタオルで、汗を拭いました。
少し時間が経つと、荒れた息づかいもおだやかになり、汗もおさまりました。
ガーネは山の頂上に吹いている風に、心地よさを感じました。
「食事にする。」ナミコちゃんは、そう言いました。
2人と1匹は、お母さんが作ってくれた昼食を食べました。
ガーネとナミコちゃんは、おにぎりを口いっぱいに頬張りました。
トラには小さく分けて、食べやすくしてあげました。
一緒に持ってきたおかずも、とても美味しい味でした。
「ナミコさんのお母さんの料理は、美味しいですね。」
ガーネとトラは、口々に褒めたたえました。
「うん。」ナミコちゃんは恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに答えました。
水筒のお茶をみんなで分け合いながら、楽しい食事の時を過ごしました。
食事が終わり、後片付けをしました。
この山の頂上では、簡易トイレや手洗い場がありました。
屋根つきの休憩所もありました。
木のベンチは、バランス良く、6脚ほど並べられていました。
ガーネは、用足しを済ませた後で、木のベンチの1つに腰をかけました。
「帰るまで、ここで休憩しましょう。」ガーネはそのまま寝転ぼうとしました。
その時、ナミコちゃんが近寄って来て、ガーネにこう言いました。
「鬼ごっこ。」ガーネは、背筋が凍るような思いでした。
助けを求めるように、トラの方を向きました。
でもトラは、ガーネに同情するような目つきで、ただ首を横に振るばかりでした。
はめられたと思いました。でも、どうする事も出来ません。
ガーネは、鬼ごっこに挑戦する事にしました。
「じゃんけんぽん。」「あいこでしょ。」
鬼は、ガーネに決まりました。
「10数えますよ。1、2、...10」
ガーネは走り出しました。もちろんターゲットは、ナミコちゃんです。
この勝負では、逃げる場所を山頂の一角にし、高さも制限しました。
そうしないと、この辺の地理に詳しいナミコちゃんが圧倒的に有利だからです。
又、トラも高いところに上ってしまうので、手が届きません。
それでは、あまりにも不公平だと、ガーネがだだをこねました。
又、山の中では、自分たちは迷子になる可能性もある事を強調しました。
この結果、この申し出が聞き届けられ、この制約が認められました。
この制約のおかげで、数分後にナミコちゃんにタッチする事が出来ました。
次は、ナミコちゃんが鬼です。ガーネから見れば鬼が鬼になったのでした。
ガーネは、必死で逃げ回りました。
もう大人気ないなどの評価は気にしていられません。本気で逃げました。
トラは必死じゃなくても、走る速さと瞬発力は誰よりも上です。
ナミコちゃんはしばらくの間、誰ともタッチする事が出来ませんでした。
「これで終わりですね。」ガーネはそう期待しました。
ですが、その期待は裏切られました。
「負けない。」
ナミコちゃんの恐るべき持久力が、ガーネやトラを追い詰めたのです。
トラは、確かに人並み以上の優れた運動能力があります。
でも、その持久力は、子猫相当の低いものでした。
しかも、今回は逃げる場所が限られていました。
結局、あっけなくトラは、ナミコちゃんにタッチされてしまいました。
一方、ガーネはもうここに来るまでに疲れていました。
体を休めたいと思っているところへ、この鬼ごっこです。
持久力で対決されたら、ひとたまりもありません。戦線恐々としていました。
次の鬼は、トラでした。
トラは、明らかにガーネの方を向いていました。
「スピードで一気に片を付けるつもりですね。」ガーネは察しました。
トラは、数を数え終わり、ガーネ向かって1直線に走り出しました。
ガーネも一生懸命逃げましたが、結局あっさりとタッチされてしまいました。
鬼ごっこは、鬼を交代しながら、この後もずっと繰り返されました。
ガーネ、トラ、ナミコ。
彼らの異なる運動能力と持久力のバランスの元に、鬼ごっこは続けられました。
時が流れ、やがて鬼ごっこは終わりを告げました。
2人と1匹の戦士が力尽きて倒れている山頂には、涼しい風が吹いていました。
ガーネは木のベンチに、腰を下ろしました。
「いいー天気だなー。」
目の前のベンチで、トラが小さい黒い虫に、前足でちょっかいを出していました。
すると、その黒い虫が、飛んでトラの顔にぶつかりました。
急な出来事に、トラはバランスを崩して、地面に落ちてしまいました。
それを隣に座って楽しんで見ている、ナミコちゃんの姿がありました。
だんだん、眺めている風景がぼけてきました。
ガーネはいつの間にか、眠っていました。
ガーネが目を覚ました時、ナミコちゃんもガーネにもたれて眠っていました。
そして、その膝には、トラも前足を体の下にしまいこんで眠っていました。
ガーネはナミコちゃんの時計を見ました。時刻は既に3時を回っていました。
「そろそろ帰りましょうか。」
ガーネは、ナミコちゃんとトラを起こしました。そして帰路に着きました。
ガーネはナミコちゃんの手を握って歩いていました。
ですが、ナミコちゃんはうつらうつらして、今にも倒れそうでした。
トラが、ガーネに言いました。
「もう、これ以上歩かせるのは無理じゃないの?」
ガーネが恐れていた事が、現実となってしまいました。
ここに来ると決まった瞬間から、こうなるのではないかと危惧していたのでした。
だから、体力を温存しようとしたり、鬼ごっこを回避したかったのです。
でも、それはかないませんでした。
「仕方がありませんね。」
ガーネは、遊び(?)疲れた体にムチ打って、ナミコちゃんを背負いました。
そんなガーネに、トラは追い打ちをかけました。
「ガーネ。あたしも眠たいの。」
欠伸をしながら、トラはガーネに訴えました。
ガーネはため息をつきながら、トラに言いました。
「判りました。トラ、あなたは私の右ポケットで寝て下さい。」
トラは、ガーネのポケットに飛び付くと、よじ登ってポケットの中に入りました。
ガーネは、背中とポケットが重くなったのを感じました。
そして、1人さみしく山を降りて行きました。
途中、湿った落ち葉の上や高い階段を降りる際に、滑って転びそうになりました。
それでも何とか、ぎりぎりで踏ん張りました。
体力的に相当きついものがありました。行きとは違い、何度も休憩しました。
水筒は既に空の状態で、1滴のお茶も飲む事は出来ませんでした。
山頂のお水は飲料用では無いので、補充する事が出来なかったのでした。
楽に座れそうな大きい石を見つける度に、休憩しました。
「何で、こんな事をやっているんでしょう。」ガーネはそう思いました。
そう考えたら、ガーネは急に笑いたくなりました。
眠っている者を起こしてはまずいと思い、小さい声で笑いました。
笑いだすと止まりませんでした。しばらくの間笑い続けました。
笑いが止まり、ふと気が付くと、ガーネは涙を流している事に気が付きました。
涙をぬぐった後、「さぁ行きましょう。」と自分にかけ声をかけました。
ガーネは再び歩きだしました。
ちょっと行っては休み、ちょっと行っては休みを繰り返していました。
陽はどんどん傾いて行きました。でもガーネにはどうする事も出来ません。
諦めずに少しずつ、少しずつ山道を下っていきました。
苦労を重ねた末、ようやく、山の入り口まで戻って来ました。
もう辺りは暗くなりかけていました。
ガーネは、1歩歩くのにも、大変な状態でした。
でも、「もう少し。」と我慢をして歩いていました。
そして、ついに無事にナミコちゃんの家に戻って来ました。
沈みゆく夕日が、最後の鮮やかな色と輝きをガーネに魅せてくれました。
疲れ切った体と心に、その光景は深く染み渡りました。
「こんな日もたまには悪くない。」ガーネはそう思いました。
ナミコちゃんの家の中も、薄暗くなって来ていました。
ガーネは、背中に背負っていたナミコちゃんを下ろしました。
トラもポケットから出して、畳の上に置きました。
家の灯りを付けると、ナミコちゃんとトラは目を覚ましました。
ナミコちゃんは、目を擦りながら「ここはどこ?」とガーネに尋ねました。
「自宅に帰って来たんですよ。」ガーネはナミコちゃんにそう答えました。
ナミコちゃんは、しばらく寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロしていました。
やがて、意識もはっきりしてきたらしく、自分の家である事を確認しました。
「ガーネ、有難う。」
ナミコちゃんはにっこり微笑んで、ガーネにそう言いました。
「どういたしまして。」ガーネも微笑んでいました。
「お母さんは、まだ?」
「私が、この家にたどり着いた時にはいませんでしたね。」
二人が、そんな会話をしていると、そのお母さんが戻って来ました。
「ごめんね。ナミコちゃん。すぐお夕飯の支度をするから。」
そう言って、エプロンをした後、すぐにお母さんは、台所に向かいました。
「今日は、お昼美味しかったです。有難うございました。」
ガーネはお母さんに、お礼を言いました。
後は、いつも通りでした。
おじいさんとおばあさんも現れました。
みんなで夕食を食べた後、ガーネたちは、後片付けをしました。
ガーネはトラと、食後の歯磨きをしました。
ナミコちゃんも飛び入りで参加して、歯を磨きました。
みんな、鏡をのぞいて、磨いた歯を確認しました。
電燈の灯りに照らされて、みんなの歯が同時にキラリと光りました。
ガーネは、部屋の中で寝ころびました。
「今日は、本当に疲れました。
多分、明日は体のふしぶしが痛くなっているでしょうね。」
ガーネはぼやいていました。
「でも、ナミコちゃんは喜んでいたじゃないの。行ってよかったと思うわ。」
「誰かさんも、思いっきりはしゃいでいましたね。」
ガーネはトラの方を向いて、そう言いました。
「そ、そう?」トラは思わず目をそらしました。
その後、ガーネもトラも言葉を交わす事も無く、疲れてボーッとしていました。
しばらくして気になる事でもあるのか、トラが声をかけてきました。
「ガーネ。眠っているの?」
「いや、寝転んではいるけど、眠ってはいませんよ。」
「実は、ナミコちゃんの事で、相談があるの。」
「えっ、何でしょうか?」ガーネはトラの方に向き直りました。
「昨夜、ナミコちゃんのお部屋で一緒に寝たのよ。」
「フムフム。そうでしたね。それがどうしたんですか?」
「夜中にふと目が覚めたのよ。そうしたら隣でナミコちゃんがうなされていたの。
それが激しくなったと思ったら急に目を覚まして、起き上がったの。
心配になって「どうしたの?」って聞いたのよ。
少しの間、何故あたしがそこにいるか判らなかったみたい。
でも、すぐに思いだしたみたいで、いきなりあたしに抱きついてきたの。
「怖かった。」そう言って涙ぐんでいたわ。」
「トラがですか?」「茶化さないで。」「すみません。」
「ナミコちゃんの話によると、突然、家が大きく揺らいだんだって。
それでね。お母さんやおじいさん、そしておばあさん。
家族みんなが、自分の所へ駆け寄って来たらしいの。
そうしたら、家を支えている木材が次々と倒れて来たそうよ。
ナミコちゃんは、必死で家族を呼んだんだって。
そうしたら...。」
「そうしたら、どうなったんですか?」
「そこで、目を覚ましたらしいの。」
ガーネは腕を組んで、何やら考え事をしていました。
しばらくして、トラに尋ねました。
「それで、ナミコさんは過去にその夢と同じ夢を、見た事があるのでしょうか?」
「あたしが聞いた限りでは、ずーっと前に1回見た事があるだけだって。
それ以後は、今まで見た事は無かったそうなの。」
「フム。私は精神科医では無いので、よくは判らないんですけど。
それほど頻繁に見る夢で無いのなら、そう心配する必要もないと思いますね。
たまたま悪い夢を見たっていうだけなんじゃないでしょうか。
今日は、だいぶ疲れたと思うし、ぐっすり眠れるんじゃないでしょうか。」
「そうね。そうだといいわね。」
話が1段落したところで、戸をたたく音が聞こえました。
「はーい。」ガーネは声をあげました。それからトラにこう言いました。
「きっとナミコさんですね。」トラもうなずきました。
戸が開きました。部屋の中に入ってきたのは、やっぱりナミコちゃんでした。
「あの。どうしたんですか?」ガーネは尋ねました。
最初は言うのをためらっているような感じでした。
再度ガーネが、来た理由を尋ねると、意を決したらしくこう言いました。
「何かして遊ぼう。」ガーネとトラは顔を見合わせました。
部屋の時刻を見ました。まだ7時ぐらいです。
「いいですよ。」ガーネは応じました。
「何をやりましょうか。
今日はもう疲れているので、テーブルの上で出来るゲームにしましょうね。」
しばらくガーネは考え込みました。
「そうだコイン飛ばしゲームでもやりましょう。」
「コイン飛ばしゲームって?」
「まぁ、その説明をする前に、用意してもらいたいものがあるんですよ。」
「何を?」
「これくらいの大きさのコインは用意できますか?」
ガーネはナミコちゃんに聞きました。ナミコちゃんはうなずきました。
「それから大きい白紙の用紙ってありますか?」
「カレンダーの裏は使える?」
「大丈夫です。あとはさみとサインペンはありますか?」
ナミコちゃんはうなずきました。
「では、それを持ってきて下さいませんか?」
ナミコちゃんはトラを連れて、部屋を出て行きました。
彼女らが出ている間に、部屋の隅にあったテーブルを中央に運びました。
しばらくして手に荷物を抱えた、ナミコちゃんとトラが戻って来ました。
「これとこれ。」ナミコちゃんは、持って来たものをテーブルの上に並べました。
ガーネはカレンダーの裏紙を、テーブルからはみ出さないサイズに切りました。
そして、その裏紙の白い面に大小幾つかの丸を書き込みました。
そして、その丸の中に数字を書き込みました。
一番手前にある丸に「スタート」と書きました。
「これで準備は完了です。」ガーネはナミコちゃんたちに言いました。
「ルールを説明しますよ。
このスタートに、このコインを載せます。
次に右手の親指と人差し指の指先で、丸を作ってください。
そうしたら、次にその人差し指を使って、コインをはじいてください。
コインが数字のついた丸の中に完全に入れば、その数字が得点になります。
スタートから遠くて小さい丸は、高得点です。
逆に、スタートから近くて大きい丸は、点数が低いです。
入らなければ、0点です。
1人ずつ交代でこのゲームをやります。
1回やる毎に、取得した得点を加算していきます。
10回やって、その合計がいちばん多い者が優勝です。
判りましたか?」
「はい。」「判ったわ。」ナミコちゃんとトラは、同時に返事をしました。
「トラは前足にコインを載せますので、前足を上げて放り投げてください。
さぁ、少しの間、練習をしましょう。
うまく出来るようになったら、ゲームを始めたいと思います。」
ガーネやナミコちゃん、そして、トラは交互に練習をしました。
トラも含めて、何とかやれそうになったので、ゲームを開始する事にしました。
最初は、ガーネです。スタートに載せたコインをはじきました。
コインはうまく丸枠の中に入りました。
「30点ですね。まぁ最初としてはいい方じゃないでしょうか。」
次はナミコちゃんでした。狙いを定めてコインをはじきました。
「ああ、残念ですね。丸枠からはみ出してしまいました。0点です。」
ナミコちゃんは悔しそうでした。
次はトラです。ガーネは前足にコインを載せました。
「トラ、いいですよ。」トラはコインを前足で放り投げました。
なんと、一番遠くにある丸枠に入りました。
「ええ、初めから100点ですか。」ガーネは頭を抱えました。
トラは自慢げに、ガーネとナミコちゃんを見回しました。
次は先頭に戻って、ガーネです。
慎重に狙いを定めてコインをはじきましたが、丸枠の中には入りませんでした。
「残念です。力が足りなかったようです。」
次はナミコちゃんです。俄然、本気モードに突入していました。
あまりの気迫に、ガーネもトラも黙ってしまいました。
勝負に集中していました。コインをはじく仕草を繰り返していました。
「やる。」ナミコちゃんは、スタートにあるコインに右手を近づけました。
そしてコインをはじいたのでした。
はじかれたコインは、丸枠の1つに完全に入りました。
「やぁ、これは50点ですね。やりましたね。ナミコさん。」
入った瞬間、ナミコちゃんは思わずガッツポーズをしました。
そして、自分の手とガーネの手でたたき合いました。
トラの前足ともたたき合いました。
「楽しい。」ナミコちゃんはそう言いました。
想像以上に、白熱したゲーム展開になりました。
時間が経つのも忘れ、みんな夢中で楽しんでいました。
ゲームが1段落した頃、ナミコちゃんは今何時かを確認しました。
「いけない。お風呂の時間。」
ナミコちゃんはそう言って、部屋を出て行きました。
「随分、盛り上がったわね。」トラはガーネに言いました。
「このゲーム、意外と楽しかったね。」ガーネも同意しました。
やがてお風呂が沸きました。
昨夜と同じようにナミコちゃんとトラが先に入りました。
ナミコちゃんたちが上がった後、ガーネもお風呂にゆっくりと入っていました。
「今日は1日がとても、長かったような気がします。」
ガーネは今日1日の事を、感慨深く思い返していました。
「慣れない山登りは、行きも帰りも大変でした。
特に、帰りはよく帰って来れたと思いましたよ。
鬼ごっこで全力を出し切り、ナミコさんやトラを抱えて下りたんですからね。
途中で、頭がおかしくなったような気分になりました。
無事に帰れて、こうしてお風呂に浸かっているのが夢のようです。」
ガーネはぐったりと疲れて、ついうとうととしていました。
部屋に戻ると、その戸の前にナミコちゃんが立っていました。
「今日はお母さんと寝る。」そう言って、ガーネたちにお休みを言いました。
ナミコちゃんが、お母さんの部屋に入るのをガーネたちは見ていました。
ガーネは戸を閉めました。そしてトラに言いました。
「ナミコちゃん、とても嬉しそうでしたね。
今日私たちと遊んだ事を、お母さんとお話したいんでしょうね。」
「きっとそうね。」
「トラも今日は、ご苦労様でした。
もう今夜はナミコさんも来ないんじゃないでしょうか。
私たちも今日は1日、動き回りましたからね。体が疲れきっていますよ。
もうこれ以上、何もしたくありません。今夜はすぐに眠りましょうね。」
「そうね。今日はあたしもクタクタだわ。」トラも賛成しました。
ガーネは部屋の灯りを消しました。
「お休みなさい。」「また明日ね。」
ガーネとトラは、夢を見る事も無く、すぐに深い眠りに入りました。
翌朝、異変が起きていました。
第6話「残留思念」ふたつめかしら。(終)
今回のお話は、第6話「残留思念」の第2話です。
前回と引き続き、レトロな遊びを書きました。
ここで、あらためてお詫びします。
投稿前に、チェックはしているのですが、誤字脱字などが出てしまいます。
又、前書きや後書きなどは前回分のコピペを使用したりしています。
そのため、ついうっかり見落として、おかしな内容になる事もあります。
これからも、十分に気を付けたいと思いますが、皆無は無理かと思います。
これらが見つかった際には、「またか。」と諦めて下さい。
気が向いたら、また続きを書いてみたいと思います。
では、また会える日を。See You Again.




