7話 始まりまで
オペラ歌手のアンコール。
会場内に多彩な拍手が鳴り響き音楽を奏で、舞台は幕を閉じた。
人々は席を立ち、用意されたパーティー会場へ足を向ける。
例に洩れずジュリアとテオドミスも招待を受けていた。
「さあ、ジュリア、私達もそろそろ移動しよう。」
「ええ。」
会場に二人が入っていくと主催のカイル夫妻が二人に気づき、話を中断して人の輪から抜けてきた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。」
「こちらこそ、招待戴きありがとうございます。」
「ジュリアさん、あなたを騙すみたいな遣り方をしてしまいごめんなさいね。」
カイル夫人が申し訳なさそうにジュリアに向かい謝罪をした。
「……いいえ。私も本日のオペラへ招待してくださりありがとうございます。」
ジュリアは苦笑いながらもカイル夫人がジュリアに本当に謝罪をしてくれていることが伝わった。
「本当にごめんなさい。あなたの気持ちを考えるとこんな騙し討ちみたいにテオドミスに会わせるべきではないと思っていたの。けれど主人が貴方達の事を心配して。それで今回のオペラで二人を会わせて話しやすいようにしたようなの。夫婦で話あえば離婚は解決すると思っているのよ。本当にジュリアさんには申し訳が無いわ。」
「いいえ。そんなに謝らないでください。こちらこそそんなに心配させているとは知らず申し訳ありませんでした。けれど私達夫婦はすでに離婚することにしていますので申しわけありませんが寄りを戻すことはありません。」
「そう」と夫人は一瞬悲しそうな顔を見せたが、直ぐに笑顔の仮面を貼り付けた。
「今日は何もかもを忘れて楽しんでいって下さいね。ジュリアさん。」
言ってテオドミスと話していた夫のカイルも話が済んだようでカイル夫妻は中央の広場へ戻って行った。
「何を話していたんだい?」
「別に。私達の離婚の『テオドミスー!!』」
ジュリアが話している途中で最近聴いたばかりの甲高い声がテオドミスを呼んだ。
新人モデルのクレアが周りの男性を振り払いながら人混みの中、こちらへ近づいてくる。
そばまで来るとそのままテオドミスの腕に腕を絡めた。
「テオドミス。会いたかった。今日、あなたが来ると聞いていたのにあなたったら私を誘ってくれないんですもの。でもいいの。あなたの今日、のパートナーはカイル夫人と聞いたから、なら仕方ないじゃない?今度は誘ってね。」
そう言って、テオドミスの唇へキスをひとつ落とす。
目の前のジュリアはクレアには見えていないらしい。
例え居たとしても気にしないのか。
テオドミスの反応を窺えば悪い気はしないのか笑顔で対応している。
「話し中にごめんなさい。今日はこれで失礼するわ。」
ジュリアは一刻も早くこの場から離れたくて二人だけの世界に入っていたテオドミスに声を掛けた。
「ジュリア、もう、帰るのかい?今、来たばかりじゃないか。」
「ええ。でも、この後、用事があるのよ。クレアもごめんなさいね。先に失礼させて戴くわ。」
テオドミスとクレアの返事も待たずにジュリアは会場から退散した。
そのまま、会場の脇に止まっている何台ものタクシーの一つに乗り込んだ。
外にジュリア以外の人影は無かった。
着たときにいたのマスコミ関係の煩さが嘘のように静かな夜。
行き先を告げられたタクシーは深夜の静寂の中を静かに走った。