6話 始まりまで
今日までテオドミス自身と会うことはなかった。
「もう、どうせ私はあなたの事が信じられないわ。」
「……そうだな。」
「私達が寄りを戻すことはないわね。」
「……ああ。だけど今はまだ君も私も夫婦だ。」
「ええ。時間の問題だけど。」
「……今日はジュリア、君をエスコートしてもいいかい?」
「……どうかしたの?」
「いや、君が私ともう、こうして会うのも最後かと思ったらね。」
「……そうね。けどクレアはいいのかしら?」
「クレアとは何でもないんだ。今日も別に会う予定はない。」
「あら、そうなの。一昨日ルリーンモールでクレアと偶然会った時、今日のオペラはあなたがパートナーだと言っていたわ。(勝ち誇ったようにね)」
「それはクレアが嘘を付いたんだろう。私のパートナーは今日はカイル夫人だからね。」
「……そう。」
「で、君がカイルのパートナーってわけだ。カイル夫妻に嵌められたようだな。私達は。」
「そうらしいわね。」
「だから私達が一緒にいても問題はない。」
「……そう。」
「今日はよろしく。ジュリア。」
「……ええ。」
ジュリアとテオドミスは腕を絡めたまま本日のパートナーとして夫婦として隣同士の席に着いた。
オペラ鑑賞に来ている人々はジュリア達がマスコミに捕まっている間にほとんどが座り、席が埋まっていた。
会場が薄暗くなる。
照明が落ちた。
舞台の上の幕が開いていく。
会場は静寂に満ちる。
「……一つだけいいかしら。」
「なんだい?」
「クレアとは寝たのかしら。」
「……ああ。一度だけだ。」
「……そう。」
ジュリアは一度だけ目を伏せすぐに顔を上げた。
そこには僅かな影が出来ていたがオペラ歌手の声音と同時に人々の目にもテオドミスにも映ることはなかった。