横浜万博 第1話 短編版
1989年の1月。昭和が突然終わり、平成が始まった。
街の空気が少しだけ軽くなり、何かが変わるような気がしていた。
大学生活にも慣れ、春から始まる横浜万博を楽しみにしていた僕は、ある求人広告に目を奪われた。
――横浜万博の警備員とコンパニオン募集。
体育祭や文化祭のような“非日常”が好きだった僕は、迷わず高校からの友人・高橋に電話した。
「説明会、一緒に行こうよ。コンパニオンと仲良くなれるかもよ」
彼は軽く笑って「暇だからいいよ」と言ったが、きっと“コンパニオン”の一言につられたのだと思う。
面接会場は関内の寿町にある警備会社の事務所だった。
横浜に住んでいながら、僕はその町を知らなかった。
駅から歩くと、空気が変わった。
競馬のノミ屋、片目の猫、昼間から酒を飲む人たち。
僕の知っている横浜とはまったく違う“もうひとつの横浜”がそこにあった。
後で知ったのだが、警備会社というのはヤクザの親分を守るボディーガードが始まりらしく、こういう場所に事務所があることも珍しくないらしい。
面接を終えると、制服とヘルメットと誘導灯を渡され、
「研修として通常警備からやってみよう」と言われた。
その日から、僕は寿町に通うようになった。
給料は手渡しで、勤務表と引き換えに事務所で受け取る。
並んでいる人たちは、僕とはまったく違う世界の人たちだった。
大学生らしき人は一人もいない。
場違いなところに来てしまったような気がした。
でも、なぜか嫌ではなかった。
むしろ、これまでの“同質の友人だけの世界”が特別すぎたのだと気づき始めていた。
――この町の空気を知ったことが、僕の中で何かを変えた。
そして、寿町での研修が終わるころ、マネージャーにこう言われた。
「3月から24時間ゲート警備が始まる。日当1万8千円。やってみない?」
僕は迷わずうなずいた。
この選択が、僕の大学生活を大きく変えることになるとも知らずに。
横浜万博の開幕まで、あと少しだった。
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