第9話 小さな不具合
異変は、本当に些細なものだった。
朝の巡回で、アリアはいつもの結界点の一つに、わずかな引っかかりを感じた。魔力の流れが途切れるほどではない。だが、昨日まではなかった微細なズレがある。
(生活の変化、ですね)
村の人口が少しずつ増え、夜の活動時間も延びている。結界にかかる負荷が、知らないうちに変わってきていた。
問題としては、小さい。
放っておいても、すぐに崩れることはない。
それでも、アリアは手帳を開き、印をつけた。
昼前、見張り台から声がかかる。
「アリア、ちょっといいか」
レオンだった。表情は落ち着いているが、真剣だ。
「北側の柵付近で、魔物が一度だけ境界に触れた」
「突破は?」
「してない。ただ……反応が、前より近い」
アリアは頷いた。
「結界が弱くなったわけではありません。ただ、生活音が増えて、外から気づかれやすくなっています」
「なるほどな」
説明を聞いて、納得した様子だった。
「少し、調整します。強くはしません」
「任せる」
その一言に、余計な重圧はなかった。
午後、アリアは結界の補助線を一本、わずかにずらした。
強度を上げるのではなく、音と気配を拡散させる方向へ。
作業は地味で、変化も目に見えない。
それでも、魔力の流れは素直に応えてくれる。
夕方、ミラが畑から戻ってくるのが見えた。
「お姉さん、今日、何かあった?」
「少しだけ。もう、大丈夫です」
「ふーん……でも、いつも通りだね」
それが、何よりの答えだった。
夜、結界の外で魔物の気配が散っていくのを感じる。
近づきはするが、踏み込んではこない。
(これくらいが、ちょうどいい)
守りすぎない。
けれど、隙も作らない。
王都では、数値と理論で語られていた結界が、ここでは生活と一体になっている。
星の少ない夜空を見上げながら、アリアは静かに息を吐いた。
大きな事件は起きていない。
けれど、こういう小さな不具合を見逃さないことが、この村を守るということなのだ。
今日も、夜は静かだった。
それが続くように、明日もまた、少しだけ整える。
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