第7話 断られた理由
翌朝、村はいつも通りに目を覚ました。
昨日の来訪者のことは、話題には上ったが、騒ぎになることはなかった。畑に出る者は畑に出て、鍛冶場では金属音が鳴る。村は、自分たちの一日を淡々と続けている。
アリアは結界点の巡回をしながら、昨日の会話を思い返していた。
(あれで、よかったんでしょうか)
断ったわけではない。
だが、助けを求められたとき、すぐに応えなかったのは事実だ。
王都にいた頃なら、迷わなかった。
多少無理をしても引き受け、それが当たり前だと思っていた。
結界点に手を当て、魔力の流れを確かめる。
安定している。昨夜も、何の異常もなかった。
「……ここが崩れたら、意味がない」
自分に言い聞かせるように呟く。
昼前、宿屋の前でミラが声をかけてきた。
「お姉さん、昨日の人……来なくなっちゃう?」
「たぶん、しばらくは」
「そっか……」
少しだけ残念そうな顔をして、それからミラは首を振った。
「でも、ここが静かな方が、いいよね」
「ええ」
即答できた自分に、アリアは少し驚いた。
午後、オルドの鍛冶場を通りかかると、彼が珍しく声をかけてきた。
「嬢ちゃん」
「はい」
「全部、引き受けると壊れる」
短い言葉だった。
だが、それだけで十分だった。
「……ありがとうございます」
理由を説明しなくても、わかっている人がいる。
それだけで、胸の奥が軽くなる。
夕方、村長のグスタフが集会所で声をかけてきた。
「昨日の判断だが……間違っていない」
「そう、でしょうか」
「この村は、余裕がない。結界が不安定になれば、すぐに生活が崩れる」
淡々とした口調だったが、そこには信頼が含まれていた。
「助けるのは大事だ。だが、守る順番はある」
その言葉に、アリアは深く頷いた。
夜、見張り台の下で、レオンが空を見上げていた。
「噂は、広がる」
「……はい」
「全部、背負うな」
それだけ言って、彼は巡回に戻っていく。
結界の内側で、村は静かに息づいている。
誰かの期待を満たすためではなく、ここで生きる人たちのために。
(断るって……守ることでもあるんですね)
そう思えたのは、ここに来てからだった。
アリアは結界点に手を当て、最後の確認をする。
今日も、問題はない。
静かな夜が、当たり前のように訪れる。
その当たり前を守るために、自分がいる。
その実感が、少しずつ、確かなものになっていた。




