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婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 篠宮しずく


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第36話 形だけの静けさ

 数日後、エリスの馬車が村に立ち寄った。


 いつも通りの軽い足取りだったが、荷を下ろす前に、集会所の影で腰を下ろす。


「ちょっと面倒な噂を聞いた」


 声は低いが、深刻というほどではない。


 アリアは黙って向かいに座る。


「隣の隣村でね、“静かな結界”を始めたらしい」


「……そうですか」


「強度を落として、魔力消費を抑えて、夜は活動を減らす。形は似てる」


 形は。


 エリスは肩をすくめる。


「でもね、うまくいってない」


 村人が何人か耳を傾ける。


「魔物は増えてない。ただ、皆が不安になってる」


「不安、ですか」


「“弱くした”って意識が消えないんだとさ」


 アリアは、わずかに視線を落とした。


(急いだんでしょう)


 その一言を、口には出さない。


「夜は早く切り上げる。でも昼に無理をする。結局、音も気配も乱れる」


 エリスは続ける。


「結界を薄くしたのに、心は厚くなってない」


 言葉は粗いが、本質を突いている。


 リーナが、少しだけ身を固くする。


「……助けに、行きますか」


 控えめな問いだった。


 アリアは首を横に振る。


「呼ばれていません」


「でも……」


「真似したのなら、戻すこともできます」


 それだけ言う。


 夕方、村はいつも通りに作業を終える。


 誰も“弱くした”とは思っていない。

 強くもしていない。


 ただ、整えているだけだ。


 夜、結界は穏やかだった。

 外の気配も近づかない。


 リーナは宿の前で空を見上げる。


「形だけ……」


「形は、外側です」


 アリアは答える。


「中は、急げません」


 それ以上の説明はなかった。


 遠くの村では、不安が残る夜を過ごしているのかもしれない。

 それでも、この村は揺れない。


 結界は今日も、薄く村を包んでいる。

 形だけを持ち帰らせないまま。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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