表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 朝比奈ミナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/40

第35話 何も持ち帰れない

 出立の朝は、静かだった。


 サイラスは荷をまとめ終え、宿の前に立っている。滞在は数日だったが、村の空気に馴染みすぎることもなく、かといって浮くこともなかった。


「お世話になりました」


 深く頭を下げる。


 村人たちは、過剰に引き留めない。

 ただ、「道中お気をつけて」と声をかけるだけだ。


 アリアは、少し離れた場所から見送っていた。


「報告は、どうなさいますか」


 サイラスは、苦笑する。


「異常なし。特筆事項なし。再現性の検証不可」


 淡々とした文面だった。


「それで、十分です」


「……正直に書けば、“何もなかった”になります」


「ええ」


「ですが、私は見ました」


 サイラスの視線が、村をゆっくりとなぞる。


「夜が静かになる理由を」


 アリアは、答えなかった。


「けれど、それは書けません」


「はい」


「習慣や、距離や、急がないことは、報告書の項目にありません」


 サイラスは、書類袋を軽く叩く。


「ここに入るのは、数値と結論だけです」


 その言葉に、悔しさは混じっていなかった。

 ただ、事実として受け止めている声音だった。


「……それでも、来てよかった」


 ぽつりと付け加える。


 レオンが村の入口まで見送りに立つ。


「異常はなかったんだな」


「ああ。異常はなかった」


 サイラスは、もう一度村を振り返る。


 焚き火は小さく、灯りは控えめで、人の声は低い。

 数値では測れない安定が、そこにある。


「これは、持ち帰れない」


 小さく呟き、馬に乗る。


 砂埃がゆっくりと舞い、やがて背中は見えなくなった。


 昼前、村はいつも通りに戻る。


 リーナがぽつりと尋ねる。


「……あの人、また来ますか」


「分かりません」


 アリアは答える。


「来ても、同じです」


 それ以上でも、それ以下でもない。


 夜、結界は薄く、穏やかだった。


 誰かに評価されることもなく、

 報告書に残ることもなく、


 ただ、そこにある。


 結界は今日も、何も持ち帰らせないまま、村を包んでいる。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ