第33話 村人が答える
翌朝、サイラスは測定具を持たずに外へ出た。
今日は数値を取らないらしい。
代わりに、集会所の前で立ち話をしている村人たちの輪に、少し距離を置いて近づいていった。
「少し、お話を伺ってもよろしいでしょうか」
丁寧な口調だった。
問い詰める響きはない。
「夜が静かな理由を、知りたくて」
村人たちは顔を見合わせる。
「理由?」
「普通に休んでるだけだが」
拍子抜けするような返答だった。
「特別な術式や、取り決めは?」
「取り決めなんてないさ」
「日が暮れたら切り上げる。それだけだ」
サイラスは、書き留めようとして、手を止める。
それでは報告にならない。
「では……結界の調整は?」
「アリアが見る」
「でも、最近は触らなくても大丈夫だな」
その言葉に、サイラスは眉をひそめる。
「触らなくても?」
「触るほど、崩れないってことだ」
曖昧だが、嘘ではない。
少し離れたところで、リーナが作業の相談を受けていた。
「今日は風が変わりそうだから、早めに終わろうか」
誰かがそう言うと、自然と頷きが広がる。
強制ではない。
命令でもない。
ただ、皆が同じ“基準”を共有している。
サイラスは、その光景をじっと見ていた。
「……誰が決めているのですか」
ぽつりと尋ねる。
「誰も」
「決めなくても分かる」
その答えは、さらに報告書向きではなかった。
昼前、サイラスはアリアのもとへ戻る。
「皆さん、結界の話をしません」
「ええ」
「特別視もしていない」
「はい」
「それなのに……」
言葉が、続かない。
アリアは、焚き火の灰を整えながら答える。
「特別なものでは、ないからです」
「しかし、王都では……」
サイラスは口を閉じた。
比較する意味がないと、気づいたのだろう。
夕方、村は自然と静まっていく。
声は低くなり、灯りは小さくなる。
サイラスは、その移ろいを最後まで見届けた。
夜、結界は薄く、穏やかだった。
数値は低いまま。
それでも、接近はない。
「……報告書に、何と書けばいいのか」
小さな独り言だった。
アリアは答えない。
村人が答えたことは、すでにそこにある。
結界は今日も、静かに村を包んでいる。
説明されないまま。
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