表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された地味な結界調整士ですが、追放先の辺境で静かに暮らしたらなぜか感謝され続けています  作者: 朝比奈ミナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/32

第31話 視察に来た人

 昼下がり、村の入口に見慣れない男が立っていた。


 旅装ではあるが、商人ほど荷は多くない。武具も最小限で、剣よりも書類袋の方が目立つ。周囲を慎重に観察しているが、威圧感はなかった。


 見張り台から降りてきたレオンが声をかける。


「用件は」


「……地方巡察の者です」


 男は少し緊張した様子で名乗った。


「サイラス・エルディン。王都直轄の下級巡察役です」


 王都、という言葉に村人の動きが一瞬だけ止まる。

 だが、騒ぎにはならない。


「異常がないか、確認に来ただけです」


 それだけを、はっきりと言った。


 アリアが呼ばれたのは、その後だった。


 集会所の前で、サイラスと向き合う。

 彼は書類袋を抱えたまま、深く頭を下げた。


「突然の訪問、失礼いたします。結界に関する報告が、最近いくつか上がっておりまして」


「……異常はありません」


 簡潔に答える。


「ええ。そう聞いております。ただ、念のため」


 敵意はない。

 義務として来ていることが、声色から伝わる。


 村の外れまで案内する間、サイラスはほとんど喋らなかった。

 代わりに、足元や家の配置、焚き火の位置を注意深く見ている。


 結界点に着くと、彼は距離を保ったまま立ち止まった。


「触れても?」


「構いません。ただ……」


 アリアは一言、付け足す。


「数値は出ませんよ」


 サイラスは、少しだけ困ったように笑った。


「ええ。それは……承知しております」


 彼は簡易の測定具を取り出し、結界の層を測ろうとする。

 表示された数値は、平均よりわずかに下。


「……強度は、高くありませんね」


「はい」


「ですが……」


 夜の記録と照らし合わせ、眉をひそめる。


「魔物接近の頻度が低い」


 アリアは答えない。


「層も薄い。魔力消費も少ない。それなのに……」


 言葉が続かない。


「異常はありません」


 アリアは、繰り返した。


 サイラスは、しばらく沈黙した後、測定具をしまった。


「……報告には、異常なしと記します」


「それで、十分です」


 村へ戻る途中、サイラスがぽつりと尋ねる。


「何か、特別な術式を?」


「ありません」


「では……」


 アリアは歩みを止めずに答える。


「夜は、休みます」


 サイラスは、その意味をすぐには理解できない様子だった。


 夕方、村はいつも通りに作業を切り上げる。

 灯りは内側に寄り、焚き火は小さい。


 サイラスは、それを黙って見ていた。


 夜、結界は静かだった。

 外からの圧もない。


 宿に戻る前、サイラスが小さく言う。


「……再現、できませんね」


 独り言に近い声だった。


 アリアは答えなかった。


 結界は今日も、薄く村を包んでいる。

 数値に残らない形で。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ